(「録音機」追補) |
SONY WM-D6 | |
たまたま手に入ってしまったぞ、これぞ完動品のウォークマン・プロWM-D6!(実は不動品なら既に持っていた(^^;)。もっと早くに手にしておればなあ、と思わないではないものの、いやいや、それでも嬉しいですなあ(^^)。 製造後15年くらい経っていることになるこの“愛い”キカイ、外観はまあまあ年式相応だったが、電気的・機械的なコンディションはなかなか良好だ。 |
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WM-D6は、筐体側面のつや消し塗装仕上がなかったり、レタリングの色使いがもうひとつ安っぽかったり、詰まっているパーツがやや少ないせいか密度が薄い感じがしたりと、外面的な印象ではWM-D6Cよりもやや高級感が減ずるが、こやつの価値はそんなところにあるのではない、はずだ。
とりあえず手を入れられるところはすべてキレイにクリーニングして、早速自分のシステムにつないで音を聞いてみましたよ。 WM-D6はエラい! いや、確かにこれはヨイなあ! くらべてみると WM-D6Cのヘッドはアモルファスヘッドだ。ボディ上面レタリングにもそれが謳われている。ミツミ製の奥行きの小さいものだが、金田氏には「音楽録音には使えない」と酷評された。これがD6Cの音がD6に及ばない主な原因らしい。 |
→左がWM-D6用の録再兼用S&Fヘッド。これは販売店に補修用部品を取り寄せてもらったもの。 右が実装状態のWM-D6Cのアモルファスヘッド。側面にミツミのマークが見える。奥行きはD6のものの半分ほどしかない。 |
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旧型であるD6のヘッドはS&F(センダスト&フェライト)ヘッドだ。上位のTC-D5(カセットデンスケ)にもS&Fヘッドが採用されているが、マイナーチェンジでTC-D5Mになってもヘッドは相変わらずS&Fのままである。もし本当にアモルファスがよいのなら、TC-D5Mにも採用されるのが自然だろう。 そうしたことからすると、D6Cのヘッドがアモルファスになったのは、おそらくコスト的な理由が大きかったのではないかと思われる。このアモルファスヘッドの値段は知らないけれど、実際小さくて軽く、いかにもたたずまいがショボい。D6のヘッドのほうは、10年以上前の話だが、補修用部品としての価格は2,600円だった。D6本体価格の4.3%だ。この割合って、多いのか少ないのかよくわからんが。 |
もっとも、新旧の鮮やかな音の違いもある程度ちゃんとしたシステムで聞かないと分からないだろう。聴き較べる機会もそうないだろうし、まして普通の人なら、新しくなって少し高くなって高級感が増してドルビーCが付いたD6Cのほうが「絶対いいに決まっている」と思うだろうな。ソニー自身は決して音がよくなってはいないことを知っていただろうか。
←左がD6、右がD6C。D6には2つのヘッドフォンジャックとMIC/LINE INのジャックが見える。 |
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実はD6Cのほうには構造的にも、回路密度が上がったしわ寄せでちょっと弱くなっているところがある。背面のLINE OUTとLINE INのステレオミニジャックだ。外からでは判らないが、小さく収めるためにジャックのハウジングが小型になり、材質のプラスチックが薄くなっている。据置デッキとして使うことはあまりないと考えて、そう丈夫にしなくてもよいと判断したのだろうか、ちょっとひ弱に過ぎる。おかげでジャックのハウジングにひびが入ってしまい、その結果接触不良となることがあるようだ。実は私が買ったD6Cは最初からそういう状態だったので、交換してもらった。 |
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D6のLINE OUTのジャックは大きめのハウジングでプラスチックも厚く、ずっとしっかりしている。ただし、背面にあるのはLINE OUTのジャックだけで、LINE INはMICと兼用でスイッチで切り替えるようになっている。入力回路に余分な接点が入ることになり、ここだけ少し残念。それでもMIC/LINE INのジャックはLINE OUTよりもさらにしっかりしているから、トータルではこっちのほうがいい。 |
背面の様子。上がD6、下がD6C。 |
