そうだ、パッシブプリを作ろう


 ロータリースイッチと抵抗を組み合わせた音量調節用のアッテネーター、一度は作ってみたいと思っていながら長い間なかなか実現に至らなかったのですが、FIDELIX TruPhaseの出現に刺激を受けて、ようやく実行に移そうという気になったのでした。


そういえば、作りたかったんだった

 自作オーディオを始めてほどない頃、それなりによい部品を使ってシンプルイズベストを地で行くようなプリアンプを作ってみた。それを通した音と増幅段を跳ばしてボリュームだけにした音を聴いてもらった友人の感想は、ボリュームだけのほうがスッキリしてよい、と。自分でもそう思っていたので、ああ、やっぱり…
 今思えばアンプ作りの腕がなかったのだが、ゲインも十分足りていることだしプリアンプはいいや、となって、以来三十数年、私のオーディオの音量コントロールはずっとボリュームだけのパッシブになった。ボリュームは数度のグレードアップを経て最終的に東京光音のロータリーフェーダーに到達し、音にもそれなりに満足していた。

 音がよいパーツというのは、本当は音を悪くする度合いが少ないパーツなのであって、本来全てのパーツは音を悪くするとも言える。まあ中には独特の色付けで音を魅力的に聞かせるパーツもあるだろうけれど、それは忠実度が高いのとはまたちょっと意味が違うだろう。
 中でもボリューム、より正しくは可変抵抗器が音を悪くしている割合は特に大きいと言われる。だから音量調節に可変抵抗器ではなくロータリースイッチと抵抗を組み合わせたアッテネーターを使うことには大いに興味があった。

 アッテネーターを構成するのは受動素子のみだから、その気になりさえすればいくらでも自作できるのに、実際には思っているだけで今まで作らないままだったのは、つまみのカクカクカクがちょっと苦手だからというのが大きい。音量調節専用にクリックを設けた可変抵抗器があるが、あのような軽いクリック感とは違い、大抵のロータリースイッチは回すのにある程度力を入れなくてはいけない。ねっとり滑らかに回せて無段階に調整できるボリュームに親しんでいると、そんなことが心安らかに音楽を聴くことを邪魔するような気がして(どんだけ力ねえんだよ←うっせぇ、ネットの診断テストによれば私は中程度のHSPだ)、音がいいに違い無いとは思いつつももうひとつ手を出し切れないまま今に至っていたのだ。


 長らく使ってきた自作のセレクター&ボリュームBOX。可変抵抗器はあれこれ交換して、この東京光音2CP2508Sは4代目。RCAジャックは左端の録音出力を除いてモガミの初代7552。

 しかし、ときどきはアッテネーターのことが思い出されて、作るとしたらどんなのにしようかと妄想を膨らませることを定期的に繰り返していた。

 そんなところへ、FIDELIXからTruPhaseなるパッシブプリが登場。

FIDELIX TruPhase(「PHILE WEB」記事より)

 名称の“TruPhase”は、バランス入力に対してスイッチでホットとコールドの接続を入れ替えることで位相を反転できる=正しい位相を選べることからの命名だ。ただ私としては、その辺りはあまり興味のない部分(バランス伝送使ってない)で、まず注目したのはアッテネーターのインピーダンスが20kΩというところ。私が長らく使ってきた値そのものなので、これだけで親近感を持ってしまう。

 その他、目を引く特徴としては、入力の切り替えがアースごと切り替える仕様になっていること。それと、左右のアースが基本的に分離されていること(スイッチで連結も可能)。もちろんクロストークや、使用しない機器のアースから余計なノイズを引き込まないことを配慮しての仕様である訳だが、これらを見て、自作するならこうした特徴は是非取り入れてみたいものだなあ、とまた妄想が始まった。

 ところで、「パッシブプリ」という呼称だが、これを使いながらも実のところ非常に居心地が悪い思いをしている。「パッシブプリアンプ」というのは「パッシブ」と「アンプ」が矛盾するので使いたくなくて、「アンプ」を削除(省略ではなく)してそう呼んでいるのだが、「アンプ」のない「プリ」だけでは本当は意味をなさないわけで。「パッシブアッテネーター」が最も矛盾がないのだけれど、この場合は表現してもらえなかったセレクター機能の立場はどうなるのかと気になって…
 じゃ、造語でselectenuatorとか? んー、語感がイマイチ、支持は得られんな。誰か納得の行くいい呼び方を発明してくれませんかね。(後記:ヤマハはYPC-1を“パッシブコントローラー”と呼んでいたことを知った。これは納得できる呼称だ。でもあまり認知されていない感じですな…)

よし、作ろう

 TruPhaseに刺激を受けたせいで、久々に自作の虫がウズウズし始めてしまった。TruPhaseを買っちゃおう、とはならなかったのは、まあアッテネーターなら自分で作ってもそこそこ満足いくものが作れそうで、しかもそのほうがだいぶ安くつきそうだから。作れるものはなるべく自分で作りたい私としては自然とそういう選択になる訳で。

