真空管DCプリアンプその後


完成、ほどなく改造(^^;;

 非常にステキな音を聞かせてくれることが判ったWE球DCプリ。こんなにイイならパーツももっと奢ってやらにゃあ、というわけで、出来上がった早々ではあるが、より深みのある表現力を得るべく改造に取りかかる強欲な私でありました。まー、予定がちょっと早まったか、くらいのことではありますが(^^;。

 まず手を付けたのはATRのフィルムコンデンサ0.1uF。POD-XEのカップリングに使っていた丸型V2Aを外して移植した。基板のこのスペースに適したフィルムコンで食指の動くものが他になく、といって手持ちに遊んでいるV2Aはもうなかったのだ。なんで最初からそうしなかったのかというと、PODをバラすのはけっこう面倒くさいからである。ドライバーだけでは分解出来ず、ハンダづけをところどころ外してやらねばならない。プリを作っている段階では、あまり気の進まない仕事だったというわけ(^^;。
 で、音はやっぱり変わりますね〜。日通工FPDのさっぱり味と較べると、中高域の艶が増した感じ。弦楽器の表現にいっそうの瑞々しさが加わった。低域がユルくなるということもなかった。SEコンを使った場合と比較したならそういうことも感じられるのかもしれないが、これだけ聞いているぶんには違和感はない。まずは成功(^^)。

 次はカップリングコンデンサー。既に予告したとおり、SEの47000pFに付け替えた。カップリングの時定数をオリジナル機に近づけるべく、受けのグリッド抵抗は750kΩだったのを1MΩに。進RE55は820kΩ止まりだった(以前は1MΩがあったが2倍サイズだった)が、ニッコームには通常サイズでこの値があるのがありがたい。WE407Aのデータシートでは、固定バイアス時のグリッド抵抗の上限が1MΩ、自己バイアスでは2MΩとなっている。差動アンプの動作では自己バイアスの場合に準ずると考えてよさそうだから、余裕のない値ではないだろう。
 EQ出力からSEコンまでの配線には手元にあったモガミ2520の外側導線を使ってみたが、これはモノラルDC球プリの真似です(^^;。基板がつながっているので2497を使う必要はなさそうだし、それにアースが変にループになるし、というわけで単にホット側だけ引っ張ったのだが、ダイエイ電線じゃなんとなくつまらんような気がしたもので。
 音は…う〜ん、やっぱりSEは違う!! KP1832でもそこそこイケてるじゃん、と思っていたが、この音を聞いたらもう元には戻れませーん。情報量が全然違う。KP1832には信号伝達にロスがあるのがはっきり感じられてしまう。実は、球プリの場合は球の音がトータルの音色を支配して、石プリほどカップリングコンを選ばないんじゃないか、と思っていたのだけれど。

 そしてもうひとつすっきりしていなかったのがオフセット問題。DCアンプ界ではおなじみのM-NAOさんから、AOCの効きについてアドバイスをいただいた。具体的には、K117(BL)をK170かK147に換えてみるのが吉、と(^^)。金田氏はK97を使い、ペア特性の点ではK117を選別して使うのもお勧めであるような書き方をしておられた。が、どうも実際には同程度の動作点で使った場合、K117はK97よりも|Yfs|が小さめであるようだ。

 というわけで、ありがたく背中を押されて、どうせならこの際行けるところまで行ってしまえー、とばかりにK146BLを持ち出しましたよ。
 はたして、効果は覿面(変換したら出てきたけど、そうか、「てきめん」ってこういう字だったのか(^^;)。オフセット調整は容易になり、ドリフトの変動幅もぐっと少なくなったようだ。CissやCrssの大きさは問題にならず、|Yfs|が大きいことの優位性だけが生きてくるこのAOC、K146・147の使い道としてはベストですね。
 ただ、やはり407Aのユニット間の特性のバラつきはやや大きめであるという印象があるのは否めない。AOCがパワーアップしても、初段にはよく特性が揃っているものを持ってくるのに越したことはないだろう。

 と、ここまでは概ね期待通り、予想通りの結果でした(^^)。が…


電源のケミコンも…

 ひとまず1000uFにとどめておいた±B電源のケミコンだが、この容量で特に不都合は感じられないものの、オリジナルNo.166指定の2200uFの音が気になるのは否定できない。かよわい整流管にあえてかかる大容量を組み合わせるからには、やはりそれなりの理由がありそうな気がするではないか(実は単なる例の“アンラーニング”の賜物?(^^;)。既にKMH160V2200uFは取り寄せてあるので、WE412Aには「ゴメンよォ〜(^^;」と念じつつ、実装済みの1000uFをこれと交換してみた。

 正直言うと「ほとんど違わないのではないか」と思っていたが、実際のところそのとおりだった(^^;。ただし、「まったく違わない」わけではなくて、やはり微妙に音が、というか鳴り方が変わった感じがする。容量が大きいぶん、豊かさと言おうか、余裕のようなものが加わったような印象だ。終段がSEPPゆえ信号電流が電源のケミコンに流れるわけだから、結果としては納得できる。実用上のS/N比に改善はないと言ってよいが、ミュートをかけてボリウムを最大にしたときに左chから僅かに聞こえていた誘導性のノイズが小さくなった。単純に電源のリップルが減ったと解釈してよいだろう(ま、ちゃんとリップル分を計測してみればいいんですが、しとりませんので(^^;)。
 そういうわけで、「ほとんど違わない」のだけれど、じゃあどっちにする?ということになると「こっち」。聴いてしまうとやはり…ねえ(^^;。412Aには非道な主人だ。けどとりあえず大丈夫みたい(ということにしとこう)。

 さて、こうなるとヒーター兼FA初段負電源のケミコン、ELNAデュオレックスII4700uF×2の貧弱さも気になってきた。だいたい750mAくらいの消費電流のところなのだけれど、容量はもっと欲しい気がするし、小型のリード線タイプという形体も頼りない。
 いずれはここもKMHの16V22000uFかなあ、とは思っていたが、日ケミのネジ端子SME50V6800uFが数個死蔵してあったのを思い出した。DACの電源に使おうと思って買ってあったのだったっけか。
 耐圧にちょっと余裕がありすぎだが、とりあえず試しに交換してみることにした。外したデュオレックスと並べてみると、さすがに見た目の信頼感には歴然とした差がありますなぁ〜。

 容量は4割5分増しに過ぎないから、リップルフィルタとしての効果の点ではさほどの向上は期待できないだろう。ヒーター電源としてはほとんど音質上のメリットが現れるところまで行かないのではないか。また、FA初段負電源ということに関しても、電流を供給しているのがそもそも電源電圧が変動しても動作にほとんど影響を受けないはずの定電流回路なのだし、おまけに間にはリップル抑圧比1000倍のレギュレーターが入っている。音質向上にはさしたる効果はないかもしれない。が、まあリッパなネジ端子品なんだから気分的にウレシイじゃん、という程度のことを交換の理由にしたとしても悪かないでしょう、“趣味”ですから(^^;。
 ということで、電源部の中は早くも当初思い描いた将来像にほぼたどり着いてしまった。これ以上何か詰め込むことはたぶんもうないだろう。

 さて、試聴。そして驚愕(°°! なんでこんなに音が変わらにゃならんのだぁ!?
 オリジナルNo.166とはだいぶ傾向が異なると思われるエレガントで繊細な表情の音を聞かせてくれていたこのアンプから、今度はまさしく「芯の強い」「底力のある」「演奏の強烈な直撃を受ける」ような音が出てきてしまったのだ!
 しかし困ったことに、よくなった、とは言いきれない。以前は深いけれどやや薄めだった低域が、力強く表現されるようになった。だが中高域には単線のケーブルを使ったときに感じるような突っ張った音色がある。弦楽器など何とも言えない美音を奏でてくれていたのだが、あの音がもうない…。

 まったく予想外の結果だった。差動アンプの定電流回路に使う石が音質に大きく影響することは電池プリで経験済みだったが、まさかその定電流回路の電源のケミコンでこれほどまでに音が違ってしまうとは。音はおおかた定電流回路そのものに支配されてしまうはずだ、と考えていたのだが。
 そういえば、完全対称型半導体DCパワーアンプが、2段目が対向する定電流回路を省略した形になって間もないころには、初段の負電源は出力段と兼用していた。しかし後になって専用電源を用いるようになった。要する電流が10mAにも満たないところに、わざわざ高価なWE412Aで整流した負電源を設けたのだった。音質上の理由から、ということだったが、なんだかもったいないような気がしたものだ。しかし今回のことで納得した。
 差動アンプは平衡動作をするので電源のほうには信号電流が流れない、したがって電源のケミコンはさほど音に影響を及ぼさない、という説はどうやら正しくない。音は“差動”の動作を支えている定電流回路、およびその電源に大きく影響されるようだ。しかも、電源に信号電流が流れるシングルアンプやSEPPよりもむしろその度合いが増幅されているように感じられる。ということは、定電流回路や電源の質が悪いと、それが増幅されて音に現れるということになりそうだ。
 電池式DCアンプの音が電池によって変わるのも、ひょっとしたらこのあたりのことが要因となっているかもしれない。また、差動アンプの音を好まない人がいるのもこれが一因なのではないだろうか。

 それにしても、どうしたものか、この音。力強いのは悪いことでもないが、中高域のこわばった感じは聴いていてどうもくつろげない…。
 しかし、この音の傾向は前にも聞いたことがある。現用の300BシングルアンプのフィラメントDC点火の整流回路のケミコンをKMH16V22000uFに換えたとき、当初は今回とよく似た傾向の音になって戸惑ったものだった。KMHはSMEの105℃品といった性格の品種で、どちらも音質的には同様のキャラクターであると言われている。今度の球プリの±B電源もKMHを使っているが、こちらからは特に音のクセは感じられない。とすると同じKMHや、SMEでも比較的低耐圧のものにこういう音質傾向があるということか。あるいは300Bの場合にしろこのヒーター電源にしろケミコンを耐圧の3分の1以下の電圧で使っているわけだが、そのことがこの音質傾向の原因になっている可能性もある。

 300Bアンプの場合は、10日ほど経ったころから硬調な感じは消えて、スムーズな音に変わってくれた。うまくすると今度もエージングで解消すかもしれない。
 そう思って我慢してしばらく聞いていたのだが、思惑通りやはり10日ほどした頃からだいぶ和らいだ音になってきた。高域は以前ほど儚げな美しさを感じさせるものではないが、あっちのほうが異常とも言えるわけで、自然にしなやかで十分美しい。妙な力みのない力強さも好もしい。トータルでは今のほうが断然よくなっている。
 というわけで、いずれまたKMH16V22000uFにしてみるかもしれないけれど、もう当分このままでいいんじゃないの、という気になってます。ただ、ケミコンでこんなに変わるんならダイオードでも変わるよな、きっと、という思いは当然起きてくるわけで…(^^;。


 ところで、前に407Aが1本灯らなくなったことを報告したが、そこらへんにほっぽってあったその球を改めて見てみたら、あ〜らなんと、いつの間にかこんな姿に…すっかり頭が白くなっちゃって、まったく別人(別球)のよう。
 底面を見ると、ああ、これか、と納得。足ピンをたどるようにしてクラックが入っているではないか。空気が入っちゃったんですね。ゲッターが空気と反応してしまったんだ。
 灯らなくなったときはまだゲッターは銀色でクラックも見つからなかったのだが、どうやらもう既に空気が入っていたものと思われる。製造時に蓄えられたガラスの歪みがソケットへの抜き挿しで限界点を超えてしまった結果、だろう。しかし見るからにお亡くなりになった風情。ウエスタンといえどもまれにこういうのがあるんだなあ…(--;。


缶詰めが旬?

