WM-D6のDCアンプ制御を試みる

やっとお呼び…

 なかなか活き活きした音を聞かせてくれるWM-D6なのであるが、どうもこのところもうひとつテープ走行に安定感がない気がしてならない。再生音に頼りなさを感じることはままあるし、場合によっては回転むらも聞こえてくる。
 これで録音したものをこれで再生してみると、本来ならばアジマスがぴったり合っていることの有利さが効いて音は最高なんではないか、と思いきや、最近はなんだかいっそう回転むらが目立ってしまい、心安らかに音楽に浸れない。たぶん同じパターンの回転むらが2重に加算されるせいだろうと考えられるが、やっぱり古くなってくたびれてきたせいなんだろうな…(--)。

 となれば、いよいよ「あれ」を持ち出すか(・_・)。

 というわけで、いよいよというか、今ごろというか、出てきました。
 作ったのはいつだったっけか。ターンテーブル制御システムを作ったのよりも5,6年ほどさかのぼるだろうか。それよりさらにはるか昔、不動品のWM-D6を入手、カセット録音システムを作ろうとして、挫折。うまくいったモーター制御部だけを独立させて作り直そうと思い立って作った「WM-D6用モーター制御システム」である。
 制御基板とドライブアンプ、そして制御部用レギュレーターをケースに収めたものである。このような構成は単行本に発表されたオープンリール用のキャプスタンモーター制御システムを参考にしたものだ。

 とりあえずこれを作っておいて、後で再生アンプと録音アンプをそれぞれ作ることにしよう、という魂胆だった。しかし、カセットテープ再生にあんまり情熱を持っていなかったんでしょうなぁ…録音の機会のほうもなかなかなかったし。ということで、モーターがちゃんと制御できることを確認しただけで、その後何の進展もなくただ眠らせていただけだった。
 電源はもちろん電池で±9V。+側は単2、−側は単3がそれぞれ6本ずつである。これは実は今回電池ボックスを使うために改めた部分で、当初は+側は単2をハンダ付け配線して+6Vを作り、これをドライブアンプの終段に供給、そしてこれに単3の3Vを積み重ねた+9Vをそれ以外の全体の電源としていた。
 金田氏がドライブアンプをオールメタルキャンで構成したターンテーブル制御システムを発表した後だったので真似したくなり、ご覧の通りモータードライブアンプにはまだ入手難ではなかったA606/C959を気前よく投入。ただし、このドライブアンプはオープンゲインで使うので、これだとモールドTrよりもゲインは小さくなるはずだ。ちょっと気になるところだが、制御量調整VRの回転角が大きくなることで釣り合いは取れる、のではないかな、と。電源の±5Vのレギュレーターも贅沢して金田式。これは更に昔に作った基板を流用したらしく、裏の7本撚り線の配線パターンがだいぶヘタクソだ。どの基板もSEコンを使うべきところは例によってディップマイカやら有り合わせのパーツで誤魔化してある。このあたりはどうも方針がバラバラですな(^^;。

 久々に電源をつないでみると、レギュレーターの出力電圧がちと高く、5.7Vほどある。調べてみたら誤差アンプ入力部の抵抗が一部本来の定数と異なっていた。たぶんこの頃使っていたデジタルテスターの表示を信じて調整したのだろう。そのテスターというのは、最近買った新しいものと較べたら電圧表示が1割ほども低めに出ることが判ったため校正に出したやつだ。たぶんあの頃もう低めに出るようになっていたんだな。
 ICの耐圧は十分なのでこのままでも大丈夫だが、電池の寿命の面では不利になる。そのうち正規の定数に戻してやるとしよう。


WM-D6をそおっと改造

 この完動品のWM-D6の回転系をこの制御アンプを使ってDCアンプドライブし、アンプ部はオリジナル機のまま使ってみることにする。それならちょっとした手間でできるし、いざというときは復旧するのも簡単だ。
 A,Bと2つあるヘッドフォンジャックのAのほうを外して、ドライブ用のケーブルを引き出すことにする。金田氏指定のソニーのケーブルは手持ちにないので、FG用には本体内部にかろうじて引き回せそうな太さのモガミの2520を、そしてモーター用には10色フラットケーブルをばらしたものを使うことにした。これではモーター用には細そうに思えるかもしれないが、モーターから出ているリード線はさらに細い。この太さでもケース内にさして余裕はなく、フライホイールに擦れないよう場所を選んでケーブルを這わせる.

