金田式ターンテーブル制御アンプ製作の記


製作プラン

 なにしろ長年憧れてきたSP-10のための制御アンプである。どうせなら手持ちにある金田アンプ用パーツで使えるものはこの際すべて注ぎ込もう。回路も最新版であるMJ'92年3月号に掲載されたNo.124のMK2用のものをもとに、「オーディオDCアンプシステム上巻」に収録されているMK1用ターンテーブル制御アンプの定数を参考に少しモディファイして作ることにする。

 そろそろ入手難になってきた2SA606/2SC959もちょうど必要なぶんくらいのストックがある。何に使おうかと思っていたものだが、ターンテーブル制御アンプなら使う甲斐があるというもの。
 初段用の2N3954やFD1840もいくつも持っているが、No.124のドライブアンプに使えるIdssが2.5mA以上のものはない。多いものでせいぜい2mAくらい。反対に0.9mAの2N3954がちょうど3つある。ならこれを使って、負荷抵抗を3.9kΩにした旧タイプの初段にするといいのではないか。No.124のドライブアンプ初段に使われている2N5465の定電流回路は、音のほうは分からないけれど、特性はあんまりいいとは思えないし、旧タイプの初段でも2段目をドライブする能力が不足するわけでもないだろう。メタルキャンTrのGOAプリアンプでも、フラットアンプのほうはそういう初段で2段目のメタルキャンTrをドライブしていたはずだ。
 出力段の石はMJ2955/2N3055もまだ手に入るようだけれど、これも少し前に買って秘蔵してある2SD217をこの際使うとしようか。ただし、PNPのほうは2SB541しか持っていない。それも、ちょうど3つあるけれど、うち2つは以前バッテリードライブパワーアンプに使っていて熱暴走歴がある。でも測定してみたらちゃんと生きていたから、少々心配だけれどこれを使う。
 丸形V2Aは、0.47uFが手持ちにまだいっぱいあった。0.1uFと0.22uFは制御部に使うほんとうにぎりぎりの個数があった。

 速度検出部は、ターンテーブルのページにも書いたが、TLR111とTPS601をアルミアングルに固定して作るオリジナルの厄介な工作を避けて、現代の便利パーツ、シャープのフォトインタラプタGP2S22を使ってみる。ストロボパターンに近接して検出できるので信号レベルも大きいだろうから、FGアンプなしで大丈夫だろう。それに、今やTLR111というのはどこのパーツショップの広告リストを見ても載っていないようだ。

 ところで、モータードライブアンプは後でゲイン調整の作業がある。全体が組み上がってからのことになるので、オリジナル通りに作ると、これをNFB抵抗の付け替えで行わなければならないのがやたら煩雑に思える。そこで、最初から半固定VRを組み込んでおいて、1割程度のゲイン調整ができるようにしておこう。制御部のほうの位置信号のレベルシフト量の調整も同様だ。これも半固定VRを組み込んでおくほうが得策だろう。DCオフセットのほうはアンプ単体で調整してしまえるから問題ない。最近のアンプでは初段ソースにVRを入れているが、ここはオリジナル通りでよい。もっとも、適当なソース抵抗が入ったほうが音がいいのかもしれないが。

 と、ここまではいいとして、それなりに意気込んで作りにかかった割にはやはり生来の貧乏性なところが顔を出す。私はしょせん「ちょっとDC」なだけで「とことんDC」なヒトではないのでしょうがないのだ(^^;。
 あのSEコンデンサ、まともに使うと相等コストがかさむしなあ。ひとまず日通工のディップマイカのお世話になります。回路や他の部品との相性によってはSEよりこれのほうがいい、ということもあるのだ、と言い訳しつつ。いや、それはSEがあくまで正しいのであって、SEでよくないなら回路や他の部品がおかしいのだ、という意見もあるかもしれないが。確かにイコライザーアンプのカップリングは、ASCなんかも試してみたけれど全然ダメだった。でもまあこれも相性ということでしょう、FETプリならSEじゃなくてもいい音がする、と金田氏も言っていたし。
 あと、ドライブアンプの位相補正などにスチコンを使う。銅箔スチコンはよくないが、アルミ箔スチコンはよい、という説もある。昔の金田プリでもカップリングのマイカコンにスチコンがパラになっていたじゃないか。しかも私が持っているのは非磁性リードで横型の使いやすいものだ…言い訳が多い(^^;;。

