しばらく前に紹介した2代目MC-L1000改、完成直後には気にならなかったのですが、どうもトラッカビリティに難があるようです。針圧を少し重めに設定してもビビりを感じることがままあるし、レコードを再生した後にスタイラス周辺に纏わりついているカスが普通のカートリッジより明らかに多いのです。
ちょっと悶々としていたのですが、この症状は摩耗の進んだスタイラスのせいだけでもなさそう、ひょっとしたらコイルからの引き出し線の取り回しがうまくなくてカンチレバーの自由な動きを邪魔しているのかも、と思い至り、この際中継基板を切り出すところから再度やり直すことにしました。
コイルからの引き出し線は、カンチレバーを離れた後、無駄のない適度な余裕を持たせて素直に中継基板に渡していたつもりだったのですが、どうもこれが「無駄のない適度な余裕」になっていなかった疑いがあります。そこで、中継基板をもう少し前寄りに設置し直し、カンチレバーベース背面の空間を有効活用して、引き出し線を「無駄な寄り道」と思えるくらい弛(たる)ませました。
直出ししたリード線は左右が入れ替わっていますが、引き出し線を弛ませたついでに、中継基板へは左右を入れ替えて配線したためです。このほうがカンチレバーの動きをより妨げない取り回しになりそうだったのと、リード線は外でクロスしなくてよくなるぶん少し短くできるというメリットがあります。十分以上に弛ませた引き出し線は不要な振動が懸念されるので、ダンプするために線の間に微量のシリコングリスを絡ませてみました。
カンチレバー周辺をカバーする軟質の樹脂シートは取り除いてしまいました。入手時からフレームが歪んで一部浮いた箇所があったし、そもそものゴミの侵入を防ぐ機能も元より十分ではないので、むしろないほうが掃除も気軽にできて私には都合が良いとの判断です。
結果はバッチリ、大成功です(中継基板の0.5mmピッチのランドへのハンダ付けもいくらか上達しました)。不快なビビりは雲散霧消し、澄んだダイナミックな音で快調に音楽を奏でてくれています。
スタイラスに絡むカスも激減しました。丸針や楕円針の普通のカートリッジよりも少ないくらい。MC-L1000のラインコンタクト針はそもそも特に鋭い形状である上に、この個体では摩耗も進んでいるようなので、普通の針よりレコードが削れるのも止むを得ないかと思っていたのですが、どうやら誤認識だったようです。やはり引き出し線がカンチレバーの動きに影響していたのでしょう。レコードにも負担をかけていたはずです。
してみると、針に起因する不具合は特にないということなので、この明らかに減ったスタイラスでも寿命はまだまだ先と思ってよいのかな。であれば願ったりですが。^^
2022.12
MR-1を入手するよりも前に、ソニーのTCD-D7というポータブルDATレコーダーを使っていました。残念ながらもうだいぶ前からエラーが出て正常に動作しません。DATを再生できるものは他になく、当時録音したテープは聴けない状態でした。
保管している録音テープは高々7本ばかりで、なんとしても聴かねばというほどのこともないのですが、聴けないままというのもなんだか残念なので、時々ヤフオクで代わりの機種を探していました。最近になって漸く、ソニーのポータブルDATレコーダーのシリーズ最終モデルであるTCD-D100を、まずまずリーズナブルな価格で入手することができました。
D100は型番の付け方もですが、D7,D8とはデザインが大きく変わりました。エネルギー効率も良くなったようで、使うバッテリーは単3が4本から2本に減っています。
手に入れた個体は結構汚れており、見た目にD7より華奢になったボディの外殻は実際薄く、裏のボディーカバーに少し凹みがあったり、表カバーを留めているネジが1本欠落していたりと、あまり程度は良くないものの、動作のほうは大丈夫でした。D7はまだ新しいうちからエラーが出て動かなくなることがよくありましたが、D100は華奢でか弱そうなイメージと違って、案外信頼性も向上しているのかもしれません。
テープを入れて再生してみると、ロード時の動作音がD7と比較して結構うるさい。これがD100の本来の仕様なのか古くなってこうなったのか、新品時を知らないので判断がつきませんが、多分後者でしょうね。
いにしえのSTAX SR-X/MK-3で聴きました。すぐ手の届くところにSR-407もあるのですが、自分で録音したものを聴くとき使いたくなるのは古いノーマルバイアスのこちら。やはり生録音、演奏の出来はさて置き、鮮度抜群、いい音です。
