プレーヤーをもう1台


 いつかそのうち、ばかりでなかなか前に進まないのが常態化している中、懸案だったプレーヤー2台体制へと、ようやく歩みを進めることができました。


理想のターンテーブル

 金田式ターンテーブルの製作に成功して使い始めたのは確か2000年のことだったと思う。自作の楽しみが十二分に味わえて、しかも極上音質が手に入る、それなりにパーツ代がかかるも得られる結果に対してはまずまずリーズナブル、という、私にとっては理想的なターンテーブルだ。以降20年以上、他に欲しいと思う機種が出現することもなく(パラヴィチーニさんの Disc Master は欲しかったけど高過ぎた)、ときどき小改良を加えながら使い続けて今に至っている。
 2016年にはトーンアームを UA-7/cfN から 0 SideForce に載せ替えたことで、専用アームパイプを必要とする CP-X が気軽に使えなくなった。私としてはプレーヤーはもうこれで十分満足だったのだが、この頃から、もう1台 UA-7 を載せたターンテーブルがあればなあ、という思いが頭をもたげ始めた。もう1台あれば CP-X を使う以外にも、片方にはMC、もう一方にはMM、あるいはモノラル用、といった具合に性格の異なるカートリッジを装着しておいて、聴くレコードによって使い分ける、というような使い方も出来る。一層豊かな音盤生活が送れそうではないか。

 そんなとき、とーっても気になるプレーヤーが現れた。PL-31E/TS なるプレーヤーシステムである。これはパイオニアの古い PL-31E というプレーヤーを一マニアが改造したもので、TSは「Takemoto Special」の頭文字。改造したのは、Analog誌にレコード悦楽人として登場され既に一部コミュニティーでは有名人でいらっしゃるので、お名前を出させていただいてもよいだろう、当コーナーの MC-L1000 の改造記のほうでも紹介させていただいているmilonさんである。

 もう1台のプレーヤーを置くなら、それはやはりそれなりに高音質を追求したものにしたいけれど、金田式とは全然違うアプローチで行くほうが面白そうだな、とぼんやり思っていたのだが、PL-31E/TS はまさしくそのようなプレーヤーシステムたり得る、これもまた理想のターンテーブルに思えた。
 PL-31E/TS 完成に至るまでのmilonさんの研究の過程について、是非とも氏のブログの記事を遡ってお読みいただければと思う。

 ところで、PL-31E/TS はトーンアームを備えたプレーヤーシステムなので、私の「もう1台」に望む UA-7 を載せるという目的には適さない。心惹かれながらもその点が非常に残念だったのだが、ベースとなったPL-31Eの一世代前のモデルPL-31Dには、そのフォノモーター部だけを独立させたMU-31Dというモデルが存在し、これもメカはほぼ同一なので、同じようにTS化改造が可能であることを知った。それが手に入ればアームは自由に組み合わせられるから、私にとってはまさに理想的プレーヤーになりそうだ。

 少し希望が見えてきた。が、どうも MU-31D は PL-31E よりも大分レアなようだ。単体フォノモーターだからプレーヤーシステムと比べてそんなに数は出ていないだろうし、相当古い製品でヴィンテージの名品との評価が高いという訳でもなさそうだから、既に多くが粗大ゴミとして処分されて現存数自体がかなり少なくなっていると想像される。
 簡単には手に入ることは考え難いし、あまり期待はできないな、と思いつつも、ヤフオクで「MU-31D」をアラート登録して、出品されるのを半分忘れたような状態で待つことにした。

 そうしたら、意外に早く出品があった。しかも、なんと、ほぼ同時期に2台である。50Hz,60Hzのモデルが各1台ずつ。見た感じのやつれ具合は同程度で、後者のほうがやや高めの出品価格だったのだが、私の地域はそっちだ。改造でモーターも換えてしまうのでどちらでもよいのだが、オリジナル状態で回すことになる可能性も一応は考えて60Hzモデルに入札した。
 すると、他に競合者もなくすんなり落札できてしまった。