 電子部品の店なんてものが存在する当地の県庁所在地まで私の住む田舎から出かけていくと、クルマでおよそ2時間かかる。地方の店ゆえオーディオに使えそうな目ぼしいパーツなんてほとんど置いてないので、そこへ行くためだけに出かけるなどということはまずない。何かのついででもなければなかなか行く機会がないのである。しかし、こういう店も捨てたものではない、というのは自作ファンには常識でしょう。都会では枯渇したお宝パーツが眠っていることがあるんだよね。ありふれたパーツのほうは通販よりだいぶ高かったりするんだけど(^^;。
 さて、そんな行きつけのパーツ店に、メタルキャンのダイオードが売れ残っているのを私は知っておりました。1S2711と同じ形の東芝製ダイオード。型番は1S18・・みたいなやつだったはずだ。うろ覚えだけれど、そこのパーツ棚には確か「200V,1.5A」くらいの張り紙がしてあったような…。前回の文章の終わりに「ケミコンでこんなに変わるんならダイオードでも…」と書いているときに頭にあったのは、SBDなどではなく、実はこれなのでした。

 その後、折りよくついでがあって行ってきました。で、買ってきました。ハハ、やっぱりうろ覚え、600V,1.2Aでした。型番は1S1890。トラ技の付録の規格表を見ると、FRDでもなんでもない普通のダイオード。同シリーズでより耐圧の高い1S1891,1S1892というモデルもあったようだ。
 この定格なら一応は-20V電源に使える。電流容量が小さめだが、なに、31DF2だって3Aというのは実は放熱板を付けての話で、裸では1.6Aが上限だ。平均使用電流は十分内輪に収まっている。そもそも金田式なら規格いっぱいを恐れてはいけない(?)。

 がしかし、どうかなあ、なんでもかんでもとにかくメタルキャンなら音がいいのだ、なんてことはないだろうなあ。自作オーディオの世界でもまったく無名のダイオードなのだろうし、ましてやファストリカバリーでも何でもないんだし。けどまあとりあえず試してみるか、聴かなきゃ何も判らないんだから…。

 ということで、さっそく整流基板を新しくこしらえた。単なる普通のダイオード、ということで気休めかもしれないが、ノイズに配慮してパラにフィルムコンを入れてみた。

 さて、やっぱりダメか、という結論を予想しながらの試聴。が、意外や意外、いいぞこれは! 31DF2で十分いい音だったけれど、これに換えたらいっそう音が空間に拡がって聞こえる。たとえば、お客さんのお喋りや食器の触れ合う音が演奏の音からしっかり分離して浮き出してくる(ビル・エバンス“SUNDAY AT THE VILLAGE VANGUARD”)。音色そのものは31DF2と似た傾向に思えるが、より表現の幅が拡がったような印象。しなやかに力強く、快活にやさしい。前回報告のケミコンのエージングがさらに進んだことも相まって、弦の音の美しさも申し分ない。ふ〜ん、なんだかキツネにつままれた気分。特別なものでもなさそうな古い金属ダイオードのほうが、trrの小ささなど優れた特性を謳う最新のダイオードよりもよい結果をもたらすとは。定評のあるパーツじゃなくったってやっぱり聴いてみるもんだ(^^)。


 再びWE407Aの話題。1本が逝ってしまったし、残ったものもユニット間のばらつきの大きさが気になるので、このさい少しばかり買い足した。せっかくだから角ゲッターのものを、と少し古めの'65年ロット品を発注したのだが、届いたのを見たら何かヘン。管壁の文字がなんと、銀色なのである。通常の黄色いインクが乾く前に銀粉をかけてあるようだ。こんなのあるんですねー、知らなんだ。
 右の写真の左側の球は3桁ロット、たぶん最初期のものと思われる。足ピンからヒーターへの接続部分の構造が後の時代のものと異なっている。真ん中がちょっと判りにくいけれど銀文字球。そして右端は'77年製の非イナヅマ文字品。
 銀文字球の音は、鳴らし初めには少し硬いかなと思えたけれど、ある程度鳴らし込んだら結局まったく他の球と違いがわからんようになってしまいました(^^;。



経過報告

 オールWE球使用管球式DCプリアンプは、期待以上の音を聞かせてくれた。すっかりシステムの主役ラインに定着し、いろいろいじりながらも使ってほぼ3ヶ月が経つ。いじった部分については既に報告の通りだが、この間に判った他のことなどをちょっとまとめておこうと思う。

 使っている真空管はやはり選別が必要のようだ。
 イコライザー段の408A(オリジナルでは403A,Bまたは6AK5系真空管)には、「サー」というノイズがかなり小さいものもある。もちろんそういうのが望ましく、特に初段に適する。しかし、「サー」ではなくて「ゴソゴソ」「ボソボソ」という音を発する困ったものもある。ノイズがそうひどくなければ、2段目になら使えないことはない。だが、こういう球を使ってみたら、初めのうちは特に問題はなかったのだが、2ヶ月ほど経つと「ゴソゴソ」がより大きく聞こえてくるようになった。どうもこの手の球はそもそも不良品と思ったほうがよさそうである。
 フラットアンプの407A(これもオリジナルは396A,2C51系)は、実際使ってみてかなりユニットのばらつきが大きいように感じたが、80年代のMJ誌をたまたまめくっていたら、そのことを裏付けるような広告に出くわした。あるオーディオパーツを扱っている店の広告(最近は見かけない)なのだが、407Aや396Aを選別し、ランク付けして販売しているのだった。そのランク付けの仕方というのが、2ユニット間のばらつきが「10%未満」「20%未満」「20%以上」の3段階なのである。このパーセンテージの割り当て方からすると、もともとすさまじくばらついている品種と判断すべき球のようである。金田氏の記事を読むかぎり、金田氏は「当たり」の球を手に入れたのだとしか思えない。
 また、やはり新品の真空管は使っているうちに動作点が変わってくる。ある程度エージングが進んで電極の状態が落ち着くまでは、AOCをたびたび調整していた(実用上は問題ないレベルのオフセットでも、なまじ調整できるものだからついつい神経質になってしまうんですな(^^;)。
 ということで、真空管に関しては、ケチケチしないで実際に使用する本数の倍以上を買い込むのがよいだろう。程度のよい安価な中古球があればお勧めと思う。

 ゲインコントロールのボリウムだが、結局のところ指定のコスモスRV30YGに換えてしまった。理由は、アルプスのものは、出力信号が出ていたり出力にオフセットがある状態では、回すと「ザザッ!」とノイズが出るということ。アルプスのものは、もっと大きいミニデテントなども同様なのだが、電力容量がたったの50mWなのである。この値はほぼブラシと抵抗体の接触安定性を意味するととらえてよさそうに思う。入力レベル調整のような電圧を取り出すだけの用途には使えても、接点に電流が流れる使い方には非常に弱いようだ。

 コスモスRV30YGはたぶん2Wくらいだったかと思うが、ノイズの問題はまったくなかった。音のほうもよりしっかりした感じになった。ただ回した感触となると、ブラシが抵抗体をこするショリショリ感があからさますぎていまひとつ。回転の重さは軽からず重からずでよい具合なのだが。
 今回使ったRV30YGはモールド部分が黒だったが、以前からボリウムボックスに使っていた茶色のものはもっと感触が滑らかだ。抵抗値の違いのせいか、それとも色が変わって内部の仕様にも変更があったのだろうか。単なる個体差なのかもしれないけれど。


 私のプリは既に紹介している通り、フラットアンプ初段の負電源が、真空管のヒーターと共用の-20Vである。どうもこのことがオリジナル機にない問題(というほど深刻でもない)を発生させているようだ。オリジナルのNo.166の記事では、電源が立ち上がってすぐオフセットは安定すると書かれているが、こちらはそうはいかないのである。
 私のプリでは、整流管が立ち上がるまでに-1.6Vほどのオフセットが出る。どうも初段の負電源だけが先に立ち上がるせいらしい。初段の球がスタンバイしているのに、正側のB電圧がまだかかっておらず、一方カソードは定電流回路で電流が吸い取られ…ということで、グリッドから電流が流れ込んでしまうのだろうか。それに繋がるNF抵抗(VR、絞ってあるのでほぼ0Ω)を介して出力端にオフセット発生、というのが私の推論。整流管が立ち上がってしまってからの挙動はほぼ金田氏の記事の通りである。私の現用パワーアンプは出力トランス付きのうえ、プリよりだいぶ遅れて出力段の電源が入るので問題ない。プリの電源のほうを後で入れたい場合でも、セレクターボックスを介しているので、いずれDCパワーアンプを使うことになったとしても一応対応は可能だ。

 オフセットといえば、AOCの半固定VRはときどき動かしてやるのがよいようだ。というのは、しばらく使っていると少しばかりオフセットが大きく(といっても十数mV)なっていることがあり、ちょいと調整し直してやるか、とケースを開けてVRを回してみると、少し固着気味になっている感触がある。調整してみると、結局もととほとんど違わない位置に落ち着いたりする。
 これは電流が流れることでVRの接触部分に変化が起きているせいではないだろうか。つまり回路的には安定していても、VRの接触部分の安定性が影響してくるように思えるのだ。使っている間に、接触部分に酸化被膜(かどうか知らないけど)のようなものが形成され、それがFETの2つの素子のバラつきのせいで偏ったでき方になり、電流の流れ方が変わってしまうのではないかと想像しているのだが。
 私の想像が正しいかどうかはともかく、いずれにしてもやはり接点である以上、たまには磨いてやらないといけないということだろう。