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あと、端子関係で違うのは、D6にはヘッドホン出力が2系統備わっていること。初代ウォークマンも確かそうだったと思うが、二人で聞けたわけだ。独りの世界に閉じこもって聞くのは好ましくない、という配慮か、二人で聞けるほうが売れるに違いないと踏んだのか。友人同士集まっても、めいめいが勝手にケータイをいじっているような現代っ子には無用の装備か。 |
例によって例のごとく
このままでもけっこういい音で感動させてくれたWM-D6なのだけれど、なにしろ15年以上も前のキカイ、中に使われているケミコンが気になる。基板上のケミコン外皮に印刷されているロット番号からすると、どうやら83年モノと思われる。製造年代とつじつまは合っている。2002年も近くなった今、そのまま使い続けるのもあんまりぞっとしない。 |
WM-D6のメイン基板をめくってみたところ。パーツはメカと干渉しないようにところどころ横倒しになっている。 |
そんなことを思いながら基板を眺めていると、例によって自作の虫が騒ぎ始めることになっている。まあケミコン替えるだけなら改造というほどでもない。もうメーカーのサービスも終了しているわけだから、自分でレストア、といったところですね。回路図と基板図まで手に入ってしまっては、じっとしているほうが難しい(^^;。 実のところ、アルミニウム電解コンデンサーだけではなくて、タンタル電解コンデンサーも多数使われているのも気になるのだけれど、これまでも換えるとなるとそうとう大変なことになるので、こっちはそのまま使うことにする。でもタンタル電解の寿命ってどのくらいなんだろう?考えてみると、知らない…(^^;。 ケミコンの小型化はだいぶ進んでいるから、今なら当時と同サイズのものでも容量もしくは耐圧が倍くらいのものが手に入る。スペック上は高性能化が進んでいても音がよくなっているとは限らないが、それでも賞味期限をはるか前に過ぎたものよりはよいのではないかな。 “RSコ○ポ○ネ○ツ”のカタログを見ると、普通の自作オーディオパーツの通販の広告にはまず見かけないようなケミコンが並んでいる。産業用と思しき品種で性能のよさそうなものがあったので、適当に見つくろってさっそく発注した。ここのカタログを申し込んで以来、半年ごとに更新されて既に3冊目になるが、利用するのは今回が初めてだ。カタログのパーツ番号をWebのページに打ち込んで注文完了。18時までに注文すればその日に発送してくれる。送料が一律千円かかるので小口の発注だと割高ではあるが、まったく便利な世の中になったものだ。もっとも最近は物騒な世の中でもある。終末は近いであろう、生きているうちにせいぜい楽しもう(?)。 |
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というわけで、発注の翌日の夕方にはちゃんとパーツが届いた(^^)。この会社は別に自作趣味人のために商売しているわけではないので、小さいパーツだと発注単位が5個きざみだったりで融通が利かないとか、送料が高いためつい他のものもまとめて無駄買いしてしまいがちであるとかの難点はあるが、それでもこういうサービスは私のような地方在住者にはありがたい。
取り寄せたケミコンはすべてニッケミ製。100uF以上がLXZ、それ未満はSRE、KMA、SRAという品種である。 |
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LXZは説明に「小型品、高周波平滑用、高信頼型」とある。105℃で数千時間保証のものだ。スイッチングレギュレーターの類いに使われるものではないか。だとしたら、WM-D6のDC-DCコンバーターによる電源部にはいいんじゃないか、ということで選んだもの。容量は100〜220uFだが、サイズは同じでも現代のLXZだと容量は倍になり、耐圧も余裕が増す。 音楽信号は録・再ともドルビーNRのICを通過するのだが、ICは片電源で動作しているため、入力部には電源電圧のおよそ半分くらいのバイアス電圧がかかっていて、そこのパスコンに220uFが使われている。ここにもこのLXZを使うことにする。ただし、サイズは同じでも容量は470uFだ。こういう場所なら容量が増えても問題はない(だろう(^^;)。 SREはサイズとその用途で選んだもの。高さ5mmの小型、小容量で「オーディオ・ビデオ向け」とある。“いまどき”っぽい感じであまり気が向かなかったのだが、カップリングにも使うものだったので、ちょっと価格が高めのこの品種がよいかと選んだ。といっても通販広告のオーディオ用品種の半分くらいの価格。これのみラベルに「MADE IN SINGAPOUR」のプリントがあった。他はみんなMADE IN JAPAN。 あと、KMAは105℃タイプの準高信頼型という感じ。SRAは「大型のコンデンサに匹敵する性能を持つ省スペースの…」とは書かれているが、値段からすると汎用品に近いものと思われる。どちらも高さ7mmのもので、値段は高いものではない。これらは10〜33uFで、増幅回路のデカップリング等に使用する。 |
