オールWE球使用真空管DCプリアンプ製作記


初めにケースありき

 私のところのプレーヤー周り、はっきり言って、狭い。狭いところに押し込めるべく、せっかくの金田式プレーヤーもショートアーム1本用の小さいボードだし、制御アンプのほうもプレーヤーの隣に置けるように横幅が小さく奥行き方向に長い形としている。余ったスペースはなく、アームの出力ケーブルもそう長さはない(短いに越したことはないけど)から、共に使うEQアンプもまたその制御アンプの上に置けるサイズという制限がある。こんな状況だと、人間的にも何かとこぢんまりしてしまいそうで哀しい(^^;。
 別項で紹介した通り、EQアンプにはメタルキャンTr仕様の電池式GOAプリを使ってきたが、コンパクトなケースに組み込んだのでサイズの点では不自由はなかった。しかし、いずれ新作のプリアンプを、と考えるとこの形体の制限はなかなか窮屈なのであった。

 いずれ作るであろう新プリのために、と買い置きしてあったのがタカチのケースOS88-26-23。通常の金田式流にサイドパネルを正面として使用すれば、稼働中のターンテーブル制御アンプと同じ23cm幅で奥行きのほうは少し短いことになり、これなら制御アンプの上に乗せて使えるというわけだ。高さ88mmは真空管DCプリと同じ。つまりタマを使えるように、なんである。
 とはいえこのケース、真空管DCプリの純正ケースOS88-20-33と較べると有効容積は小さい。AT-1を2つに切ったサイズの基板5枚を並べて配線するのはなかなか困難だ。というわけで、EQ段を真空管で構成しフラットアンプは半導体式にするか、あるいはEQが半導体でフラットアンプが真空管か…う〜ん、どっちも今ひとつではあるなぁ〜、テレフンケンの真空管も高いしなぁ〜、などと思い悩んで数年、ケースは机の下で埃をかぶっておりました、とさ。


そうだ、「WE球DCプリ・ローコスト版」で行こう!

 2002年はMJ誌の金田氏の記事が隔月掲載に戻ったメデタイ年になった。その年一番の2月号に初のAOC搭載プリとして発表されたNo.166はなんとオールWE球使用。ドングリみたいなちっこいMT管が並んでいる様はかわいらしいが、なかなかよい鳴りっぷり、らしい。
 使われている真空管をざっと見てすぐ思いついたのが、同等管の20Vヒーター版があったこと。このごろはひと頃ほどでもなくなりつつあるけれど、WEの20VヒーターのMT管は、店によってはまだずいぶんと安く売られている。テレフンケンもいいけれど、この20V管を使えばけっこうローコストに真空管DCプリアンプが作れそうだよん♪、しかも泣く子も黙るウエスタン!(子供はそんなんで泣きやまんだろ(^^;)。よ〜し、新作の球プリはこれに決定じゃ!

 方針が定まると錆びた頭もそれなりに回転し始めるもので、小さいケースサイズを克服してフルに真空管増幅段を組み込む方法も思いついた。ケースの構造も頭に浮かび、ひとりほくそ笑む私でありました、ヌーフッフッフッ…。



行動開始

 さっそく(ほんとは構想を練りながらちびちびパーツを集めてほぼ半年かかってる(^^;)主役たるWE408A,407Aを、いちばん安そうなショップを探して取り寄せた。
 届いたタマはみな真新しいライトブルーの鐘印箱(いわゆる“ベルマーク”箱ですね)に入っていた。中身を見ると…

 あらら、イナヅマ文字のロゴじゃないのね、ちょっとがっかり。
 ウエスタンの真空管は、年代の新しいものは紺色の稲妻文字箱でなくこの鐘印箱入りであるが、それも時代が進んで'70年代後半になると、管壁のWestern Electricのロゴもあの特徴的な“lightning logo”でなくなって普通のゴシック調の字体になる。趣がない(--)。
 ま、あんまり贅沢は言わないことにしよう、なにしろ安いからねえ。これ全部でも、テレフンケンのEF804Sならたぶん1本すら買えない値段なのだ。
 ところで、別のルートで1本だけ初期ロットの407Aを入手した。紺色の三極管印箱入りN.O.S.品である。ゲッターを飛ばす部位が棒状(いわゆる“角ゲッター”ですね)なのは同年代の他のWE球と同様。プレートにもつや消しのコーティングがある(新しいものは半ツヤ)。試しに冷えた状態でのヒーターのDCRを測ってみたら、新しいものは80〜86Ωだったがこの旧型管は55Ωと出た。どうやら造りが違うのみならず、ヒーターの材質も異なるようだ。音が違って当然と考えられるが、概して古いほうが音がよいことになっているので、全部この初期ロット球でそろえたらどうなるだろうかと興味津々である。


基板

 小さいケースに真空管DCプリアンプのすべての基板を収める方法とは。「そういえば、AT-1Wというのがあるじゃないの。あれを細長く2つに割れば、あのケースでもなんとか収められるんではないかい」ちゅうわけでありました。

 とりあえず、こうなりました。見慣れぬ水色のフィルムコンはATR用(詳細は後述(^^;)。裏側パーツとジャンパーは未配線。

 AT-1Wは今まで買ったことがなかったが、AT-1を2枚買うより少し安いのであった。最近の金田アンプでも管球式の場合のように細かく切って使うならこっちを買うほうが得かも。

 オリジナルで使用のWEの7pinソケットは入手できなかったので、通常の基盤用ソケットを使うのと、使う球のヒーター周りがオリジナルと異なり、さらにヒーター電源とフラットアンプ初段負電源を兼ねるという独自仕様のため、基板パターンは考え直さねばならないことになった。4mm方眼のトーシャファックス(って言っても判らん人も多いですかね(^^;)用の原稿用紙があったので、これで実物大の実体図を描いたら考えやすかった。5mm方眼のコクヨ「セクションパッド」でもできそうなのだが、実物大というのとそうでないのとでは頭の回転が全然違ってくる。私の頭の堅さのせい?