出品時の写真ではボードに取り付けられていたが、フォノモーターだけ送ってもらった。

 こうして「プレーヤーをもう1台」計画がついに始動する。

 ところで、50Hzのほうも、出品時の価格のまま落札されたようだった。もしかしたら落札したのは、milonさんのオーディオルームで実際にPL-31E/TSを聴いて事情を知っているよっしーさんだったりして… などと思っていたのだが、数日後、本当によっしーさんの日記に MU-31D が出現した。しかも予想通り端からTS化改造依頼前提の様子だったので、アハハ。 そして実際どちらの MU-31D も、その後milonさんの手によりTS化されることになるのだった。

TS化

 届いた MU-31D を一通りクリーニングしてみたのだが、やはり使い込まれた古道具、モータープーリーに何かの汚れがこびりついていてアルコールでも落ちない。汚れではなく材質の真鍮が変成しているのかもしれない。一応ベルトをかけて動作確認してみると、案の定、ゴトゴトゴトゴト、とモーターの回転に伴う振動がもう「ダメだこりゃ!」なレベルで、およそ使おうと思えるような状態ではなかった。もし普通に使えるようならしばらくオリジナルの音を聴いておいて、TS化後の音と較べられたら楽しそうだと思ったのだが。

 というわけで、入手早々にもう当初の予定通りmilonさんに改造をお願いした。結果、ありがたく快諾していただけたので、早速発送準備にかかる。

 即改造に取り掛かっていただけるよう、モーターや進相コンデンサ、回転数切り替えのメカ等、不要なパーツは全て取り外して、さあ行ッテラッシャーイ。

 そして程なく帰還。ついにMU-31D/TSが私のもとにやって来たのだなあ。

 “TS”化改造の骨子は、極低フリクション化したターンテーブルシャフトに低トルクのDCモーター、そしてマグネフロート機構だ。プレーヤーシステムであるPL-31E/TSの場合は、これらにピュアストレートアームが加わる。

 これこそ“TS”のキモ、と言ってよいであろうところの、魔改造シャフトアセンブリー。

 スピンドルは MU-31D のものではなく、より細い PL-25E のものに若干手を加えて使っている。ただし長さが31D/Eのものよりも短いため、軸受けケースはこれに合わせて切り詰められている。

 シャフトを摘んで回してみると、スルっスル。でもごく僅かにゴロゴロというかシャラシャラする感が伴うのは、ラジアル方向を上下2組のボールベアリングで支えているためだ(スラストは普通にボール受け)。

 ラジアル方向にボールベアリングを使ったターンテーブルなんて他にあっただろうかと調べてみたところ、唯一 LINN LP12 用のサードパーティー製パーツで“Mober Bearing”という軸受けキットが見つかった。milonさんがこの構造を発表したのと同じような時期に市場に出現した製品のようだ。

 軸受けケースのフランジ部分は切削加工されてオリジナルよりも薄くなっている。マグネフロート用のリング型磁石を組み込むスペースを稼ぐためだ。対向するプラッターの裏面にも同じ磁石を取り付け、磁力による反発を利用してターンテーブルの重量を見かけ上激減させるのである。ただし、磁石を収めるにはこの処理で稼げる空間だけでは十分でなく、ターンテーブルの位置もオリジナルより少し持ち上がっている。

 約1.3kgのプラッターは、それだけではセットしようとしても磁力に弾かれて本来の位置にまで降りてこない。更に約1kgあるジュエルトーンのガラスターンテーブルシートを載せることでようやく然るべき位置に落ち着く。ガラスシートもシステムの一部としてデザインされているのだ。

