休眠中


STAX CP-X & POD-XE(その後2007年夏に休眠解除→「できるかな」参照)

 おお、この美しさ…と思うのは私だけ?これこそ私がこれまで最も思い入れしたカートリッジ、旧スタックス工業株式会社のコンデンサー型カートリッジ「CP-X」である。70年頃の発売だからテクニクスSP-10とほぼ同時期の製品ということになる。当時は今よりはるかにオーディオが人々の関心を集めていた時代だった。
 CPはCondenser Pick-upの頭文字。Xは…単に日本人が好むかっこよさそうなアルファベット、だな。

 ご覧の通りコネクタが3pinの特殊な形をしており、専用のパイプを装着したスタックスのアームで使う。と言っても、そのまま普通のプリアンプのPhono入力に繋いでも音は出ない。

 コンデンサー型のカートリッジにも種類があるが、CP-Xは「高周波(RF)変調型」と呼ばれるものである。CP-X本体内部は高周波変調用の空心コイルがあるだけで、発電機構を持つものではない。音楽信号を取り出すには、専用のイコライザーアンプ「POD」が必要だ。

 PODとは、Pick-up Oscillator & Demodulator(Detector?)のことで、正確にはイコライザーアンプというよりも「発振・復調(検波)器」と呼ぶべきものである。もちろん専用のイコライザーと出力アンプも内蔵しており、この出力をアンプのラインレベル入力に入れて使用する。

 右の写真がCP-Xとセットで使われる発振・検波器POD-XEである。小さい箱は外付けとされた電源トランス(POD-XEは改良型で、旧型のPOD-Xでは本体に内蔵されていた)。中にはカットコアのトランスがウレタンフォームにくるんで詰め込まれている。トランスが筐体に固定されず蒲団蒸しになっているという珍しい構造だ。

 POD-XEは片チャンネル1本ずつの12AU7で構成されている。双三極管12AU7のユニットのうち一方で20MHz前後の高周波を発振、それをレコードの音溝をたどって振動するCP-Xのカンチレバーとそれに対向した電極との間の容量変化で変調する。得られた信号をもうひとつの12AU7のユニットで検波・復調し、高周波をLCフィルタで除去して音楽成分を取り出す。さらにその先のCRによるイコライザー素子を経て、最後は2SK30とPNPトランジスタ2石による出力アンプで送り出す。

 何ゆえこのカートリッジが私を惹きつけたかについては別頁参照。
コンデンサー型カートリッジを偏愛する

CP-Xの思い出

 あるときたまたまCP-Xのことを知った私は、その優雅なデザインと動作原理に共鳴し、探し続けること数年、やがてついにこれを手に入れる。既に製造終了後10年くらいは過ぎていただろう。
 このときのPODは、CP-Xよりも世代の古いPOD-8という機種だった。単なるアルミの箱にポツポツ穴が開いたキカイ、といった風情で、いかにも古くさい代物である。さすがに使われている部品も旧式で、音には鮮度が全然感じられなかったが、それでもCP-Xの素性のよさの片鱗は感じられた。グレードの高い真空管を買って差し替えてみたり、パーツを最新のものに交換したりと、少しでも音をよくするために涙ぐましい努力(悪あがき)をしては、少しばかりの変化に小躍りしたものだ。

 やがて運良く、シリーズ最終型のPOD-XEを譲ってくれる人が現れた。ありがたいことに目の玉が飛び出るくらい格安だった。格安だけあって完全なジャンク品で、届いたPOD-XEは見るからにやつれ果てた姿。部品も少し欠けており、もちろん真空管も他機へ移籍済み、極めつけは電源トランスのコードがニッパーで切断されていた。要するに半分解品だ。
 しかしこういうののほうが手を入れる甲斐があって、かえって面白いのだ、希望が見えるうちは。ほとんどキットを買ったような気分で、口笛吹きつつレストアに精を出す。