 さて、外装関係で、まずスイッチは電源すなわちスタート/ストップと回転数の切り替えだけでいいだろう。電磁ブレーキはいらない。ターンテーブルが惰性で回っている間にスタイラスをクリーニングしていればよろしい。
 モーターと制御部の接続はDINコネクタを4つ使うことにする。電源、ドライブアンプ出力、速度検出、位置信号と、4つに分ける。こうしておくと調整のとき必要なものだけ接続できて便利だし、コネクタそのものもローコストで済む。それにDINコネクタはけっこう接触がしっかりしている。ただし、ケーブルの穴が小さくてダイエイ電線だと4本までしか詰め込むことはできないから、位置信号系(6本必要)にはもっと細い線を使わなければならない。速度検出は例のソニーの安い同軸ケーブルで、ペアの片側を検出素子の電源に使う。
 実はこのDINコネクタを使うというアイディアは、ケースと関係がある。以前カセット録再システムを作ろうとしたことがあった。ところが作っている途中で不具合があり、そのうちニューバージョンも発表されてしまって、完成まで進む気力が失せてしまった。そのときのケース、タカチの高さ44mmのものがもうひとつ眠っている。少々高さは低いけれど、本来のサイドパネルを前面にして使えば奥行き方向に長い形になり、私の部屋でプレーヤーの傍に置いて使うのに好適だ。正面から見れば、ケースの高さもこれくらいのほうが格好がいい。そして加工済みのケースがあるが、ひとつのサイドパネルにDINコネクタを4つ取り付ける穴加工がしてある。これをリアパネルとして流用するとかなりケース加工が省力化されるぞ、ラッキー。というわけで、ケースはこれに決定。

 ところで電源はどうするか。金田氏も近年は、ターンテーブル用にはGSの鉛蓄電池を使っているようだ。以前電池式真空管DCプリのヒーター用に使っていたものだね、きっと。私も電池をハンダ付けするのはイコライザーアンプだけでたくさんだなあ、という気分になってきている。(後記:GSの鉛蓄電池は私の思い込みでした。金田氏はターンテーブルを回すのに近年はニッカド電池を使っているそうです。金田氏の試聴会に参加された方から教えていただきました。また変なところがあったら教えてくださいませ)
 幸いこのモーター制御アンプは電池が±6Vになるまで使えるはず。これまでの経験からすると、マンガン乾電池はだいたい電圧が初期の3分の2くらいになると以後は急激に消耗するようだ。だったらこれの電源は±9Vくらいか、せいぜい±12Vが適当ではないか。±15Vまでは必要ないだろう。
 で、市販の電池ボックスを探してみると、単2の6本用というのがあるじゃないの。±9Vがハンダ付けなしで得られる。普通のマンガン電池の単1の代わりに単2アルカリマンガン電池が使えるかどうか?容量を知らないんだけど、なんとなく近そうな気はする。というわけで、単2アルカリ電池でひとまずやってみることにした。

 

部品を探す

 制御部の半導体はあらかた持ち合わせがなく新規購入になる。中でも分周器CD4059AEが問題だった。MJに広告を出しているパーツショップに問い合わせてみたが、どこでも返事は「ありませんねぇ」。4000番台のロジックICはまだ売られているが、この4059は特殊と見えて広告にもなかなか見つからない。たまたまトラ技で某半導体ショップの広告に載っているのを発見し、喜び勇んで発注したら電話がかかってきて「すいません、品切れです」「入荷の予定は?」「ないですねぇ」(呆)。こうなったら位相制御なしで速度制御だけで作ろうか、それともこの際既に出来上がっているカセット用モーター制御アンプをバラすべきか、とひとしきり悩んだが、あまり使えるものを置いていない地元の(と言っても車で2時間)パーツ屋に注文してみたところ、これがあっけなく手に入った。それも先の品切れショップの半分ほどの価格である。地元のパーツ屋も馬鹿にできないものですね。そのすぐ後にトラ技の若松通商の広告で14059と74HC4059を見つけた。なんだ、あるんじゃないか。ただし、地元パーツ屋よりだいぶ高価だった。
 届いたCD4059AEはRCAのオリジナルではなかった。本家ではもうディスコンなんでしょうね。
 LM13600Nもディスコンのようだが、これはまだ手に入った。こちらは新日本無線から同等品が出ているようだ。メタルキャンのICたちも手に入った。あと1MHzのクリスタルが、在庫している店がなかなか見つからず、入手に手間取った。

 RE55もいよいよ進工業のものがなくなって、一部ニッコームが混ざってまだらになっている。 それから、オシレーターのパスコン用V2A0.22uFが2個足りなかった。日通工のポリプロピレンFPD0.47uFがリードの間隔がほとんどぴったりだったので、これで代用する。レギュレーター出力用の丸4本足V2A2.2uFはあったのだが、10mmのサポートではケースに収まらないので、ここには入力側の0.47uFも合わせて代替パーツAUDYN-CAPを使うことにする。

 

組み立て

 Trの工作は基板の配線をちびちび休み休み気軽に進められるのがよい。小さいから出したり片づけたりするのがラク。タマの工作だと「ヨッコラショ」という感じなり、もっとエネルギーが要る。
 ドライブアンプは、2SA606や2SC959のhFEを事前に測定して念入りにペアを組んだおかげで、出力のオフセットは調整無しでも十分なほどの小さなレベルとなった(でも一応調整したけど)。1基のドライブアンプの出力オフセットが電源電圧近くにへばりついてびくともしないという事態にも出くわしたが、これは熱結合したカレントミラーのメタルキャンTrの本体(コレクタ)がショートしていたためと判明。チェックしないで配線してしまっていた。やっぱり慣れには要注意ですね。取り外して、接着をはがしてつけ直し。
 出力段TrのhFEは、Ic=20mAで測ってみるとD217よりB541のほうがだいぶ低い傾向だが、100mAまで流すとだいたい揃ってきて、3組のコンプリ・ペアがいい感じで組めたつもり。もっとも金田氏は「hFEのばらつきは気にする必要がない」と書いていたが。