一緒に写っているドライバーのSRD-X Proは数年前に入手したものですが、コンセントに繋がずに使え、ノーマル、プロの両方のバイアス電圧を備えているので便利です。トランス式のドライバーということで音にはそんなに期待していませんでしたが、聴いたのが生録音であるせいか思いの外いい音で驚きました。アンプ部に使われているのはTDA1516BQというフィリップスのカーステレオ用パワーOPアンプです。
アルカリ電解水やアルコールを使って汚れを落とし、ボディーの裏カバーを外して凹みを修正し、欠落したネジはホームセンターで精密ネジのセットを買ってきて合うのを見つけ、と手をかけていくうちにいよいよ可愛くなってきました。
いつまた壊れてもおかしくない機械ですから、再生が可能なうちにデータをPCに移しておくのがよさそうですね。でも、MR-1についてもそうですが、PCデータになってしまったら聴こうという気持ちはあまり起きないんじゃないかという気もします。録音機のほうで再生して聴くからこそ楽しい、ということはあると思います。それもスピーカーじゃなくヘッドフォンで。
2022.12
金田式アンプの電源は少し前からリチウムポリマーバッテリーが標準になってきているようです。私も最近1個だけLi-Poバッテリーを購入しました。と言っても金田式とは関係なく。
シングルセルの2100mAh、調達先はAmazonです。商品ページのメーカーの欄にはHXJNと表示されていたのですが、こんなのがメーカー名? ちょっとアヤシイ感じではありますが、まあ選択肢がこれくらいしかなくて。
103450が一応型番のようですが、この数字はあまり厳密ではないもののそのままサイズを表しており、約10mm×34mm×50mmという形状です。
それで、使用目的はこちら。
こいつのへたった内臓バッテリーを交換してやろうと。KORGのポータブルDSDレコーダー、MR-1です。
14年前に程度の良い中古品を入手しました。当時私は素人楽団に関わっており、これで自分たちの演奏の練習を録音していました。マイクはもちろん自作DCマイク(もどき)で。
今では録音の機会はないのですが、たまに当時を懐かしんで録音したものを聴いてみたりします。が、このMR-1、今となってはウルトラマン。フル充電して聴き始めても、3分であっけなくダウンしてしまいます。ACアダプターやモバイルバッテリーを使えば一応実用にはなるのですが、できることなら内臓バッテリーで普通に使えるように復活させたい。
ということで、内蔵されているリチウムイオンバッテリーと近いサイズ、容量のものがないかと探したところ、見つかったのが最初の写真のやつだったという訳です。
ちなみに、内蔵のリチウムイオンバッテリーのサイズは約10.5mm×38mm×53.5mmで、容量が2000mAh。今回入手したLi-Poバッテリーのほうが小さく重さも軽いのですが、容量は僅かに大きくなります。技術の進歩でしょう。寿命も長ければ言うことなしですが、さてどんなものか。
元のバッテリーはコネクターで基板に繋がれており、交換はコネクターを差し替えるだけ、と思ったのですが、同じもののように見えたLi-Poバッテリーのコネクターは実は一回り大きくて、結局元のコネクターをバラして付け替えることに。接点金具をカシメ直すのは無理なので、線から切り取ってハンダ付けしました。
無事交換完了。ちゃんと充電もできます。2千円程度の出費でどうやら普通に使えるようになりましたよ♪
2022.12
LIRICOとLEGGIEROの間を繋ぐケーブルの話です。
私の場合、ケーブル類を色々取っ替え引っ替えというのは基本的にしません。金田式御用達のモガミ2497やフィデリックス推奨の2803など、これを使っておけばまあ滅多なことはないと思えるものがいくつかあるので、それらが“電線病”の抗体になって悩まなくて済んでいる、といったところでしょうか。
ですが、たまにはちょっと違ったものを試してみたくなることもあります。某所で数mばかり手に入れたこちら、フジクラのマイクケーブルですが、何やらとても高音質なんだとか。でも製造中止品だそうで。
4芯シールド線で芯線の導体はOFC、シールドは網組線でメッキ有りです。2497と同じくらいのお手頃価格(でなきゃ買わない、買えない)。
普通にRCAケーブルでも作ろうかと思って手に入れたのですが、ちょっと思いついてLIRICOとLEGGIEROの間を繋ぐ20cmほどのケーブルを作ることにしました。それだって普通のRCAケーブルでしょ、と思われそうですが、私のことですからちょっとヘンなことを思いつたからこそやってみたくなった訳で(←アホ)。
LEGGIEROの背にLIRICOを積み重ねて使っているので、それぞれの入力、出力間が近く、太い2497も、細いけれど硬い2803も曲げ半径が厳しくてここには使い難いし、こういう小レベル信号の通るところには細いケーブルがバランスが良いだろうと、これまで細くて柔らかいモガミの2520とAECOのプラグで自作したこんなケーブルを使っていました。
