SDCのNFB定数について考えてみた


 これがK式ADC前段のアナログ部、アンバランス-バランス変換部“SDC”の回路構成だ。この段の前に、おなじみの反転タイプのゲイン可変アンプが入る。
 正相出力-GND間に「出力のバランスを取るため」の1.1kΩが入っているが、つまりはこれがないと正相出力のほうの振幅が大きくなってしまうということだ。NFBの都合なのだろうが、それにしても不自然に思える。この1.1kΩなしでもちゃんと等振幅の出力が得られる回路定数を設定することは出来ないのだろうか?

…ということで考えてみた。

 このアンプの後にADCが来るので、ADCの入力の条件に合わせるため、2つの出力には約2.5VのDC電位を与えなければならない。NFBの回路定数は、その条件でアンプの+入力と-入力が等電位(2.5V×1/(1+1.2)≒1.14V)となるよう設定されている。DC的にはこれで辻褄が合っているが、1.1kがないとAC出力はアンバランスになるということだ。


 では、ちょっとNFBの定数を検討してみよう。話の流れをスムーズにするために、正相出力から-入力へのNFBを設定している1.2kΩと1kΩを基準にして考えることにする。
 ここで、まず正相出力にはこれらを直列にした2.2kΩが負荷としてぶら下がっていて、-入力には正相出力振幅の1/(1+1.2)が加わることが分かる。

 なら、とりあえず、ということで逆相出力にも負荷として2.2kΩをぶら下げてみよう。これはもちろん+入力への帰還抵抗(の一部)でもある。

 さて、この2.2kΩの他端(A点)はAC的には電位が変化してもらっては困る。変化するのだったら負荷が2.2kΩにならないからだ。よって、A点をそのまま+入力に繋げるのではない。
 では、+入力はどういうことになっているのか。

 アンプのオープンゲインがほぼ無限大であるものとして、回路全体は「2つの入力が『イマジナリーショート』すなわち同位相等振幅となるように動作する」はずだ。
 ということは、正相出力と逆相出力が互いに逆位相かつ等振幅で振れるときに、+入力には振幅が逆相出力の1/(1+1.2)で、位相が正相の信号が入力されている必要がある。


 だったら、A点と+入力を2.2kΩの1/2.2である1kΩで結べばよいことになる。
 これで、もし+入力にAC1Vが入力されたら、A点の電位は動かずに、逆位相の2.2Vが逆相出力側に、同位相の2.2Vが正相出力側に現れ、-入力にはやはり+入力と同位相の1Vが帰還される、ということで辻褄が合う。
 つまるところ、+入力と逆相出力間に入る帰還抵抗は、-入力とGND間の抵抗値の2倍に、‐入力と正相出力間の帰還抵抗の値を加えた値になるということだ。ここでは(1k+1k+1.2k)Ω=3.2kΩということになる。もちろんこれは1個の抵抗でよく、A点が実体として存在している必要はない。


 ところで、R_inの役割だが、もし2つの出力のDC電位が0Vなのであれば、この値は(アンプの安定性への影響などについての議論は別にして)とりあえずなんでもよいことになる。

 K式ADCのように2つの出力に2.5Vのオフセットを与える必要がある場合は、

R_in : (1k+2.2k) = 1k : 1.2k

であればよいわけなので、R_in=2.667kΩとすればよい。そして、A点がAC的には0Vとなるように回路が振る舞うのであるから、入力インピーダンスは(2.667k+1k)Ωとなるはずだ。




 つまるところ、

 …ということになっちゃったんですが、如何なものでしょうか。この考え方に従って定数を設定し、シミュレーションソフトで試してみたところ、どうやら一応それらしく動作するようではあります。

 これが正しいのでしたら、今までの差動出力パワーアンプのNFB定数も考え直したほうがよさそうに思えますが、なにせ素人の遊びです、識者の方のチェックを乞いたいところです。




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