 モータードライブアンプ。No.124では、初段は定電流回路に2N5465を使って多めの電流を流して動作させていたが、ここでは初期のアンプと同様の小電流の初段とした。よって定電流回路は2SC1775とツェナーDとRで構成。ただし、キャンタイプTrに圧迫されて基板にスペースが不足し、抵抗を基板裏に配線することになった。
 ドライブTrの間に見える半固定VRでゲインを調節することができるようにしたのもオリジナルと異なる点。

 各基板の動作を確認している段階で、位置信号用のウィーンブリッジ発振回路がちゃんと動作しないという問題が浮上。以前のカセット録音システムで挫折したのも、バイアス発振器で同様のことを経験したからだった。オシロで見ると一応は正弦波が見えるのだが、レベルが恐ろしく小さい。AGCで設定されたレベルに遥か届かない数十mVという微小レベル。配線ミスをチェックしても、どこもおかしくはない。なぜかは判らずじまい。
 そこで、CRの定数を若干変更してみた。金田氏がオープン録音システムで紹介していた変則ウィーンブリッジ回路を試してみたのである。これが当たり、ちゃんと規定の振幅が得られるようになった。ということは、たまたま使ったCとRと2SK30Aの微妙な相性で妙に安定してしまい、発振に至らなかったということだったのだろうか?
 そういうことで、ひとまずなんとか発振したが、有り合わせの部品での定数変更のおかげで本来の設計より周波数が少し高めになってしまった。モーターをつないでも位置信号検出コイルと共振が起きないことが解ったので、後で再度定数を変更した。もっとも、発振波形は共振させないほうがずっときれいだったし、モーターだってそれでもちゃんと回るのだが。実は、そのほうが音もよかったような気が…(^^; 。
 それにしても、このオシレーター、記事ではテスターひとつで調整できることになっているが、実際はどうだろうか。オシロで見ていると、振幅が最大になるとき波形も最もきれいになる、とは言えないことが判った。波形がきれいになるのはかなりピンポイントだったので、後で調整VRをTM-7Pに替えた。3回転型の有利さを実感。
 ただ、波形の美しさはそれほど気にする必要はないかもしれない。そもそも波形がきれいになるよう調整しても、温度の変化で波形は変わってしまうのだ。AGCの2SK30Aの温度特性のせいだろうか、ヘアードライヤーで加熱してみるとかなり波形が変化する。これだと夏と冬ではけっこう違いが出そうだ。

 制御回路基板。ご覧の通りSEコンデンサは見当たらず、ディップマイカばっかり…位置信号の検波回路のCもSE5100pFに代えてASC X363 0.01uF 、許して… (^^;;。

 そんないくつかの小さなトラブルも経て、長らくかかってそれぞれの基板が完成し、制御アンプは組み上がった。同時進行でプレーヤーの方もどうにか仕上がり、いよいよ全体の調整にまで漕ぎ着けることが出来た。



苦難の調整

 まずは速度信号がちゃんと出てくれるかどうか。速度検出にフォトインタラプタGP2S22なんていうオリジナルと違うものを使っているので、これを確認しなくてはならない。電源と速度検出のコネクタだけをつないでターンテーブルを手で回してみる。オシロでコンパレーターの入力を当たると、ちゃんと回転に応じてパルスが来ているようだ。ひとまず成功。正側に較べ負側の振幅が少し小さいが、動作には問題ないだろう。コンパレーター出力のほうも反応している。
 次に位置信号を確認し、レベルシフト調整だ。位置信号のコネクタを挿して、テスターでドライブアンプの出力を見ながら、やはり手でターンテーブルを回す。ところが…なんだこれわぁ!???、正側のピークが2つあるではないか。これでいいのか?
 なんだかよくわからず、調整もいい加減にしたままドライブアンプのゲインに移るが、もとがいい加減なのでこちらもきちんとした調整はできない。まあいいや、とりあえず回してみるか、と全部のケーブルをつないでスイッチを入れてみた。

 ん?「ぶーん」…回りはした。が、この振動は何だ?