 それにTruPhaseには仕様上私の要求に合わない点がいくつかありまして。
 私としては、まず入力は今までより1系統増やして4系統欲しい。バランス入力はなくていい。そして、やっぱりつまみがカクカク固いのは厭。MJ誌に試用記事が出たのを読んだら、案の定「回すのに力が要る」と書いてあって、やはりそうか、そうだろうな、と思った次第。

 けれど、自作するにしても、まずは軽く滑らかに切り替えられるロータリースイッチが手に入ることが条件だ。都合のいいロータリースイッチはあるだろうか。やっぱりカクカク固いのでは…、などと思いながらパーツ店の販売サイトでセイデンなどのロータリースイッチを見て回っているうちに、あれ、そういえば東京光音にアッテネーターのキットがあったような、でも抵抗セット付属で10kΩや100kΩとして出していたような…
 というようなことを思い出して探してみる。と、ああ、ありました、これだな。アッテネータキット TYPE 36R-KIT か。抵抗とのセットと思っていたけれど、付属抵抗なしバージョンもある! これなら自分の好きな抵抗で20kΩのアッテネーターを作れる。
 東京光音のアッテネーターならそもそも放送機器用だから、放送現場での使い易さが第一に考慮されているはずで、そんなにクリックの固いものを作るはずもないだろう。現に私がセレクターに使っている同社のロータリースイッチは、しっかり感もありながら適度に軽く回せる、いかにも放送機器向けらしい感触である。
 このキットならきっと回し心地の快適なアッテネーターになるんではないかな。

 かなり期待と確信を持ち始めたところで、これを実際に使ってみた人の感想などがありはしまいかとwebを探すと、あまり多くの情報は見つからなかったが、数件の自作記事に行き当たった。その中に、あまり具体的ではないものの、どうやら心地よく回せていそうなニオイの感じられる文を見つけることができた。やっぱり良さそうなんでないかい。

 東京光音の製品なら三栄電波で買えるはず、と思ってさらに探そうとすると、あら、なんと、その三栄電波がAmazonに出店しているではないか!
 昔はパーツを集めるのにちょっと通販を利用するにも結構な手間がかかったものだけれど、時代ですねえ。

 少ししみじみしながらも、即Amazonでポチリ。こんなに簡単に手に入る状況なのは、やっぱり作れということに違いない。

 というわけで、始まってしまいました。

P型を選ぶ理由

 ところで、アッテネーターの形式は色々あるようだが、普通オーディオの音量調節用途に用いられるのは、「P型」や「L-Pad型」と呼ばれるものだ。なぜそう呼ぶのかは寡聞にして知らない。

 P型は多数の抵抗が直列に連なり、その接続点をスイッチで選び出力を取り出す。構造としては普通の可変抵抗器と同じようなものと言え、通常使用する音量では信号が多数の抵抗を通ることになる。TruPhaseも東京光音のキットもこのタイプだ。
 それに対し、信号経路に入る抵抗が減衰量ごとに2個だけで構成されるL-Pad型は、より音がよくより高級とされているっぽい。Web上にも「音の鮮度においてP型アッテネータよりも断然優れ」云々などといった記述を見かける。

 L-Pad型は抵抗の数がP型のほぼ倍となり、さらに段数が倍のロータリースイッチを必要とするため、物量的に見た目のスゴそう度が高くなるとともに必然的にコスト高となることから、いよいよ高級なイメージが醸し出される。

 それゆえ、オーディオ用「高級」アッテネーターといったら、多くの人が思い浮かべるのは大体こんな感じのやつなんじゃなかろうか。

 webで拾ったL-Pad型の画像だが、んー、見るからに立派で、なんだか私には縁遠いもののようなよそよそしさを感じてしまうのですが。(これ、抵抗がたくさん並んでるけど、仕事をするのはそのうちchあたり2個ずつのみなんだよなあ… ←貧乏性)

 そんなこんなで、どうも L-Pad型>P型 の図式は既定の事実になっている観があるのだが、本当にそうなのだろうか? これからそのモドキを作ろうとしているお手本のTruPhaseは、その優れていないとされているほうのP型だ。はたしてP型はそんなにL-Pad型に劣るのか。ここで少しばかり考察してみよう。

 まず、アッテネータに使われる抵抗について考える。
 減衰量ごとに2個ずつの抵抗で構成するL-Pad型アッテネーターは(減衰量がごく小さい場合を除いて)必然的に大きな抵抗値を用いることになる。-6dBなら、アッテネーターのインピーダンスの半分の抵抗値のものが2本だ。それより大きい減衰量になればさらに大きな値の抵抗が信号に直列に入ることになる。
 一方P型アッテネーターの場合は多数の抵抗を直列に繋いで用いることになるが、個々の抵抗は小さい値のものになる。

 ここで気になるのが抵抗のオーディオ的な性質だ。抵抗というのは概して値が高いほど音が悪いと言われている。ある程度高い抵抗値になると、(同じ品種を使うものとして)より小さい値のものを複数個直列にして同じ値を構成するほうが音がよい可能性が高い。
 そういう観点から観ると、抵抗値の低い600Ωのアッテネーターはともかく、20kΩ以上ともなると、L-Pad型とP型のどちらが音がよいかは単純に信号が通る抵抗の数だけで決まらないのではないかと思えてくる。