 さて、実際にテープを走らせて音を聴くのは初めてである。期待に胸躍らせて、PLAYボタンをON!

 おおっ…というか、音、震えてるが…(・・;。
 バイオリンや、ギターの高弦、フルート、女声などでかなり「プルプル」が耳につく。なんじゃいこれは、オリジナル機より悪い。もっとも、モーターの音だけ聴いて調整した状態だったから、ちゃんとなってなくて当たり前ではある。やはり最初からきちんとやらねば、ということで、まじめに調整し直しだ。

 ヘッドフォンで聴きながら調整中。電池はハンダづけで連結するのがメンドウなので、電池ボックスを使っている。とりあえず有り合わせで品種バラバラ、しかも単2のほうは製造年のかなり離れたものを混ぜごぜ(^^;。


調整すれども…

 単行本にはオシロスコープを使った調整方法が示されているが、とりあえずメンドクサいので(あんまり“まじめ”じゃないな(^^;)、その主旨に沿った手順で試みることにする。つまり制御をかけない素(す)の状態でのテープ速度を正規の速度より若干速めにしておいて、そこに適量の制御を加えるというものである。
 フラッターが出ているが、一応制御がかかって規定の速度は得られているので、これをもとに若干音程が高くなるように、制御量を0にしてドライブアンプのオフセットVR(以下「速度VR」)を操作する。この状態から、徐々に制御VRを回していくと、ちょっとモーターからゴワゴワした音が聞こえ始め、回転速度が低下し始める。制御がかかりそうで追いつききれない状態。それを過ぎるとふっと回転音が軽やかになる。さらに回すとまたゴワゴワ、ぎゅわー、グゥゥゥゥ〜というような苦しげな音。制御が過剰な状態だ。
 これからすると、その最も回転音が静かになったときが最適制御の状態と思うだろう。単行本にもおよそそのように書かれている。が、ここで音を聞いてみると、やはり回転むらが聞こえてしまうのだ。
 ヘッドフォンで音を聞きながら、もう少し制御VRを回す。と、音がカチッと締まった感じになり、回転むらもあまり感じられなくなるポイントがある。むう、このへんだな、と満足してヘッドフォンを外してみると、なんとモーターは僅かに「くぅ〜」と唸りながら回っているではないか。う〜ん、音がよくてもこれじゃああんまり気持ちよくなさそうだよなあ…。ひょっとしてこの個体が悪いのだろうか?

 それなら、と、調整手順を逆にしてみた。制御VRのほうをだいたい適正と思われる位置にしておいて、速度VRのほうを調整してみることにしたのだ。
 金田氏の作例の写真を見ると、制御VRは概ね9時のちょっと手前の位置で適正な制御がかかるようだ。オリジナルではLF398Hからの出力を1.5kΩの抵抗と500Ωの半固定VRをシリーズにして分圧して制御信号を取り出しているが、私のはここを1.8kΩ+200ΩVRにしてある。ということは、これだと適正制御状態はだいたい10時くらいの位置になるだろう。
 制御VRをこの位置にしておいて速度VRを回してみる。めいっぱい左だと、もちろんモーターは止まっている。そこから回していくにしたがって、ゆっくりモーターが動き出すが、最初はやはり「ゴワゴワ」が聞こえる。制御が働こうとするが効果が追いつかない状態。もう少し回すと、モーターは静かに規定の速度で回転する。さらに少し回すと、僅かに「くぅ〜」という振動が聞こえ、そこを過ぎるとまた一瞬静かになり、次にはまた「ぐぐぐぐぅぅ〜」とモーターの力が過剰の状態に到達する。ということは、なんと、静かに回る区間が2つあるではないか。便宜上、初めのほうを「下の区間」、後のほうを「上の区間」と呼ぶことにしよう。ただ、「上の区間」のほうは極めて幅が狭い。
 2つの静かに回る区間を隔てる僅かに唸りが聞こえるところで音を聞いてみると、意外にちゃんとした鳴り方に聞こえる。ここで制御量を0にしてみると、テープは正規の速度にごく近い速度で流れているではないか。な〜んだ、つまり、前に記事の方法に沿った手順で最も音がよくなるように調整ししたらモーターが唸っていた、と言ったのはちょうどほぼこの状態だったわけだ。
 制御VRを適正なはずの位置に戻し、今度は音を聞きながら速度VRを回してみる。これで判ったのは意外にも、モーターが静かに回る2つの区間ではともに前述のような性格の回転むらが多く感じられる、ということだった。結局のところ、モーターから「制御がかかっている音」が少しは聞こえてくる状態でないと安定した回転が得られない、ということのようなのだ。