 ターンテーブル制御アンプ内部全景。右側がリアパネルで、4基のDINコネクタが付く。上から位置信号検出(6pin)、速度検出(4pin)、モーター駆動(3pin)、電源(5pin)の順。

 どうもおかしい(焦;;;)。というわけで、ここから制御基板のチェックが始まる。
 怪しいと思われるところを配線し直してみることを繰り返すこと数度、まったくダメ。クロックは出ている。位置信号も大丈夫。位相比較は行っているようだ。しかし、その先のサンプルホールドがまともに働いているようには見えない。サンプルパルスが出ていないようだ。

 ついに回路図と突き合わせて一から配線パターンをたどることに。あれれ、4528周りの配線、回路図と違うみたいだぞ、基板図のとおりに配線しているのに…
 というわけで、原因はなんと金田氏が「チェックを繰り返した」はずの基板図のミスだった。しかし不思議だ、MJの写真にある金田氏製作の基板は基板図のとおりにパーツが並んでいるように見えるのに。
 こう書くとすぐだけれど、実はこれを見つけるまでに都合2日かかってしまった。通常の金田アンプ製作でAT-1に配線するときは、いつも光にかざして接続を確認しながら配線を行うので、図にミスがあっても見つけてしまうのだが、細かいICパターンの基板ゆえそんなことをしていなかった。やはり配線は回路図と突き合わせながらすべきだ。
 他にも回転数切り替えの配線の間違いや、動作にあまり影響のないところだったが回路図と基板図が違っているところを見つけ、それらもすべて回路図どおりに修正。そしてスイッチオン、おお、音もなく滑らかに回転しているぞぉー\(^o^)/。苦労の末にようやく定速回転するまでにこぎつけたのだった。

 回転させながら、あらためて位置信号をオシロスコープで見てみると、やっぱり!、全然正弦波ではないぞ。正側の波はコブが2つある。大山小山、フタコブラクダ。

 こんな感じの波形です…。オシロの写真が撮れなかったのでグラフを描くソフトで適当に関数を作ってみました(^^; 。

 こんなことは書いてなかったけどなあ…と思いつつも、モーターの中を覗いたときに見た、歯車型の形状をした位置信号発生用のローターを思い出して半分ほど納得した。おそらく、歯車の“歯”がコイルに近づくとき、まず初めの角の部分で磁束の通りが良くなり、コイルと平行になったところでいったん磁束が弱まり、“歯”が離れていくときまた後のほうの角の部分で磁束がよく通ることになるのだろう。ひょっとしたらMK2のような、ひし形スリットを開けた銅帯を被せた円筒方式なら正弦波に近い波形が得られるのかもしれない(しかし後日他の方のホームページで、MK2だと負側もピークが2つ出るらしいことが判明)が、これはいかんともしがたい。
 これはもう悩んでもしょうがないので、調整を進めることにする。速度信号のコンパレーターのヒステリシス特性を、抵抗を付け替えて再調整。と言っても、どういう状態が最良かは判断しきれなくて、カンでよさそうな値を選んだ。なぜかヒステリシス特性を鈍感にしていくと、入力波形の負側のピークが小さくなる。
 位置信号は正負のピークをそろえるより、平均値を0に近づけたほうが自然なのではないかと考え、オシロで見ながらACとDCで切り替えても波が上下しない位置に調整した。
 ドライブアンプのゲインのほうは、オシロで出力を2つずつ見比べながら、だいたい振幅がそろうように半固定VRを回す。あまり大きくは変化しない、というか最良ポイントがはっきり分からない。動作させながらだとフィードバックがかかっているから正確に調整したことにならないと思うが、そう神経質にならなくてもいいことにする。そもそも金田氏の記事の手順で調整しても、それはアンプの出力までのことで、コイルの駆動力のばらつきまでは調整できないのだ。
 そして速度調整はMiniCADで自作したストロボスコープを見ながら。コスモスの青くて丸い半固定VRは回転が少しきつめだが、ゆるくて頼りないよりはいい。スムーズに調整できた。最後に位相制御、正直言ってこれは最適量がよく判らない。とりあえず、クロックにロックしたと思われる位置からもう少しだけVRを回しておいた(後で音を聴きながらやってみたけれどやっぱりよくわからん)。

 

聴いてみる

 無事モーターが回るようになり、1週間ほどは無性に嬉しく、トーンアームを付けないままただ回してみているだけであった。おお、回っとる回っとる、イーッヒッヒッヒッ(狂)。

 その後、いよいよアームも装備し音を聴いてみる。これで情けない音だったらガックリだな、いや絶対そんなことはない、金田式SP-10だぞ、でもはたしてそんなに大きく違うものなのかどうか、と期待と不安の間で揺れ動きながらレコードに針を降ろすと…

 吃驚仰天、歓喜雀躍、いや、もう何も言うことはありません。それでも言うなら、これまで使っていたトーレンスTD321、低音はやや曖昧なものの滑らかな音だと思っていたけど、これはもう別次元の世界、滑らかでクリアで歯切れよくて優しくて力強くて繊細でetc.…
 というわけで、感激でしたね。もう戻れない。苦労は報われた。

 後日、ターンテーブルにはお約束通りAT666を載せることになった。サクションユニットを失ったものを格安で譲ってくれる人があった。
 初めのうちは薄めのビクターQL-V1のゴムシートを使い、それに豚革シートを敷いて聴いていたのだが、それなりに自然な感じで、これでも十分なのではないかと思っていた。ところが、吸着なしAT666の威力は思った以上で、低域の解像度が大幅に上がり、全体に情報量が増して驚いてしまった。あらゆる音の彫りが深くなった感じ。