 オリジナルのシンクロナスモーターから換装されたDCモーターは、特に高級とか高性能なものではなく、市販の1万円ほどのプレーヤーによく使われる種類のものである。江川三郎氏がAIWAの PX-E800 の音の良さを発見したのが、一部の人たちの間でこの種のモーターが注目されるようになったきっかけと言えるかもしれない。同種のモーターはPanasonicを始めいろんなメーカーが大量生産しているようだが、音はメーカーやロットによって違いがあるように聞く。今回装着されているのはmilonさんが吟味して選んだ振動の少ない品種である。

 モーターを固定している真鍮製の金具もmilonさんが旋盤で削り出したものだ。本体からラバーブッシュで浮かされて取り付けられるモーター用のサブシャシーは PL-25E のものに換装されている。PL-31E のサブシャシーと同じだそうだが、これはモーター取付け部分の穴が大きな円形で、ねじ穴の追加工だけでDCモーターを取付け可能なのだ。MU-31D のサブシャシーも全体の形状は同じなのだが、穴が小さい小判型(初めのほうの写真に写っている)で、そのままではこのDCモーターが貫通できない。

ボードの設計

 プレーヤーシステムとしてまとめるには土台となるボードが必要である。

 フォノモーターユニットを採寸し、CADでボードの図面を引いてみた。W460mm, D360mmと、ほぼSL1200やLP12に近いサイズとした。置き場所を考えると、私にとってはこのくらいが一番実用的だ。厚さは54mmで、これは18mmの3枚重ね。現用の金田式ターンテーブルは実測70mmくらいなのだが、MU-31Dにはそれよりもやや薄くて軽快な印象のボードが似合うと思う。

 これは3層の一番上。

 アームは CP-X を使えるように UA-7/cfN を載せたい訳だが、そちらはこれまでの金田式ターンテーブルに任せて、0 SideForce のほうをこちらに持ってきてもよく、ちょっと迷うところだ。まあ取付け穴径は同じ30mmなのでどちらでも付けられるから、後から考えるのでも大丈夫。

 と、ここで、アームのスペックに詳しい人は疑問に思うかもしれない。UA-7 はターンテーブル中心からアーム軸の間の距離が227mmと指定されている。そして 0 SideForce については229-235mmとアナウンスされている。SMEのようにアーム軸の位置を移動できるような長穴でもない限り、同じ取付け穴で UA-7 と 0 SideForce の両方を適正な状態で使うことはできないのではないか、と。

 実は私はこれまでの金田式ターンテーブルでも UA-7 用に開けた穴にそのまま 0 SideForce を取り付けて指定外の状態で使ってきたのだが、ただ闇雲にやっていた訳ではなく、事前に十分検討しそれで大丈夫と言える一応の根拠を見つけていた。そのあたりのことを当初「トーンアームに理屈をつけてみる」の付録ページとして書く予定にしていたのだが、あちらは特に書きたかったメインの部分を書いてしまってからやや熱が冷めてしまい、2022年9月現在なんとなく止まったままの状態(爆)なので、話のついでにこちらに載せることにする。本題からは逸れる上に長くなるので別ページに。

    《付録》「ピュアストレートアームの設置条件」を考察する

 ということで、今回の新プレーヤーシステムでも、ターンテーブル中心からアーム軸までの距離は227mm(または228mm)とした。

ボード発注

 ボードは自作することも考えないではなかったが、地元のホームセンターで買えるような材料ではなかなか満足感が得られそうにない。やわらかいパイン集成材くらいしか手に入らないし、それも近年のものは昔より質が劣るような気がしている。かつてSP-10のボードを自作したときに使ったラジアタパイン材は、木目がほとんど目立たず、キメが細かく均質で加工しやすいものだったが、同じ名称で売られている最近のものは、くっきりした木目があって木質もざっくりした印象だ。表示は同じでも別の木なんじゃないかと思う。

 この際少し奮発することにして、もっといい材料をネットで調達するとしようか。いや、それだったらいっそ加工ごと外注してプロに見栄えよく仕上げてもらったほうが、結局は満足のいくものが手に入るだろう。