 そういえば、オフセットがらみでもうひとつ。ヒーター電源のダイオードを交換した際、いったん抜いた負側の整流管を挿し忘れたまま電源を入れたことがあった。そんなことをしたら大きなオフセット電圧が出るだろうから、わざわざそんな実験をしてみようと思う人もないだろうが、実はこのときの出力の電位は1V強といった程度に過ぎなかった。
 もちろんそのままだとDCパワーアンプの保護回路が作動する電圧ではあるが、意外に小さい値だと思いませんか? これならもし整流管がダウンしても危険は少なそう。これは初段負電源が整流管から独立していることのメリットと言えるかも、ってやや我田引水(^^;。
 ちなみに、正側の整流管のほうがダウンした場合は初段も2段目も動作しないわけだから出力オフセットは出ないはず…だと思うんですが、未確認のことは言わないほうがいいですね(^^;。


追記:
 2SK146を使ってうまくいったかに見えたAOCだが、実はそのままでは問題があったらしいことが判明した。
 動作中のK146に触ってみると、電圧・電流のわりにはかなり熱く感じられた。音楽を聴いているかぎりはアンプの動作にはまったく異常が認められなかったので、真空管の熱でアンプケース内の温度が高くなっているせいだろうかと思っていた。
 それにしてはちと熱すぎるな、と思って試しにK146の接地している側のゲートに100Ωを入れてみたら、あっけなく温度が下がってしまったのである。どうも寄生発振でもあったと考えるほうがよさそうだ。あんまり周波数が高くなるとショボい装備では観測不能である。このさい念のために両側のゲートとも抵抗を入れることにした。
 以来AOCの効きも心なしかよくなったような気がする。というわけで、AOCにK146,147を使おうとしている人は気をつけたほうがよさそうです。悪いことは言いませんから、ゲートには抵抗を入れましょう。あるいはK170を使う場合でもそのほうが安心かと。音を聞いていても判らないからいいや、で済ませる手もあるといえばありますが…(^^;。



過ぎたるは・・・

 金田式アンプを使う楽しみ、それは何といってもその音質にあることは論を待たないだろうけれど、「ちゃんと健康に動作してくれるかどうか」という一抹の不安を常に持たざるを得ないスリルというか、マゾ的な倒錯したヨロコビが占めている割合は、無視すべきでない大きさに達しているのではないかという気がしなくもないんだが、どんなもんでしょうかね(^^;。
 で、球プリの場合もやはり、終段の球のヒーターが片側だけ切れたらまずいよなあ、とか、大容量のケミコンを抱かせている電源の整流管の寿命とか、心配事はちゃんと用意されているわけで。

 さて、今回例の某所に出ていたKMHの先祖と思われる日本ケミコン製の電解コンデンサ、160V1000uFの“KM”型というのを球プリ電源部に使ってみるべく入手した。
 サイズは純正仕様のKMH160V2200uFと同じである。サイズが同じなら容量が小さいほうが電極箔が厚くて高音質が期待できるのではないか、というわけ。容量については既に報告済みのように、私のところでは1000uFでも実用になることがわかっている。古くからのDCアンプマニアの中には、かつてのPWとの比較でKMHの音の“鈍さ”を指摘している方もあることだし、このKM型を使うことでより高音質が得られ、かつ少しでも整流管の負担が減るのであれば一石二鳥だ。


 KMとKMHのツーショット。端子部分の造りで時代が判るだろう。


 さっそく交換してみた。ネジ端子品はハンダが不要なので、こんな場面ではラクチンである。
 恐る恐る聴いてみると、ああ、やはり長らくデッドストック状態だっただけあって、いかにもエージングされていない音。レンジが狭く、ちょっと詰まって聞こえる。ただし、出てくる音には鈍さや癖っぽさのようなものは感じられないから、この後の変化に期待できそう。

 というわけで、5日ほど鳴らしていたら、はたして詰まった感じはほとんど消えて、すっきり伸びやかに鳴ってくれるようになったではないか。容量が半分ほどに減ったぶん、たっぷりした鳴り方ではなくなったような印象もあるが、音の鮮やかさが際立っている。積極的な音だ。これならもっともっとエージングが進めば、さらに音がこなれて美味しく仕上がってくれるに違いない。

 と思うたんですがね、20日ほど過ぎて、あれ…ん〜、これは違うんぢゃ…(爆)。いや、際立つ音の鮮やかさが、ちょうどいいところを通りすぎて、もはや過剰なレベル。コントラストがきつ過ぎる。落ち着いて聴いていられなくなってきた。まいった。
 KMの、パーツとしての性能や音質は決して悪いわけではないと思う。ただ、もともとヴィヴィッドな鳴りっぷりのWE球プリとの組み合わせにおいては、互いのよく似たような性格が相乗してしまい、最終的にバランスが取れなくなってしまったのだと解釈できそうだ。たぶん他のアンプでなら、このKMのよい面が活かせることもあると思うが、ここではどうやら相性が悪かったらしい。

 ちょっと挫折感に浸りながら再びKMHの2200uFに戻した。うん、音質そのものはそう違わないのだが、やはり音のバランスがずっとよい。結局今のところこれがベスト。ま、整流管の負担のほうにはもう目をつむることにしてしまうしかないな。そもそもトラブルの報告は聞いたことがないんだから、気にしてないで音楽を楽しむことといたしましょう。




足場は大事…

 さて、これは何をしたのか…

 おやおや、またいつぞやの電池式GOAプリのときみたいに、差動アンプの定電流回路に2SC984を使ってみた、っていうネタかい、発想に進歩がないねえ…と一瞬思われた方もいるやも知れませぬな。まー、発想の方向性としては大同小異か(^^;。

 あらためて緑の印が指し示しているTO-1型の石の位置をよく見てみると、なんだい、ここいら辺りはATRのナワバリではないか。はて、ということはPNPの石だが、金田式でPNPのTO-1の石なんてあったっけ?

 ないですね、はい。いやいや、実は、C984のコンプリの2SA565という石が売られているのを見かけ、ちょっと気になって買ってあったのだが、それをATRのA872に替えて使ってみたのである。
 そもそもこんなことを思いついたのは、M-NAOさんがご自身の球プリに、サブミニ球プリで採用されたEQ2段目の定電流負荷を試して好結果を得られた、との報告をいただいたのがきっかけ。自分でも試してみたくなったものの、私のプリの基板には定電流負荷をすっきり収めるスペースは見当たらない。別基板を増築する、というようなむさくるしいことは私の趣味ではないしなあ…と悶々としているうち、定電流負荷の反対側、 2段目の動作を支えるATRのほうに代わりに目が行った、というわけなのだ(筋違いも甚だしい?(^^;)。

 旧「トランジスタ規格表」を見ると、A565,A566,A567の3品種が揃って日立製となっている。同時に登録申請されたのだろう。このうち2SA566は、今さら言うまでもなく、かつて定電圧電源回路の制御Trとして重用され、バッテリーアンプ時代には入手難でファンを泣かせた銘石。A565はそのA566と同時期に開発されたと考えられるし、なおかつ私としてはGOAプリの定電流回路に使ってみてその音のよさに驚かされたC984のコンプリでもある。A566は、一定の電圧を出力する用途では他を圧倒したものの、信号増幅に使ってみてもはかばかしい結果は得られなかったという。ならばその兄弟(義理の?)と思しきA565も、一種のレギュレーターたるATRに使ってみれば、もしかしたら、いやいやあまり期待してもいかんな、しかし、うまくすれば、あるいは素晴らしい能力を発揮してくれるのではないか、してほしいものだ…ということで、金田式の歴史には無縁であるこんな石にもいくばくかの期待を抱いてしまうのはやむを得ないことと分かっていただけると思う。

 とまあ、少々長い前置きではあったが、ともあれシステムに繋いで電源を入れてみた。EQ部の出力電位を確認すると、左右とも目標値の60V近辺を示している。完璧だ(^^)。
 パワーアンプを繋いでボリウムを上げてみて、一瞬「あれ?」と思った。アンプが動作していないかと思うほどノイズが減っていた。前はボリウムを上げるとホワイトノイズ的にワイドレンジな「ザァ〜、ゴォ〜、ボォ〜」という音が鳴り渡ったものだが、えらくおとなしくなって、しかも聴感上スペクトルがカマボコ状の分布になっているような印象だ。なんか、悪い予感…

 音を聴いてみたが、はたして、全然ダメじゃ〜!(--;。高音くぐもり、低音しまらず、あの鮮度はいったいどこへやら、なんとももどかしい音である。ある意味市販アンプでも絶対に聞くことができない音だけど(爆…いいことといったら、まともに再生するのがはばかられるような盤面の荒れ果てた古いレコードが、耳障りでないまろやかな音調で再生されることくらい。

 まあA872からすればA565は、hFEは小さい、Cobは大きい、といった具合に特性的にも優れているわけでは決してない石だし、ATRのレギュレーターとしての性能の低下は承知の上で、だからといって音が悪いというものでもないはずだ、との思いからの試みではあった。が、結局のところ私の淡い期待はあえなく打ち砕かれてしまった。ここはもう、やはり2段目のタマが動作するための足場である(と同時に初段のEsgを固定してもいる)ATRのトランジスタが音質に与える影響が明らかになったことは収穫であった、ということにして自分を慰めるしかないな(--)。

 そのままA872に戻すのも癪なので、このさいだからとA726を持ち出した。まさか悪くなることもないだろうとは思ったけれど、やはり結果は良好だ(ホッ…(^^;)。A872より大幅によいというまでの印象はないが、少しだけ品位が向上したような気はする。あと、ノイズが僅かにソフトになったようにも思える。もちろん同時比較ではないから、単なる気のせいかもしれないことはお含み置きを。



進・進・進

 すっかり見慣れてしまったニッコームRP-24Cだが、進工業RE55との音の差を指摘する声も根強いようだ。ニッコームの音に不満を持ったとしても、なにしろもうRE55は売ってない。新規の製作にはニッコームを使わざるを得ない故、音の違いは気にしないことにしておいたほうがシアワセだろう。
 という判断だったのだが、ジャンク箱をかき回していたら、プリに使える値のRE55が少し見つかったので、この際どれだけ違うか確認しておくのも悪くはないか、と思い直した。