 しかしこの音のよさの理由は何だろうか。吸着しないとレコードは浮き上がっているわけで、押えると沈み込む。レコードを支えているのは内周と外周のゴムの部分、それとあとせいぜいセンターシャフトとの摩擦だけだろう。アルミ(後記:正しくはジュラルミンだそうです(^^;)のプレート部分には接触してはいない。つまり、剛性の低い状態であり、カンチレバーの振動の反作用を受けとめるのには有利であるはずはないだろう。むしろ適当にレコード盤を鳴かせ、なおかつそれをほどよくダンプしている状態で音のバランスがとれるのだと考えればよいのだろうか…というようなことを入手前からも考えていたのだが、実際聴いてみて、まあ理屈はわからないけれど、またしても「もう戻れない」のだった。

 そんなわけで、2SB541じゃなくて2SA649だとどうなるか、とか、ひょっとしてまじめにSEコンを使えばもっとよくなるのかもしれない、とか、はたまた、電池も今や水銀0使用でかつてのNEO Hi-Topとは別物になってしまったとはいえNational NEO黒だとやっぱり違うんじゃないか、とか思わないではないのだけれど、ひとまず満足してしまって、そういうことは忘れつつある…(^^; 。


 後日談:電源にはジャンクとして定価の1割の値で売られていたパイオニアのポータブルDVD用の9Vニッケル水素充電池を2個使うことにしました。音は単2アルカリ電池より力強い感じで、トータルではやや凡庸な印象を受けるパナソニックのアルカリよりよいと思う。たおやかで繊細な高音の美しさという点では最初に試したソニーのアルカリが一番だったように思えるが、これは初めて聴いたときの感激のせいで過剰な思い込みになっているのかもしれない。このニッケル水素電池だと、持ちもアルカリよりはずっとよく、1度の充電で毎日2枚のレコードをかけてだいたい1ヶ月使うことができる。
 とはいうものの、充電の手間は面倒くさい。AC電源にしてしまいたい誘惑にもかられるんだよなぁ…案外高効率スイッチングレギュレーターなんて使えないかしらん…などと惑える今日この頃。


 後日談2:ドライブアンプ初段の定電流回路を、その後入手した2SC1399に入れ替えたところ、より音がはっきりし、情報量も増し、しかも音の表情もいっそう躍動的な感じになりました。2SC1400の兄弟石であるこのTr、ほどほどのゲインのアンプでは定電流回路用としてC1775よりよいように思います(EQアンプのように高ゲインのアンプでは、私にはちょっと高域の質感に気になる部分があった[『その後のメタルキャンプリ』の頁参照])。金田氏の言うとおり、モーターをドライブするアンプの素性が如実に音に現れてくることを実感。ただ回りゃいいってもんじゃない、ってホントです。


◇        ◇        ◇

発振器の謎?

 金田式プレーヤーシステムを製作・使用しておられる方から回転むらに悩まされているというメールをいただいた。
 金田ターンテーブルの回転むらの話は他にも間接的に聞いたことがある。自分の初代SP-10では特に問題はないだけに、そんな話を聞くと自分ばかりうまくいって申し訳ないような気分になってしまうが、実は鈍感で気付かないだけだったりして(^^;。まあピアノの単音がヨタったりすることもないから、一応大丈夫なのだろうとは思うが…。
 さて、私の聞いた回転むらの話はどれもMK2でのことだった。これはもしかしたらMK2に特有の問題があるという可能性もあるが、単に入手しやすいMK2での製作が多いからなのかもしれない。メールをくださった方のものもMK2だった。もちろん配線は正常でスムーズに動作するのだが、どのように調整してもピアノが揺れるとのこと。
 何度かメールをやり取りして改善に取り組んでみたが、今回は根本的な解決までには至らなかった。ただ、MK2固有の構造的な問題点のせいではないと仮定するなら、どうやら原因のほとんどは位置信号検出用の発振器にあるのではないか、ということになった。その方はオシロスコープを持っていないそうで、テスターで調整しているようだが、発振振幅が最大となるところに調整すると、よけいに回転むらを感じるという。

 そういえば、発振器については実はちょっと気になることがあるんだった。

 ご存知のように金田ターンテーブル制御アンプは、モーターに内蔵されたローター位置検出コイルからの位置信号を増幅してモーターのドライブ電力を得ている。モーターの回転はその増幅度をコントロールすることで制御される。
 この位置信号は、検出コイル1次側に高周波電流を流して、2次コイルに誘導する電流をモーターのローターとともに回転する位置信号ローターによって振幅変調して作りだしている。したがって、位置信号のもとになっている高周波電流の安定度がそのままモーターの回転の安定度に直結するというのは納得できる話だ。