これには特に不満もないのですが、取り立てて面白味もないという印象で、何か他にこれはと思える手はないものかなという気持ちがありました。今回入手したこのフジクラのケーブルは比較的柔らかいので、こんな場所にも使い易いだろうし、しかも特に音が良いというのだから願ったり叶ったりです。
4芯シールドということは本来はバランス接続用ですが、アンバランスで使うなら、4本の信号線は色分けされている通りに2本ずつスターカッド接続でホットとグランドに使うとして、シールドをどうするか。両端をグランドにつないでしまったのでは、シールドもグランドになってしまい、線が別々に存在する意味が薄れてしまうと思うので面白くない。となると、送り側だけグランドに落とすか、受け側で落とすかでしょう。送り側で落とすべし、とどこかで読んだ気がしますが、個人的にはより大電力を扱う機器の側で落とす、という考え方も有りなんじゃないかと思っています。
が、今回思いついたのはそういうのともちょっと違うことでした。
繋ぐのがヘッドアンプとフォノイコライザーなので、どちらもアースターミナルを備えてる。シールドはそれに繋げば良いんじゃないの、と。つまり、信号を伝達する線とシールドがせっかく別々の導体として存在しているのだから、これらは分けておきたい、という気分が高じて、ケーブルのシールドをアンプの筐体の延長にしてしまえばいいじゃん、と考えた訳です。さて、意味があるかどうか? でも無性にやってみたい。
ということで、前のはバラしてAECOプラグ再利用でフジクラのケーブルを使って、はい、こうなりました。
シールドをライカル線で引き出して左右をまとめ、アースのバナナジャック用にヒルシュマンのプラグを付けました。LIRICO、LEGGIERO間専用のインターコネクトケーブルです。
期待の音はというと、最初、高音はスッキリ聴かせてくれそうなんだけど何か付帯音があって情報が一部埋れてしまうような感覚。低域は甘く妙な弾力感があって、全体に何か1枚ベールがかかったような感じ。これはあんまり思わしくないような… 失敗だったかなあ、と思ったのですが、聴いているうちにいつの間にか雲が晴れたみたいに、数日後には実に晴れやかで情報量の多い音を聴かせるように変貌していて驚くことに。
これは、素線を引っ張って捩ってハンダの熱を加えることで蓄積した製作時の物理的なストレスが、時間の経過とともにほぐれて馴染んできたことによるものかなあと思っています。エージングというよりは、寝かせて熟成、かも。とにかく爽やかな音で、FR-1mk2が、L1000改が完成して初めて音を聴いたときの印象に極めて近い音で鳴ってくれているので大満足。
で、シールドですが、LIRICO側に繋ぐよりもLEGGIERO側に繋いだほうが重心が低く力強い音に感じられました。ただし、これはどちらに繋ぐかでケーブルの向きも変えているので、シールドの接続先のせいかケーブルの向きのせいか、あるいは両方影響があるのか切り分けはできていません。それを追究する予定は現状なし、音良くなったしまーいっか、と。
2022.12
「できるかな」の記事で紹介した“MC-L1000改”は、その後不慮の事故で振動系を破壊してしまって残念ながら再起不能です。その後入手できた別の断線L1000で、今回再び修理にチャレンジしました。
FIDELIX MC-F1000 用の2つの五角形コイルの結合はコツが掴めてだいぶうまくなりました。見通しを持ってできるようになったことで、時間もそれほどかからなくなったようです。接着は必要最小限で、前回のように全体を接着剤で固めることは今はしていません。
でも、その先の作業はやっぱり一筋縄では行きません。17μmの極細線の扱いに相変わらず悪戦苦闘。コイルからの引出し線をカンチレバー上に貼り付ける作業中、せっかく綺麗に取り付けたコイルを触ってしまい、コイルを歪めてしまったことが数度。その度に冷や汗をかきながら情けない気持ちでどうにかこうにか修正して、這々の体でゴールまでたどり着きました。
そんな仕事ぶりでも以前よりはこの作業の要領を掴めてきているように感じています。次こそはこの経験を生かして会心の仕事を、と思いますが、いつになるのか。L1000の断線品の、しかも程度のよいやつなんて、近頃はいよいよ手に入り難くなっていますからね。時間が経ち過ぎると忘れてしまうだろうしな〜。
今回はコイルから延びる4本の極細線を敢えてカンチレバーベース上空でカットして中継し、トーンアーム内の配線などに使われるモガミ2706で信号を引き出して、そのまま先にシェルチップを付けました。つまりシェルリード直出しですね。Van den Hul EMT の真似です。