 というわけで、今回プレーヤーボードの加工に慣れていそうな工房はないかと捜索してみて発見したのが山越木工房さんだ。オーディオ木工専門という訳でもないようだが、特にスピーカーにかなり注力している様子で、ブログにはプレーヤーボードの作例もいくつか紹介されている。無垢材や集成材ではなく合板での製作がメインのようだが、制作品質はかなり高そうだ。

 CADで設計した図面を送って見積もりして貰ったところ、想定の倍くらいの製作期間と、想定の5割増しくらいの費用が提示された。納期のほうは全然構わなかったのだが、費用がなかなかちょっとむむぅ… で、しばし逡巡。しかしまあ、プレーヤーを作ることなどもうこの先そうそうあるとも思えないし、ここで少々の出費を惜しんで心残りが尾を引くことになるよりは… ということでやっぱり思い切ってお願いしてしまうことにした。

 正式に発注、そして1年の5分の1ほどが過ぎて、ついに私のもとにやって来たプレーヤーボード♪

 おお、美しい仕上がり。さすがに素人の工作とはレベルが違う。^^

 側面の積層模様が綺麗だ。

 これを見れば合板もなかなかいいなと思える。これは山越木工房の自社製のようで、ブナとカバ混成の積層だ。華やかに響くよりはしっとり落ち着きのあるほうが好み、と伝えたところ薦められた材がこれだった。合板といっても、密度が高くずっしり重い。ベニヤ板とは違うのだよ、ベニヤ板とは! ということですな。
 やっぱり自作ではとてもこうはいかない。ケチらずプロに注文してよかった。

 裏はこんな具合。

 モーターやスイッチ等が収まる繰り抜き部分の周囲に3つの丸穴が見える。フォノモーターユニットを固定する3本のM3ボルトを、これらの穴の奥でナットで締める。木ネジでは繰り返しの着脱に不安があるのでボルト締めにしたのだ。
 が、普通のナットだと、下から支えながらネジを回さねばならないので、かなり作業性が悪そうだ。ボードに鬼目ナットを埋め込んでやれば大幅に楽になるだろう。

 しかしM3という小さいサイズの鬼目ナットというのは見かけたことがないのだが、あるのだろうか。所謂鬼目ナットではなくても、同様の用途で使える都合の良いものはないか、とモノタロウで探し回ったところ、ドンピシャなのが見つかった。

 “ビーロック”というものらしいが、これって一般名詞なのかな?

 打ち込むべき場所は細い穴の奥になるので、そのままでは無理だから、ボルトを挿してその頭をミニハンマーでコンコンしてやろう。

 写真でボルトにワッシャが嵌っているように見えるが、これはワッシャではなくネジ頭と一体のツバだ。フォノモーターユニットのネジ穴が5mmほどとちょっと大きいので、穴を十分にカバーすることができる頭の付いたネジを探して調達したものだ。奥に見えている赤いのはダイソーで見つけたミニハンマーの柄。

 コンコン完了。うまく収まった。

 

 ここでフォノモーターユニットを仮にボードに載せてみた。ら、ありゃ、なんかピッタリ密着しないんだが…

 なんで??

 もしやどこか採寸を間違えた?、と思ってユニット裏面を再度確認すると、ははぁ、これか! 円形に抉られたところの内側部分が周辺の面から1mmに満たないくらいだが飛び出している。

 この部分は特に機構的な意味はく、オリジナルではなんら機能していない。当初はここを打ち抜いた丸穴に進相コンデンサーか何かを取り付けるつもりの設計だったのではないかと思われるが、ここが周囲から飛び出しているのをこのときまで見過ごしていた。

 凸部をなくすためにいっそ本当に打ち抜いてしまおうか、と思ったけれど、抉られた残りの部分は案外まだ厚みがあって、そう簡単に打ち抜けそうにない。しょうがないので、ボードのほうをここが当たる部分だけ削って凹ませることにした。