 ところで、金田氏のオリジナルの設計では、その高周波発振器の出力コンデンサの容量と位置検出コイル1次側のインダクタンスとの直列共振を利用して発振振幅の倍増を図っている。先にちらっと書いた通り、私のターンテーブルシステムが初めてまともに動作したときは、発振器の回路定数がオリジナルと若干異なっており、この本来起こるはずの共振がない状態だった。
 共振がないと発振振幅は半分ほどしかないので位置信号のレベルも小さくなるが、モーターの回転には特に支障はないようだ。モーターのドライブ電圧を確保するのにLM13600Nの動作点が少しゲインの高い側にずれるだけで、全体の動作には特に無理は生じないと思われる。しかし本来の設計方針に沿っていないというのも落ち着かないので、問題なく回ったのではあったが、後で発振器の回路定数を調整してちゃんと共振するように改めた。
 だが、実は音のほうは、もしかしたらその最初の状態のほうがよかったのでは?という引っ掛かりを微かに感じてもいた。初めて聞いた感激のせいでそんなふうに思えるだけなのだろうと、あまり深く考え込まないようにしていたのだが、ひょっとするとあながち“初体験バイアス効果”のせいばかりでもなかったのかもしれない。

 ターンテーブルの動作中に発振器の出力をオシロで観測すると、共振している場合は波形がぶるぶる揺れている。共振のない場合も波形がまったく揺らがないわけではないが、もっと程度は軽い。そして波形そのものも、共振させた場合は正弦波と呼ぶにはだいぶ崩れた美的でない形になってしまっている。
 こうした発振波形の“揺れ”や“くずれ”は位置信号ローターの回転により位置検出コイルのインダクタンスが変動するせいで起こるものだろう。とすると、これは位置信号の周期(正確には3相なのでその3倍でしょうね)で起こっていることになる。
 そして位置信号はこの“揺れ”と“くずれ”を含んだ高周波信号を振幅変調して得られるのであり、さらにこれが増幅されてモーターのドライブ電力になるのだが、とすると、

発振波形揺れる位置信号揺れるモーターの回転(=位置検出ローターの回転)揺れる

ということになりそうな気がするぞ(--;。でもって、モーターの回転が揺れるなら、位置検出コイルのインダクタンス変動の原因であるローターの回転が揺れる訳だから、発振波形の揺れに輪をかけて揺れのモード自体がまた揺れることになりそうな…これってつまりモーターのドライブ電力のもとであるところの位置信号自体が自家中毒状態に陥っているということなんぢゃ…(いささか無理矢理考え過ぎの観もありますが(^^;)。

 というのが思いついたことのあらまし。んーっ、これは気になる、ソワソワ…。ここはやっぱり共振なしでの音を確かめてみんと。


 さて、じっとしていられなくなってきたので、やってみました、コンデンサ交換。発振周波数をもう一度高くするのはメンドウだから、発振器の出力の6800pFを5600pFへと小さくすれば共振しなくなるだろう、と。
 しかし、あれれっ、まだ共振してるよ。どうやら前に発振周波数は適正にしたつもりだったのが、実はまだ金田氏の設計よりは多少高めだったみたいで、共振の中心がコンデンサ容量6000pF近辺のところにあったようだ。それで6800pFでも5600pFでも共振してしまうのだろう。
 それでは、と今度はもともと位置信号検波部のフィルタに使っていたASCの0.01uFをこちらに持ってきた。そしてフィルタのほうに日通工ディップマイカの5600pF、もちろん3相ぶん。これでようやく共振はなくなった。
 再調整中。ターンテーブル上には自作ストロボスコープ。
 共振がなくなって発振振幅が変わると当然位置信号のレベルも変わるので、検波部のレベルシフト量から再調整となる。しました。そして、聴いてみました。

 〜♪

 ん〜、やっぱりこっちのほうがいいような気がするんだが…。すっきりとピントが合って、微細なニュアンスも産毛が見えるように浮かび上がる(…ように聞こえます、ただしもちろん当社比(^^;)。なにしろ一対比較しているわけではないから単なる印象に過ぎないのですが、なんかよくなっているような気がしてしかたがない。しかし明確に違うとも言えず、自信はないです。それに、位置信号の検波のコンデンサがASCからディップマイカに変わっている、というのもまずい。音の変化があるにしても、原因が共振のせいかコンデンサの品種のせいか分からん。こんなんじゃまったく実験になっとらんですね(^^;;;。

 ということで、甚だ無責任な話なのですが、いかがでしょう、金田ターンテーブルを製作・使用していらっしゃる皆さん、よろしかったら共振なし発振方式を追試してごらんになりませんか?