 EQ素子と2段目のプレート負荷抵抗を進工業RE55に交換。

 さて、部分的にではあるがニッコームを進に替えてあらためて聴いてみると、いやあ、やっぱり違いますねこれは。無音時のノイズからして小さくなったように思える。音もいっそうスムーズで滑らかだ。較べてしまうとニッコームは若干がさついて聞こえるのが判る。ニッコームでは金田アンプを作る意味がない、とまで言うこともないだろうとは思うが、聴いてしまうとやっぱり、ねえ。

 さらにジャンク箱を探したら820kΩと5.6kΩがあったので、フラットアンプの入力抵抗と初段の負荷抵抗もこれらに入れ替えた。さすがにEQ素子の場合よりは音の変化は小さいが、やはりこっちのほうがよいようだ。ないものを悔やんでもしょうがないんだけれど…ああ、悩ましい。
 ニッコーム以外に、もっと音のよい抵抗は探せばあるのではないかとも思うが、金田式的に実装しやすい形状ということになると、通常のアキシャルリードのものは今ひとつなんだよなあ…ということもあり、ヒマもないので、抵抗探しの旅には当面出ることもないだろう。



新給電法を試す

 No.187の真空管DCプリアンプでは、フラットアンプ差動段の正電源が+105Vレギュレーターから供給されるようになった。電源変動が出力に現れ難くするため、ということだ。私のアンプでは特に問題となるようなハムノイズが出るということはないが、簡単に改造できるし、音の違いも確認したい。というわけで、さっそくやってみた(のはkontonさんちのBBSに報告済みでした)

 ら、ああ、やっぱり変わる。ずいぶんと音がくっきり明瞭になった。いくぶんくっきりし過ぎの感もある。その意味では前の状態のほうがゆったりくつろげる鳴り方だが、悪く言えばボケ気味だったということにもなろうか。これまで眠たい音だと思っていた盤からそこそこ活気のある音が出て、音楽が俄然楽しくなった。結局のところ、よくなったのか悪くなったのか、判断がつきかねる。

 この音の変化は、金田氏によれば、EQアンプとフラットアンプがレギュレーターを共用することになったために、フラットアンプの動作がEQアンプに影響を与えている、ということだ。そうかなあ? EQアンプとは関係なく、差動部の給電をレギュレーターから行ったことで、フラットアンプ自体の音がこういう傾向になった、とも考えられそうに思うのだが。ま、それはCD用ラインプリを作って試してみれば分かることだ。もっとも、その場合は配線の変更だけというわけにはいかず、改めてレギュレーターを作って入れなければならないので、手軽な改造とは言い難いことになるが、どなたかCD派の方で球DCラインプリを作られた方、試してご覧になりませんか?



安全第一

 No.187では、カップリングコンデンサーが従来使われてきたSEコンから東一のマイカに変更された。これまでもSE100000pFはDC耐圧に不安があるという情報はあったが、金田氏自身も実害を被っていたことがここでようやく公式発表されたわけだ。ローコスト化と信頼性アップが同時に成った東一マイカの採用は、肝心の音にさえ文句がなければ、一般的には歓迎だろう。
 SEコンでも33000pFあたりだと耐圧に難ありという話は特に聞かないし、うちのプリに使っているSEも47000pFと、100000pFよりは33000pFに近いから、たぶんこのまま使っていてもとりあえず大丈夫と楽観していてよい…気はするが、一抹の不安もないではない。しかし、うちのプリの基板には東一マイカは大き過ぎてうまく実装できそうにない。

 と、しばし残念がっていたが、ふと思い出した。そういえば、だいぶ前に某オークションで、東一のとほぼ同じような形状の双信製のマイカコンを入手してあったっけ。戸棚の奥を探したら、おお、出てきた。なかなか上質な感じの造りである。容量は58650pFというよく分からん値。特殊用途のための特製品なのだろうか。

 耐圧はたしか500Vとかいう触れ込みだったような記憶があるが、正確なところは忘れてしまった。いずれにしても容量とサイズからすれば、100Vよりは上のクラスであるのは間違いなさそうだ。容量も現状のSEより僅かながら大きいので、低域の表現についても有利だろう。サイズは東一ほどではないものの、SEよりやや大きい。しかし、No.187のようにハングオン的横っちょぶら下げ実装法でならなんとか私のプリでも取り付けられそうだ。音が良ければめっけもんだし、耐圧の点でも安心感が増すし、ということで、さっそくSEと交換してみることにした。

 交換の前に、一応ひとまず方向性のチェック。教えに従いパワーアンプの入力に入れ、向きを変えて聴き較べてみたが、う〜む、明瞭な違いは聞き取れないのであった。心なしか、プリントの文字と逆向きに信号を流すほうが鳴りっぷりがよい…ような気はしたが、金田氏のSEや東一の向きの指定が心理的なバイアスになっているだけかもしれない。ま〜いいや、この向きで付けてみよう。

 さて、その音は、というと、ふ〜む、まずまずよろしいのではないでしょうか。たぶんコンデンサー単体としてはSEよりも音が鈍る傾向なのだろうと思われるが、妙なクセもなく情報量も十分、音楽がそれらしく表情豊かに鳴ってくれているではないか。結果的に、今回フラットアンプの給電方法の変更で音がややどぎつい方向へ振れたことと良い塩梅にバランスした感じだ。
 とりあえず安心して聴ける音になったのでよしとしよう。まだソケットレス化という課題は積み残したままだが、それはこれからのお楽しみ、ということで。





古石や

 数年前から、金田プリの終段の指定石である2SC959/960の枯渇がファンには頭の痛い問題となっている。代替品の登場が望まれて久しいが、そんな中、コニシさんが自社の金田回路を使ったプリアンプに起用したことがMJ誌にレポートされたことから注目されるようになったのが、NECの2SC97Aである。まだ比較的手に入りやすいようだが、といってもやはり廃品種、使えそうなものならなくならないうちに、と私も少し購入しておいた。

 ところで、最近のブログの隆盛の中で、正統金田式ではないけれど、Jさん設計のディスクリートオペアンプ基板を使った金田式回路のI/Vアンプを載せたDACを作っている人のページをよく見かけるようになった。そうした人たちの間で、その2SC97AがC959/960の代用として重用されている。出力段だけでなく、初段差動アンプの定電流にも使ってみて、そこそこの結果が得られている、らしい。規格表を見るとCobはtyp値で6pFとC959よりもだいぶ小さく、定電流回路にもそこそこ適性はありそうに思える。

 しからば拙者も… というわけで、少しばかりヒマができたので、うちの球プリでやってみることにした。オリジナルのNo.166の回路では定電流回路のTrには120Vほどの電圧がかかるので、いろんなTrを取っ替え引っ替えというわけにはいかないのだけれど、私のプリはフラットアンプの初段の負電源がヒーターと兼用の-20Vになっているため、耐圧の高くない石でも問題なく使える(C97AのVCBOは80Vで、オリジナル機ではそのまま差し替えはできない)。
 これまでは2SC1400を使ってきたのだが、いずれメタルキャンGOAプリで非常に好もしい音を聞かせてくれたC984に換えてみることも考えていた。けれど、そのままで十分いい音に感じられたので、強いてC984を試すまでもないだろうと、長らくそのままだったのだ。


 写真の82Ωは2.7kΩと直列になって電流を調整するためのもの。これはまだ調整前で、適正値は47Ωとなった。
 いまひとつ格好良くはないが、実装は基板裏にしてしまった。理由は配線パターンの都合もあったが、それより金属缶の石を球の直近に配置すると、球の熱を蓄えてかなり無用に熱くなると思われるからだ。少々熱に煽られたからといってそれで壊れることなどないとは思うけれど、気分的に抵抗があることはなるべく避けよう。

 ところで、球プリフラットアンプ初段の定電流のTrを交換するのは実はやや面倒だ。TrのB-E間電圧は品種によって違うので、初段定電流回路のTrを別の品種に交換すると電流値が若干変化するが、それで出力段のグリッド電圧も変わってしまう。カソードに電流帰還の抵抗が入っているわけではない出力段は、グリッド電圧が変化するとgmそのままにプレート電流が増減するので、定電流のTrを変えたことによるアイドリング電流の変化はけっこう大きく、その都度調整が必要になる。

 さて、調整も無事完了して、聴いてみた。
 むむ、ざっくり明瞭でコントラストが鮮やか、どっしりしたピラミッドバランス。情報量も多く、立体感にも富む、のだが、なんだろう、これは。何か音がきれいでない。聴いていて気持ちよくない。
 というわけで、私はダメでした、この音は。ジャズならまあまあ聴けるんですがね。オーケストラの低音楽器の強奏が何やら歪みっぽく崩れたような音になってしまう。アンプの動作はとりあえず静的には問題ないようなのだけれど、あるいは位相補正の見直しが必要だったのかも?

