超低ジッタークロック in SDカードトランスポート


 こうして信号の送り出し側をいじっていると、「デジタル(ことPCMに関しては)」というのは概念に過ぎないのだな、という思いが増してきます。つまり、純粋にデジタルといえる伝送なんて不可能に近いのではないかと。やればやるほど、そもそもクロックという「アナログ信号」に立脚しているのであったことを再認識させられてしまうんですな。


 これを書いている2013年1月からすれば、この改造記の内容はほぼ1年前から数ヶ月間のことになります。なにやかやと忙しく、書き出す気分が盛り上がることなく日が経ってしまっておりました。当サイトは内容の割に無駄に文章量が多いのが本来の(?)スタイルなのですが、今回はあまり時間が割けないため、筆が進むことを優先し、文章量を抑えて若干簡潔に行くことにしました。


回転メカ抜き44.1kHz/16bit

 SDカードトランスポート、QA550。持てる機能は、CDからリッピングした44.1kHz/16bitデータを入れたSDカードから読み取ったデジタル信号をS/PDIFにて出力するのみ。

 単純な機能と、回転メカを持たないシンプルさのゆえであろう、音の良さはすでに多くの方が報告している。そして、いじれば更によくなることも。

 で、ご多分に漏れず私もあれこれやってみた。

 オリジナルの550内部。

 そのままでもなかなか明瞭な音がでるが、PD-F25A改を駆逐するほどではない。とりあえず、しなやかさ、優しさ、深さに物足りなさを感じてしまう。



 まず買ってすぐにやったのは、ハンダ鏝不要の改造。K式で話題の(とはちょっと違うが)SiC、のシートすなわちサンドペーパーをケース内側に貼った。

 上のほうが空いているのは後のことを考えてのこと。


鏝はじめ

 鏝を使っての改造として、まずは給電ジャック直後に入る電解コン470μFを、1000μFのルビコンMCZに換えた。容量倍増&低インピーダンス化。

 音は気持ちのびやかになったか…


保護ダイオード撤去

 給電部には、間違えて極性の異なるACアダプターを挿した場合の対策としての保護ダイオードが備わっている。これが音にはかなり悪さをしているらしい。

 自分で使っていてACアダプターを間違える可能性はほぼない。というわけで、迷わず撤去。

 これが

  こう

 はたして、これはかなり効いた。俄然くっきりと力強い音が出る。



超低ジッタークロック

 さて、お約束のPureRhythm2をインストール。そもそもこのページ、これがないと始まらない。

 これが

 こう

 クロック出力の配線が短くなるよう横倒しにしている。厚手のクッション性の両面テープで踊らないように固定。部品面のシールドは省略(後で処置したが、聴いても分からない)。

 予想どおり、この時点で音はPD-F25A改を超えた。回転メカがないのはやはりいいことだ。

 しかし弱点はある。SDカードにデータを移す手間はどうしようもない。あと、トラックの変わり目で一瞬音が途切れる。これがオペラやライブものを聴くときに残念だ。


 クロックの効果に気を良くして、大元の5V3端子レギュレーター、JRCのものに換えてみた。

 もとのに比べ、ノイズ特性は若干ましかという程度のものだが、オリジナルのSTマイクロ製は音が硬いようで、これで少しアナログ的な音になった。

 ということは、もっとよいものを付ければ更によくなりそうだ。

 ところで、回路の主要デバイスはすべて3.3Vで動作している。この5Vレギュレーターの後には、主要デバイスそれぞれに対してローカルの3.3Vレギュレーターが入れられているのだ。
 ということは、当然それらもグレードアップする余地がある。



 というようなことをしているうちに待っていたものが到着。


 いずれのため、先に準備。



 無事組み込み完了。これでカプリースはI2S信号を受け取ることができるようになった。
 しかし楽しみは後に取っておいて、まずはS/PDIFで行けるところまで行ってみるとしよう。


低ノイズレギュレーター

 レギュレーターで音がよくなりそう、ということなら…

 閃いた。そうだ、新たに調達せんでも、あるな、ここに。

 そう、PD-F25Aに載せたこれをこっちへ持ってこようかと。実は代わりに使えそうなものが手持ちにあったので。

 早速工作。そのまま置き換えられる3端子ではなく、5端子(1本はNCだが)のLM3080である。
 必要な電圧を得るには、電圧×100kΩの外付け抵抗が必要だ。5Vには500kΩ、これは1MΩをパラにして周辺コンデンサ共々基板に実装し、3端子置き換え仕様レギュレーター基板をでっち上げた。