◇        ◇        ◇

終段ゲイン付与

 DCアンプシリーズNo.171のSL-1200制御アンプでは、かつてのGOA時代のパワーアンプの最終型であるドレイン出力型FETパワーアンプと同様の、ゲイン有する出力段を持ったバイポーラートランジスタ構成のドライブアンプが搭載された。
 このゲイン有りの終段、2段目の出力電圧振幅よりも終段の出力電圧振幅を大きくできるので、電源電圧の利用率が向上する。電池を電源としているモータードライブアンプには有用な方式だ。
 私のSP-10用ターンテーブル制御アンプには、電源としてパイオニア製ポータブルDVDプレーヤー用のニッケル水素電池を使っているが、小型ながら4500mAとそこそこの容量を持っており重宝している。ただ、公称9V(たぶん8.4V/7セルのものと思われる)という低めの電圧が、動作上は問題ないにせよ少々物足りない。そんなこともあって、電源電圧利用率を高めればまあ気休めにはなるわな、という程度の熱の入らなさではあったが、終段ゲイン付与はいつか自分の制御アンプで試してみたいと思っていた。
 いずれそのうち、と思いつつもそのまま時間が過ぎていたのだが、kontonさんのシミュレーションでこのゲイン有り出力段が取り上げられ、拝見するとアンプの動作上も利点がありそうな結果が得られているではないか。これはやっぱり試してみなくては〜、とちょっと熱が高まった。

 ところで、私の制御基板は旧単行本のSP-10MK1の制御部をもとにプログラマブルデバイダー4059周りの配線をしたが、その後実はこの4059の45rpm時の設定に誤りがあり、僅かに回転が速くなることが判明している。耳で聞いて明らかにピッチが上がっていることが判るほどの誤差はないと思われるので、実用上はそう大した問題ではない、というか、うちにはそもそも45回転のレコードそのものがなかったのだが、やっぱり機能的に半端な部分を残しておくのは気分がすっきりしない。そのうち何かのついでのときに修正しようと思っていたが、最近たまたまEPレコードを入手してしまい、45回転を実際に使うことになった。
 そんなわけで、ゲイン付与と回転数問題という2つのテーマが溜まってしまったおかげで、これらを一気に解決すべく、ようやく重い腰を上げて制御アンプに手を入れる気になった。

 回転数問題については、45rpmのための4059の「ジャムインプット」設定に関してkontonさんのHPの掲示板に書き込んだことがある。前後がないと判りにくいが、その要点部分のみ次に引用する。


・・・
45rpmでFG周波数は120Hz。分周比は1MHz÷120Hz=8333.333・・・
この段階で小数点以下四捨五入して8333とし、4059の設定はmode2で「4166あまり1」
とするほうが「4167あまり0」より正規の回転数に近いです。誤差は0.0048%です。

とおるさん式の表現ですと

ピン  J1 / J2 J3 J4 / J5 J6 J7 J8 / J9 J10 J11 J12 / J13 J14 J15 J16
十進数 1 / 4 / 6 / 6 / 1
二進数 1 / 001 / 0110 / 0110 / 1000

ということで。


 はて、この「誤差は0.0048%」というのはどこから出してきた数字だろうか。今計算してみると+0.004%にしかならないんだが…何か勘違いしていたみたいで、みなさんどうもすいませんです…m(_ _;m。

 話を戻して、4059のJ1〜J16のピンについて、この二進数の“1”が+5V、“0”が-5Vに接続されることを意味するが、33・1/3回転時の設定(0/101/1010/0100/0110)と切り替えられるようにしなければならない。それゆえ、回転数に関わらず0,1が固定しているピンはそれぞれ-5V,+5Vの電源ラインに直接つなぎ、回転数によって0,1が入れ替わるピンは回転数切り替えスイッチにつなぐことになる。正しい接続は下の図のとおりだ。

 回路図上は単行本の回路との違いは3番ピンと17番ピンの接続だけであるが、実装上は回転数切り替え系のジャンパー線の取り回しが少し変わってくることになる。ところで断っていなかったが、これらはすべて速度検出に金田氏の記事どおり60Hz45rpm用のストロボパターンを使用する場合についての話である。



 さて、終段のゲイン付与のほうは、出力段コレクタ−ドライブ段エミッター間に33Ω、ドライブ段エミッター−アース間に150Ωを追加し、GOAの対アース抵抗5.6kΩを56kΩに交換すればよい。基板裏の7本より線のパターンもほんの少し変えるだけだ。
 下図は私の制御アンプの回路だが、もともとNo.124を基本に若干の変更が加えられている。赤で示したところが今回の変更箇所。

 この改造に伴って位相補正のCの最適値が変化することもあるのではないかと思われるが、それを検討するのは非常に面倒なのでひとまず深く考えないことにする(玄人の態度ではないです、ハイ(^^;)。
 だいたいが今付いている2段目の20pFと39pFも、本来は初段の負荷抵抗が620ΩであるNo.124の値であって、それを3.9kΩにしたのにそのままにしてあったのだ。音のほうは判らないが、方向としては安定寄りの変更だから、まーいっか、と。実際これで十分いい音だったのだから、今回もなんとかなるだろう。
 対アース抵抗の値を増すのでオープンゲインが上がるが、kontonさんのシミュレーションによると終段の動作としてはより安定な方向になるような様子なので、トータルで丸く収まる、のではないか、そうあって欲しい、のだが、まあやってみるべ…(^^;