中継に使ったのは、サンハヤトのシール基板シリーズにある“エクステンション基盤”という、細い直線パターンだけが0.5mmピッチでびっしりひたすら並んでいる基板。これをパターン4本分=およそ2mm角に切り出して、カンチレバーベースの背に貼り付け、このランドにコイルからの極細線と2706をハンダ付けしています。と書くと簡単ですが、このハンダ付けもかなりの離れ業でして、いや、0.5mm間隔だから離れちゃいないな、もちろん顕微鏡下での作業です。
この構造、元の出力ピンが無駄になって美的でないと感じる人もいそうですが、音にはよさそうだと思っています。他にも、出力リードごとカンチレバーベースを取り外せるので、MC-L1000の弱点の磁気ギャップの汚れも思いっきり掃除できるという利点があります。まあ外す際は気を遣うのであまりやりたくはありませんが。
カートリッジ下部カバーに溝を削って2706を引き出しています。このカバーは樹脂製で案外柔らかく、削るのは簡単でした。
全体としてはちょっと悔いの残る仕事ぶりだったので、達成感よりは疲れが溜まった気分が勝る感じでしたが、音を聴いたら疲れが吹っ飛びました。いや、「自分がぶっ飛んだ」でもいいな。しばらく聴けなかったので忘れていましたが、やっぱりこのコイルが聴かせる音は圧倒的です。他のカートリッジとは一線を画していると言っていいでしょう(と、他のカートリッジを大して知らないのに言いたくなる)。
2022.12
いずれそのうち、と思っていたことを実行に移すのが最近のテーマなのですが、まあ相変わらず遅々としてます。そんなことのうちのひとつ、パワーアンプCERENATEの電源部“セリニティー電源”のバージョンアップを、遅ればせながらFIDELIX中川さんにお願いしました。
CERENATEは、最初に買った1号機を予備にして、その後別々にかなり時間を置いて入手した2台のシリアル200番台機をモノラルで左右に使っているのですが、今回バージョンアップしたのはその2台です。
スイッチング電源としては驚異的に低ノイズであるセリニティー電源ですが、新バージョンではそれまでより更に8dBもコモンモードノイズが低くなったということです。そもそもコモンモードノイズ自体は耳に聞こえるものではないので、聴いてノイズが小さくなったと認識できる訳ではありませんが、結果として確実に音質は向上したとのこと。
メインのトランスとドライブ基板が新しくなっています。トランスは巻き方が変わったそうですが、外見上は以前あったショートリングが無くなっています。でもより低ノイズというのが面白い。ドライブ基板は、以前はパーツが剥き出しでしたが、全体が黒い樹脂で覆われています。
して、バージョンアップ後の音はといえば、聴いてすぐは変化が分かり難かったのですが、様々なソースをじっくり聴いてみると、バスドラの余韻が消えていく様子などといったデリケートなニュアンスがよりよく聞き取れるようになっていることに気づきます。背景の空間が澄んでより深みのある表現がされるようになったと同時に、音の出方も腰の座った感じが増したようで、非常によいです。これは地味なようでかなり強力な進化と思います。
でもまあ例によって程なく、これが私にとって当たり前の“普段の音”になってしまうのですよね。
2022.11
長いこと電子工作をやっていますが、実験用の電源装置は持っていませんでした。FETのIdssのチェックなどの軽い作業は006P電池で手軽にできますし、もっと重い作業となると正負電源が必要だったり高電圧が必要だったりで、アンプの電源そのものを使わなければできないし、という訳で、あまり必要性を感じたことがなかったのです。
サンハヤトから出ている電源装置のキットに目が止まり、ちょっと作ってみようかと思い立ちました。教材用を想定した製品のようですが、これなら組み立てるのも楽しめるし、手元にひとつあってもいいかな、と。
簡単な回路ですが、マニュアルを追いかけながら配線するのは結構メンドウで、思ったより時間がかかりました。配線の番号を確認するのが煩わしいだけで、工作自体は難しくはありません。
下は無事完成し、POD-XEのメーター用のLED照明ユニットの動作をチェックしているところ。
出力電圧も結構正確で、電圧ごとにトランスのタップを切り替えて無駄に損失を増やさないように作られています。
ヤフオクなどで同じくらいの値段でちゃんとした電源装置を調達することもできそうですが、作るのを楽しみながら実用にもなるということで、まあこれも悪くないんじゃないかと思います。
2022.10