コンデンサー型カートリッジのメリットについて(偏愛的静電型振動変換器擁護論)


コンデンサー型のメリット

 コンデンサー型カートリッジには音溝をたどって音楽信号を拾い出す上で、MMやMCなどの電磁型に較べトランスデューサーとして本質的にはるかに優れていると思われる点がある。

1.余分な質量付加のないカンチレバー

 特に、RF変調型であるCP-Xの場合は、カンチレバーはそれ自体が単なる電極である。普通の電磁型カートリッジのようにコイルや磁石がぶら下がっていないため、マスが極めて小さい。エレクトレット型の場合は、カンチレバーにエレクトレットの可動極が付くことになるが、それでもコイルやマグネットを付けるよりは軽量に造りやすいだろう。

2.スタイラス直近での信号変換

 スタイラスのごく近くで信号をピックアップできるため、音溝の形に忠実な、極めて正確な信号が得られる(それゆえCP-X/POD-X(E)には“Direct Pickup System”という副称もある)。スタイラスに加わった力がカンチレバーを介して遠く離れたコイルや磁石を揺さぶるわけではないので、カンチレバーのたわみが音楽信号を変調するという問題がない。もっとも、CP-Xよりもっと時代が下がって、ビクターからMC-L1000というスタイラス直近にプリントコイルを持つMCカートリッジも出現したが、カンチレバーのみで振動系が出来上がっているCP-Xのほうが原理的にスマートだ。

3.磁気歪みフリー

 信号変換にマグネットを用いずに済むため、磁気歪みから逃れられる。

 つまり、振動系がこの上なくシンプルにできるため軽量化が容易で、高域再生能力、過渡特性に優れ、機械的・磁気的な歪みが加わらない音楽信号が得られることになる。コンデンサー型はそうした動作原理の根本的な部分が“美しい”と思う。

 CP-Xのおなか。カンチレバーのスタイラス周辺を左右45°ずつの角度で囲む電極(hot)が分かるだろうか。カンチレバー自体はcoldすなわちアースで、「振動系」はこれがすべて。カンチレバー前方の黒丸は安定用ブラシ。スタイラスユニットはマイナスネジ1本で交換できる。

 以上は構造的な面から来る利点であるが、実はRIAA規格のレコード再生においては、振幅比例型という特性から来る利点もある。

4.無理のないイコライザー特性

 通常の電磁型カートリッジはカンチレバーの速度に比例した信号を出力する。RIAA規格(に限らず)はこの電磁型カートリッジの出力特性と録音の都合の折り合いをつけるために定められている(というような講釈はこのようなページを覗く皆さんには御不要とは思いますが、縁起物(?)ということで…(^^;)。
 もしレコードに、得られる出力がすべての周波数帯域でフラットになるように録音しようとするなら、速度比例型カートリッジが相手であれば、低域になるほど大振幅のカッティングが必要となる。これでは長時間の録音が出来ず現実的でないし、そもそもトレースできるカートリッジやアームを造ることも困難だろう。
 そこで、低域の振幅を押さえて録音し、出力信号は逆に低域が上昇した、というより高域が減衰した特性のイコライザーを通して再生すれば辻褄が合う、というわけだ。
 一方、コンデンサー型の出力はカンチレバーの振幅(変位)に比例し、この場合イコライザー特性は低域減衰型のカーブとなる。この低域減衰の度合が電磁型すなわち速度比例型での高域の減衰率と較べると大幅に軽いのである。
 電磁型用のRIAAイコライザーでは、20Hzから20kHzまでで実に39dBのゲイン差が必要となるが、コンデンサー型の場合はこれがたったの21dBで済む。50-20kHzで見るなら12.5dBほどに過ぎない
。20-20kHzで単純比較しても、その差は実に18dBということになる。つまり、そのぶんコンデンサー型はイコライザーアンプの動作に無理がない。S/Nやダイナミックレンジの点を含めて現実的に考慮すると、総合的にはコンデンサー型は電磁型よりも10倍くらいは有利と思われる(RF変調方式では変復調系の性能も関わってくるが)。

 下に電磁型、コンデンサー型それぞれのイコライザーカーブを示す。ともにCR型の回路でシミュレーションした結果だ(したがって僅かに偏差はある)。縮小したのでややつぶれて見にくくなってしまったが、その違いは一目瞭然だろう。縦軸は電磁型のほうが10dBきざみ、コンデンサー型のほうは5dBきざみで表示されているが、どちらのグラフもスケールは同じである。

電磁型カートリッジイコライザーカーブ
(速度比例型)
コンデンサー型カートリッジイコライザーカーブ
(振幅比例型)



ともにグリーンの曲線がRIAAの再生カーブ
表示している周波数帯域は20-20kHz

 振幅比例型のカートリッジにはコンデンサー型のほかに、実用化されたものとしては光電型があるが、残念ながらどちらも主流とはなりえないまま忘れ去られてしまった。
 金田明彦氏がMJ誌創刊75周年記念号('99.5)にモノーラルLP用真空管DCプリアンプを発表しているが、その記事の中でこれらの振幅比例型カートリッジについて言及し、「もし光電型やコンデンサー型カートリッジのような変位型カートリッジがもっと早い時期に主流になれば、まったく違った規格が生まれただろう」と書いている。ことさら振幅比例型の優位さについて述べたものではないが、テープ録音のNABやDINの規格に疑問を唱え、独自の“DC規格”によって録音再生能力の限界を追究した氏のことだから、この記述からはなんとなく光電型やコンデンサー型に可能性を感じていることをほのめかしているようにも読み取れるような気がしないでもない、という気がしませんか…(^^;。コンデンサー型カートリッジ用DCプリアンプ、なんて発表されたら私としてはワクワクしてしまうけど…エレクトレット式のものがもし現在量産されたならあり得なくもないことに思われるが、そもそもそんな“もし”があり得ないか 。