 POD-XEの内部は2層構造。下部は電源回路で、上段に左右それぞれの発振・検波回路基板と、出力アンプ基板が収まる。


 単なるアンプなら自作が可能だが、PODは特殊なパーツが多いため完全自作が難しい。だから原機を生かしつつ、出来る限りの改造を試みた。賞味期限切れのケミコンをすべて新品に換えたのはもちろん、抵抗も当時流行ったシンコーのタンタル抵抗などを使い、多用されていたセラミックコンデンサーはディップマイカに、配線材もすべて新しくと、代替品が手に入る部分についてはほとんど現代パーツに交換した。あと、振動対策として発振コイルのアルミシールドケースをブチルゴムでダンプしてみたり、はたまた基板のパターンを金田式7本撚り線で裏打ちし、さらに電源のパスコンを追加してみたり。

 最初はまったくくすんだ音で、基板が湿気を帯びていたせいかプスプスいうノイズもあったのだが、そうしたことの積み重ねの甲斐あって、CP-X/POD-XEはやがて本来のしなやかで自然な音を取り戻してきた。

 使っていたトーレンスTD321のモーター駆動回路から漏れる電磁波をCP-Xの変調コイルが拾っているらしく、少しハムが出るという問題もあった。それでもカンチレバー自体が電極となってダイレクトに音溝の形をたどっていくこのカートリッジの音には他では得られない魅力があり、以後長く愛用することとなったのである。


 使い始めの頃にはまだ交換針が入手可能だった。しかし数年して、交換針を購入しようとスタックスに問い合わせたところ、「作れる人が体をこわして現在供給不能」との返事。いずれ供給できるようになったら広告などでお知らせしたい、というメーカーとしての良心もしくは志を感じさせる言葉もあったが、いつになるか分からない。正直なところあんまり見込みはなさそうだ。いずれは出力アンプも載せ換えたりと、まだやってみたいことがいろいろあったが、残念ながら末長く使い続けるのは諦めねばならないようであった。

 というわけで、以後金田式イコライザーアンプが取って代わることになる。
 初めてDL-103を聴いたときは、明瞭なんだけれど、どうも音に余分な「しゃくれ」が付いている、というような感じがしてならなかった。
 これはおそらくカンチレバーのわずかなたわみが原因なのだと思っている。CP-Xでずっと聴いていたから、たぶんそのようなことには敏感になっていたはずだ。針先に加わった力がカンチレバー根もとのコイルを動かすまでに、カンチレバーがしなって付け加わってしまう音が感じられるような気がするのだ。他にも樹脂ボディの箱鳴りや鉄心入りの磁気回路の音も聞こえていたのかもしれない。
 しかし幸いなことに、しばらくしたら金田プリがモールドTr使用のものからキャンタイプに変わって音が大幅によくなった。常用したいと思わせるのに十分な音だ。おかげですっかりDL-103に馴染むことが出来た。

 そんなわけでフォノ系のメインシステムは金田式イコライザーアンプになってしまったが、今でもできることならCP-Xを使いたいという思いは捨てきれない。DL-103とあれからさらに改良を加えたDCプリの組み合わせのほうが、今ではこの太古のピックアップシステムよりずっと鮮やかな音を出すことは明らかだと判ってはいても。
 現在の有限会社となった新生スタックスのホームページに旧製品のサポート情報のコーナーがあるが、そこの対応製品一覧にはCP-Xも載っている。といってもサポート可能なのではない。が、いずれ対応したい、ということで載せてあるのかと思って期待しているところだ(後記:その後×印が付きました。正式にサポート不能が確定しちゃったみたい(T_T))。ただ、CP-Xの差し込むだけのアームへの取り付けは、現代の観点からは剛性が低くてあまり褒められた設計ではないと思うから、どうせなら新設計のコンデンサーカートリッジが登場してくれたほうが有り難いけれど、この御時世、夢物語だろうか。
 モノがモノだけにコンデンサーカートリッジの自作は不可能に近いと思うが、同じ振幅比例型の出力特性を持つ光電型カートリッジだったら、何か適当なカートリッジの交換針アセンブリーとフォトTrを使って自作できないものだろうか、などと夢みたいなことをたまに考えている。

