SP-10がやって来た! |
MK3まで発展したSP-10シリーズも、金田式で使うとなれば、憧れ度はやはり初代がいちばんだろう。 入手したSP-10はMJの部品交換欄で見つけたものだ。けっこうボロっちくて、アルミのターンテーブルには錆が目立ったし、制御回路がもう寿命らしく、前の持ち主の言うとおりちゃんと回っていないようだった。普通に考えたら粗大ゴミのレベルと言っていいかもしれない。もっとも、そのおかげで先に問い合わせた人が躊躇してくれて私のところに転がり込むことになったわけだろうから、これはむしろ有り難いこととも言える。それに改造の材料にはむしろこのくらいのほうが適している。このような希少品種はあまり完ぺきな品物だとかえって「文化財は保護しなければ」なんていうような気持ちになって、改造するのに気後れしてしまう。 カーショップでHoltsのメッキクリーナーというのを買ってきて、ターンテーブルの外周を磨いてみた。錆がとれてけっこうきれいになった。ちょっと離れるとピカピカに見える。でもたぶんアルミを削っているのだろうから体には悪いな、きっと。真っ白のペーストで磨いているのに、拭いた後のティシュが真っ黒になるのでちょっとコワイ。少しばかりクリーナーの妙な臭いが残ったが、まあよしとしよう。 |
モーターと対面 |
恐る恐るモーターを開けてみると、憧れの60個のステーターコイルが姿を現した。想像していたより少し小ぶりのものだったが、確かにこれでは熟練工でないと作れそうにない。たかがレコードを回すのにここまで手間のかかる構造を採用するなど、後にも先にもないモーターだ。コストダウン大会に明け暮れる現代の大企業ではまず考えられないだろう。SP-10はやっぱり文化財だ。 |
世界初のダイレクトドライブターンテーブルSP-10の、これがすなわち心臓部(筋肉部か?)。気合いが入って60個もあるコイルは順繰りに重なって巻かれている。どうやって巻くのだろう? |
スピンドルと軸受けの古いオイルは拭き取った。スクアランで磨くとよく汚れが落ちた。古いオイルの固まったのも取り除いてさっぱりしたところで、新たにスクアランをたらして組み直す(後日、和光テクニカルのチタンオーディオオイルTi103に替えている)。 |
改造に最適? |
初代SP-10はとにかくモーターが魅力なのだが、それ以外の点でもシリーズの他機種に較べて金田式の改造には好適と思われる。 ただ、問題はこの初代のみモーターにFGすなわち速度信号発生装置が備わっていないことである。金田氏は発光ダイオードとフォトトランジスタを使って、光学的にターンテーブル裏のストロボを読み取って速度検出を行ったが、この部分のアルミアングルを使った工作はやや面倒だ。速度検出部を埋め込むためのボードの加工もちゃんとした工具が揃っていないと難しいだろう。この点だけはMK2,3に較べて敷居が高い。 しかし偶然というのは重なるもの、SP-10を入手する数ヶ月前のこと、たまたま買ったトラ技'99年6,8月号に興味深い記事を見つけていた。シャープの反射型フォトインタラプタGP2S22を使った電子工作の記事である。 |
これがGP2S22。これのおかげで回転検出部の工作が大幅に省力化できた(^^)。その後No.179のSL-1100用制御アンプでめでたく正式採用。 |
これを使えばボードの、ターンテーブルの読み取るべきストロボパターンの真下に4mmの穴を開けて、適切な高さに埋め込むだけで済む。アルミ板、アルミアングルの加工と、そのアルミ板を面一にはめ込むためのボードの加工という厄介な工作がいっさい必要なくなるメリットは大きい。それにこれならストロボ面に対して至近距離で感知するので、得られる信号出力もかなり大きいことが期待できる。うまくすればFGアンプなしでもいけるかもしれないし、しかもその場合はMK2でFGを検出するには必須のトラップ回路も不要だろう。
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製作 |
ボードは桜材に憧れるが、取り扱っているところを知らないし、仮に見つかったとしても高くて手が出ないだろう。というわけで、近くのホームセンターで手に入る「ラジアタパイン」という木の集成材で作ることにした。あまり重くはないし、木質も軟らかめである。そのかわり、安価で加工はしやすい。わりと簡単に妥協してしまっているが、パインだから楽器によく使われるスプルースの親戚?だろうし、音も楽器的にステキなんじゃ?と勝手に解釈して自分を納得させることにする(^^;;。 |
CADを使ってボードの設計を試みる、の図。頭の中のイメージが立体的な図になるとけっこう嬉しいものです(^^)。モーター本体を収納するための大穴のくりぬきはいちばん上の板だけでよく、2枚目、3枚目の板には軸受け部を通すための少し小さい穴が開く。四角の穴はモーターへのケーブルの中継と速度検出部を兼ねた基板を収めるためのもの。 |
DDモーターの回転の反作用を受けとめるには、なるべく大きく重いボードが望ましいのは解っていたが、主に置き場所の関係と、あと入手できる板の規格の都合でW450mm、D350mmという小さなサイズにせざるを得なかった。それでも思ったよりは重量があった。ロクサンXER-XやLINNなど、イギリスのプレーヤー(これらはベルトドライブだから全然事情は違うが)はだいたいこのくらいのサイズだし、非力な私にはこのくらいが合っているとも言える。セッティングがラク(^^; 。 |
ターンテーブルを外したところ。 モーターの奥の黒丸は、3mm×1mmのスリットを開けた黒ケント紙。ターンテーブル裏のストロボパターンを読み取って回転速度を検出する部分である。この下にシャープのフォトインタラプタGP2S22を埋め込んである。 このケント紙スリットはなくても動作するが、あったほうが速度パルス波形の立ち上がりが若干シャープになる。 |
こちらはCADの図に見えるボード裏の角穴の実体写真。手回しのドリルとジグソーによる手加工ゆえ、切り口は美しくない。が、ま、見えないし(^^;。 こうしてケーブルの中継を兼ねさせた速度検出部の基板を仕込んでいる。基板は、サポートをエポキシで接着して固定している。 中継されているケーブルは、右の3本がモーター駆動用。次の2本が発振器で、左4本が位置信号。速度信号用はこれらの下のほうに僅かに見えるソニーの同軸ケーブルだ。 |
問題のGP2S22を使った速度検出部であるが、オリジナルの定数のままの回路で問題なく動作する。しかも予想通り出力も十分で、制御部のFG入力のヒステリシス特性を調節してやればFGアンプも不要となり、いいことずくめ、大成功となった。(後日、回路定数を見直して振幅を正負対称になるようにし、微分回路なしで信号をボルテージコンパレーターに入れるように改良した。) トーンアームは以前から使っていたスタックスのUA-7/cfNをひきつづき起用した。このアームはパイプが交換式のため、接点が増えるという弱点がある。しかし、以前MJに各社のトーンアームのテストをした記事があったが、そこではこのスタックスのアームが機械インピーダンス特性の平坦さで他を圧倒していた。シンプルで合理的な構造や姿も気に入っている。新たにSMEを買う気も起きなかった。
(試聴した感想は「ターンテーブル制御アンプ」のページのほうにあります) |