 もしや、と思って、旧方式(サンプリングパルスをクロックでなくFGから取る)を試してみた。私が最初にWM-D6のモーター制御に成功した(と思われた)のはこの方式でのことだった。テープの再生音は聴いていないが、モーターの回転の様子だけなら今回よりも制御がスムーズにかかっていたような印象があったのだ。
 はたして、動作音はスムーズな感じだったが、再生音はどうもサンプルパルスをクロック由来とした場合ほどキレがよくないような気がする。問題の回転むらに関しても明確なアドバンテージはなさそうだったので、結局もとに戻す。

 う〜む、どうもはかばかしい結果が得られないんだが…(悶)。


古いものがヨイ?

 制御回路出力の加速コンデンサの容量を変えてみたりもしたが、どうも根本的な解決にはならない。万策尽きた感じだ。あと思い当たるとすれば…そんな、ねぇ、まさか、ねぇ…とはいうものの、やはり疑わしきは試してみんといかんなあ。
 というのは、実はしばらく前にフライホイールブロックを新しいものに交換しているのだった。新しいと言っても、少しの間D6Cに使っていたものである。ほどなくこのD6が手に入り、こちらのほうを使うことがほとんどになってしまっていたので、その新しいフライホイールブロックをこっちに移し替えたのだ。
 さすがに新しいフライホイールブロックの威力は歴然で、回転音が非常に静かになり、気分としては実に快適だった。だが考えてみると、ときどき回転むらが気になるようになったのはそれ以降だ。ゴム部分は真新しくしなやかだし、実際に静かで滑らかな回転の様子を見れば、これが回転むらの原因とは考えにくい。
 が、しかし、この際一応もとのフライホイールブロックに戻すということもやってみておこう。なにせもう手詰まりで他にすることもない。

 WM-D6の動力部周辺。モーターがゴムの貼られたフライホイールディスクを直接ドライブ。

 このフライホイールブロックというのは、言うまでもなくテープ送りの要の部品だ。モーターの力は直接このフライホイールに伝達される。フライホイールにはゴムが貼られており、モーターの軸に取り付けられたテーパー形状のローラーがこのゴム部分に押し当てられてフライホイールを駆動する。そしてフライホイールの軸がキャプスタンそのものである。同軸に、テープ巻き取りの動力を取り出すためのベルトが掛かるプーリーと、FGのフェライト磁石ローターが組まれているので、部品としての名称は「フライホイールブロッククミ」となっている。
 カセットデンスケTC-D5もそうらしいが、WM-D6のこのようなドライブメカは「ディスクドライブ」と称される。これを“DD”と略すものだから、かつてのウォークマンDDなどはダイレクトドライブであると勘違いしている人がときどきいた。どうも狙ってネーミングしたっぽい。

 フライホイールブロックを交換すること自体はそれほど難しくはない。裏蓋を開けて基板を外し、キャプスタン軸を支えるスラスト軸受けの金具を外せばそれでフライホイールを抜き挿しできる。ただし、この金具にはプレイボタンを引き戻すバネも掛かっているので、ちょっと要領はある。
 キャプスタンの軸方向に出るガタには適量があるのだろう、スラスト軸受けの位置はマイナスのドライバーで微調整できるようになっており、ロックペイントされている。もとの状態では、だいたい1mm弱のガタがある感じだった。

 フライホールブロックASSY。左側のFG用ローターが白っぽいので古そうに見えるが、実はこちらが新しいもの。写真では分からないが、ゴム部分を肉眼で見れば誰でも判断がつく。

 フライホイールブロックを取り去ったところ。フライホイールディスクをドライブするためのテーパーのついたローラーがモーターの軸の先にあるのが判るだろう。キャプスタン軸穴周囲の円盤状のものがFGのステーターだ。

 さて、フライホイールブロックは交換した、というか古いのに戻した。古びてガタが出た感じの、ざらついた走行音が帰ってきた。あんまり嬉しくないが、回転むらのほうはどうか…