ケース構造

 アングルを使って基板を吊り下げる最近の金田式球プリの構造は、配線のしやすさからして是非採用したいところである。AT-1W縦切りの細長い基板を吊り下げるとなると、強度的に両端だけで支えるのでは不十分だ。したがって、中間にもアングルを追加しよう。+100Vレギュレーターはその2本に渡して配置する。非純正シャシーではあるが、金田式スピリットに則った形でできそうだ。
 アングルは入手の都合でタカチ製ではないが、オリジナル同様10mm×10mm,1.2mmtのものを使う。少しの違いに思えるが、1mmtだとちょっと頼りないのだった。アングルを保持するメタルサポートについて記事では50mmとあるが、吊り下げ用のサポートが15mmなのであれば、これはおそらく40mmの間違いだと思う。50mmでは真空管の頭が天井につかえて納まらない。

 金田オリジナルより天板の放熱穴は多くなった。奥行き方向に長いため、また見た目のバランスから穴の大きさを少し小さくした(6.5mmφ)ためだ。オリジナル106個、こちら156個、エッヘン(威張るところでもないか(^^;)。センターポンチを丁寧に打ち、あとはボール盤とひたすら仲良く…う〜、疲れた。

 底板のほうも、基板配置から写真のような塩梅である。なんだか穴が乱れているように見えるが、影が重なってそう見えるだけで、いちおうキレイに開いていますからね(^^;。あれ、ところでこれ、黒いですね。そうです、ケースは電源部とアンプ部の2つなのだけれど、片方を金田氏が常用している天板・底板だけがシルバーで後は黒の“BX”仕様にし、もう一方は全体が黒の“BB”仕様で購入したのだ。で、2台ぶんで黒とシルバー2枚ずつある天板・底板をスワップして、シルバーをそれぞれの天板に、黒を底板に使うことにしたというわけ。なんかそのほうが美的じゃん、と思ったんだけれど、考えてみるとべつに底板が黒でも外からは見えない。底板の加工穴のシルバー部分が気になるので、黒の模型用塗料で塗る手間が増えただけだった(これも考えてみると見えないんだが(爆))。


その他のパーツ

 基本的に「WE球プリを“安く”作れそう♪」ということで始めたこの計画、最高級パーツを惜しげもなく、という気分にはならない。というか、そもそも今回は出だしから“No.166モディファイ”前提なので、気分もおおらかにどんどん非指定パーツを採用してしまう(^^;。音に大いに関係ありそうなものもあまり関係なさそうなものもこの際まとめて挙げてみる。


 まず、カップリングコンデンサー。さすがにEQ素子のSEコンは他のもので代用したのではロクな音にならないだろうからあっちは素直に使ったが、カップリングのSE100000pFはなんとしても高価である。同じ値段でミニコンポが買えてしまうぞ、いらないけど(^^;。
 何か代わりは…せめて当座は「これでもまあいいか」くらいに思えるような、適当なコンデンサはないものか、ということで起用してみたのが、買い置いてあったEROのKP1832というフィルムコン。SteinMusicの代理店であるプラクトサウンドシステムが輸入販売しているもので、ゴロンとした見た目の割に容量は小さめの0.075uF/800V。

 EROのKP1832。円筒中央部にうっすらくびれがある。下の方眼は5mm角。

 800VはAC耐圧らしく、DCでは1200Vまで大丈夫のようだ。胴体中央部の僅かな“くびれ”の具合からして、いわゆる“ダブル・キャパ構造”で耐圧を稼いでいるもののようである。AUDYN CAPにもしばらく前に同様の構造の高耐圧品が上位品種として加わっている。私が買ったときの値段は確か1個390円ほどだったように記憶しているが、その後値上がりしたようだ。

 プラクトのHPにはスピーカーのネットワークに使って好結果が得られたというレポートが掲載されていたが、はたしてその実力は。
 ともかく音を確かめてみないと、ということで、我がカップリングコン素性判定器、メタルキャンTr電池式GOAプリの登場である。これまでカップリングにはSEコン以外受け付けなかったこのアンプでどんな結果が出るのやら。
 期待半分、ダメモト半分で交換試聴してみると、おんやまあ、聴けるわ、これ。SEより若干鳴りがよいというかユルいというか品がないというか、まあまあ明るい音色である。ハメを外しすぎるほどでもないし、最初からこの音ならそれほど不満もなく聴いていたのではないだろうか。ただ、SEとの比較だと、派手な音はハデに出すが奥ゆかしく鳴っている部分を描き分けきれないようなところもあるようだ。値段が50倍ほども違うSEコンと較べるのもどうかと思うが、さすがにSEなんか要らないじゃないか、ということにはならない。どことなく締まりのない感じを受けたり、SEではよく聞こえていたソースがちょっとつまらなく聞こえたりすることもある。しかし今までそれほどでもなかったソースが活き活きと聞こえるという場面もあって、値段を考えれば納得できる範囲に入っていると思う。そんなわけでカップリングは、SEを使うのは後の楽しみに取っておくことにして、とりあえずこれ付けとこっと(^^)。

 双信のポリカーボネートフィルムコンV2A丸型が製造終了となって以来、代替パーツとして使われているAUDYN CAPだが、その音にはなんとなく信頼感を持ちきれないでいる。金田氏が多用するのは、単に容量とサイズの関係が従来からの基板実装の流儀に適しているがゆえの妥協からではないのかと勘ぐってもみたり(^^;。
 別にEROファン(なんかエロ好きみたいに読めるな…(^^;)というわけではないのだけれど、今回はAOCのフィルタにも、AUDYN CAPではなくDACのレギュレーターに使ってみて悪くない印象であったEROのMKT1813を起用する。基板に乗る範囲でなるべく大きいサイズということで、ここでは3.3uFを選んだ。グリーンの被覆がカラフルで、アンプ内部の眺めも楽しくなりそう(^^)。
 手持ちの5個について、ミリボルトメーターを使って方向性を確認したが、どれも文字の向きの後方のリードが外側フォイルに繋がっているようだった。したがって文字の頭のほうに入力を繋げればよさそうだ。

 AOC基板。MKT1813の外装フィルムの緑とTM-7Pの青がなかなかカラフルで、目を楽しませてくれます(^^)。

 AOCの差動アンプの石は2SK117にした。もちろんこれは指定のうちではあるが。最初ジャンク箱から拾い出したK245を使おうと思ったのだが、Idssを測ってみたらなんと24mAもある。こんなに電流の流れる石だったのか。そういえば、これで半導体DCプリを作ったときオフセット調整のための抵抗値がえらく偏っていたんだよなあ。こんな石を1mAちょっとという動作点で使ったせいだったんだ。