 ま、何にせよ使えない。となると、また同じだけ手間をかけてもとのC1400に戻すというのも面白くないから、もともといずれの楽しみにと取っておいたC984にお出まし願うことにしようと思ったけれど、その前に、これも定電流用として評判がよさそうな2SC943、たまたま貰い物がちょうど2個あったので、この際手間ついでに試してみることにした。

 こちらはC97Aと違って、純正金田石だ。上述のブログ群の中での評価には、「やや高域より」「情報量が多い」といったものもあるが、「C97Aと同系統」というような言葉もあるので、あまり期待はすまい。

  足ピン配置は同じだから、これも基盤裏に配置した。C97Aとは定格にけっこう開きがあるのに、意外にもB-E間電圧はごく近く、調整用の抵抗値は同じでよかった。


 さて、試聴。一聴、スバラシイ!じゃないですか♪ 腰高な感じになるのかと思ったら、全然そんなことはありません。クリアで、小さい姿に似合わぬ深い低音。高音も、清々しくも艶やかで、分解能がありながらドライにならない。情報量、レンジ感、空間感、躍動感、音の美しさなど、どこを取ってもC1400のときから数段グレードアップした感じの納得の音。こうなるとC984のほうは、たぶん悪くないだろうけれど、もう手間をかけて試そうという気持ちがなくなってしまった。これでいいや、さあ時間がもったいない、レコードを聴くとしよう。




進、進、もうひと足ふた足

 欲しかった値の進工業RE55がまた少し入手できた。EQ初段のプレート負荷抵抗に使えるやつだ。No.166では120kΩだが、その後に発表されたNo.184や187では150kΩになっている。理由には特に言及がない。そのほうが音や特性がよかったからか、それともRE55の手持ちの都合か。まあ、2段目はATRで支えられているので、どちらの値を使っても自動的に適切な動作点に調節されてしまうわけなので、実用的にはどちらでもいいと思うけれど、状況的には今回どちらでも使えることになった。さて、どっちにしようかなあ…
 と迷いに迷ったあげく、中を取って130kΩにしてしまった優柔不断な私なのでありました(^^;。

 ニッコームから換えてみると、予想どおり音が滑らかになり、細かい表情がよく聞き取れるようになった。やはりプリアンプでも最も上流のほうに使われる負荷抵抗で、しかも比較的抵抗値が高いとなると、音への影響もかなり大きいようだ。2段目の負荷抵抗56kΩを換えたときより効果は顕著に感じられる。
 フラットアンプ終段のグリッドをドライブする30kΩも進が手に入ったので、こちらも換えてみたのだが、さすがにこちらは下流のほうだからだろう、EQ初段ほど大きな変化は感じられない。

 フラットアンプ部。左側の407Aの手前が今回換えたRE55の30kΩ。


 ところで、たまたま'78年1月のMJならぬ“無実”誌をめくっていたら、金田氏が、プリアンプやチャンネルデバイダーの内部の配線に使うシールドケーブルとして、Neglex2497の優位を説いた文章に出くわして…思い出した!、そういえば出力ピンジャックへの配線が2510のままだった。
 作った当初、基板裏にカップリング用としてゴロンとでかいEROのコンデンサを実装していたとき、2497では配線の取り回しが不自由だったため、細身の2510を使っていたんだった。カップリングコンはとうの昔に基板表に移っているのに、なんで今まで忘れてたんだろ(^^;。

 パーツ箱(傍目にはゴミの山)を覗くと、ちょうど必要なくらいの長さの2497の切れっ端を発見、さっそく2510と交換した。大きな変化ではないけれど、確かに音のキレがよくなった、ように思う(^^)。





スペックRは高性能?


 う〜む、イイのう〜。

 リパッティの弾くバッハ。これは古い10インチの仏盤。現代的な意味でのHi-Fiとは全然違うけれど、ハッとするような瑞々しさがある。CDではこの音は聴けんでしょう。

 このような盤には、CP-Yは合わないんだなあ。

 別頁で紹介したSTAX CP-Y、カンチレバーそのものの振動を音楽信号に変換するこいつの音には、電磁式の発電機構を持った普通のカートリッジでは得られないよさがある。加工の少ない高音質録音を再生すると、溝を針で引っ掻いて出て来る音とは信じ難い、今録ってきた生録のテープを聴いているかのような音を聴ける。
 のではあるが、そんな素晴らしい録音の盤はごく少数だ。盤面の状態がよくない盤やもともとの録音がよくない盤には勿体ないし、状態がよくても録音の古い、あるいは製造自体が古い盤にはおよそ適しているとは言い難い。で、そもそも私の愛聴盤にはそういうのがいっぱいあるわけだ。
 となると、何でも安心して聴けるのは結局DL-103、ただし私の場合PRO仕様。

 ということで、CP-Yは「ハレ」用にして、やっぱり「ケ」のものとしては金田プリに103ということになるわけだが、CP-Y設計者中川伸さんもそうした普段着用のカートリッジとしてDL-103Rを改造して使っているという。
 中川さんの「103は高域の粒子がやや粗いが、Rになってかなり改善された」というコメントに、スタイラス形状は変わってないのにホンマかいな?と思ったが、食わず嫌いのままじゃつまらないし何も判らないので、ならいっぺん試してみっか、という気になった。


 DL-103Rは、103と同じ丸針で針圧も同じ。カンチレバーの材質や仕上げも変更はないようだ。
 違うのは、コイルの巻線に6Nのものを用い、インピーダンスが14Ωとなっていること。103は40Ωだから巻き数を減らしたことになり、出力も小さくなっている。が、減らした巻線のぶんだけ振動系が軽量化されたことにもなるはずだから、高域の分解能が単なる線材のキャラクターでなく本当に向上しているとすれば、これが要因とも考えられそうだ(?)。
 あとはボディが奇麗に塗装されていることくらいか。しかしこれは振動モードが変わってけっこう音には影響しそうだ。カートリッジ前面の中心線もゴールドになって高級感を醸し出している。これも音に影響するかも、心理的に(^^;。

 さっそく103PROと付け替えて聴いてみた。
 出力が小さくなっているのは特に問題とならないレベル。高いほうの細かい音は、なるほどよく聞こえる感じがする。確かに繊細感があるにはあるが、しかしやたらとキラリンキラリンした感じで、不自然なわざとらしさが付きまとう。そしてこのふやけた茫洋とした低音はいったいどうしたことだろう。
 もっと現代的にメリハリを強調した音作りなのだろうと思っていたが、むしろ逆。普通の103とは全くと言っていいほど似ていない音の出方だ。まあそれでこそ併売している意味があるといえばそのとおりなのだけれど、この音はいただけないなあ…


 しかしまあ、せっかく買ったのだから、「ダメだこりゃ」でお蔵入りではケチな私としては悲しいわけで、なんとかもう少しマシな音にならないものか、いきおいちょっとジタバタしてみることに…

 手っ取り早くできること、ということで頭に浮かんだのはプリの入力抵抗。MC用のハイゲインEQアンプの入力抵抗は100Ωという値が一般的だ。K式ではここを560kΩという高い値にしている。カートリッジが発電した電力を抵抗に喰わせてしまっては、肝心の音楽エネルギーがアンプに伝わらない、という主張だ。しかし、これで好結果が得られるのは相手が103の場合であって、103Rに対しては普通の値のほうがいい、ということも考えられなくはない。103Rのふやけた低域に対しては、低い抵抗値で受けてやれば、カートリッジにとってはそれが適当な負荷になり、もしかしたら制動感が生まれてくるかもしれないし、あのキラリンキラリンもほどよく落ち着くかも…

 というわけで、入力のニッコーム560kΩを普通の値にしてみることにする。一応ススムの100Ωもあるけれど、たまたま別の目的で購入してあったヴィシェィ(というよりは、この品種に関しては「あの」ヴィシェィではなく、ドラロリックというブランドのもので、旧レーダーシュタイン系らしい)の154Ωというのがあったので、これを試してみることにした。まだ使ったことがない品種なので、音を確認したいということもあったし。

 しかし、これによる音の変化はまったく期待に沿うものではなかった。しばらく聴いてみたが、締まりのない低音に一向に改善が見られないばかりか、全体に活気の感じられない音で、そもそもこの抵抗でなんとかしようという考えが見当外れであることを悟るのには十分な結果だった。
 ただ、ひとつ予想外の収穫もあった。どうも前よりS/Nが良くなっている感じがするのだ。

 あぁー、そっか、前はニッコームだったんだ…


 ニッコーム不信は既にたびたび書いているので今さらという感じだが、MCカートリッジの負荷なのでDCは流れないし、560kΩもあるのだから信号電流も極微ゆえ、こんな場所に使ってもそれほどの悪さは現れないだろうと踏んでいたのだ。しかし、さにあらず。ここはアンプの最上流、影響はあって当然ということか。やはりよいものを使うに越したことはない。

 さて、そういうわけで103Rをよりよく鳴らすというテーマはとりあえず横に置いておくとして、ともかく入力の抵抗にちゃんとしたものを持って来ることとしよう。純正の560kΩということになると、あいにくもうススムの手持ちがないのだが、実はほかにちょっとしたあてがあるのを思い出した(^^)。
 しかし、ここはいきなり本命に行ってしまうのはよして、段階的に抵抗値を上げて音を聴いてみることにした。この機会に、金田氏が560kΩ受けに至った経過を追試してみるのも悪くないのではなかろうか、と。

 というわけで、手持ちの抵抗の中からまず持ち出したのは、DALEの12.7kΩという変わった色をしたもの。これはタンタルの金属皮膜で、現行品ではない。かのコニサー2.0の内部写真を見ると、どうもこの品種と思しき抵抗が使われているので、たぶんいいものだろうと思う。
 聴いてみた印象は、やはり高めの抵抗値で受けたことで、音にも少し活気が出てきたようだ。予想どおり抵抗の品質もよいようで、S/N感も良好だった。

 1kΩ台は飛ばしてしまったが、約10倍ずつ抵抗値を高くしてみる、という主旨で、その後ススムの120kΩを試し(もちろん悪くない、やっぱり高いのでよさそうだ)たうえで、最終的に行き着いたのはK式指定の560kΩを飛び越して1MΩ。
 実は初めに154Ωに換えて聴いてみていたとき、たまたま別の調べものをしていて古いAudioAccessory誌をめくっていたら、江川氏の記事の中に中川さん作のプリアンプFIDELIX MCR-38が紹介されていて、そのMC入力が3GΩ(メガじゃなくてギガですから、念のため)になっていることが書かれているのを見つけたのだった。高抵抗で受けてMCカートリッッジのコイルに極力電流が流れないようにすることで、鉄心入りのMCでも鉄心にさせる仕事を最小にすることができ、結果として音は空芯MCのそれに近づく、という主旨らしい。昔読んだはずなのに記憶になかった。これを読んで、もう目一杯高くしてしまえ〜、となってしまったというわけ。

 で、その「ちょっとしたあて」であるところの1MΩというのは、ジャンク箱で眠っていたシンコーTAFの1/2W型である。K式に手を染める前によく使っていた品種なのだが、実を言うとそれも中川さんの追っかけだった。かつてのFIDELIXのアンプに多用されていたのがこれなのだ。K式に使うと場所によっては曇りを感じさせることがあるのだが、この用途には音もS/Nも不満なしだった。

 Western Electricの408Aのデータシートによると、グリッド抵抗の許容値は、セルフバイアスの場合で2.0MΩということなので、その気になればまだイケる。が、一般的な金皮だと、だいたい1MΩが手に入る値の上限だし、音の点で信頼できるものを使いたいので、ここまで来れば無理にもっと高い抵抗値のものを探すこともないだろう。

 と思っていたら、アムトランス製のオーディオ用カーボンフィルム抵抗に1.5MΩというのがあるのを見つけ、「お!」となった私でした。が、さすがにもうそれほど変わるとも思えないので手は出していません(今のところ(^^;)。