 これは…、まずまず、なのではないかい?
 回転むらが皆無ということではないが、改善の傾向。う〜む、しかし、新しいパーツのほうで問題があるとはどういうことだろう。新しいフライホイールは品質管理が雑になってゴムの整形にむらがあるのだ、なんていう話はウケそうではあるが、ちとウソ臭い。まあまあ、せっかくの制御システムが使い物にならないのかと思ったが、これでやっと少し息ができる(^^)。
 オリジナル機の制御もクォーツロックのPLLなのだが、VRで速度が可変になっている融通の利く制御だ。金田式は規定速度に是が非でも合致させる、かなり強引な制御。もしかしたら、新しいしなやかなゴムが制御系の振動の原因になっていたとか。

 まあリクツはともかく、ひとまず実用になりそうな感触が得られたことだし、改めて制御部の調整を行うことにしよう。ひょっとして、これなら金田氏の書いていた通り、回転音が最も静かになるように調整するのがベストなんではないか、と。
 素の状態での回転速度は規定の速度よりほんの少し速い程度にして、制御量を少なめに、本当にモーターが最もストレスなく回っている感じに調整して、期待して録音・再生を試みた。ら、あらら、これはいけない。ピアノなんかだと、もはや気をつけて聴くまでもなく全然ヨタった音だ。この場合は特定のパターンのフラッターではなくて、回転が安定していないことによる音のふらつき。順方向のみの回転機構しかない安物のヘッドフォンステレオがあるでしょう、あれで再生したみたいな情けない音。ダメだこりゃー(--;。


使えるものは使うべし

 横着を決め込んで聴感と山勘だけで調整しようとするものだから手間取るわけで、オシロスコープを持っているんだから使えばいいんだよね。普段は片づけてあって引っ張り出すのがメンドウという、ただそれだけのことなのでした(^^;。重い腰を上げて、ヨッコラショと持ち出してまいりました。

 写真のオシロの画面で、上側の矩形波がFGパルス、下がクロックパルスである。といってもクロックパルスはシミみたいなほんの小さな光の点なので、この写真だと単なる一本線にしか見えないが。
 金田氏の指示の通り、まず制御をかけない状態でFGパルスの周期が780μsくらいになるように速度を調整。テープは規定よりもけっこう速く回る。制御VRを回していくと、じきに定速にロックする。FGパルスの周期は923μs(写真はこの状態)。
 やはり聞いて感じた通り、回転音が最も静かな状態ではクロックに対してFGパルスのぶれが甚だしい。すなわち回転むら甚大。まさしく文字通り一目瞭然で把握できる。

 もう後は波形のぶれがいちばん少なくなるよう制御量を調節するだけだ。こりゃ耳で聞くよりもずっとやりやすいわ。最初から使うべきだな、オシロスコープ(^^;。
 さて、それではFGパルスが最も安定した様子を見せるときの制御VRの加減とはどんなものか。VRを回していくと、FGパルスはいよいよクロックパルスに接近し、ぶれも少なくなっていく。だいたい10時くらいのところでイイ感じになった。
 最適制御ではFGパルスがクロックに対して40μsほど進んだ状態になるということだが、私のこれはもう少し短くて35μsくらいだ。FGパルスのぶれはだいぶ少なくなって、ほら、アニメーションでよく静止している絵なのに輪郭線がふるふると揺れているのがあるでしょう、一枚一枚、線をフリーハンドで描きなおして、止まっている絵にも活き活きした感じを出している、あんな感じ。これぞアナログ(?)。
 ところで、こうして見出した最良ポイントというのは、結局のところいちばん最初に聴感で調整したときとほぼ同じで、モーターからは少しばかり「くぅ〜」という唸りが聞こえてくる状態なのだった。いかにもモーターが強制駆動されているという感じの動作音なのだが、結局のところ聞いても見てもこの状態がベストなのだからしょうがない。D6の固体によって若干の差はあるのかもしれないが、こんなものなのだろう。
 そういえば、あまり関係ないが、だいぶ前に某国立大学の工学部内を見学させてもらったことがあった。実験設備の小型の風洞が稼働中だったのだが、その送風ファンのモーターがちょうどこういった種類の音(もちろん遥かにうるさい)をたてて回っていた。いろんな速さの風を発生させなければならないからファンの回転速度は当然可変式だ。速度をある程度確実に制御したらそういう音が出てしまった、ということなのだろう。