 そしてもうひとつは接点の問題だ。L-Pad型は言ってみれば、多数の固定アッテネーターをずらりと並べておいて、そのうち都合のよい減衰量の1つをスイッチで選んで使う仕組みである。アッテネーターの入力と出力の両方をスイッチで切り替えるので、信号経路に2つのスイッチが入ることになる。
 一方、P型は多数の抵抗を繋げて構成された1つのアッテネーターの、都合のよい減衰量の出力点をスイッチで選んで使う。信号経路に入るスイッチは1つだけだ。
 スイッチは、普通の構造であれば1つにつき接点を2つ持っている。つまり、信号が通る接点の数でいったら、P型の2個に対しL-Pad型は倍の4個である。接点が音に良くないのは言うまでもないだろうが、この点でも有利なのはP型だ。
 ということは、さて?

 そんなことを考えているうち、あれ、L-Pad型って、ホントにそんなにイイかな…となってしまった。もしかしてだけど、実はコスパ悪いんじゃ?(個人の感想です)。よく考えないうちから勝手によそよそしい印象を受けていたのは、ひょっとすると直観的にそんなことを感じていたせいだったかも…

 という訳で、いかがでしょう、むしろ積極的にP型を選びたくなった方も多いんじゃないでしょうか? コスパが良いのはP型のほうなのは明らかであるにしても、ことによると音質も…物量に頼らず知恵と工夫で何とかしようとするのがFIDELIXの流儀だけれど、TruPhaseがP型を採用するのは、単にコストを抑えることだけが目的という訳でもないのかもですよ、これは。東京光音のキットに期待が高まりますな。

製作開始

 大まかなコンセプトとしては、早い話がバランス入出力を取り除いたTruPhaseを自作しようということだ。位相は変えようがないので“FixedPhase”…じゃちょっと名前にならないか。
 バランス以外、他の特徴は似通ったものにする。概要としては、入力はアース側も切り替えるものとし、RCA4系統。左右のアースは分離。アッテネーターは20kΩのP型。基本的に2dBステップだが、独自仕様のカーブで常用のつまみ位置を14時くらいに持っていく、といったところ。

アッテネーターキット

 これが主役たる東京光音電波 Type 36R-KIT-2アッテネーターキット。

 キットと言っても抵抗なしバージョンなので、2回路23接点のロータリースイッチだけだ。他には紙1枚のマニュアルが付属するのみ。
 ロータリースイッチではあるけれど、端子部分は一般的なロータリースイッチに備わるような金具ではなくて、P型アッテネーターを構成する抵抗を取り付けるための基板そのものだ。スイッチの接点もこの基板上のパターンとして形成されている。

 そのスイッチの接点部分の様子。

 金メッキがとても綺麗で、いかにも精密に作られている感じ。お値段もそれなりだけれど、やっぱりいいモノ感が溢れてますな。

 試しにシャフトを直に摘んで回してみると、これが苦もなく回せる。普通のロータリースイッチだとツマミなしで回せるものはそうないから、クリックが特に軽いということだ。そして感触も滑らか、期待以上で嬉しくなる。これにして大正解だ。

減衰率カーブを検討

 市販のオーディオにありがちな、ちょっと回しただけで大音量というのは好みでないので、TruPhaseのようにアッテネーターつまみの常用位置が14時くらいになるようにしたい。それには、東京光音で設定している抵抗セットの値をそのまま(20kΩ用に換算して)利用してもダメだろう。

 ということで、望みのカーブを作るため、合計20kΩの抵抗値の配分を検討した。

 グラフは青のカーブが東京光音、赤のカーブが本機の設定だ。実際にはアッテネーターの後に繋がるパワーアンプの入力インピーダンスが付け加わりこのカーブと同じにはならないが、単純に比較してみる。

 東京光音は最初急に立ち上がって、あとは最後まで2dBステップで直線的に、ということはすなわち正しく対数的に音量が増加する設定。本機はというと、最初のほうは東京光音セットよりも音量がゆっくり立ち上がるようにして、常用域では2dBステップ、最後のところでペースが上がる、というか、音量最大のポジション22から1つ下がった21でもう-6dBになっている。こんなのは市販品にはまずないだろう。あくまでワタクシ用の仕様であり、大音量派にはまあ向かない設定でしょうな。

 ところでポジション21で-6dBなら、22と21の間は20kΩの半分の10kΩの抵抗が入るはずだが、表ではE24系列にない9.9kΩという値になっているのにお気づきだろうか。なるべく大きな値の抵抗を用いないポリシーで行くので、10kΩ1個の代わりに4.3kΩと5.6kΩの抵抗を直列にした9.9kΩを用いる想定なのだ。これで使う抵抗値は5kΩ台までに抑えられたことになる。