 こうしてプリアンプのほうは改善されたのだが、当初の目的であった103Rをよりよく鳴らすことに関しては、全然進歩していない。相変わらず中低域から低域にかけて、どこか茫洋とした張りのない鳴り方をしている。アンプのほうでなんとかしようというのはそもそも考え方が間違っていたようだ。

 そこで目が向いたのがヘッドシェル。K式純正のAS-4PLから、もっと軽いSTAXのHS-7type2に替えてみたら、それまでの冴えない鳴り方はどこへやら、打って変わって当たり前にしっかり感のある低音が出てくるではないか。「ふやけた」低音と思っていたのは、103RとAS-4PLのミスマッチのせいであったか。ここはあっさり評価を修正します。それにしても、同じ103族というのに、この違いは何なのだろう。103や103PROだと、HS-7よりAS-4PLのほうが明らかによいのに。「相性」ということを改めて思い知らされた次第。そして、カートリッジの音の評価もまた慎重に、という教訓になった。

 その後、中川さんが普段使い用としているAT-LH13を中古で入手。中川さんに倣ってコネクタのピンを2本に改造した。アームとの結合部はしっかりしているに越したことはない。ちなみに、AS-4PLやHS-7type2はもともと2本ピンである。
 重量はHS-7よりはAS-4PLに近い。つまりそこそこ重いシェルだ。だから103Rとの組み合わせだとAS-4PLと似たような傾向になるかと思ったが、実際はかなり違った。大人しい印象はなくて、かなり積極的な鳴り方。ただし、やや濃厚で品がなく感じられるようなところがあって私の好みとはちょっと違った。素の103Rと組み合わせてスタックスのアームで使うには、私にはやはりHS-7のほうがよさそうに思える。


 もともと防振加工の施されている指掛けも、とことん共振を嫌って取り除いてしまうのが中川流。慣れればまあそう使い難いということもない。

 ということでDL-103Rも、直接にはシェルの選定によって私の耳には「まあまあこれでもいいんじゃないか」というくらいの音で聴けるようにはなった。例のキラリンキラリン感も、エージングでそう極端な感じではなくなったようだ。しかしながら、現段階ではやっぱり使い慣れた103PROのほうが私には落ち着いて聴けるのだった(いずれ試そうと思っている中川式改造で評価が変わる?)。まあ曲によっては、103Rのちょっと演出された感じの繊細感が功を奏する場合もあるにはあります。

 かくして、再びDL-103PROに戻ってきた私なのでありました。最近はその103PROで、針圧を軽めの1.85gとして聴いている(PROの標準は2.0g)。しっかり針圧をかけるのが近年の流行(?)だと思うが、逆を行くのは少し楽しい(^^; ←阿呆


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 そんな調子でついつい抵抗が気になってしまう時期がしばらく続いて、その後、EQ素子を兼ねる初段カソード抵抗の560Ωもススムが入手できたので、ニッコームと置き換えた。

 また、初段の負荷抵抗についても、初めの頃の120kΩと最近のソケットレス版で使われている150kΩの間で迷い、中を取って130kΩとして結果は良好であったことを前に書いたが、やはり記事どおりの150kΩにした場合の音も気になるので一応試してみた。もちろんススムで。アンプの上流のほうであるため音に対する影響が大きいし、2段目の動作点はATRが働いて自動的に適正に調節されるので、抵抗値をかなり幅を持って選べることもあって、抵抗の試聴には便利な場所だ。
 結果は、私のアンプではどうも芳しくないのだった。音は明瞭で元気な傾向になるのだが、やや暴れた感じで、質感の描写などが自然でない方向に行くようだった。
 そこで、上述のヴィシェィ・ドラロリックの140kΩを試してみたら、これがなかなか良かった。150kΩのときのような不自然さはなく、なめらかな音で情報量もある。最初の120kΩより活気は感じられるし、ススムの音色とは少し違うが、130kΩに戻す必要も感じられないので、当面はこれで行くことにした。

 あとひとつ、このところこのアンプの低音の表現に少々気になるところが出てきていた。やはりCP-Yの音と較べたせいだが、どうも低音が膨らんでいる感じがするのだ。もともとオープンゲインが十分以上に高いアンプに対してK式伝統のEQ定数を用いたら、低域のレベルが少しばかり過剰になるはずなのだ。そういえば、前にも電池式EQアンプの頁で似たようなことを書いたっけ。
 実際、発表されているEQアンプ部の周波数特性のグラフにもそれは現れている。たとえば、これを書いている時点においてプリとしては最新であるNo.192のEQアンプの周波数特性を見ると、本来のRIAA規格だと30Hzのゲインが1kHzと較べて+18.59dBとなるべきところだが、+20dBを超えているように読みとれる。
 真空管プリの場合も、過剰分は機種にもよるが、やはり0.5〜1dB強くらいオーバーだ。はたしてこの程度なら聴感に影響しないものなのかどうか。その程度で気になるとすれば、責任の多くはうちの決してグレードが高いとはいえないバスレフ式のウーファーにあるのかもしれないが、実際聴いていて気になる訳だから、ここはやはり改善を図りたい。

 というわけで、EQ素子のSE5100pFとパラになっている820kΩを少し小さくする。のだが、適当な値のススム抵抗がない。のだが、390kΩがあるので、これを2個シリーズにして使ってみよう。基板のスペースは抵抗を1個増やすには十分だ。これで抵抗値は780kΩ、820kΩからおよそ5%弱の減少ということになる。補正する量としては控えめだが、以前メタルキャンプリで680kΩや750kΩにしたら盤によってはちょっと寂しい感じがしたから、このくらいのほうがいいだろう。
 さて、交換して聴いてみたら、はたして5%程度でも聴けば明らかに違う。気になっていた低音の膨張感はほどよく軽減され、ワタクシ的にはバッチリちょうどいいところに納まった感じだ。しかも、バランスが整っただけでなく、音そのものがより明瞭さを増したように聞こえるというおまけが付いた。巷間「高い抵抗値は概して音が悪い」という話が聞かれるが、820kΩ1個よりも小さい抵抗値で2個シリーズとしたほうが音がいい、ということなのかもしれない。





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EQ回路その後、とパーツ類交換

 上で書いたEQ回路の抵抗390kΩ×2だが、更に検討を重ね、390k+330k+20k=740kΩで落ち着いた。あくまでうちのシステムで、聴感だけで決めた値なので、一般性はまったくありません、念のため。全部ススムの抵抗だが、20kΩのみ手持ちの都合で1/4WのRE35で、基板裏に配線した。


 ECP-1やPOD-XEの改造で、このところスチロールコンデンサーの音がとても私の好みに合うことを感じている。その流れで、真空管DCプリのカップリングコンデンサーにもスチコンを使ってみたくなった。ちょうどお誂え向きの0.1μFという大きめのスチコンがしばらく前に手に入ったのだ。もとはけっこう高級な測定機器に使われていたものらしい。

 さっそく取り付け。サイズが大きく、またその形状ゆえに基板には載せようがないが、もともと固定ネジ(マイナスで、たぶん旧JISピッチ)を備えているので、基板を吊るしているアルミアングルにネジ穴を追加してうまく固定できた。基板への配線はダイエイではなくライカル線である。これなら細いので、基板のもともとの穴にそのままで通すことができる。

 アンプを使っているとき上から覗くと、天板の放熱穴越しにこのスチコンの鮮やかな赤が目に入り、一瞬ギョッとする。イモリを裏返すと思いがけず腹に赤い模様があってギョッとするが、ちょうどあんな感じ、と言ったら分かりやすい…のは、もと“田舎の悪ガキ”だった人だけですかね(^^;。

 音のほうは繊細で美しく、ほぼ期待どおり。SEコンともこれまで使っていたマイカコンともひと味違うが、情報量が多く自然な音である。今ではスチロールコンデンサーは生産されていないそうで、実に残念だ。


 更に、フラットアンプ初段負電源を兼ねるヒーター電源のコンデンサーを、日ケミSME5600μFから、オークションで手に入れた同じく日ケミのCEGW25V10000μFに交換した。ここの容量アップはかねてから懸案だったが、ようやく実現できたわけだ。もともと予定していたのは、おなじみKMHの16V22000μFだったが、それよりは容量が小さいものの容量アップには違いはない。旧製品だがグレードは高い品種のようだし、なにしろ2本で千円未満と安かったので、これでいいや、と。
 音は、初め明瞭だがなにやら妙に濃厚な音色になってしまい面喰らったが、幸い数日のエージングでまっとうな音に変わり、違和感はなくなった。費用とのバランスからして満足感は非常に大きい。KMHのほうが音が自然なのではないかと思わないでもないが、この古いCEGWの音もなかなか高級な感じがして悪くない。


 もうひとつ、内部配線のシールドケーブルをまたも交換。昔使っていたモガミNEGLEX2800が出てきたので、POD-XEに引き続きこちらのアンプの入出力もこれにしてみた。2497でも不満はなかったが、これは繊細感・解像度の更なる向上に寄与したようだ。今手に入るモデルだと2803になるわけだが、皮むきが大変なのと硬くて取り回しに難があることさえ乗り越えられるなら、なかなかにすばらしい線材だと思う。もっとも、コストもそれなりだけれど。









CDには負けんぜよ♪

 CDから安心して聴けるよい音が出るようになった、という話は別頁で紹介済みだが、そうなるとまたアナログの音にも磨きをかけたくなる。アナログ派としては、部分的にとはいえ「CDに追い越されたかも」と感じられるところが出てくるのはちょっと面白くないんですな(^^;。
 前回このプリをいじっていたのが2008年だから、以来2年くらい間が空いたことになるのだが、そんなわけで、この間に溜まったアイディアを、少しずつ(半年ほどもかかって)実機に反映させてみた。未だにソケットレス化に至ってはいないし、整流にWE274A/Bを起用しての電源革命とも無縁ではあるが、たとえそうであっても、音質向上の余地というのは探せばまだまだあるものだと感じ入った次第。



再び三たびパーツ検討

 アンプ回路に使われる抵抗の質は、回路を流れる信号の上流のほうほど音質に影響するのは、経験から明らかだ。既に、MCカートリッジの信号を受ける、ほとんど電流が流れないはずの抵抗が、思いの外音に影響したことを書いたが、プレート負荷抵抗もけっこう影響が大きいに違いない。これまでは指定のススムRE55を使っていたわけだが、たぶんもっといいものがあるだろう。

 ということで、パーツ箱にあったシンコーTAFタンタル金属皮膜1/2Wの110kΩをひとまず試してみたら、明瞭かつしなやかな音でなかなかよい(本来120kΩが用いられる場所だが、ATRが動作点を自動調整してくれるので、問題なく使える)。
 調子に乗って2段目の負荷の56kΩも同品種に変えたところ、今度は案に相違してなにやら妙に濃い音になってしまった。同じ品種の癖が重なって現れてしまうのか、悪い音でもないのだが、もうひとつ大味というかデリケートな表情に欠ける感じで、残念ながらこれはボツ。でもまあ本命は他にあるので、次へ行こう。

 ネットオークションでDALEのセラミックモールド型の金属皮膜抵抗で120kΩというのを見つけ購入しておいたのだが、実は最初からこいつが初段用の本命。容量は1/4Wということだが、軍規格なので民生用には1/2Wで通用するようだ。
 初段の負荷をこれに換えてみたら、なんともバツグンの相性。硬そうなセラミックの外観のように硬質な音ということはなく、妙な付帯音無しにスッキリ澄みわたり、ニュアンスたっぷりに柔らかな表現も聴かせてくれる。2段目のほうはそのままでOKだ。

 ということで、初段にDALEセラミック金皮、2段目がシンコーTAFで落ち着いた。満足度が高いので、たぶんこの構成は当分そのままだろう。間に配置された位相補正のCがスチコンになっているが、これについては後述する。



ATRは能力十分?