 問題の回転むらは自己録再でも目立たなくなった。ピアノの音もちゃんと音程が一直線に保たれる。注意して聞くと、高い音の一部の帯域で少しだけフラッターが聞こえることもあるが、新しいほうのフライホイールブロックを使ったときよりはずっと軽いレベルだ。強いてアラを探すような聴き方をしない限り、音楽に浸るのを妨げることはない。だいいちもう調整もこれが限界なのだから、気にしても健康によくないだけだ(^^;。

 さて、やっと「本機の音」について述べ得るところまでたどり着きました(^ε^;ヾ。アンプ部はオリジナル機そのものであるにもかかわらず、このしっかりした表情はどうだろう。どっしりと安定した低音、すっきり冴えた高音。モーターの回転音には拘束感が感じられるのだけれど、再生音にそんな感じはまったくない。むしろ伸びやかで晴れやか。音の空間が拡がり、見通しがよくなった。やはりこれでいいのだ。
 とはいえ、だったら市販の高級デッキよりも凄いのか、と問われれば、迷わず「んなこたぁないだろ」と答えるしかないのではある。鏡面のような滑らかさとまでは、やはり行かない。もっと物量を投入した、がっしりした走行系を持った重量級デッキのほうが、本質的には優れていると思う。
 やはりこのシステムは、その機動性を活かして(録音アンプとセットで)生録に連れ出してこそ意味があるのだろう。ま、今の私にはそんな機会は持てそうにはなくて、当面はこれで友人から送られてきたテープ(彼が発掘した「聴くべき」レコードやCDを単にダビングしたもの)を聴くだけだろう。ちょっと寂しいところではあるが、それでもテープを聴く楽しみは増したかな、と(^^)。





< 第 2 部 >

穴があったら…(^^;;;

 その後思えてきました。どうもねえ、やっていることに対して過剰なのではないかと。いや、このモータードライブアンプのトランジスタのこと。走行抵抗が変わるせいだろう、使うテープによって制御が適正量からずれるような様子も見られ、思ったほどの動作安定性は得られなかったし、レコードやCDからダビングしたテープを聴くだけのことに、なにも貴重なメタルキャンタイプを使うほどのこともないわなぁ…。

 んじゃま作り直すか、とNo.171のターンテーブル用ドライブアンプをもとにして新アンプをこさえてみることにした。ただし、終段は従来通りゲインを持たないタイプとする。初段も高価な2N3954はやめて2SK30ATMにして、なるべく安上がりに構成しよう。No.171同様、初段のカスコードは無し。金田氏の最初のWM-D6用ドライブアンプもそうだった。ただ、2SC1775のところは2SC1399で全面的に置き換えることにする。どうせならちょっとでも音がよさそうな石を使ったほうが気分がいいからね、まだ安価に入手できることだし。電源のパスコンは、V2Aがもったいないからニッセイのポリプロピレンでよし、と。

 というわけで、おもむろに部品箱をほじくり返し、足りないパーツは発注し、基板をカットし、しばらくぶりに7本撚り線をこしらえて、それほどワクワクするでもなく、淡々と製作にとりかかる。

 最初の頃はこの程度のことでもかなりエネルギーを要したけれど、今ではことさら肩に力が入ることもない。基板パターンを配線しながら、う〜む、俺もけっこう上達したなあ(#^^#)、なんていい気分で製作に勤しんでいたのだったが…

 「あ…」

 基板のパターンを眺めていて、突然雷に打たれたかのごとくカラダが固まってしまったのだった。
 今になって気がついた! 前のドライブアンプ、基板裏の抵抗を1本配線し忘れているじゃあ〜りませんかぁっ!