ミュート回路

 音を止めたいときは普通つまみを回して音を絞る。しかし、こんな当たり前のことがアッテネーターだとけっこう煩わしく感じられてしまう。常用の位置が14時のあたりだとすると、そこから音が消えるまで長いトラベルを反時計回りに回していかなくてはいけないのだ。ちょっと想像してみると、例えば14時の位置から7時まで戻すとすると、カクカクカクカクカクカクカクカクカクカクカクカクカクカクとなる。クリックが軽いとしても、これはどうもあんまり快適に思えない。

 というわけで、ミュートスイッチを設けることにしよう。セレクターとアッテネーターのつまみが並ぶだけのフロントパネルよりは顔つきも整いそうだし。

 ミュートの方法は信号経路をスイッチで切ってしまうのが簡単ではあるが、信号経路に余計な接点を入れることはしたくない。信号をアースにショートする形式ならそうした問題はない。しかし、それではミュートしたとき前段の機器の負荷が0Ωになってしまい、大きな負担となる。アッテネーターの出力側をショートしても、最大音量時は同じことになる。
 そこで、アッテネーターの最大音量から1クリック下がった点、すなわちポジション21のところをアースにショートすることにする。これなら前段の機器の負荷に9.9kΩが残るので全く負担にならない。最大音量時のみミュートが効かないが、最大音量はほとんど使うことはないだろうから、実用上これで不都合はないだろう。ま、市販品にはまずなさそうな仕様ではありますが、そんじょそこらにないものを作れるのも自作の醍醐味だ(商品にならない変なモノができているだけとも言う)。

抵抗器

 基本的にTruPhaseに準じたアッテネーターにしようとしているので、使う抵抗は本家と同じくPRPのPR9372 1/4W型とする。実は、抵抗付属バージョンに付属する金属皮膜抵抗が1/2W型なので、同じPRP抵抗でも1/2Wのにしようかとちょっと迷ったが、ま、変な色気は出さないでTruPhase準拠で行くことにする。

 PRPはいくつかのショップで扱っているが、E24系列の全ての値を揃えているところはなく手に入らない値があったので、結局海外通販で調達した。

 50本近い抵抗をハンダ付けし、アッテネーター本体は完成。

 3番端子のすぐ側、2本が直列になっているのが分かりますね。

入力セレクター

 入力はアンバランス4系統を設ける。セレクターのロータリースイッチには、手持ちにある東測RS500シリーズの2段6回路4接点のものを使う。測定器仕様のせいかクリックのバネがかなり強く、回すのにけっこうな力を要するのであまり好きなスイッチでもないのだが、眠らせておくのも勿体ないので有効活用するとしよう。

 ところで、入力セレクターは普通すべての入力のアース側を繋ぎっぱなしにして、ホット側だけスイッチで切り替えるが、TruPhaseはアース側も切り替えるようにしている。わざわざそんなことをするのはもちろん音のためで、不要機器のアースを経由してやってくるノイズを遮断することが目的だ。
 しかしホットとアースを一緒に切り替えると、切り替え時にショックノイズが出てしまう。実際TruPhaseもそういう仕様のようだ。多少の不都合は我慢してでも音質追求を最優先したいという考え方なのだ。
 これからやろうとしているのはTruPhaseの追っかけなのではあるが、ショックノイズはちょっと……アッテネーターのカクカクについてもだけれど、私としては音楽を聴くのに快適さは大事なんですわ。

 とはいえせっかく自作するのだから、アース切り替えという市販品には(自作品にも)珍しい理想主義的特徴は是非とも採り入れたいところだ。ショックノイズを避けながらアースも切り替えるには、アース側のスイッチをショーティング型として、なおかつ切り替えたときホット側よりも先に導通するようにできればいいのだけれど、そんなの無理……
 んっ、東測のこのスイッチ、うまく使えばできるんじゃ? いや、できるわ(閃いた)!

 このロータリースイッチは仕様上は30°ステップのノンショーティング型ということなのだが、端子基板に並ぶ端子はどう見てもそんなまばらな間隔ではない。実はステップ間に信号線を繋ぐためには使われない遊び端子があるのだ。もちろんスイッチはそこでは止まらない。
 RS500シリーズには15°ステップのモデルもラインアップされており、そちらはショーティングタイプである。この端子基板は多分シリーズ全モデルに共通で、この15°間隔の端子は元々ショーティング型15°ステップのスイッチ用に設えられているのだ。

 ということは、この30°ステップタイプでも、ステップ間の遊び端子を本来の接点の端子にショート配線すればショーティングタイプとして使用できるようになる。例えば、1番と2番の端子の間にある遊び端子を1番にショートすると、1-2間の切り替えはショーティング状態で行われる。
 ただし、接点が導通するタイミングは切り替える向きによって異なる。この接続では中間端子は実質1そのものになっているので、1から2へスイッチするときに2に導通するタイミングは中間端子を用いないノンショーティング時と変わらない。しかし、2から1へスイッチするときは、中間端子に導通するタイミンング、すなわち15°ステップのタイミングで1に導通する。つまりノンショーティング時より早いタイミングで繋がるのだ。