 ATRのコンデンサー0.1uFについてもちょっと悩んだ。やっぱりAUDYNがどうもねえ…って、試してから考えてもいいんですがね。
 詳しい人に尋ねると「SEコンを使うと非常にクリアーな音になる」そうなのだけれど、それじゃローコストの趣旨に合わないし、なるべくオリジナルの基板上実装形態で使えるもののほうが望ましい。適当なサイズのフィルムコンとなると、やはり丸型V2Aか。でも僅かに高域が鈍り低域がだぶつくという情報もあって、是非ともというほどの気分でもない。
 ということでサイズ的にぴったりだった手持ちの日通工FPD型をとりあえず使ってみることに(先の写真の基板上の水色のフィルムコン)。これだとローコストという趣旨にはものすごく合致する(爆)。けどこのコンデンサー、かのコニサーが廉価版(といってもメチャ高価なんですが)のプリアンプを開発中に試用していたよう(広告の写真に写っていた)だから、そうそうバカにしたものでもないんではないか?、見た目はそれなりだが。
 なお、ATRの誤差アンプには手持ちの2SK146を使った。最初の頃はこれだったんだよね。生産終了でK170になってしまったわけで。ただし私の手持ちはGR。動作電流は小さいからBLじゃなくても大丈夫、だろう。


 +105Vレギュレーターは制御Trに2SA653、そして+100Vレギュレーターには秘蔵の2SA566を持ちだしてV2Aと組みあわせた。+105VのほうもV2Aを使ってみたくなるが、こちらは無負荷で電源を入れると入力電圧は140Vを超えるはずなので、V2Aでは耐圧超えすぎ。よってAUDYN CAPである。
 誤差アンプの球は404Aではなくて金田氏も記事で触れていた403B、アンプ本体側の+100Vのほうは20Vヒーターで揃えて408Aである。これらについても、現時点で7pinMT管使用のレギュレーターを金田氏は未発表なので、基板パターンは自己流。

 レギュレーター。上が電源部に内蔵する+105Vのもの、下がアンプ部内蔵の+100V出力。

 電源スイッチには、是枝氏が管球アンプ用に好適として紹介していたフジソクのものを使ってみる。小型の本体に太い操作レバーがアンバランスでちょっと愉快。操作感は節度がありながら軽快でよいのだが、主電源用途としては少し軽いかな、とも思えるので、いくぶん重くなる2回路タイプにした。取り付けナットは飾りナットではなくて6角タイプなのだが、メッキはなかなかきれいだ。

 給電コネクタにはねじロック式のDINコネクタを使ってみた。キャノンだとシャシー内部への出っ張りが大きいので使ってみた次第。なにしろハコが小さいもので。3pinと5pinの、パネル用プラグとプラグ型ソケットの組み合わせで感電対策。ご本家ドイツの製品でXLRよりむしろ高くついたのだが、届いたものを見ると、プラグ型ソケットのほうはパーツに不要な隙間があり、あまり賢く作られているようには思えなくてちょっとガッカリ。

 本体背面に取り付けたパネル用DINプラグ。シャシー内側への出っ張りはごく少ない。

 ボリウムは、指定のコスモスRV30YGでもクリアできるよう、ちゃんと空間は確保してアンプの内部構造を考えてあるのだが、ちょっと試しにアルプスの小っちゃいやつを付けてみる。
 スタックスSR-001のドライバを開けてみたらこれのスイッチ付きモデルが使われていたのだが、小さいくせにねっとりしっかりした回転感覚が好もしかった。コニシスのパワーアンプにも使われているようだ。なりこそ小さいが、まったくの安物というわけでもないと思う。

 アルプスの小型VR。シャフトは5mmほど切り詰めた。

 50kΩのAカーブなのだが、実のところ私のところで必要なゲインを考えると、たぶん20kΩで十分に思える。もし使いにくい場合は手持ちのヴァイオレットの20kΩ2連に交換するつもり。ところでそのヴァイオレットだけど、いつの間にか倒産してたんですね。ああ、いずれボリウムすら手に入らなくなる時代が来るのだろうか。急がねば。
 さて、実際つまみを付けて回してみると、これはスイッチ付きでないせいなのか思ったより回転が軽くて、フィーリングとしてはちょっとだけ当てが外れた感じ。はたして音は如何に?

 ところでそのボリウムを回すためのつまみだが、金田氏はMJ誌'98.6月号で「小さくて軽いほど音が伸びやかに拡がる」みたいな見解を表明している。
 その後、氏のプリのつまみは20mm径と思われる樹脂製になったが、それらしきものをパーツ店で探してみると、あれれ、同じ外見なのが2種類あるではないか。ひとつは内側が詰まっていてちょっと重い造りのしっかりしたもので裏にLEXの文字。もうひとつはたぶんサトーパーツ製と思われ、外見はまったく同じだが内側はガランドウで、確かに軽いことは軽いが造りのほうも成型が雑な感じで軽々しい。その店ではこれらを一緒くたにして同一の型番で販売していた(持ってみると同じ値段とは思えないのだが)。安いものなので2種類買ってきたが、袋から出して較べてみると、こうしたものはやはり少々重くても造りのいいほうを使いたくなりますねえ。触った感触も性能のうちだと思う。ホントに軽いほうがいいのか(^^;?
 
 パイロットランプのLEDであるが、今まで透明タイプのものをその辺で買ってきて使っていた。これは斜め方向からだと光が見えにくい。そこで今回は拡散タイプのものを探してきた。ほわっとした光りで見やすいが、OFFの状態でも白っぽく見えるのはいまひとつでもある。
 金田氏常用の5mmφは顔の小さいこのアンプにはちょっとデカすぎと思えるので、ここは同じスタンレーでも3mmφのものにした。もっとも私の場合、もっとフロントパネルが大きくてもだいたい3mmφを使いたくなってしまうのだけれど。ただし、3mmφのものをタカチの厚いパネルからちょっと飛び出すくらいの状態に装着するには、3.2mmφの穴を空けたうえで、挿入側だけさらに1mmほどの深さで3.5mmφに拡げる必要がある。ということで十分な長さのある5mmφのものより加工は少しだけメンドウだ。


 まだ他にもあると思うが、とりあえずこんなところ。あと、抵抗はもう気にせずどんどんニッコームで行っちゃってます。その他、使用した基板用ソケットについては「部品箱」のページを参照ください。


 こんな塩梅で、とりあえず本体のほうが形になりました(^^)。配線と電源部はまだこれから。




電源部

 ケースが小さめなのではあるけれど、420Aが使われなくなって簡素化された電源部ゆえ、このケースでちょうどよいくらいである。オリジナルのように412Aを中央に配置するのは無理だから、天板の放熱穴は端っこに寄ることになる。金田氏指定の加工だと放熱穴が少ないような気もちょっとするので、半分デザインのつもりで同心円状にもう一列小さい穴を開けた(が、放熱効果はたぶん気休め程度(^^;)。