 ここからここに抵抗を配線するんだよな〜、と想像しているうちに思い出してしまった忘れ物、というのは終段のドライブ抵抗だ。2段目の電流出力を対アースで電圧に変換して終段をドライブする。なくてもアンプとして動作してしまうが、これを忘れていたのではそもそも金田式GOAにならない。
 どうも制御システムの動作の安定性が思わしくなかったのは、これが大きな原因である可能性が大だ。いやはや、まことにお粗末なことで〜(自己嫌悪m(. .;m)。

 落ち込んでいてもしょうがないので、ここはよいタイミングで新しいドライブアンプを作ることを思い立ったことをこそ喜ぶことにして、古いアンプのことは忘れよう。金田式に取り組む者には前向きな姿勢こそ相応しいではないか〜(爆)。

 明かりに透かしてパターンのチェック。

 気を取り直して(どうも気を取り直さねばならんことが多いな(^^;)、製作を続ける。配線もひとまず終了して、終段のアイドリングを調整するが、なぜか400mAもの大きな電流が流れる。なんと仮付けしたバイアス調整VRを外してしまっても電流は小さくならない。さては、とドライバーのC959を交換したらあっけなく解消した。ジャンク箱のを再利用したC959が壊れてしまっていたのだった。

 バイアス調整用の抵抗値は結局0Ωで終段アイドリング電流が約11mAとなった。少なめだが適正範囲だろう。使用時はモーターに定常トルクを与えるためにオフセットを発生させるが、そのための半固定VRを初段正電源側に入れている。NFBをかけてのオフセット調整もスムーズにできた。

やはりジタバタ…

 さて、ドライブアンプはひとまず完成したので、さっそくNFBは外し、終段負側電源は指定通りアースに繋ぎ直し、ケースに組んで動作確認である。
 やはり正しく作ったものは安定して制御がかかる。前回で実際の制御の様子は把握したから、今回はオシロを持ちだすまでもなく、スムーズに適正な制御がかかった。回転も安定し、走行音も静かで音の揺れも問題ない。
 やはり前回のアンプでは、対アースドライブ抵抗を忘れていたのが決定的にまずかったのだろう。これがないとほとんど普通のOPアンプのような回路である。hFEの小さめなメタルキャンTrで構成されているとはいえ、ドライブアンプとしてオープンゲインで使用したのではゲインが高くなりすぎるはずだ。制御が不安定になっても不思議はない。

 一息ついて、テープを聴く。スムーズで伸びやかないい音だ。やっと安心してテープが聴けるようになった。
 といったんは思ったのだったが、なんと、他のテープに換えると動作が思わしくない。相変わらずテープの種類で制御がちゃんとかからないことがあるのだ。古いAD46をかけてみたら、制御が外れて回転が速くなってしまった。近年のmaxellの安い90分では回転が重くなって制御がぎこちなくなる。やはりテープの走行抵抗の違いによって、制御の適正量が変わってしまうのだろう。
 さて、困った。私の場合、聴きたいテープはいろいろある。DC録音のように、特定のテープ限定というわけにはいかない。どんなテープでも安定して制御できるようにはならないものなのか。

 下は今回製作したモータードライブアンプの回路図である。図中の赤い※印の抵抗(つまり前回忘れていたやつ(^^;)は、オリジナル機では2.7kΩが指定されている。これは、ほぼ同等の回路である他のGOAパワーアンプと較べ、かなり小さい値である。この値の意味はなんだろう。

 このアンプは2段目までで定電流アンプを構成するが、その電流出力をこの抵抗で電圧に変換し、終段をドライブしている(そういえばMJライターのY氏はこの見方に異を唱えていたが、電流出力という発想を理解していなかったのではないだろうか)。ドライブアンプにもゲインの適正値が存在するはずだが、このアンプはオープンゲインで使用されているから、NFBの定数でゲインを調整するわけにはいかない。そこで、この抵抗の値によってゲインを適正値に設定しているのだ。おそらく2.7kΩという値は、金田氏が実験によって割り出したものと思われる。
 ということは、この値をうまく選ぶことによって、どんなテープでも安定に制御がかかるようにならないだろうか。

 ドライブアンプのゲインが少々違っても、制御基板の出力VRを調整するのなら制御系全体としては同じことではないか、という気もする。しかし、よく考えてみると、制御基板の出力レベルが変わるのとドライブアンプのゲインが変わるのとでは、まったく同じというわけではない。
 この制御系は、ドライブアンプ出力にオフセットを与えてモーターをやや速めに回しておいて、それに制御をかけて定速に抑え込む、という方式である。制御信号には、そのオフセットの過剰分を打ち消す成分と、回転の変動を打ち消す成分が含まれるはずだ。最適な制御を得るためには、本来これらの成分は別々に調整する必要があると考えられる。制御信号の出力VRひとつでは、これらのレベルを成分ごとに独立してコントロールすることはできないし、2つの成分を別々に取り出すことも不可能だ。とすれば、ドライブアンプのゲインを変えることは、「過剰オフセット打ち消し成分」には手を出さずに「回転変動打ち消し成分」だけを調節する、つまり2つの成分のバランスを調節する手段の代替となり得るのではないか。