 そこで、1chあたり2回路を使用して、一方の回路ではそれぞれの中間端子を番号の小さいほうの端子にショート、他方では番号の大きいほうにショートしておき、これら互い違いの向きにショーティング接続した2回路をパラに接続する。こうすれば、全ポジションを通じてどちら向きにスイッチしても次の端子に15°ステップのタイミング、すなわちノンショーティングの状態より早いタイミングで導通する望み通りの回路が出来上がる。

 スイッチは6回路あるので、2回路は左右それぞれのホット側の切り替えにノンショーティングのまま使い、残る4回路を2回路ずつ上記のような互い違いのショーティング接続にしてパラにし、左右それぞれのアース側の切り替えに用いる。スイッチがパラになることで接触抵抗が半分になるはずだから、アースラインに接点が入るデメリットが軽減されることにもなる。

 かくして、6回路すべてを有効に使い切って、ノイズを発生させることなくホット・アース両方を切り替えられるセレクターが完成する(はず)。

 もし入力が3つでよいのなら、RS500の2段8回路3接点のモデルが使える。これなら8回路あるのでホット側もパラにでき、接触抵抗がアースと揃って低減されることになって気分が良いし、おそらく音も良いに違いない。

ケース

 筐体には金田式でお馴染みのタカチのOSシリーズからOS70-16-16BXを選んだ。理由としては、必要にして十分なサイズであること、まあまあ見た目が良いこと、6面のパネルがバラバラになるので工作がしやすいこと。あと大事なのがそこそこ重量があること。もともと箱の中はほとんどスカスカのパッシブアッテネーターだから、スイッチを操作したら位置がずれてしまうような軽々しい筐体では困るのだ。

 金田式のいつもの流儀で、本来の側板をフロントとリヤのパネルとして使う。デザイン的理由もあるが、本来のフロント/リヤパネルは加工し易いように薄くなっており、しかも組んだとき僅かにカタカタするので、スイッチやコネクタを取り付けるには厚い側板のほうが剛性が高くて都合が良いのだ。ただし、厚い分加工は大変になる。

フロント/リアパネル加工

 セレクターとアッテネーターの取り付け穴径は9mm、ピンジャック用は10mmだが、安物ドリルセットでは当然これらの穴を一撃で開けることはできない。特にピンジャックの穴は数が多く、ヤスリやリーマーを手に厚いパネルに開けた小さい穴に立ち向かうなんていうのは、繰り返す回数を考えるとやる前からうんざりしてしまう。

 という訳で、今回これらの加工のために9mmと10mmのホールソーを購入した。ホールソーといったら、かつてはもっと直径の大きいものしかなくてしかも高価というイメージだったのだが、今回調べたら意外に安価で、しかもずいぶん小径のものから手に入るようになっていて軽く驚いた。


 いつの間にか案外手頃な価格で手に入るようになっていたホールソー。穴を開ける際に出る切り屑(手前の丸いもの)が予想外の形だったので面白かった。

 ホールソーの威力はやっぱり圧倒的だ。大した時間もかからずに、きれいにたくさんの穴が開く。今後もまた使う機会はあるだろうが、この便利さには、今回の工作に限っても投資した価値はあったと思う。やはり工作は道具をケチらないほうが良いですね。

 レタリングには、まだ持っていた金田式アンプ用のテクニカルサンヨー製レタリングシートを使った。今となっては30年モノである。同時期のサンハヤトのレタリングシートもあったので、小さい文字にはそちらを使おうかと思ったら、もう裏面の糊(?)がすっかり劣化して全然くっつかなくなっていた。残念ながらどちらも今ではもう手に入らない。どこかの会社でレタリングシートを出してくれませんかね。文字色をグレーにすれば、地の色が黒でもシルバーでも使えると思う。

入出力端子

 入出力はアンバランスのみ。RCAピンジャックはモガミ7552Bを使う。
 現在のモガミのページにはBなしで単に7552と表示されているが、昔のMJ誌の通販の広告には初代モデルと区別するためにBを付けて表示されていたのを憶えている。正式な呼称ではなかったのかな。

 初代の7552は、無酸素銅プレスの電極にニッケルメッキなしで直に金メッキを施していて、ピンプラグを挿したときホット側より先にアース側が導通するという、なかなかに拘った仕様の製品だった。
 モデルチェンジした新型は全然違う構造になり、モガミのページにはピンプラグとまとめて「高価で見掛け倒しのものよりはマシかもしれませんが、特に音質を考慮してつくったものではありません」(原文ママ)なんて書いてある。なんちゅう商売っ気の無さ(笑)。アース側の配線はラグを介したりせず電極に直接ハンダ付けするようになっているし、ホット側の電極も削り出しでピンを四方から挟み込むしっかりした造りだ。初代ほどには拘っていないかもしれないが、地味ながらいいモノ感溢れる製品になっているのだから、そうまで卑下せんでもと思うけれど嫌いじゃないです。

 ところでこのピンジャック、近年はこの写真の左3個のように電極部分と絶縁カラーの間にワッシャを挟み込んだ状態で売られているのだが、本来このワッシャは右端の1個のように取り付けナットを受ける位置、すなわちパネル裏に隠れる部分に入れるのが正しいはずである。昔私が買ったものはそのようにして売られていたし、モガミのページに載っている写真も右端の入れ方だ。
 そもそもワッシャというのはネジの頭にしろナットにしろ回し締めるほうを受けるための「座金」だし、絶縁カラーの色でLRの区別を示すのを覆い隠すような形でワッシャを入れるのも(横から覗けば一応色は見えるとはいえ)おかしいだろうに、なんでこうなった?