 というわけで、まずはグラシン紙に位置を写し取って現物合わせで位置決めし…

 

 ダイソーリューターと彫刻刀を駆使して窪みを成形。

 隠れて見えなくなる部分ではあるが、山越木工房さんの完璧な仕事にイマイチ綺麗でない加工跡が付いてしまったのはちょっと残念。ま、自分の手が加わったことで「他作感」が少し減じた面もあるからよしとしよう。
 これでユニットはぴったりボードに付くようになった。

電気系統整備

 さて、milonさんにお願いしたのはメカ部分の改造だけだったので、電気系統はまだこれからだ。

 まずは電源スイッチ。ON-OFF-ONの3ポジション2回路のトグルスイッチを使って、回転数の選択も同時にまかなう。

 このスイッチはもとの回転数選択スイッチの跡地に取り付ける。バッテリーからモーターまでの配線がなるべく短くなるようにしてロス要因を極力減らそうという目論見だが、そうするとオリジナル機で電源スイッチがあったほうの穴は用無しになってしまう。ON・OFFの表示が付いた穴が虚しく空いているのも面白くないので、何かのスイッチを設けたいところだ。
 既にプレーヤーの機能は必要十分だし、他にスイッチを必要とする機能を付け加える余地なんてあるか?… ああ、側にパイロットランプのブラケットが備わるから、ここにバッテリーチェックの表示のLEDを付けて、それをスイッチでON-OFFできるようにしようか。

 という訳で、これがその基板。

 バッテリーチェック回路の消費電流は大したことはなく、常時通電するようにしても大勢に影響は無いと思うが、スイッチで切り離せば電流消費が低減される。なくてはならないスイッチという訳でもないが、一応バッテリーの保ちに貢献するはずだから、それなりに大義はあると言い張ることはできるであろう。

 電源の電池については、milonさんはパナソニックNEO単一乾電池6個の9Vで好結果を得ているという。6Vほどに低下するまで、かなりの長期間使えるそうだ。
 私の場合、その電圧だったら金田式でおなじみの NP-F970 互換リチウムイオンバッテリーがぴったりじゃん、となる。バッテリーチェックの回路も金田式そのまんまでいける。

 このバッテリーチェック回路、規定の電圧を下回った途端に灯らなくなる、というのではなく、電圧が下降するに従ってじんわりと減光するのがアナログライクでなかなかよろしいと思う。写真では黄緑色のLEDが付いているが、これは思ったよりもだいぶ暗かったので、後でもっと明るい青に換えた。

 金田式ターンテーブル用に既に複数持っているNP-F970互換バッテリー。

 うちの金田式ターンテーブルはこれ2個で動くが、MU-31D/TS には1個だけで済むし、1回の充電でより長期間使えるはず。エコですな。

 スイッチ、基板を取り付け、配線する。

 モーターを回す電流の経路にはダイエイ電線20芯を、33/45の切り替えとバッテリーチェック基板への配線には、そんなに太い線である必要はなかろうと秋月にあった協和電線のAWG24を使った。ダイエイ電線は前世紀の製造になる年代ものだが、剥いてみたらまだ素線は意外にキレイな銅色だし、暗がりに置いていたためか被覆も取り立てて硬くなってはいない。
 中継基板はもと進相コンデンサが取り付けてあったネジ穴を利用して設置できた。

 さあ、だいぶ完成に近づいた。というこの時点で、実はボードが出来上がってきてから既に半年以上が過ぎている。そしてこのページを書いているのは、そこから更に8ヶ月ちょっと経ったあたりである。この間継続的に忙しかったという訳でもなかったのだが、なかなかHTMLを編集しようという気になれなくて… 近頃はどうもこんな風になりがちです、やはり気分が乗っているうちに一気にやらないと(爆)。