 ±B電源のケミコンは412Aをいたわるべく、買い置きがあった1000uFでいったん組んでみる。金田氏も真空管パワーアンプの電圧増幅段の電源には1000uFを使っている。6C33Cハイブリッドパワーでは負側は470uFにまでスリム化された。そんなことからすると、プリのほうが相変わらず2200uFなのはどうしてもそれだけの容量が必要ということにも受け取れる。1000uFではリップルが残って使い物にならないのかもしれないが、とりあえず実験ということで。
 アース回路については、MJ'02.9月号の中澤氏の記事を参考に、ケミコンのところでブリッジをこさえてみた。そんな大電流でもないからたいした威力もないでしょうが、気分も大事だし(^^;。
 本体側へ供給するヒーター電源は11V巻線を倍電圧整流し、DC30Vほどを得る。これに本体側でレギュレーターをかませ、20Vに下げる。ひとまずは31DF2と4700uF×2でやってみるが、これも使用電流に対しては容量が小さめなので、いずれ22000uF×2を持ち込む必要に迫られるかもしれない。一応そのためのスペースの見当はつけておいてケース内配置を決めた。
 記事の回路図ではAC100Vにフューズが入っているが、金田氏自身は省いているようだ。私は心配性なので一応装備(^^;。外から交換できる筒型のホルダーではなく、簡単な内蔵型にした。このほうが接点が少なくなる。

 電源部の内部。この時点ではB電源のケミコンは1000uFだ。

 電源部内蔵の+105Vレギュレーターは、記事の定数では90Vほどの電圧しか得られなかった。誤差アンプに404Aの定数のまま403Bを使ったせいだ。得られた電圧と抵抗値の比率をしかるべく計算して、403Bのグリッド・アース間の適正な抵抗値を求めて入れ替えたところ+104.2Vが得られた。ちょっとだけ低いが問題ないだろう。+100Vレギュレーターのほうはこれより5V低い99Vくらいを出力するように設定すればよい。


ヒーター電源

 そもそもはローコスト狙いのWE20V管起用であるが、そのメリットは単に「安い」ことに尽きる訳ではない。オリジナルの396Aを使ったフラットアンプの出力段、実はけっこうヒーター・カソード間の耐圧がいっぱいいっぱいだ(下側ユニット。ただ、金田氏はヒーターアースを取っていないのかも 後記:記事の後の方に載っているアンプ部底面側からの写真をよく見ると、どうも+100Vレギュレーターのところでヒーターアースがなされているように見えますねぇ)。
 “規格ギリギリ使用”は金田式ではいつものことなのだけれど(^^;、大枚はたいて作ってある程度長く使いたいと思う者としては、もっと余裕があるに越したことはない。この396Aの20V管である407Aの場合、ヒーター・カソード間耐圧は120V。90Vしかない396Aより余裕があると言えるだろう。20Vの+側を接地して-20V点火とすればなおさら安心だろう。

 さて、では-20V電源をどうするか。これは電源トランスを特注するまでもなく、前述の通りオリジナルで使われている電源トランスのヒーター巻線の11Vを倍電圧整流しておいて、あとは適当なレギュレーターを入れれば問題ないだろう。それよりそうしてせっかく作った-20V電源なら、これをフラットアンプ初段の負側電源としても利用できるのではないだろうか。そうすれば定電流回路に耐圧と損失を気にしてD756を使用する必要はなくなり、C1400でもC984でも気に入ったものを使えるではないか(もっとも音に関しては、高電圧で動作させることのメリットというのもあるようですが)。

 というわけで、増幅部の電源も兼用するとなると、LM337Tあたりの3端子レギュレーターで済ますというのでは面白くない。ここはやはり気持ちとしてディスクリートで組みたいではありませんか。ま、私のごときヘナチョコが考えるディスクリートよりICのほうがはるかに信頼性は高いのですが、それはそれとして(^^;。
 必要とする電流は、408Aが5本ぶんで50mA×5、407Aが4本ぶんで(50mA ×2ユニット)×4の合計650mA、これにフラットアンプ初段のぶんが少しだけ加わる。やや大電流までカバーできるレギュレーターが必要だ。
 金田アンプの歴史の中でこのような条件に該当するレギュレーターといえば、私の知っている中では“いにしえ”のAB級20Wパワーアンプの出力段用くらいだ。ということで、たまたまそれが載っていた手持ちの古いMJを引っ張り出して覗いてみたりしたのだけれど、これはちょっとねえ…なんだかこのプリの風景には違和感があるなあ。もっとシンプルで美しく、必要にして十分な性能を発揮するレギュレーターが欲しいところ。

 いろいろ考えているうち、定電流回路+シャントレギュレーターというアイディアが浮かんだ。シャントレギュレーター(金田氏はシリーズレギュレーターに対比して“パラレルレギュレーター”と呼んでいる)は電流をドブに捨てるがごときレギュレーターということになるので、思想的にはあんまり金田式的ではないような気がするが、かつて球プリのEQ2段目の動作点安定化のために登場している(あれの場合は“浪費”にはあたりませんが)。それが進化したのが今のATRだ。もっとも「オーディオDCアンプシステム上巻」の理論編では、シャントレギュレーターの評価は辛かった。ただ、ヒーターのような電流変動のない部分に使うのだから、音質的なデメリットは現れないのではないかと考えられなくもない。
 そもそも真空管のヒーターの定電流点火をやってみたいという発想があった。冷間時、ヒーターのDCRはかなり低くなっているけれど、定電流点火なら電源を入れた瞬間に過分な電流が流れなくて済み、真空管の寿命に貢献するのではないか。バイパスされる余剰分の電流を少なめにしておけば、電源投入時にはほぼそのような効果が期待できるだろう。ただし、初期の電流が制限されるぶん真空管の立ち上がりが遅くなるかもしれない。電源部の整流管がヒートアップするより先に動作可能になってもらいたいところだが…。

 定電流回路そのものは金田アンプでは多用されているが、ここで必要な比較的大電流のものは登場したことがないと思う。基本的には“電圧が一定に固定された電流路”に適当な抵抗を入れてオームの法則で所要の電流を得るわけだが、電流値が大きくなるとその抵抗の損失も気にせねばならない。なるべく低めの電圧のところに小さい抵抗値の組み合わせで済ませたいところ。トランジスタのB-E間電圧約0.6Vのところに0.82Ωを入れれば約730mAが得られるはずだが、これがいちばんよい方法に思える。電流制御の石は、最近品種豊富な大電流タイプのMOS-FETを使ってみることにしよう。手持ちにTO-220タイプの2SK2205というのがあるのだが、この用途にちょうどよさそうだ。