 リアパネルに装着した様子。

 違う品種が混ざってますね。PRPの抵抗を購入する際についでに買ってみたKLEのピンジャックを入力1に、入力4には手元にたくさん買い置いてあった秋月電子のジャック。これらは共に取り付け穴が7552と同じ10mmなので使ってみようかと。秋月のジャックはマイナス側のラグを使わず、ネジ部分の端をヤスリで削って直接ハンダ付けする。
 3番入力周りの様子が変、と思われた方もあろうかと思うが、ここだけピンジャックをパラにしている。録音出力を取り出せるようにしたのだ。最近は音楽ソースをダビングすることは滅多になくなってしまったけれど、備えあれば憂いなし。

アース分離

 TruPhaseに倣って左右のアースを分離するが、トラブル対策ももちろんセットだ。具体的には、互い違いの向きに並列接続したダイオードで左右アース間を結んでやり、さらに並列にスイッチを付ける。こうすれば左右アース間は電位差が約0.6V以内なら導通しないので実質的に分離している状態になり、もし電位差が発生しても0.6Vより開くことはなくなる。それでなお何かしら問題があるときには、分離するのは諦めてスイッチで完全に連結してしまおうという訳だ。
 その回路を組んだ小基板は、両面テープで貼り付ける基板サポートを利用してフロントパネル裏に配置する。

 筐体に落とすのは左chのアースだけで、アースポイントはアッテネーター取り付け穴の裏面とした。写真で穴の周囲のアルマイトが削り落とされているのが見えるが、そのための導通確保である。アッテネーターを取り付けるときここにラグを挟み込んでアースラインをハンダ付けする。ラグは先ほどの秋月のピンジャックから外したものを、穴をリーマーで9mmに拡大して利用する。
 OSシリーズのケースは基本的に各パネル間の導通がとられていないのだが、容量的には結合していると見做せ、一応静電シールド効果がちゃんと認められるのは金田式管球プリで経験済みだ。シャシーアースは普通リアパネルだが、フロントパネルでも問題ないだろう。

 左右アースの結合スイッチにはパーツ箱にあったNKKの基板用極小スイッチを使った。このスイッチは現行品ではないようだ。ポジションが3つあるので、完全連結と開放の中間にもうひとつ0.01μFのコンデンサで結合するポジションを設けてみた。高周波分だけ結合、のつもりなのだが、意味があったかどうか。

配線材

 配線は、アッテネータの入出力端子部分の穴が小さいのと、入力切り替えスイッチのアース側特殊パラ接続の配線が窮屈であるため、ある程度細い線が必要になる。ダイエイ電線20芯は外径の点でまあ不適ですな。モガミ2514なら素線が1本少なく被覆が薄めで少し細くなるから使えるかな…などと初めは考えていたのだが、ちょっと面白そうなことを思いついた。

 ブログ「通電してみんべ」のca3080さんが興味深い配線方法を紹介している。
 ca3080さんが配線に使っているのはPEWやUEW、要するに世間一般で言うところのエナメル線だ。そのままではなくて、綿のスリーブを被せて使う。
 そんなスリーブは電線関係の店に売っているのではなくて、手芸に使うワックスコードという紐の芯を抜いたものである。ワックスというくらいだから外皮には蝋が含浸されているようだ。この点も電線の被覆としてよさそう。サイズは色々あるが、配線には2mmのものを用いる。

 CA3080というのは、金田式のモーター制御に使われるLM13600の先輩格にあたるRCAのトランスコンダクタンスアンプ、まあ可変ゲインOPアンプですな。電子工作を扱うページで人名代わりにこれを使うと場合によっては混乱しそうだし、そもそもなんだか呼びにくいので、失礼ですがブログのタイトルから“みんべさん”と呼ばせていただきますね。

 みんべさんは、もとメーカーのエンジニアだったようで、電子回路はもとよりオーディオ的な知見も相当にハイレベルな方のようにお見受けする。とはいえ、私の音の志向は必ずしもみんべさんとは一致する訳ではないように感じられ、即エナメル線派に転向しようというまでの気持ちにもなれていない。
 しかし、この綿スリーブにはちょっと興味をそそられる。静電気を持ち難い綿被覆はオーディオ的に優れているとする説もあるようだし、いつか何かで試してみたいと思っていたのだ。

 という訳で、思いついたことというのは、私にとって馴染み深い金田式7本撚り線に、絶縁被覆としてみんべさん式ワックスコード綿スリーブを被せれば、ちょうど良さそうな配線材になるじゃないかということ。まあ金田式としてはまったく邪道な訳ですが、細さは好適だし、スペシャル感にも溢れているし(爆)。