 配線が完了したモーターユニット一式をボードに載せてみる。

 まずまずいい感じなのではないかな。

 ベルトは掛けず、マグネットはちゃんとセットしてある状態でターンテーブルをチョンと触れば、スーっと、もういつまでも回ろうとするかのようだ。その様に思わず心の声「おお、回っとる回っとる、イーッヒッヒッヒッ… 」(既視感)^^。

 回転数選択兼電源スイッチ。左に倒せば33回転で回り出す。中間で停止、右で45回転。機能の表示があったほうがいいな。

 もともとここに備わっていた押しボタン式の回転数選択スイッチはプーリーにかかるベルトの位置をメカニカルにスライドさせる仕組みで、電気接点は持っていないため流用不能だ。

 もと電源スイッチのレバーがあった穴からはバッテリーチェックのON/OFFスイッチが覗く。

 これもバッテリーチェックのスイッチであることの表示が欲しい。そのままだとやっぱり主電源ぽく見える。

 駆動ベルトはナガオカブランドのものを使った。

 ベルトは実はもう一種類ノーブランドの少し薄いものも試してみたのだが、より張りが強いのに始動時に滑ってシュルシュル鳴くのが今一つだったのでこちらにした。
 まだパイオニア純正品も手に入るようなので、素直にそれにしておいたほうがよかったかもしれないが、特に問題は感じられない。

 ストロボシートを載せて回転速度の調整中。ストロボパターンは60Hz専用にCADを使って自分で描いたものだ。

 LED照明の部屋ではストロボシートは用をなさないので、まだ蛍光灯のままの部屋に行ってやってます。

 モーターを、鏡を使って下から覗く。

 モーターの背面に見える2つの穴が33回転と45回転の調整用。この穴に精密ドライバーを突っ込んで回すことで回転数を調整できるが、ちょっとコツがある。ドライバーの先が穴の奥の可変抵抗器(たぶん)を捉えるのを感じつつ、回し方は丁寧に。力の加え方によって可変抵抗器の接点が不安定になるのか、制御が外れたりする。

組み立て&セッティング

 フォノモーターが大体整ったので、後はこれをボードに取り付けてアームを載せればプレーヤーシステムがほぼ完成する。

 本機はボードが比較的薄いため、側面にはケーブルを引き出す穴を設けていない。ケーブルは下から引き出す必要があるので、ある程度の高さの脚が必須となる。のだが、ボードに脚を付けるのはやめて、3点の支持用のインシュレーターを置き、その上にプレーヤーを乗せて運用しようとしている。

 脚代わりにするのは、ヤフオクで調達したドライカーボンのインシュレーターと水晶の四角錐の組み合わせだ。写真の上方中央の形で使用する。これで高さは17mmくらいになり、ケーブルを引き出すにも十分な余裕がある。

 スポンジは、水晶のボードに接する四角形の面がボードを載せる前にも水平に保持されているためのもの。

 もう1台のプレーヤーの設置場所をまだこしらえていないので、ひとまず現用中の金田式ターンテーブルを一時除けておいて MU-31D/TS システムをセッティング。

 セッティング方法だが、まずこのハイブリッドインシュレーターを適切な3点に配置しておいて…

この上に、まずはボードを設置する。下からナットで固定しなくてはならないアームベースだけは先に付けておくが、モーターユニットを載せるのは後からだ。セッティングしながら組み立てるという訳。

 バラした状態なら各部は軽いから設置作業はラクだし、脚も位置が把握しやすいので配置の微調整が容易だ。これはフォノモーター固定のナット側をビーロック埋込みにしたおかげで、上面からの作業だけでねネジ留めが可能になったことのメリットである。

 アームを載せ、フォノモーターユニットをセットする。フォノモーターユニットはねじ穴の遊びを利用して位置を微調整できるので、この段階でアーム支点とターンテーブルセンター間の距離を正しく調整して固定する。

 アームはひとまず 0 SideForce を金田式ターンテーブルから載せ換えた。直前まで使っていたのと同じアームのほうが音の違いを判断するにはいいだろう。

 そしてマグネフロート用の磁石を載せ、プラッターを装着し、モータープーリーにベルトをかけ、ガラスシートを載せ、バッテリーを繋ぎ、というように結構ステップが多いが、程なくセッティングが完了。

 さあ、いよいよ、ついに、聴ける♪

聴いてみる

 

 ♪〜 はて?