 ということで、ひとまず回路を考えてみた(というほどのこともなくて、シロウトがただ単に知識のツギハギをやってるだけです(^^;)。




 Tr2のB-E間の0.82Ω両端が約0.6Vとなるような電流をTr3が流すように働く。この辺りが定電流回路。金田式ではこの形式の定電流回路の採用例はこれまでなかったと思うが、この石はUHC系のMOS-FETだし、負荷が大きいときは耐圧がいっぱいいっぱい(30V)の使い方になるというあたりなどはなかなか金田式的なんじゃあないかと…(爆)。あとは申し訳にA726なんかも使ってみたりして、なるべくDCアンプの景色に溶け込ませることにしよう。
 Tr4,Tr6のシャント型定電圧部で浪費される電流は80mAくらいの設定のつもりであるが、407A,408Aのヒーターの冷間時DCRは1ユニット当たり平均82Ωほどのようだ。13ユニットぶんがパラになるのでおよそ6.3Ωとなる。これに730mAを流したとすると、電圧は4.6Vにしかならない。暖まるにしたがって抵抗値が増え電圧も上がってくる(20Vになったところでシャントレギュレーターが動作し始めて余剰電流をバイパスし、電圧を一定に保つ)はずであるが、20Vヒーターに対して初期にこれだけしか電圧がかからないとなると、はたして412Aが目覚めて±B電圧が加わる頃までにアンプ部の球が動作可能な状態になってくれているのかどうかいささか心配。浪費電流をもっと増やせば立ち上がりは早くなるだろうが、それで球の寿命が縮んだら何やってんだということになる。ま、とりあえず作ってみて、ですね。

 例によってトーシャファックス原稿用紙でパターンを考え、基板を作ってみた(10穴×9穴のAT-1の端切れを利用)。なにしろ動作は未確認なので、いきなり本番というわけにはいかない。まずは実験である。


 ひとまずこしらえたヒーター用レギュレーター基板。2SK2205と2SC2336はリード線を引いてアンプ側板に取り付ける。

 動作時の電流を考えると、負荷はおよそ30Ωほどになる。これに20Vだから損失は13Wくらい。実験に本当のヒーターを繋ぐのも気が引けるので、何か適当な抵抗はないかと探したら、昔6B4Gシングルアンプを作ったときハムバランサーに使った100Ωの巻線型VRが出てきた。10Wくらいのものだろうと思うが、短時間なら大丈夫だろう、と、これを30Ωに調節して負荷にしてみた。

 通電すると…ありゃ?-20V、出てないよ。

 -16Vちょっとしか出ない。つまり電流が足りていない。調べてみると、なんとTr2のC1775のB-E間が0.5Vしかない。ここが0.6Vという前提で必要な定電流を得る設計なので、これでは当然電流不足になる。0.82Ωをもっと小さい値に換えねばならんか、と思いつつも、ひとまずは負荷を50Ωくらいにして所要電流を減らし(巻線VRで正解だった)、シャントレギュレーターが動作する領域に持っていってみた。ちゃんと-20Vが得られ、シャントの石に200mAほどが流れ、巻線VRはアッチッチ!、そのうち敷いていた紙が焦げてきた。どうやら設計より電流は少ないものの、一応動作しているようだ。電流値さえ調整すれば使えそう。
 ひとまず安心して、念のため入力と出力の波形をオシロで確認した。そしたら、ありゃ、なんたることか、どちらの波形も線じゃなくて帯状…これ、発振だろ?(--;;;。




右往左往(^^;

 -20Vレギュレーターがちゃんと動作してくれないと計画はオジャンである(焦)。時間軸を拡大してみると、MHzオーダーの振動が入・出力ともに見られる。これは定電流部の発振なのではないだろうか。このくらいの周波数だと電源のインピーダンスもけっこう高いはずだから、入力側にも高周波が乗っかってしまうのだろう。
 とりあえずK2205のゲートに100Ωを入れてみたが、波形が微妙にすっきり(?)するだけで、効果は認められない。シンプルな動作の回路、のつもりだったのだが、これでは使えない。なかなかスムーズに事は運ばないものだ。トホホ、である。やはり石の回路はシロウトには荷が重いですぅ〜(;_;)。

 しばらく頭を冷やして、というか、暑いさなかのことだったので涼しい日を待って善後策の検討に入る。発振対策のほうはいい考えも浮かばないまま、まず抵抗値0.82Ωをそのままに所要の電流を得ることができるのではないかとC1775をC1844に交換してみた。これはかの別府氏がよく使う石だが、B-E間電圧はやや大きめだったはずだ。C1775で0.5Vくらいになってしまうのなら、これだと0.6Vほど出るんではないか。
 動作確認してみると、思惑通りC1844のB-E間は0.6V強となったではないか。すなわちこれで所要の電流が流れたということだ。ところがこれにおまけがついた。なんと、発振のほうまで治まってしまったのだ。K2205のゲートに抵抗は入っていない。出力はデジタルテスターの表示で-19.9Vが得られている。ヤッター♪、これで使える(音は判らんが…)。

 ヒーター電源の整流波形(AC成分)。直線はレギュレーターの出力波形。ともに縦軸は一目盛りが1V。

 それにしても、この真っ平らの出力。この形式のレギュレーターの場合、定電流部のインピーダンスとシャント部のインピーダンスの比がおよそそのままリップル抑圧比となるはずである(とは私のシロウト考えで、違っていたらゴメンナサイ(^^;)。シミュレーションでもリップル抑圧比がおよそ1000くらいはありそうな結果が得られていたのだが、実際に波形を見ると「オシロの片チャンネルが壊れてるんじゃ?」と思えてしまう。プローブを入れ替えてみたら、ちゃんと動作していることが判って安心した(と、ここでは思えたのだが、更なる七転八倒劇が待っていようとは(^^;)。
 しかし出力にコンデンサがまったく入らないというのもなんだかなあ…と思ってまたV2Aを入れてみたが、C1775のときのような発振には至らないものの、ときどき入力波形がピクピク上下する。出力の変動はまったく認められないのだが、まだちょっと不安定になるようだ(この時点でまだ異常に気づいていない(^^;)。ならば、とV2Aはやめてひとまず最近たまたま他の用途で買って余っていたRIFAのチューブラー型電解25V100uFを付けてみた。この容量なら大丈夫かと思ったが、事情は変わらないようだ。まあ出力は真っ平らだからいいか(なんてことではホントはいけません、後で解る)。
 というわけで、無事-20V電源が確保できたので、とりあえずフラットアンプの初段定電流回路の石はC1400で大丈夫だ。C984は後の楽しみ(ネタ)に取っときますね(^^;。