 7本撚り線は基本的に裸線だから、ユルユルの綿スリーブを被せただけでは絶縁にはなっても、線材表面の酸化を防ぐことまではできないので、長期的に観ればあまりよい手とは言えないだろう。が、思いついたら無性にやってみたくなってしまった。これを綿被覆の音を確認できる良い機会と捉え、あえてこれで行くことにする。まあ30年くらい前に作った金田式アンプの基板の7本撚り線を見ても、そんなに酸化がひどいという感じもしないので大丈夫なんじゃないかな、と。

 ちょうど45cmくらいの2497の切れ端があったので、半分に切って外側の素線を全部使って7本撚り線を作れるだけ作った。と書くとすぐだけれど、もちろんけっこう時間がかかる。数本ずつ、トータル5日くらいやってたかな。

 2497の切れ端はかなり古いものだったので、素線は純粋な銅の色ではなくて若干赤味がかっているが、捨てるにはもったいないのでここは妥協。
 たくさんあるように見えるが、配線に使うと消費量が多いので、これでちょうど使い切るくらいの分量だ。もっともまだ十分使える長さの切れ端がけっこう出るが、それらにもそのうち細々とした使い道ができそうだから、そう無駄にもならないだろう。

 ワックスコードはみんべさんによれば木馬というブランドのものがよいらしかったので、ネットで探したところすぐ見つかった。色も選べるので、2mmのものを配線の色分けを考えてとりあえず4色調達。

 2mmのワックスコードは編み上げた外皮の中に2本の糸と2本の透明な樹脂が詰まっている。樹脂のほうはテグスみたいな滑らかな感じではなく、断面が少し角張っていそう。配線に使う程度の長さだったら、これらをピンセットで摘んで引き抜くのは簡単だ。

配線

 本体の基本骨格を組み上げて、必要な長さのワックスコードを現物合わせで切り揃える。セレクターの特殊パラ接続など、一部の配線は既に施工済みだ。

 こんなもんかな。

 セレクタースイッチ周りは配線が混み合うので、配線をスムーズに進めるには一旦スイッチを外した状態でハンダ付けしておくのが吉。レックスのつまみは仮の作業用持ち手。

 こんなもんでしょう。

 そして、セレクタースイッチを本体に戻し全ての配線をやり終える。

 特にトラブルもなく完了。パッシブだから調整箇所もないし、あとは各パネルをネジ留めするだけだ。

 底面はこんな様子。

 足はタカチが別売りで出しているOリングを滑り止めに使ったやつ。位置はちょっと妥協することになった。パネルを固定するネジがあるので、それを避けると理想的な配置にできないのだ。
 特にフロント側は、セレクタースイッチを回すのにけっこう力がかかるので、安定のためにできるだけ横の間隔を広くとった代わりにオーバーハングが長くなってしまったのが少し残念。リア側はコネクタに挿さるケーブルの重さが加わることを考慮してパネル寄りに配置した結果間隔が狭くなっているが、こちらはまあ許せる。

 つまみの色が左右で違うのは、同じにしたのではなんだか落ち着き過ぎの印象で面白味がないような気がしてしまったもので。シンメトリーなデザインは難しい。それより自分のセンスがヘンかも?

聴いてみた

 セレクターとアッテネーターだけのハコにだいぶ時間がかかったけれど、特段のトラブルもなく音出しに漕ぎ着けました。この駄文もこんなに長くなるとは思わなんだ。

 セレクターは狙い通りうまく機能している。入力を切り替えてもまったくショックノイズは出ず快適そのもの。つまみの径は28mmだが、これでもクリックはかなり強く感じる。つまみの径がこれより小さいと回すのはかなりキツそうだ。サトーパーツ製のこのつまみはコレットチャックで締め付ける形式なので、イモネジで固定するタイプのものよりしっかり留まり安心感がある。

 アッテネーターのほうも概ね狙い通り、私の環境で出力0.1mVクラスの空芯MCカートリッジを使った場合、常用位置が14時の辺りになった。ただし、JT-RIIIのような極端に出力の小さいカートリッジを使うと17時あたりまで回すことになるので、ちょっと抑え過ぎだったかとも思わないではない。次に作る機会があれば、もう少しだけ早めにレベルが上がる設定にするかも。書き忘れていたが、このアッテネーターの回転角は330°あり、6時半スタートにすれば回せる範囲は左右対称になるが、あえて一般的な7時スタートにしたので、最大音量のほうのつまみ位置は一般的でない18時となる。

 で、肝心の音はというと、やっぱり断然良いですね。情報量の多いことはもちろん、よりくっきりと鮮やかな音が聞こえるが、決して刺激的な感じはなく、むしろ優しい表現に磨きがかかった印象だ。実のところ、東京光音のコンダクティブプラスチックのロータリーフェーダーでかなり満足できる音が聴けていると思っていたのだが、これを聴いたら可変抵抗器と固定抵抗切り替え式の差はやはりそう簡単には埋められないことを思い知った。
 ボリュームを替えただけなのに、アンプを換えた以上に音が変わったかのように感じられる。この音の良さのうちのいくらかは、ワックスコード被覆7本撚り線による配線によって得られているのだろう、たぶん、根拠はないけれど。