 聞こえてきたのは、特に際立った音の冴えとか印象的な表情に耳を奪われるといったことのない、言ってみれば至極当たり前の音だった。なんら違和感のない鳴り方に、これまで聴いてきたのと同じ? と一瞬思うも、すぐに圧倒的に開放的でストレスのない音の出方をしていることに気づき驚くことになった。それはそもそも予想し、期待していたことのはずだったのに。
 鳴るべき音が余すところなく解き放たれるのが感じられる清々しさは格別だ。金田式ターンテーブルで最後にごく薄いベールが残っていたことに、それが取り払われた音を聴いて初めて気づかされる、なんて言ったら金田式ユーザーは心穏やかでいられないかもしれないが、実感である。実にいい音だが、妙な特徴のないあまりに自然な音のため、しばらく聴けばもうこれが当たり前の音になってしまう。本当に素晴らしいプレーヤーを手に入れることができた。milonさんと山越木工房さんに感謝!

 金田式SP-10 のことを少し考えてみると、残る「最後のごく薄いベール」については、MU-31D/TS と比べてどうにも見劣りする部分=SP-10のモーターの11mmという太いスピンドルシャフトに責任の大半があるのではないかと思う(ダイレクトドライブであることがよくないと考える人がいるであろうことは想像できるが、ちょっとDCな人は経験上そうは思わないのです)。
 スピンドルオイルはこれまでに数種類試して最終的にスクワランに落ち着いているが、純度100%を謳っているスクワランでもメーカーによって粘度が微妙に異なり、実際使ってみるとそれが如実に音に現れる。粘度が僅かに高いだけで途端に音が眠たくなってしまうのが判るのだ。スピンドルシャフトがもっと細かったなら、こうした粘度の影響はおそらく軽減されると思われる。

 実は、SP-10 の販売終了後に他社に供給された SP-10 の最終型モーターを予備として確保してあるのだが、このモーター、恐らくはコストダウンのためだったのだろう、20極60スロットの基本構造はそのままにシャフトが7mmと細くなっている。このモーターならもしかしたらより音がよくなるかもしれないので、いずれ載せ替えてみたい(いつになるやら)。それでもマグネフロートまでは付けようがないから、やはり MU-31D/TS に追いつくのは難しそうだが。

 アームを STAX UA-7 に載せ換えて CP-X を使ってみた。0 SideForce から替えると、シェルのない8.5gのカートリッジのみを頭に付けたコンデンサーカートリッジ用パイプの慣性の小さい操作感にあらためて驚く。こんなに軽かったんだな。


 ターンテーブル上はウェス・モンゴメリーの10インチ盤。コンデンサー型だから発電のためにエネルギーを奪われないため、針先の振動が邪魔されずに読み取られているのが感じられる(気のせい?)。

 このターンテーブルのおかげで CP-X も一層本領を発揮してくれているようだ。針先の振動をダイレクトに変換していることから来る反応の良さが際立つ。ピックアップシステムとしては華奢で剛性が低いためだろう、そんなに正確な音という印象ではないのだが、いい意味で楽器的な鳴りの良さが感じられ、なんとも言えない味わいがあって非常にヨイ♪ やっぱりUA-7をこっちに載せるのもいいな。うーん、迷う。

 さて、プレーヤーをもう1台、との計画だったはずだが、うっかりするとこの MU-31D/TS 1台のままで満足してしまいそうになっている。この場所には金田式SP-10を復帰させるべく、もう1台のための置き場所を整えないと。