 -20Vレギュレーターをおおかたの配線が済んだアンプ本体に組み込んで、実際に球を点火してみた。規定の-20Vになるまでに思いのほか時間はかからないことがわかった。電源を入れた直後は概ね計算通り-4.5Vが出るが、せいぜい5秒程度で-20Vに達する。ヒーターというのは電流が流れ始めるとじきに抵抗値が増すようにできているらしい。整流管より立ち上がりが遅れたらイヤだな、という心配はまったく杞憂だった。412Aが目を覚ますまでにははるかに時間がかかる。
 K2205の損失は5.5Wほど。単独ではけっこう発熱するが、アンプの側板に取り付けると触っても全然平気な程度。ヒーターそのものは全部で13Wなので、ヒーター関係だけで合わせて18.5Wになる。これにプレート損失も合わせるとアンプ全体でだいたい20Wの電球くらいの発熱はしていそうだが、ケースは電球よりだいぶ大きいので大丈夫だろう。


調整する

 大方の配線を終え、調整に入る。まずヒーターと+100Vレギュレーターまで接続。レギュレーターの電圧調整である。こちらもやはりあらかじめ付けておいた抵抗は404A用の定数だから、出力電圧はぜんぜん低かった。抵抗を付け替えてめでたく+98.9V。
 次にEQ部まで接続。ATRはうまく動作しているようだ。出力の電位は60.3Vと59.2V。球を入れ替えてもほとんど変化はない。
 そしていよいよフラットアンプにも電源を供給する。オフセットが異常なほど出ていないことだけ確かめて終段のアイドリングの仮調整を先にした。フラットアンプの終段の電流値は初段の定電流回路に500Ωの半固定VRを入れて調整するが、少し回しただけでもかなり電流値が変化する。記事では5〜7mAに設定することになっており、けっこう幅があるなあと思っていたのだが、値の近い固定抵抗に入れ替えるとするとE24系列ではこのくらいの幅になってしまうのも納得できる。上下のユニットの電流のバランスを考えると(下側のユニットは上側ユニットのドライブ電流のぶんだけ多く流れる)電流が多いほうがよいはずだが、そのぶん球の温度も上がるので、やはりほどほどにしておきたい気分。このアンプでは両チャンネルとも82Ωで5mA強となった。
 さて、出力のオフセットなのだが、これが困った。AOCは確かに効果大で、ドリフトの幅は小さく押さえ込まれるようだ。しかしなかなかどうも0Vが調整範囲に入ってこないのである。
 オフセットは球によって+に出たり−に出たりする。基板の構成上、初段に使うと+に出る球を終段に入れると−に出ることになるが、終段のほうが影響は小さい。球を入れ替えて相性の良い組み合わせを見つけ、片chだけどうにか0Vに合わせることができたが、もう片方は+60mV止まりだった。AOCのVRに更に抵抗を入れて調整できるはずではあるが、それだったら最初からこのVRは500Ωくらいにしておくべきのようにも思えるが…金田氏の記事では楽に調整できて、いったん調整した後は球を入れ替えてもあまりオフセットは変化しない、ということだったんだけどなあ…K117ではAOCの効果が劣るのか、それともたまたま私が入手した407Aがハズレだったのか、はたまた本質的にどこかおかしいのか…。


驚きのチョイ聴き

 オフセットは追い込み切れなかったが一応動作可能となったので、チェックもそこそこにひとまずメインシステムに繋いでみる。大事を取って直接パワーアンプには繋がず、セレクター&ボリウムBOXの入力にした。
 あ〜、かなりハムが出てますね。いや、「ぶ〜ん」よりは「びぃ〜」に近いからバズというのが適当か。電源のリップルもあるのだろうが、これはどうも誘導っぽいタチの音だ。ミュートのON・OFFではほとんど変わらないからフラットアンプのノイズである。右chのほうが大きい。AOCのフィルタのフィルムコンがノイズを拾ってAOCの動作にも影響を及ぼしていたという例も聞くので、もしかしたらこれが解決すればオフセットの問題も改善するのかもしれない。対策はおいおい考えていくことにして、ともあれレコードを聞いてみよう。

(愛聴盤をセット…)

  ♪〜

 ぅわ、い、イイ!

 こりゃ確かにいい音ですわ…(°°;。常用のメタルキャンGOAプリ改と似たような傾向で私の耳に馴染む音なのだけれど、より明るくコントラストが豊かな上に、空間の拡がりもより大きく聞こえる。「デリケートで情緒に富む表現のテレフンケン」に対して「力感に秀で鳴りのよいウエスタン」という図式で捉えていたものだから、どちらかというと私の好みにはテレフンケンのほうが合うのかなと思っていたのだが、どうしてこれは十分以上に繊細な表情だ。確かに明るい鳴りのよさは感じるけれど、にぎやかな感じや突っ張った感じのない気品ある音。私には力感よりは音の美しさが際立って聞こえる。「デリケート」「情緒に溢れ」の表現は十分そのまま当てはまりそうだ。ずいぶんノイズが混じっているにもかかわらず、静けさを感じさせるのが不思議。球もケミコンもまっさらの段階でこれなら、エージングが進めばいっそうしなやかな音になるに違いない。
 正直言って、常用のメタルキャンGOAプリが既に非常に気に入った音に進化しているので、球プリの音のよさには少し懐疑的なところも無きにしもあらずだったのだが、うぅ〜、これはなんとしても早くノイズを退治しなくては。




タタカイだ…

 あれこれチェックをしてまず判ったのは、どうやら健康な低周波増幅器の振る舞いをしていないらしい、ということ(当たり前か(^^;)。たとえばオシロのプローブのアースクリップを基板のアースラインに繋ぐとノイズが激減。ボリウムボックスに繋いだ状態でボリウムボックスのほうのボリウムを回していくと、最大に近いところでやはり突然ノイズが激減。球を指でコツコツやったりすると、バツ、バツとノイズが出るが、それが単なるマイクロフォニックノイズの音ではない。そうだよ、この種の音はSTAXのRF変調型コンデンサーカートリッジの発振検波ユニットをいじっているとき聞いたぞ…あ、ひょっとして基板パターンを高周波が駆け巡っているということか?…(--;。