ちょい微修正

 いやいやこれは大成功、作ってよかった、メデタシメデタシ、という感じなのだが、落ち着いてみるともう少し改善したいところが見えてくる。

質量付加

 アッテネーターのつまみの感触に少し不満が感じられてきた。軽く柔らかく回せるのはよいのだが、少々軽々しいというか、カサカサ乾いた感じなのが今ひとつ。もうちょっとしっとりした感触であって欲しいところだ。

 とりあえず思いついた簡単に出来る対策。つまみが軽い樹脂製なので、これの質量を増やして慣性モーメントを大きくしてやれば少しはよくなるのではないかな。

 というわけで、つまみに質量付加。

 釣り用の鉛板重りを適当に切って丸めて、つまみの空洞部分に詰め込んだ。こうして見るとちょっと雑ですな、隙間やや多め。そのままだと簡単に抜け落ちてしまうので、接着剤を少し垂らして固定した。
 これでつまみを持ってみるとけっこうずっしり来る感じ。絶対的にはそう大して重たい訳ではないのだが、見た目からは意外な重さだからだろう。

 アッテネーターに装着して回してみると、大幅にとまでは行かないものの、ある程度感触は改善されたのでこれでよしとする。

 ところがこれで音を聴いてみたら、えらい変わり様である。音質対策の意図は特になかったので、思わぬ音の変化に正直驚いた。
 つまみの重さで音が変わるというのは、(一部の?)オーディオ好きにとっては割と常識なのではないかと思うが、私自身は、それは連続可変の普通のボリュームについてのことで、摺動子の動きがステップごとにバネで規制されるアッテネーターでは影響は小さいだろうと勝手に思っていたのだ。それが、このアッテネーターのバネが弱めであるせいなのか、かなり音が変わって感じられた。具体的には音が濃く力強くなった感じ。質量感が増し、より鮮やかで生き生きとした表現になったのだ。
 あまり印象に残っていなかったレコードから浸透力のある音楽が聞こえてきて、あれっ、と思うことが度々だ。こんな演奏してたっけか、みたいな。こういうことならもっと丁寧にきっちり重りを詰めておくんだった。あと5%くらいは重くできたかも。

 ボリュームのつまみの重さが音に影響することについて初めて言及したのは長岡氏だったと思う。だいぶ経ってから金田氏もおそらく独自につまみの重さの影響に気づいたが、長岡氏と金田氏とではその判断が違っていた。長岡氏は重いほうがよいとしたが、金田氏が選んだのは軽いほう。正確な表現は忘れてしまったが、より軽やかに音が広がる、というようなことだったかと思う。
 耳が慣れた時分に未処置のつまみと取り替えれば、今度は軽やかな音の広がりが味わえるだろう(爆)。

電磁波ケア(?)

 TruPhaseのページをあらためて読んでいたら、「…電磁波の吸収効果など細部におけるノーハウを投入」という記述に目が行った。これは…あれかな、たぶん。

 ということで、例の“サウンドペーパー”も投入してみることに。

 素子といえるものはアッテネーターの抵抗だけなので、なんとなく周辺を取り囲むように耐水サンドペーパーを少しばかり切って張り込んでみたが、音質のためにこれが正しい場所なのかどうか正直よくわからない。電線だってごく抵抗値の小さい抵抗とも言える訳だから、あらゆる場所に貼っていいのかもしれない。CDPのときは効いたけれど、そもそもパッシブのこれに効くのか疑問でもある。

 ところが一聴、確かに変わって聞こえる。しかも何だか気持ち音がさっぱりしすぎで少々効き過ぎの感じ。なんで効くのか想像困難なので扱い難い。ともあれ多くてもダメそう、ということで少し減らし(こんなところに調整箇所が)、最終的にこんな感じに落ち着いた。

 どうやらこのあたりで完成かな。可変抵抗器をなくしたらよくなって当然とは思ったが、それまでの東京光音のロータリーフェーダーがかなり優秀だったから、激変とまでは行かないだろうという気もしていた。結果は嬉しいことに、思っていた以上にいい音に仕上がった(当社比)。印象で言ったら音楽の訴える力が10dBくらい向上したような感じ(分かり難い?)。

 音なんかよくなくても音楽は楽しめる、それが音楽の本質だ、という主張があるのはよく理解できる。けれど、奏者がどんなニュアンスを込めて演奏しているのかまでが感じられてハッとなったりするのは音がよくてこそだろう。音がよくて初めて伝わるものが確かにあるし、それは音楽を聴く喜びを何倍にも膨らませてくれるはずだ。

 いや、作ってよかった。もっと早く作っていればと思わないではないが、今だから作れたと思える部分が多々あるので、きっとこれでいいのだ。

 今日も、満足感に浸って音楽を聴いています♪