後記:
 金田氏がどこかでもっとはっきり変位型カートリッジを評価した発言をしていたような気がしていたのだが、ちょっと前のMJをめくっていて、たまたま1997.3月号の「スーパーサーキット講座No.15/CR型イコライザーの解析」で速度型カートリッジと変位型カートリッジにふれ、「光電型やコンデンサー型は原理的に優れた方式だが、特殊なアンプが必要なために、なかなか一般化しなかった。アンプ技術が進歩した今から考えるとぜひ復活させたい方式だ」と書いているのを見つけた。製作記事ではなくてこちらのほうだったか、と納得。もしコンデンサー型カートリッジ用DCプリアンプが発表されたら、この一般的でない方式のカートリッジもそこそこの数が売れそうな気がするのだけれど、STAXさんいかがですかね、限定数でもいいから出しませんか?


デメリット(弁護付き)

1(a).変調・復調におけるリニアリティ(高周波変調型)

 デメリットとして、RF変調型の場合、変調・復調という動作にリニアリティの不安がある点が指摘されているが、CP-Xの極めて付帯音の少ないしなやかな音を聴いたかぎりでは、変調・復調の電気回路系で発生する歪みは全然問題にならないように思う。振動系周辺の構造から来る信号変換の明快さのメリットがそれを上回っている感じだ。

 (b).片チャンネルの位相反転(エレクトレット型)

 東芝が出していたものやSTAXのCP-Yのようなエレクトレットコンデンサー型と呼ばれる方式では、左右で出力の位相が逆相になるため、片チャンネルの信号の位相をどこかで反転する必要がある。これは通常は専用イコライザーアンプの中で行われる。これはつまりイコライザーの増幅系の条件を左右同じに設計することが難しいということでもある。たとえば東芝の場合、イコライザーアンプに自社のオペアンプICを用いていたが、片チャンネルは正相入力、他チャンネルは反転入力として使っていた。が、CP-XのようなRF変調方式の場合は検波のスロープを逆に選ぶことで左右同相の信号が得られるため、アンプで片方を反転する必要はない。

 左右の条件の違いといえば、CP-Xで使っている高周波は、左約23MHz、右約17MHzと異なっている。近接するとビートが発生するのだろう。ゆえに、厳密には完全に左右同条件とは言えないが、これくらいの高周波になれば、レコードの周波数帯域からするとほとんど影響がないと言ってよいだろう。


 あと、実用上使い勝手の面で電磁型のように手軽にはいかない部分もある。

2.調整が必要

 まず、CP-Xを鳴らすにはラジオのチューニングのごとく(よりはメンドウ)PODを調整する必要があり、煩わしいということが挙げられる。もっとも、そうたいした手間でもなく、一度調整すれば後はそう頻繁にいじる必要もないので、これもこの音が得られるなら個人的にはまったく問題とならないし、マニアックにはむしろいじる楽しみが増える。エレクトレット型の場合はこんなことは必要ないが、それでも構造上左右の出力レベルにばらつきが出やすいので、そのバランスを取る必要はある。もちろん簡単なことであるが、いずれにしてもまったく無調整でも使えるMCやMMと同じようにはいかない。

3.機構的な特殊性

 CP-Xに関しては、専用のコネクタを備えたアームが必要であり、STAX 以外のアームでは使えないのは不便といえば不便だ。これまで市販されたエレクトレット型については通常のアームで使用できる。
 また、エレクトレット型でも同様だが、専用のイコライザーアンプが必要となる点も昔はデメリットとされた。もっとも最近はプリアンプにフォノEQが入っていない場合も多いし、電磁型でも単品のイコライザーアンプを使う人も多いので、このことを使い勝手の悪さと感じる人は少ないだろう。もちろんマランツ7をどうしても使いたいという人には、そのもっとも美味しい部分であろうあのk-k帰還のイコライザーが味わえないわけだから、コンデンサー型のメリットはなくなるが。

4.電波障害(高周波変調型)

 最後にもうひとつ経験談。室内アンテナのテレビがPODの電源を入れたら映らなくなることがあった。PODの発振器のラジエーションが電波を妨害するのだ。



 …というようなデメリットもあるにはあるが、メリットがこれらを補って余りある、というのがコンデンサー型カートリッジに対する私の判断である。

 実際にCP-Xの音を聴いてみると、実に自然でさわやか、繊細な音である。変に特定の帯域を誇張することもなく、低域から高域まで、みずみずしい表現で音楽を奏でてくれる。アコースティックなものの再生なら大得意、振動するものの物性がストレートに感じられるような音を再現する。ジャズやロックをがんがん鳴らしても案外イケる。造りが華奢で剛性感が不足気味とも言えるが、作られた時代を考えると致し方ないだろう。
 というようにコンデンサー型カートリッジの音は、(造り方にもよるだろうが)基本的には無色透明、無脚色を追求しやすい音と言えるだろう。カートリッジそのものに濃厚な味わいを求める聴き方には合わないだろうが、自然でリアルな音を求める人にとっては至上のものとなり得るものと思う(ストイック・オーディオ?)。

 というわけで、もっと後の時代の高性能カートリッジのほうが実際の物理特性では優れているのではありましょうが、心情的には「CP-X最高!」と叫んでしまいたいのであります。ま、単なる珍しモノ好き、エコヒイキ、話半分、ということで…(^^;。

(おしまい)