 定位置にセットしてある制御アンプを、上に載せた真空管DCプリをよけて引っ張り出してきて、ケースを開けて基板を外してしまいさえすれば(ここまでがいちばん億劫)、手術自体はそう大した手間でもない。4059周りはほんの数カ所の接続変更にジャンパー線の配線し直しで完了。ドライブアンプのほうは、D217に隠れる部分に配置される150ΩをD217を外さないで付けようとして少々手間取ったが、ランド1列ぶんシフトすることでうまく取り付けられた。

 しかし、好事、魔多し、とはよく言ったもの。いざ、ターンテーブルを回転させてみると、妙に起動がゆっくりだ。オシロでドライブ電圧波形を観察すると、なんと一つの出力が正電源電圧付近にへばりついているではないか。隣のドライブアンプと入れ替えてみたが、それに伴って症状が現れる出力端子も入れ替わったので、アンプが原因であることは間違いない。しかし外見上は問題はないし、改造直前までちゃんと動作していた基板である。いじったところはそうした症状の原因となるような場所でもない。
 結局、解決までに1日半くらいを費やすはめになった。新しく作るのより大変だ。異状は2段目のカレントミラーの熱結合した2個組みC959を新品に交換して解決。もとのC959は使い回しの中古石だったと思うが、改造の際この辺のパターンにハンダ鏝の熱を加えたわけでもないし、壊れる理由は思いつかない。たまたまそういうタイミングで壊れたということだろうか?(謎)。

 ということで、思わぬところで時間を喰ってしまったが、どうにか無事調整にまでこぎ着けた。位相補正の吟味はサボったままだが、幸いドライブアンプに発振などの不穏な気配は見られず、安定に動作している。
 3つのアンプの出力振幅のバランスを取るためにNF回路に半固定VRを入れていたのは今回外してしまった。当初ドライブ信号の振幅のばらつきは、元になる位置信号発生コイルの感度のばらつきが原因と考えられていたようだが、どうやらまったくの無帰還で使われているゲインコントロールアンプLM13600Nの個体によるゲイン差がそのまま現れることが占める割合のほうが大きいようだ。とすれば、ドライブアンプのゲインを調節して振幅を揃えるより、LM13600Nの出力を揃えたほうが気分がよろしい。LM13600Nのゲインコントロール端子には、オリジナルでは12kΩが繋がるが、この抵抗値を調整すればゲインを揃えることができる。私の場合は3番アンプの出力が若干小さめだったので、ここを11kΩに交換して流入する電流を僅かに増すことでおおよそいい感じに3つのドライブ信号が揃った(つもり)。

 さて、動作確認だ。蛍光灯のもとストロボを見ながら33・1/3rpm、45rpmそれぞれの速度を調整、そして位相制御をかけてみる。よっしゃー、ストロボは流れないぞぉ〜、うむ、計算も配線も間違ってない(^^)。で、音は、と…

 〜♪  (°°;; こ、これは!

 いや、正直なところ、電源電圧を有効に利用するという満足感だけのための改造のつもりだったので、この場には「音質的にはさほど大きな変化は感じられない」というようなことを書くことになるのではないかと予想していたのだ。ところがギッチョン、明らかに音が変わったではないか。
 全体にいっそうフォーカスがしっかり合ったかのごとき鮮明な描写、全域にわたって情報量が増したかのようだ。ちょっと聞きには低域はややスリムになったように感じられる。曲によっては少し寂しくなったような気もしないではないのだが、実はルーズな部分が抑えられ、より手綱が引き締められた、と言ったほうが適当だ。低域が出にくくなったわけでは全然なく、むしろ逆により深いところまでズ〜ンと、音程を明確にしながら伸びてゆく。質的な向上が明らかだ。晴れやかで伸びやかな鳴り方に、よりいっそうの緻密さとキレの良さが加わり、やさしく美しい音から力強い音まで、過不足のない毅然とした上品さで鮮やかに描き分ける。一言で言って、よりDCアンプらしい音、といえばなんとなく音を想像してもらえるだろうか。古いモノラルのデッカ盤がとてもいい感じに、生き生きと鳴ってくれたのも、予想外の喜びだった。
 また、音質には関係ないが、回転の立ち上がりがほんの少し速くなった。ターンテーブルが停止した状態から起動するときにはドライブアンプは最大振幅で働くので、電源電圧利用率向上(すなわち出力振幅の拡大)の効果が現れたということだろう。

 以前の音もあれはあれでよかったのだが、私には元に戻す理由はない。もちろん音の嗜好は様々であるから、人によっては以前のほうを採るかもしれない。今度の音のほうは、かなりしっかりコントロールされた音という印象があるので、無帰還の3極管シングルアンプを以て最上とするような人なら、改造前のほうがよいと言うこともあり得るだろう。

 ドライブアンプのNF回路に入れていたゲイン微調整用の半固定VRを取り除いたり、いちどきにあちこち少しずつ変えてしまっているので、音質の変化は終段ゲイン付与によるものばかりとはいえないかもしれないが、最も影響を与えているのがこの改造であることは疑う余地はないと思う。


 それにしても、やっぱりたまにこういうことがあるといいものです。レコードを聴く楽しみに新鮮な気持ちが甦ります(^^)。