CP-Xの同窓会

 CP-Xのページを作るために、久しぶりにPOD-XEを引っ張り出して埃を払ってきれいにした。パネル面など、ウェットティシュで拭いてみるととかなり汚れている。何年もほったらかしてあったから無理もない。ピンジャックなどの端子類の金属部分は何もしなくても空気中のイオンとの作用でなのか、いつの間にか汚れを集めているので、よく拭いて微量のスクアランを染み込ませた綿棒で仕上げをする。内部の写真を撮るため外してあった真空管も装着する。手持ちで程度のよい12AU7はBRIMARのものとMullardの12AU7-10Mがあったが、より音のよい後者は電極のサイズが小さめであるせいか電極間容量が通常のものと異なるようで、どうもPOD-XEの高周波発振回路とは相性があまりよくない。よってごく一般的な形状のプレートを持つBRIMARのほうを採用。外れていたチューニングメーターも定位置につけ直すと、そこそこ凛々しい姿が戻った。

 ここまでやったら懐かしくなってCP-Xの音を聴いてみたくなってしまった。
 SP-10改プレーヤーシステムのUA-7トーンアームのパイプをCP-X用のものに交換。CP-Xを装着すると、さすがに軽い。バランスウエイトはずいぶん前に出る。こんなに極端な位置だと針圧の目盛りにだいぶ誤差が出るのではないか。
 バランスを取って、針圧をかける。ひとまず長いこと振動していなかったカンチレバーを目覚めさせねばならないかと1.5gをかけておく。標準針圧はたったの1gだ。このくらいの値は後のハイコンプライアンスMCには珍しくはなかったが、当時としては極端な軽針圧だ。あわせてインサイドフォースキャンセラーもごく軽く利かす。PODの電源を入れてしばらくウォームアップ。ウレタン蒸しの電源トランスはちょっと唸っている。B電源は半波整流なのでやむをえないところか。梱包用の気胞付きビニールシートを適当に切って下に敷く。準備完了。

 金田式SP-10だとモーターを回してもトーレンスのときのようにCP-Xがノイズを拾うことはない。快適だ。しかし、久々のPODの調整がなかなかぴったり決まらない。適正な動作点をつかむコツを忘れてしまっている。しばし調整を繰り返して、ようやくチューニングがとれた。
 さて、久しぶりに鳴らすCP-Xの音はどうだったか。Van Morrisonなどをかけてみる。

 むむ…ちょっと抜けきらないような…。

 DCアンプの音にすっかり馴染んでしまった耳には、単電源の旧式回路ゆえ入出力双方にカップリングコンデンサを備えるPOD-XEの出力アンプとの性能の差が聞こえてしまうようだ。それに長いこと通電していなかったから、ケミコン類だって長い休暇で仕事を忘れているに違いない。全体に音が詰まり気味だ。無信号状態でボリウムを上げると、プスプスという音が聞こえる。これは手に入れたばかりのころもそうだったが、おそらく基板の湿気のせいだろう。低音がちょっと多いということもある。これは実は検波部送り出しのカップリングコンデンサが0.047μFのところを0.1μFの丸型V2Aにしているせいだろう。CP-X用のイコライザー定数はこのカップリングコンデンサの容量も含めて設定されているので、これだと若干低域が過剰になる。ただ、以前のプレーヤーではこれで聴感上のバランスはとれていた。プレーヤーがSP-10に替わって低域の再現性がよくなった結果、アンバランスが露呈した形だ。それと針圧を重めに設定したことも影響しているに違いない。
 昔憧れていた人が、同窓会で再会したら冴えないオバチャンになっていた、みたいな感じで、思ったより感動がなくてちょっとがっかりした。

 しばらく通電したままほっぽっておき、翌日またJazz at the Pawnshop IIなど聴いてみた。今度は針圧を減らし、規定針圧の1gにしてしまう。考えてみるとウエイトがだいぶ前だから、この位置でも1gよりは重めになっている可能性がある。やっぱり針圧計を買っておくんだったな。カートリッジ先端の安定用ブラシは盤面から浮いている。発振・検波の動作点が少しずれるので、PODを微調整して合わせる。
 そうして聴いてみると、ん、イイ感じ…昨日より躍動感が出てきた。低域過剰はボリウムを絞ればラウドネス効果となってとりあえずバランスがとれる。DCアンプほどではないが、なかなか生々しい音になっている。ただし、繊細感はあるものの、ちょっと最高域が分解しきれていない。これはやっぱり都合3個はさまっているカップリングコンデンサや旧式な出力アンプがボトルネックになっているものと思われる。へたった針のせいもあるだろう。でもトレースは安定している。ボリウムを上げても、例のプスプスいう音は目立たなくなっている。熱で湿気が飛んだ、と解釈しておく。