書いていたら懐かしくなってCP-Xを聴いてみた
久々にCP-Xを試聴




幻の自作トーンアーム

 CP-Xは手に入れたものの、まだ専用アームUA-7を持っていなかった頃があった。そこで、たまたま旋盤を使える環境にいた私は、なんとかしてCP-Xの音が聴きたくて、自分でこんな怪しげなトーンアームを作ってしまったのだった。
 CP-Xは先端にきっちり差し込めるようになっている。信号ケーブルは、モガミ2526をCP-Xのピンに繋いでアームの後ろから引き出した。

 有り合わせの材料で作れる構造ということで、当時江川三郎氏が提唱し、ヤマハのGTシリーズにオプションで用意されていた“ピュアストレートアーム”の軸受け構造をまねて作ることにした。このトーンアームの軸受け部の構造が、たまたまイラスト付きで当時のMJ誌の解説記事に載っていたのである。シロウトでもガタなしで作れ、しかも高感度が得られる合理的な構造だ。

 2個の金属球がアームの上下動の支点となると同時に水平方向の回転を支えるベアリングとなる。この金属球はアームの回転に連れて転がる。真ん中の突起がアームの前後方向の位置を決める。動作時はいっさいのガタがない。

 アームリフターもなく、たいへん使い勝手の悪いトホホアームだったが、レコードの音溝をトレースする機能に関してはとりあえず成功だった。しかし安物買いの銭失い、一緒に使っていたガラードの401がとんでもないポンコツで、安定して回転してくれず短期間でお役御免。新しいプレーヤーを買うと同時にSTAX UA-7cf/Nを手に入れたので、このアームも必然的にリタイヤとなったのである。

 以後は戸棚で、あやしいオブジェとしてしあわせに(?)暮らしました、とさ。




DIATONE P-610B

 まさしく「ご多分に漏れず」といったところでしょうか、私の自作オーディオ入門スピーカーもかの有名なこれでした(^^)。これで一生懸命聴いていたんだよね。それなりに立派な平面バッフルをこしらえて。あの頃はひたむきだった…(遠い目)。
 初めはより新しいDBのほうを使っていたのだが、金属ドームを内蔵していないこの古いユニットのほうが素直な音だという話を聞いて、中古で手に入れたもの。どうせそういうことになるのなら、大学時代に生協のオーディオ製品売り場で安売りされているのを見かけたときに買っておくんだった。ほとんど似たような値段だったから。今、大学の生協にオーディオ売り場なんてないだろな。あの頃は…まあよしましょうか(笑)。

 ご多分に漏れないのは、ウレタンのエッジが経年変化で風化して失われてしまったこともそう。もうこのユニットは使っていなかったのだが、エッジが崩れたままの姿が不憫に思え、このさい自分でエッジの張り替えを試みることにした。
 専用の張り替えキットは高価なので、カー用品店へ行ってセーム革を買ってきた。ロータリーカッターで4分割のエッジを切り出して、皮革・布・ゴム用というボンドで張り替えたらこのとおり。
 セーム革の厚みはけっこうあるので性能的にはあまり褒められたものではないかもしれないが、見た目はわれながらそれらしく仕上がったと思う。ガスケット部分はコルクで作り直したが、色合いがセーム革にはよく合っていると思いませんか?。
 これをメインシステムに持ってくることはおそらくもうないと思うけれど、一生懸命音楽を聴いていたときの思い出の品として取ってあります。箱に入れてモノラルシステム兼FM聞き流し用にしようかな、とかときどき思うんだけど…。それにしても、DIATONEがなくなってしまうなんて、ねえ…。