晴れた音 

     


 午前中は青空が広がっていたが、陽が西に傾き始めるとだんだん雲におおわれてきた。
馬場鳥富山県上市町)から四時間。ブナクラ峠に着いたころには、あたりは霧につつま
れていた。雲の中をさらに一歩一歩登っていく。傾斜が急に緩くなり、雪の広場にたどり着いた。
 ここが赤谷山だ。霧まじりの風が吹き上げるだけで視界は十m。ここから南には、剱岳
が間近に見えるはずだが、その姿は雲のかなただ。テントを設営し晴れてくるのを待つ。
テントの中にいても風でバタつく音が重々しい。夕食を済ませるとうとうと寝込んでしまう。
 どれくらいたったのだろうか。ふと気がつき耳をすます。風の音が違う。
テントを揺らす音。風が吹き抜ける音テントをバタつかす音が乾いていた。
 あわてて超き上がると、テントに月の影が映っていた。慌ててテントから飛び出すと、
目の前に剱岳が立っていた。
星空をバックに月に照らされた剱岳は新鮮で、清純で、厳格であった。     
自然との語らい

Copyright (c) nakagawa tatsuo (中川達夫) 1994/1999