 さらに次の日、オーケストラを聴いてみる。インバル指揮マーラー第4番、これってデジタル録音なんだよな。いわゆるオーディオ的な音のレコード。ストリングスが艶やかでしっとりと耳に心地よい。ティンパニが軽々しく鳴っている。低弦も薄い。低域が過剰と書いたが、オーケストラを聴くと超低域までは出ていないことがわかる。これは出力コンデンサが0.47μFしかない(オリジナルでは0.33μFだった)ところを20kΩで受けているせいだろう。以前使っていたときは50kΩで受けていたのでもう少しましだったと思う。これが現役だった時代は、大概のアンプのライン入力インピーダンスは100kΩとか250kΩとかだったはずだ。セレクタ付きボリウムボックスで受けるなんていう使い方はなかった。

 4日目、スーパーアナログディスクでボスコフスキーのニューイヤーコンサート1977を聴いてみた。おや、昨日とまた印象が違う。ひとつひとつの音が際立ったオーディオ的な音ではないけれど、いかにもコンサートを録音しました、っていうライブ感のようなものが感じられてとてもいい。DCアンプより生っぽさがありそうだ。ちゃんと空間情報を再生しているのか、それともわずかな曇りがかえって想像力をかき立てるのか? 客席からステージまでの距離感みたいなものが出てくる。ここでは低域のバランスにも気になるところはなく、ティンパニもちゃんとそれらしく聞こえる。抜けきらない、という感じが消えたわけではないけれど、実際にコンサートに行って聞ける音というのはそんなオーディオ的な音ではない。むしろこういうのに近いんではないか。これはソースとの相性がよかったな。音質がどうのというより、まとまりよく活き活きと聞こえる。
 気を良くしてもう1枚ライブものを。OLD AND IN THE WAYというブルーグラスのアルバム。愛聴盤です。マルチマイクだけれど、素人の録音で変な細工をしていない。人の声が自然。弾むバンジョー、マンドリンがコロコロ、フィドルがうねる。これもいいなあ、雰囲気抜群だ。

 調子が出てきたところで一応の判断を下すなら、これならPODのケミコンを新しくして、出力アンプももっとグレードの高いものを載せれば、今でも十分イケそうだ。もちろんノスタルジックな音を愛でるのではなくて、真にHi-Fi志向の意味合いで。やはり旧い製品ではあっても高周波変調式コンデンサー型の基本的な素質には見るべきものがあると思う。もっとよい電源と素性のよい出力アンプを用意すれば、DL-103+DCプリに負けない音を聞かせてくれる可能性がある。

 Rコアの電源トランスを特注し、真空管のヒーターは定電流点火とする。発振・検波部の電源にはレギュレーターを入れる。電源のケミコンはネジ端子品としたい。電源部は新しい筐体を用意することになる。出力アンプ部は正負2電源にして金田式完全対称型FETプリアンプのフラットアンプを使う。出力アンプの規模が大きくなると、本体の筐体もいっそもっと大きいものにしてしまうか。それなら真空管DCフラットアンプでも積める。イコライザー回路はもっとシンプルにしてCがシリーズに、Rがパラにならないように構成できる。思い切ってSEコンデンサを投入すれば…
 というように、いろいろと改造計画が浮かんでくる。うーん、やってみたい。交換針の供給さえ目処が付くならすぐにでも取り掛かりたいところだが…。


後記:
 その後さらに5日ほど聴き続けているが、日ごとに音がよくなって、もうかなり鮮度感のある音になっている。出力アンプの古さをあまり感じなくなってしまった。ますます良好です。
 
旧式回路の出力アンプは完全には抜けきらず微妙にもどかしい感じがあるのは相変わらずだし、金田式GOAEQアンプの分解能には及ばないのも明らかで、つまりあんまりオーディオ的な音ではないのだけれど、それなのに なぜかDL-103+金田EQアンプでは聞こえないニュアンスというかタッチというか微妙な雰囲気というか、「音色」というのとは違う妙に生々しさを感じさせる「情報」が聞こえてくる。これ、何なんでしょう。
 CP-X本体もPOD-XEも、普通の電磁型のカートリッジ・EQアンプと違ってマイクロフォニックノイズを拾う。これが影響して、かえって余計な響きみたいなものを付け加えているのがたまたま都合よく音に実体感を与える方向に聞こえているのか?などと思いもする。けど残響や付帯音という感じでもないし…。
 
もしかしたら、時間が経ったので私の脳に「この装置に対応した聴覚信号処理回路」が再形成されてきていよいよよく聞こえるのかもしれない。そういうことって、けっこうあるのではないですかね。でもそれでは他の装置では聞こえないことの説明にはならないな。
 というわけで、これこそコンデンサー型の威力なのだ、と言ってしまいたいところですが、やっぱし安易ですかね(^^;