 ここまでの写真で、もう言わなくても十分目立っているのだけれど、ATRに使っていた双信V2Aがオレンジ色のフィルムコンに替わっている。既におなじみのニッセイAPSだが、ただし容量は指定の0.1uFではなくて0.22uF。APSではいちばん大きいやつだ。

 容量増の必要性を感じたのはこちらのサイトの記事を読んだことがきっかけだった。
 十分に低いカットオフ周波数で、目当ての帯域のレベルはほぼフラットになっていても、低いほうの周波数ではレベル的にはフラットでも、過渡的な位相ずれが無視し難い大きさになるようなのだった。記事によれば、たとえば「20Hzまでまともに再生したければ、カップリングコンデンサによるカットオフ周波数は0.2Hz以下に取りたい」というような主張に読める。なんと欲しい周波数の1/100だ。

 となると管球式DCプリの場合、カップリングコンデンサーよりもまずはATRのフィルターコンデンサーが気になる。ミラー効果を利用して0.1uFで十分な効果を持たせているということなのだけれど、このATRのせいで信号は30Hzより下で減衰が始まる。ということは、記事の主張の観点からは、カットオフが問題外に高いことになってしまいそうだ。帯域的にレベルは十分としても、カットオフに近いところの低音楽器の基音の位相ずれの影響が気になる。

 楽器の音色や音のニュアンスは、基音に対してどのような高調波成分が付加されているかで生み出される、と考えることができそうである。
 人間は音の位相には鈍感、と言われている。無関係な2つの音については、それぞれの位相の関係が僅かに変わったところで、それらの聞こえ方に特段の変化は感じられないだろう。
 しかし組み合わさってひとつの「音色」を構成している複数の音、つまるところ楽器の音色を決定している基音とその倍音成分たち?の位相関係が変わってしまったら、はたして本来の音色が保たれるものだろうか。
 厳密に検証されているのかどうかは知らないけれど、こういうことは楽器の質感を失わせるほうに作用することは、経験的に想像に難くない。基音の周波数が一定程度低い低音楽器の場合、ATRのフィルタ特性により、音の立ち上がりで基音の位相がずれて高調波成分との位相関係が崩れてしまい、このことが楽器の音の実体感を減じさせてしまう…という理屈が立ちそうに思えて仕方がないのだが、どうでしょう、なかなかに筋が通っているように思えませんか?

 で、そこらにあった今や貴重品の(?)ニッセイAPS0.22uFを、これまでのV2A0.1uFと替えてATRに使ってみた、というわけ。そうしたら…

 おお、容量の増量分はせいぜい2倍程度だが、効果は歴然、コントラバスやバスドラムなどの低音楽器の音が俄然しっかりした表情になったではないか! 振動がちゃんと無駄なく音になっている感じ。中高音までも冴えてきたように聞こえる。
 APSの音がよい、のかもしれないけれど、この低音の良さはやっぱり容量が効いたと考えるのが順当だろう。こうなるともう0.1uFに戻ろうとは思わない。もっと容量を増やすべきかも、と考えるのも当然の成り行きだが、今のところサイズ、品質の点で使いたいと思えるものが見当たらない。それと、AT-1のランドのピッチとAPS0.22uFのリード間隔との兼ね合いで取り付けが斜めになっているこの景色にある種カッコよさ(?)を感じるので(^^;、当面このままで行くつもり。




エピタキシャれば

 三重拡散型のバイポーラトランジスタ、メサ構造のD388/B541を例外として、積極的に音の良さを評価された例を知らない。高圧用のトランジスタはほとんど三重拡散製法だが、かの別府俊幸さんは、自身でコンデンサーヘッドフォン用アンプを試作した経験から「バイポーラにしてもFETにしても、高耐圧のものは“キシキシした音”が付き纏ってダメ」という意のことを書いていた。
 これにはちょっと私も思い当たることがあって、Staxの古いコンデンサーヘッドフォン用ドライブアンプSRA-12S(これも出力段がTO-3の東芝製三重拡散石)の音などを聴くと、なるほどそれっぽいキシキシ感と言えそうな音の傾向が理解できる気がするのである。もっと新しいモデル(といっても相当古いんですが)であるSRM-3でも、うるさいことを言えば、聞く曲によって、あるいはその日の体調や心理状態によっては、そうした傾向が少し感じられることがある。
 これは高耐圧の音なのか、三重拡散の音なのか、あるいは両方なのか。

 というわけで、K式の真空管差動増幅回路の2段目に使われる高耐圧トランジスタ2SA1967が少なからず気になってくる。これもやはり高耐圧型の例に漏れず三重拡散型だ。パワーアンプでは、耐圧やCobの点でこれに代わり得るものは絶無のようだが、プリアンプならばそこまで高耐圧である必要もない。300Vほどの耐圧があれば安全に使用できるはずである。もっといいものがあるのではないか?

 と思って、もうけっこう前に、トランジスタ規格表と突き合わせつつ某ショップの在庫リストを眺めていて見つけていたのが2SA1480。とおるさんが使っていた2SA1381も規格が同じようなので、たぶん同じチップのパッケージ違い品と思われる。これらはA1967同様三洋製のCRT用の石で、300Vというそこそこ高い耐圧を持ちながら、製法はエピタキシャルプレーナー型なのだ。“プレーナー”のほうに色気は感じないけれど、“エピタキシャル”こそは魅惑の響き。Cobも3.1pFと小さいし、標準100というhFEはA1967のおよそ5倍、Pcもプリに使うには十分以上。しかも値段が手頃である。

 今回1ダース注文して届いたのには2種類のロット記号のものが含まれていたが、ペア取りのためhFEを測ってみたら特性はよく揃っていた。

 A1967と交換してみると、やはりhFEやB-E間電圧の違いからだろう、終段のアイドリング電流が変わるので再調整が必要だった。

 パッケージはTO-126のフルモールド。以前のTO-220と置き換わった景色は若干貧弱で頼りなげではある。
 フラットアンプ初段の位相補正のSEコンがまたしてもスチコンに変わっているのが見えるが、これは「後のこと(実施時期未定)」も考えて300pF+1kΩに変えたものだ。他に407Aのグリッド抵抗もしばらく前からEQの入力にも使ったシンコーTAFの1MΩになっている。

 で、その音だが、予想した以上に大きく変わった。幸い期待した方向に、である。実に明るく軽やかに音が出るのだ。といっても軽薄な音なのではなくて、情報量が増して細かいニュアンスがよく聞こえる。鮮明かつ立体的で、今までの音がべったりスピーカーにへばりついて抑揚のない音だったように思えてしまう。
 hFEがかなり増えているということもあるので、この音のすべてがエピタキシャルであることのご利益であると断定はできないのだが、いずれにしても三重拡散型を積極的に選ぶとしたら、もう理由は耐圧以外になさそうだ。



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 ここまでやったタイミングで、No.208パワートランスレス・ハイブリッドDCプリアンプが発表になった。AOCの出現後まもなく、読者でカップリングコンデンサーレスを実験してよい結果を得たという人がいる、との伝聞があったが、ここへ来てようやく本家のほうでもそれが実行されたわけだ。

 AOCの時定数を大きくしたことによる低域のゲインの上昇に関連して「717A真空管プリでもATRの時定数を大きくすることで低域ゲインを高められるはず」という言及がある。ただし「オープンゲインが高くないので効果は少ないだろう」との見解も示されているのだが、既に実施済みだった私の感触では、決してそんなことはありません、と言っておきたい。

 カップリングコンデンサーを排除できたことによる音質向上は、当然ながら目覚ましかったようで、記事の「本機の音」はいつもより格段に文章量が多く、金田先生の力の入りようが違う感じである。
 こうなると是非とも追随したいところではあるが、真空管プリの場合EQ出力にはDC60Vほどが出ているので、フラットアンプへの信号の受け渡しにはカップリングコンデンサーを介するのが必然となる。そもそも取り除くことはできないのだ。

 が、そこに生じるロスを、完全にではないにせよ「埋め合わせる」手段がないこともない…のを思い出した。



中川式イコライザー

 FIDELIXサイトが開設されて以来、中川さんはその「技術情報」のコーナーに、アンプ設計のノウハウに関わることを始めとして、とても興味深い情報を書き加え続けていらっしゃるのだが、初めのころの記事にRIAAイコライザー回路に関するものがある。

 「ちょっと工夫したRIAAイコライザー回路」として紹介されたその回路は、NFB式のRIAAイコライザーの高域減衰特性を作るCに繋がる帰還路を、低域端を決定するRへの帰還路と分けてカップリングコンデンサーの後から引いてくるというものだ。
 これにより、カップリングコンデンサーに音質的なロスがあったとしても、カップリングコンデンサーを出たところの信号がちょうど「本来あるべき信号」と相似形となるよう、アンプにそのロス分に対する補償的動作をさせるようにNFBが作用することになる。つまるところ、CERENATEやLB-4のリモートセンシングNFBと同様の考え方と言ってよい。
 低域のほうへ行くほどカップリングコンデンサーの前、つまりEQのDC出力のほうから帰還される成分が関与する割合が高くなるので、改善の度合いも少なくなるという理屈になるはずだが、高域が良くなると聴感上低域も良くなる場合が多いので、まんざら期待できないわけでもないだろう。
 カップリングコンデンサーを取り除かずに最高のパフォーマンスを求めるなら、この方式しかあるまい。