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休日に、ケミコン交換作業にいそしんだ。 |
部分部分、ケーブルをよけてはハンダ吸い取り線を当ててケミコンを外す。ほとんどひとつずつの交換である。辛気くさ…。最初から作るのとは違ってあんまり楽しいものではないが、でき上がりの音を想像しつつ…。 |
オリジナルのケミコン、全部で16個交換した。水色のはルビコン、黒いほうはニッケミ。ドライバーはD6を開けるための、ホームセンターにあったプラスのいちばん小さいもの。 |
たびたび休憩をはさんで実働2〜3時間くらいかかっただろうか、ケーブルの隙間から、いらぬところに触らぬようそろりそろりと鏝を差し入れて、ハンダを取ったり付けたり。取るのも付けるのも足2本ぶん、それが16個。あと間違えて関係ないところを1カ所取って付け直したので、全部で2×2×16+2=66回、御苦労なこって。なんとか目ぼしいものは交換し終えました、ふぅー(^ε^;。 |
before | after |
追記: そういえば、ケミコンの交換作業中、ひとつ謎を発見した。録音信号のイコライザー回路に入るコンデンサーが1カ所だけ左右で品種が違っているのだ。左chはタンタルが使われているのに、右chはアルミ電解になっている。なぜここだけこんなことになっているのだろう? |
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基板にはアルミ電解が実装される部分に丸い枠の印刷がされているのだが、確かにここのところは右chだけ丸枠がある。信号が通ることと必要な耐圧から考えても、タンタルが適していると思われる場所なので、右chの丸枠は単なるミスプリントとも思われる。 しかし「ステレオは左右に微妙な違いを持たせたほうが音がほぐれて立体的に聞こえる」というかなり怪しげな説(私自身は否定はしません)を唱える人もいるようなので、もしかしたらそのような意図をもって設計されているのかもしれない、というか、そうであったら楽しいんだけど。それともほかに理由があるのかな。どなたか御存じありませんか? |
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つーことで、よく分からんのだが、いちおうオリジナル通り右chはケミコンのまま新しいのに換えました。 |
カセットはヨイ(^^) ケミコンのリフレッシュ成ったD6の音はいかに。うーん、心もち音がシャキッとした、ような気がします。気分的にSNが上がって低域もくっきりしたのではないかと思わないでもない。なにしろ直接比較は出来ないからね。ケミコン以外の要素(タンタルコンとか)が音質にからんでいるだろうから、音質傾向自体はほとんど変わっていないと思うけど、気分的にはヨイです。しばらくすればケミコンもなじんでいっそう落ち着いた音になることでしょう。 カセットテープというのは、しかし、そんな高性能であるはずはないにもかかわらず、こうして聞いていて何となく落ち着きますね。再生周波数レンジだってたかが知れているし、回転むらもある、でもそれが人間(私、かな)の感覚に馴染むのではないのかな。かといって、生録のテープなど再生するとじつに活き活きした音を聞かせてくれるわけだし、単に低性能の味わい、ということでもない。要するに、これがアナログの音、ということなんだろう。それにまたアナログのカセットデッキはメカの動きがイイじゃないですか。キカイ好きには魅力です。“ヒモ”系メディアはもうたくさん、という人も多いけれど、私は好きですなあ。CD-RとかMDで録音していても、いまひとつ実感が伴わない感じで馴染めません。DATもヒモだけど、やはりあっちの一味だな。 このWM-D6も、このままではやはり回転ムラの影響が出て、ちょっとヨタった音で聞こえているけれど、たぶん金田式制御アンプでドライブすればもっとずっとしっかりした音を出してくれるんだろうな。 |