 どうにか目論見通りに動作したと思われた-20Vレギュレーターだったが、再度チェックしてみると実は超高域で発振しているらしかった。オシロで見る出力は低解像度では見事に真っ平らなのだが、解像度を上げていくと輝線がカスミとなって完全に消えてしまうのだ。なにぶんシロウトゆえ要領を得ないが、これはオシロの解像度を超える領域の振動成分を含んでいると考えるのが妥当と思われる。
 というわけで、再びレギュレーターと格闘することに。まず出力に入れた100uFを外して2700pFにしてみると、ありゃ、今度は高解像度で帯が見える。入力のブレはないから、この場合はシャントレギュレーターのほうの発振っぽい。どうも定電流部とシャント部の双方ともが不安定要素を抱えている感じだ。
 再度K2205のゲートに抵抗を入れてみる。ちょっと値を増して330Ωにした。シャント部も怪しいのでC2336のベースにも56Ω。出力のコンデンサは容量が大きくても小さくてもまったく無しにしても何かしら問題がありそうなので、いちおう付けることにして今度はジャンク箱にあった220uFにしてみた。さあどうだ。う〜ん、ダメ。発振のパターンが変わるだけだ。今度は高周波が乗っかっているのがちゃんとオシロで見える。しかもそれがもっと低い周波数でうねっていたりする。
 だったらあれはどうだ、それともこれは、・・・・・・・・

 かようなジタバタをつぶさに報告していてもしょうがないので詳細は省略。思いつくことを片っ端から試して1週間ほど過ぎただろうか、なんとか解決法を見出すことができた、ふぅ〜(^ε^;ゞ。きちんと電子工学の勉強をした人だったらこんなに苦労はしないんでしょうがねえ(~~;。結局こうなりました。

 対策後の-20Vレギュレーター回路図。赤文字が追加・変更パーツだが、有りあわせを使っているだけで定数が最適値かどうかはもとより、そもそも的を射た対策であるかどうか自体保証の限りではありません(^^;。入り口の10uFはちょっと昔のタンタル電解、39pFと120pFはディップマイカ。

 これでオシロの解像度を縦軸・横軸とも最大にしても、滲みはするが輝線がちゃんと見えるようになった。滲むのがもうひとつ気になるが、これはまだ少し高周波成分が残っているのかもしれないし、単なる外来雑音のせいかもしれない(レギュレーターの電源を切っても高周波ノイズらしき波形が観測される)。このボロオシロだけでは判別不能なのでこれ以上追及しようがないのだ、と言い訳して、このあたりでもうお開きにしたい(^^;。

 整流直後のリップル分はおよそピークで2Vくらい。このレギュレーターを通すとそれが約2mVになるのは、ほぼシミュレーション通りの結果である。整流後のフィルタの容量をもっと増やせばもう少し減るだろう。

 アンプ側板に実装した状態の-20Vレギュレーター。左のTO-220の石がK2205、右は太古の灰色パッケージC2336B。

 さて、改造成ったレギュレーターの効果は…と、再度聴いてみるが、あらら、まだハムが出る、ちょっと前とは質は変わったけど。今度のは単純な誘導性ハムらしき音だが、はて…。

 こういうことなら、一番疑わしいのはグラウンドラインの引き回しだろう。いや、実を言うと最初から「ちょっとまずいかも」の予感はあったのでした(^^;。

 右はグラウンドラインの見取り図(のつもり)。この私のアンプの場合、OVラインには高圧系電源のほうとヒーター/FA初段負電源のほうの2つの系統がある。これらがどこかで合流しなければならないのだが、信号の通り道とヒーター電流の流路が重なり合うのは避けたいという気持ちが働いて、ループになるのを解っていながら図の黒線のように配線していたのだ。
 あくまでも±B電源系のほうが幹であって、ヒーター系はそれに横からぶら下がっているのだ、というふうに解釈したかった。

 しかし考えてみるとヒーター系のほうがはるかに大電流を扱っているわけで、やはりどう考えてもエネルギー的にはこちらが幹であると見るほうが自然である。いかに理屈をつけようとも、実際の物理現象がそれに合わせてくれるわけではない。お粗末(^^;。
 というわけで、×印の配線をやめて、赤の点線のように配線し直した。ま、確かにこのほうがスッキリして見えるわね(^^;。

 配線修正中さらに、カップリングコンデンサの直後、つまりフラットアンプ入り口の部分に接してヒーター配線が走っているのに気づき、これを少し遠ざけた。基板配置の関係で、フラットアンプ部周辺で配線が立て込んでしまったのだ。ヒーター系の配線は、レギュレーターでリップルは押さえ込んであるとはいえ、扱う電流が大きいためハムを引いてしまう可能性も高そう。インピーダンスの高い部分の近くで引き回す際には注意が必要だ。

 さあ、これだけの対策の結果、ついに誘導性のノイズはすっかり消えてしまいましたよ〜(^^)。AOCのフィルタコンデンサーをシールドするのが有効、との情報もWebで報告されているが、私のはもはやその必要はないようだ。
 厳密に言うと、実はまだハムが出る場合がある。ミュートのONでボリウムを上げると、ぶーんと聞こえる。基板配置の関係でスイッチへの配線がけっこう長く、しかも周りに他の配線がひしめいているせいなのではないだろうか。2511などの低容量のシールド線でも使ってみることなども考えたが、ミュートをかけてボリウムを上げるという操作が必要な場面など実際にはないので、実用的にはほっといて問題ないな、と…。

 試しにオリジナル機の半分以下の1000uFとしてみた±B電源のケミコンだが、これで特に不都合はないようだ。聴感上リップルが気になるということは全然ない。2200uFにしないでこのまま使っていってもよさそう。ボリウムを上げると散弾性の「ザ〜」というノイズが聞こえるが、メタルキャンの電池プリと較べても似たようなレベルである。球の場合はその中の「ボ〜」という低音成分が少しよけいに混ざっている感じなのだが、リップルは更にその奥のほうでひかえめに呟いているだけだ。同程度のゲイン設定で比較したノイズの総量は電池式メタルキャンプリと同等と言ってよいと思う。