 もちろん、このプロセスが正しく機能するのはNFB素子のほうにロスがないことが前提である。中川式ではCをパラに接続する回路を採用して、Cの悪影響がより少なくなるようにしている。これを完全に真似るなら、パーツも新規の定数にして基板裏配線も大きく変える必要があるのだが、金田式のEQ回路のままでもひとまず配線だけ変更して試してみることができる。SEコンデンサーなら直列型回路でもクオリティは十分だろう。


 というわけで、EQ部の回路はこうなった。

 NFBの配線が少しばかり長くなるので、安定度の悪化も懸念されなくはない。ということで、位相補正のCは本来の5pFから少し増量した。10pFと20pFで聴き較べてみて、音の潤い感でオリジナルよりだいぶ大きめの20pFのほうを選択した。

 実際の配線の変更はNFBのCと直列に入っている発振防止の3.6kΩの抵抗の付け方をちょっと変えて行うのだが、位相補正の増量でこの抵抗値の低減も可能になるかも、というわけで改造のついでに気持ち減の3.3kΩに換えている(実は初めもっと楽観的に2.2kΩにまで小さくしたのだが、スクラッチノイズが大げさに目立つようになり失敗。パルシブな音にリンギングが乗るのだろう)。
 EQ素子の5100pFとパラの抵抗については以前にも書いているが、ちょっと前から再度微減していて、オリジナルでは820kΩであるところを390k+6.8k+330kΩの726.8kΩである。


 ちなみに、EQ素子を本来の中川式とするときはこのような回路になる。
 定数は初段のカソード抵抗の560Ωに合わせて決定することになるので、あまり融通は利かない。Cを2700pFと910pFにして、Rに820kΩ,120kΩを使うのでもいいかもしれない。780kΩのところはアンプのオープンゲインに関係するので、実際は調整が必要になると思う。



 ターンテーブルに乗っているレコードは、コルトレーンの“Blue Train”の仏盤。再々発の薄っぺらいヘナヘナ盤なのだけれど、案外伸びやかなよい音がして気に入っている。たまたまかもしれないが、英盤の薄いのにはあまりいい印象がなく、なぜか仏盤に薄くて音の良いレコードがよくある気がする。
 演奏中のカートリッジは大昔のSONYのシスコンの付属品で、空芯MC型ながら針交換が可能なものだ。DL-103と似たような出力レベルなのでK式プリでも使い易く、音が気に入ったので、交換針が入手できたのをいいことに、このところこればっかり使っている。

 私は、レコードの信号を物理的にピックアップするにはコンデンサーカートリッジが最も理想的だろうと思ってきた。のだけれど、この空芯MCカートリッジと今回改造成ったこの真空管プリで聴ける音は、別にコンデンサー型じゃなくてもいいんじゃ?と思わせてくれるほど十分に魅力的だ。これまでごく薄いベールが掛かっていたのが取り払われ、空間の見通しが一層クリアになった。キレがいいのにやわらかい、とても心地よい音だ。

 一連の改造で、音はより純度の高い方向に向かっている(もちろん「当社比」ですが(^^;)。と同時に、なんだか「真空管の味わい深さ」とか「WEのコク」などといった言い回しで語られる音からはむしろ遠離ってきているようにも思える。これは趣味的面白さの観点からすれば、いいことなのかどうかよく判らんところでもあるなあ。



理想コンデンサー(?)

 音の潤い感で選んだ位相補正の20pFだが、聴いているうちにいささか潤い過ぎのような気がしてきた。美音ではあるが、ときにその美音ぶりが大げさで不自然かとも感じられることがある。もう少し容量を減らしたほうがよさそうだ。
 手持ちには手頃な容量のものがなく、複数パラ使いもあまり気が進まず、某所で見かける15pFのスチコンを調達しようかと一旦は思ったのだが、ふと閃いた。そういえば使えるものが、所謂コンデンサーではないけれど、あるじゃん!

 というわけで、付け替えたのがこれ。 

 もとは何かの測定器に使われていたものと思われるトリマーバリコン。その大きさと、タイトのベースにある「T2-16」というプリントから、おそらく最大容量16pFと推察される。

 かつてのSTAXのプリアンプにCA-Xというモデルがあった。相当なこだわりをもって作られたアンプで、特異なコンストラクションは国産のオーディオ機器の中では異彩を放っていた。パーツも凝りに凝って、位相補正に使われたのが専用に開発された特製の「空気コンデンサー」であった。

 空気こそ理想の誘電体、と言われると、なるほどねぇ〜、とうなずいてしまう。自作派としては使ってみたいところだが、位相補正用空気コンデンサーなどというパーツはスタックスが自製したものの他にこの世に存在していなさそうで、残念ながら入手はまず不可能だろう。
 しかしこのトリマーバリコンも一応空気コンデンサーだ。STAXの無酸素銅削り出し円筒形電極のようにはいかないが、この大きさなら電極のフィンが鳴く心配はないだろう。可動構造ゆえの接点を持つことは唯一欠点となり得るだろうが、総合的には相当に高品質なコンデンサーと見てよいのではなかろうか。

 最終的には、写真の状態よりあと少しだけ容量が小さくなる向きに回して、目分量でだいたい12pFあたりとなる位置に調整した。その音はというと、余計な夾雑物の存在を感じない、ええ、まさに空気のような(?)音です。






その後のその後

 この項を前回更新したのはいつだったかと思って記録を見ると、2010年となっている。もう4年も前のことだったとは。なにやら時の流れが加速しているような気がする今日この頃…

 さて、この間にこの球プリはまた少し変わってしまっているので、ここいらで記録に留めておくとしよう、忘れてしまわないうちに。



 まずRIAAイコライザー回路。カップリングコンデンサーをNFBループに含めてみたことは既に述べたが、その後、完全に回路そのものも上で示した“本来の”中川式に変えてしまった。
 Cはすべて富士のスチロールコンデンサーである。SEコンからすればだいぶ安物化が進んだことになるのだが、Cが直列にならない回路であることもあってか、音のキレは決して負けていないし、デリケートな表現力も感じられ、私としては満足度は高い。

 ATRのCが角張ったものに変わっているのは、APS 0.22μFからジーメンスの1μFに替えたもの。MACというポリカーボネートフィルムコンである。

 容量増で低域の表現の更なる向上を期待したのだが、0.1μFから0.22μFに変えたときのような大きな変化は感じられなかった。うちのウーファーのレンジがほどほどであるせいかもしれない。悪くなった気もしなかったのでそのままにしている。



 K式では、石プリには必ず基板に電源のパスコンとしてフィルムコン(時期によってV2AだったりAUDYN CAPだったりAPSだったり)が載っていた。しかし球プリにはそれがなかったと思う。理由は音質的なことなのか、それとも回路動作上で何か問題でもあるのか。

 単純にあったほうがいいのでは?と思って、電源ラインの中継基板の空きスペースにASC X363の0.22μFをパスコンとして設置してみた。

 特に問題は起きていないようだし、僅かながら音はよくなったような気がするんですが、どうでしょうね。ま、私はこれでいきます。



 ヒーターおよびフラットアンプ初段負電源を受け持っている-20Vレギュレーターの、シャント側のトランジスタを2SC1014にしてみた。自作DACをやっている人たちの間で、このシリーズの三菱の石を電源に使用してよい結果が得られたという話があるようだったので、ちょっと試してみようかと。前に使っていたC2336を置き換えるのには定格もちょうどいいようだし。

 フィンは熱伝導シートを挟んでシャシーに固定するのだが、この石のフィンは根元のところで曲げてやらないとシャシーにぴったり張り付かないのが若干使い辛い。脚ピンは先のほうまで等幅の板状になっていて、ちょっと不思議。これでは基板に挿し難そうなのだが、どういう使い方を想定したものなのだろう?
 音のほうは、C2336のときとさほど大きな変化はないけれど、素直でさわやかな感じで、ちょっとよくなったと思えた。


 で、その-20V電源の大元の整流ダイオードに、ロームのSiCショットキーを採用した。(やっと最新金田式らしいものが登場した(^^;。)
 写真ではうっかりまだノイズ取りのフィルムコンが傍に付いたままだが、この後取り払っている。

 実はこれの前、しばらく富士のショットキーERC81-004を使っていた。以前のメタルキャンの1S1890は楽しめる音だったが、ショットキーはより個性の少ない感じで、それぞれによさはあったと思う。

 で、SiCが決定版なのかというと、正直「もう戻れない」というまでのことでもない、というのが私の印象。もっとも、電源の大方(高圧系)はWE412Aで整流している訳で、そちらが音に与する割合のほうがもともと大きそう…でもまあSiCショットキーの音のクオリティは確かに高そうだ。



 カートリッジからの入力を受け取る抵抗、これまでシンコーTAFの1MΩで落ち着いていたのだが、またちょっと気まぐれを起こして、ヴィシェイの箔なんぞを使ってみた。一般的には100ΩだがK式では560kΩという高い抵抗値とすべきところを、手持ちのは2kΩだったせいか、たいして有り難味のない音だったので、すぐ不採用決定。抵抗値だけでなく品種も結構音に影響することは分かっていたので、2kΩでもヴィシェイの音の特長が出たら、と思ったのだが、不発だった。

 例によってそのままもとに戻すのもつまらないので、PRPとかも試し、更に気まぐれでジャンク箱から拾いだしたスケルトン33kΩを狭いスペースに強引に付けてみたところ、あら意外、これなかなかいいじゃないですか。明るく活気のある音。

 という訳で、MCを受ける値としては普通のではなくK式でもない中途半端な感じだが、以来そのままになっている。そういえば、ここから初段管のグリッドへ繋がる100Ωも、スケルトン以外の抵抗を入れてみたことがあったが、鈍くくぐもった感じになってしまい、どうも思わしくなかった。スケルトン抵抗は何か不思議な抵抗である。



 それにしても、オリジナルのK式からはいよいよ離れてきて、“ちょっとDC”を標榜するのはもはや心苦しく感じられる状況ではある。今となっては、ほんのちょっとDC、くらいかな…(^^;。