 そうと解ったら即実験である。ひとまず2倍くらいにしてみようか、いや、とりあえずその半分の√2倍でいいか、ということで3.9kΩに換えてみた。
 いったん走行の重めのテープで調整して、軽く回るテープに換えてみる。

 おう、いいんでないかい! テープを取っ換え引っ換えしてみても、走行音にこれといった変化はなく、スムーズに回っている。音を聴いてみてもスムーズだ。あるいは3.9kΩではなくて3.6kΩや4.3kΩが最適値ということもあるかもしれないが、どうにか一応の実用レベルに達した模様である。しばらくはこれで聴いてみることとしよう。




後記:よく見たら・・・

 いやはやなんとも面目ないといいましょうか、旧メタルキャンTr仕様のドライブアンプなんですが、「例の抵抗」、ちゃんと付いてました(^^;。もともとターンテーブル用のドライブアンプで、あの抵抗は基板の表側に配置するようになってます。だいぶ前に作ったものですっかり忘れてしまっていた、というわけでして、まことにお騒がせいたしまして申し訳ございません〜m(_ _;m(って、騒いでいるのは私一人ですが(^^;)。

 気を取り直しなおして(爆)、その抵抗、見たら3.9kΩが付いてる。ということは新しいドライブアンプに付けたのと同じ値ではないか。たぶん作ったときも、ゲインが低めになるはずだから、と少しだけ大きな値を選んでいたのだろう。
 ドライブアンプのゲインはほとんど2段目で稼いでいるわけだから、ここの差動アンプに使っているTrのh
FEの違いがそのまま新旧のドライブアンプのゲインの違いということになるだろう。A872は差動のペア組みのために測定したとき、確か560くらいだった。A606はランクLで、たぶん100〜150くらい。新アンプのほうがメタルキャンTrアンプよりおよそ4,5倍くらいゲインが大きいものと思われる。まあこれだけ違えば旧アンプで思わしい結果が得られなかったのも無理はないかもしれない。せっかくメタルキャンTrを投入しても、適切な使い方をしなかったなら意味がないわなあ。


要準備運動?

 一応実用レベルに達したと思われた新しいドライブアンプだったが、その後ちょっとした不具合があることが判った。
 せっかく好ましい状態に調整できたと思ったのに、次に動かしてみたときにはなぜかちゃんと制御がかかっていない。おかしいなー?と思って早送りや巻き戻しを繰り返してみたり、他のテープに入れ替えたりしているうちに、思い出したように安定に動き出した。

 何度かテストを繰り返した末に判ったのは、やはり制御は心もち強めにかけるべきであるということだ。動作音がもっとも静かな状態に制御量VRを調整してしまうと、冷えた状態から電源を入れて動作が安定するまでに約3分を要するのだ。電源を入れたばかりでテープをかけると、制御がかからず、例の「ぐぐぐぐぐぅ〜」という音を出しながらモーターが規定の速度より速く回る。もちろんこの状態での音は震えており、しかもピッチは上がってしまっているので、音楽を鑑賞できる状態ではない。しばらくすると突然ふっと安定になって静かな回転を始め、それからは別の品種のテープに入れ替えても変わらぬ静けさで回転する。
 原因はよく分からない。ドライブアンプはオープンゲインで使っているため、そのゲインはいくらか温度変化の影響を受けると考えられる。しかし冷えているとTrのhFEは若干小さくなるはずだから、初めに制御を振り切って速い回転をするというのは話がアベコベだ。よって制御基板のほうに原因があると考えるしかないが、フェイズコンパレーターの温度特性だろうか。いずれにしても本質的な解決は望めそうにないので、制御を強めにかけることで対処するのが最も現実的だろう。それに、やはり旧ドライブアンプでの経験と同じく、結局のところ回転音がもっとも静かになるように調整するよりも、制御が強めにかかってごく僅か「くぅ〜」と聞こえる状態のほうが回転に安定感があるのだった。