 EQ段の408Aはシールドがないので、さすがに球に手を近づけると盛大に「ぶわ〜ん」とハムが出る。まるで敵機襲来!の気分だが(プロペラ機ね)、金田氏の記事の通り天板を閉じればまったく大丈夫だ。
 マイクロフォニックノイズも想像していたほどではなかった。指で管壁のガラスをはじいても、スピーカーから聞こえるのは「ゴツ、ゴツ」という感じの音で、変に尾を引かない。データーシートではマイクロフォニックノイズは考慮されていないような書き方がされていたが、EF86のようなシールド電極を持たないぶん却って余分な振動の要素が少ないのかもしれない。アンプケースを叩きながらスピーカーに耳を寄せれば、微かにグリッドの鳴きと思われる「チリン、チリン」という音が聞こえるが、通常のリスニングでこれが聞こえることなどあり得ないだろう。ただし、408Aは固体によって振動などないのにボリウムを目一杯上げるとスピーカーからチリチリが聞こえるのがある。電極が熱膨張して音が出ているのだろうか。電気的特性はちゃんと正常値が出ているのだろうが、こんなのはチューブテスターでは検出されないから、良心的なショップで買う場合でも、やはり多めに買って選別するのが無難と思う。エージングが進めば解消する可能性もあるが。
 マイクロフォニックノイズということならむしろフラットアンプ初段の407Aのほうが影響が大きいかもしれない。こちらをはじくとスピーカーから「キーン」とか「シン」とかいう残響が聞こえるが、再生音にまとわりつく性質の音という臭いがちょっとする。

 ノイズがある場合、その波形によってはAOC入力部の時定数の大きなフィルタにDCが蓄積されて、オフセットの原因となることもありそうな気がする。あらかたノイズがなくなったようなので、再度オフセットを調整しなおそうと球の差し替えを試みていたら、そのうち407Aの1本が灯らなくなってしまった。もちろん電源は切って十分な時間を置きながらやっていたのだが。

 問題の407Aは、テスターでヒーターを当たってみるとちゃんと導通はあるのに、なぜか通電しても灯らない。初めはソケット周りの異常かと思ったが、やはり球自体の不良であることが判った。子細に眺めてみると管壁のガラス内側にうっすら白いモヤが付着している。以前にも数年使ったGZ37がこんな状態になったのを経験している。ヒーターが、切れてはいないのに機能しなくなる。なんで?…ぜひ識者のご教示をお願い申し上げますm(. .)m。
 というわけで今ひとつ統一感には欠けるのだが、4本の407Aのうち1本だけ'50年代のold球を挿してようやく実用に供することができる状態になった。


小団円(「本機の音」です(^^;)

 さて、前に音がよかったのは実は発振のせいだった、なんてことだったら情けねぇーよなあ、などと思いつつ、恐る恐る試聴する。

 ハハハ、そんなことないですね、やっぱりこりゃあイイ音だよォ〜(^^)。
 「本機は実に芯の強い、底力のある、充実感にみなぎる音がする。演奏の強烈な直撃を受ける感覚だ」というのが金田氏自身のNo.166評だった。しかし私のこれはなんだか全然違うんじゃないのか?という気がする。金田アンプの音ではない、ということか?(^^;。
 もともとそんなソリッドな低域は望めない300Bシングルアンプと組みあわせての試聴ゆえ、そのぶんは差し引いて考える必要があるかもしれないが、芯のある力強い音というよりはもっと上品な印象。それでいて躍動感や明るさなど、聞き手に訴えてくるところはそれなりにWEっぽい。何もつっかえるものがなく、スッと音が出る感じ。しなやかで瑞々しい表情、しかも情報量だって石に負けていない、というかむしろ優っていそう。今まで聞こえていなかった音が聞こえる!楽器の微妙なニュアンスまで、妙な強調感などなしに、より鮮やかに描き分けてくれる。いままでなんとなく聞き流していた英語の歌なんかも、舌の動きが見えるように発音がいっそう明瞭に聞き分けられるので、あっ、そういうことを歌っていたのか、と意味が解ったり。やはりもう電池電源GOAプリは過去のアンプか…(^^;。

 ホンモノのNo.166を聴いたことはないけれど、あちらはフラットアンプ初段の定電流回路が耐圧いっぱいで動作していることがひょっとしたら音の違いになっているかもしれない。いや、考えてみればそれ以前にパーツ自体多分に異なるからな〜(^^;。タマにしたって、310Aと348Aはヒーター電圧だけ異なる同等管だけれど、音質は違うと言われている。403A,Bや396Aと408A,407Aの音に違いがあって不思議はない。進とニッコームの音の違いもあるだろう。特にATRのコンデンサなんて低域の力感に影響していそうだ。

 しかしそれにしても系全体としてゲインが高いですね。私の300Bシングルは入力にアッテネーターを入れてだいたいゲインが20dBくらいになっている(つまり最近の金田式パワーアンプと同じくらい)のだけれど、これに直結するとボリウム最小の状態でも、普段聴いているのに近いくらいの音量が出ている。私はどちらかというと小音量派ですが、それを差し引いてもかなり高ゲインだと思う。小さめの部屋で高能率のホーンシステムを使っていたりするととんでもない音量になってしまうんではないだろうか。パワーアンプのアッテネーターの減衰量をもっと多くして直結で使うことも考えられるが、他の機器との兼ね合いもある。イマイチ面白くないのだけれど、やはり当面ボリウムボックス経由で運用するとしよう。

 完成したアンプ部。出力ケーブルは、配線とカップリングコンデンサーがけっこう邪魔で2497が使いづらく、久々に2510の登場となった。



 タッチのよい電源スイッチを入れると、まずヒーターのパイロットランプが灯る。本体側のそれは、ヒーター電圧が上がってくるのに伴い光が増す。しばらくすると、±B電源のパイロットランプにも柔らかく光が訪れる。得られる音のことを思いながら、これらのプロセスを眺めるのは楽しい。
 ほっと一息ついて、レコードを楽しむ。心地よい響き。が、例によってでき上がってしまった一抹の寂しさ。試行錯誤の日々が懐かしくもある。

 カップリングがSEでないことを忘れそうになるが、こちらが常用プリに昇格するのはもう間違いないので、そのうち電池プリに使っていたSEを移植することになるだろう。
 他にも、-20V電源やB電源のケミコンの容量アップが考えられる。真空管の年代が極端に不揃いになってしまったから、旧いタイプのもので揃えるのも面白そうだ。ヒーター電源の整流にSBDを試すのもいいかもしれない。
 そんなふうに、まだ先がありそうなので、ひとまずは大団円ならぬ小団円ということで(^^;。