 して、問題なく選手交代。

 レギュレーターがグレードダウンしたことになるPD-F25A改であるが、聴いてみるとLM3080の音も案外悪くない。もちろんLZN7805とは傾向は違うが、普通の3端子レギュレーターよりは好ましい音に思える。グレードダウンでも、幸い残念な気分にはならずに済んだ。


 して、本題の550のほう。早速載せてみよう。

 はたして、いがらっぽさが消える。スムーズで品の良い音だ。やはりよい。

 しかし…


 一度スタンバイモードにして復帰しようとしたところ、電源が入らなくなってしまった。

 QA550は5Vレギュレーターの後に数百μFの電解コンデンサがぶら下がっているものだから、どうやら復帰の際に突入電流でレギュレーターの保護フューズが切れてしまったようだ。

 面実装チップフューズはこんなふうに切れるのね…

 QA550に載せておく限りは、流れる電流は200mA以下のはずだからフューズはなくて大丈夫。7本より線で短絡してしまうことにする。そのほうが音もよさそうだし。

 ということで無事復活したが、確実に良くなってはいるものの、やや地味目になった感じもある。まだまだだね。


 ならば、次。ごく順当に、3.3Vレギュレーターにも手を着けるとしよう。
 全部で3個あるのだが、全てAMS1117である。データシートによれば、性能的にはごくフツーの3端子レギュレーターだ。つまりノイズ多し。

 これをフィデリックスのものに換えるとよくなるであろうことは容易に想像がつく。が、3個のコストはちょっとでかい。供給電流に対して容量が無駄に大きい観もある。あと、今となっては「よくなって当たり前」という意外性のなさはサイトネタ的には今ひとつ。

 そこで、これに目をつけた。

 LT1763-3.3。フィデリックスのレギュレーターには及ばないが、ノイズは20μVと、普通の3端子に較べると1/3以下だ。値段もそう高くはない。これ、実はカプリースにも載っている。(今ならA月電子でNJM2863F33というレギュレーターが手に入るのだが、このときはまだ販売されていなかった。安くて更に低ノイズなので有望と思うが、パッケージが小さいので扱い難そうではある。)

 まずはSDカードからデータを取り出す主役であるところの中央のチップPIC33FJ128用のレギュレーターをこれに換えてみることにした。

 形が違うからもとのランドには載らない。まず耐熱テープ(カプトン)でランドを絶縁。その上に銅箔テープで1763用のランドを形成。同箔の端が少し飛び出してもとのランドのひとつに接しているのが分かるだろう。ここをハンダ付けしてこの銅箔がグランドになる。

 ここに3本のグランド以外の足ピンを跳ね上げ整形したLT1763を載せてハンダ付け。

 入出力は空中配線。ノイズバイパスの0.01μFもピンに直接ハンダ付け。

 こうして観るとチップが小さいので7本より線がずいぶん太くガサツに見える…(^^;。

 さて、その音であるが、確かに効果ありだ。音がより明瞭になり、活気が出てきた。ただし、ちょっと硬さがあるのが気になる。トータルではよい方向なのだが、もう一歩。

 やはり一番効きそうなのはクロックの電源だろう。PD-F25Aでも効果は顕著だった。1763がローノイズといっても、クロック用にはまったく物足りないスペックだ。実は別のアイディアがある(フフフ)。


超低ノイズ(かも)レギュレーター

 フィデリックスのサイトの「技術情報」にカプリースのクロックに用いられたレギュレーターの回路が載っている。所謂スーパーシャントレギュレーターだ。回路も簡単だし、超ローノイズが実現できそう(だが、自分では測れない)。消費電流も限られるクロック用の電源としてはベストと思われる。

 公開されているのは定数も載っていない概略の回路図だが、まあなんとかなるでしょう。というわけで、細部は自分で適当に考えて作ってみよう。

 回路はこう。基準電圧の生成はK30AのQポイント電流を利用するおなじみの方式だ。

 修正を重ねて最初とは若干定数が変わったが、これが最終版だ。R1,2はK30Aの特性に応じて調整が必要。あえて半固定VRを使わなかった。

 基板はやはりいつもの金田式スタイル。7本より線で2.54mmピッチの紙フェノールにこんな感じで。

 基板図ではトランジスタの型番が違っている。Q1,2,3はもっといいものがあろうかとA991とかC943などを試してもみたが、あまりよくなくて、最後にこの金田式の“銘石”に落ち着いたという訳。

 これが最初に組んだときの実物の写真である。後で少し定数が変わるとともに、抵抗がPRPに替わったり等の変更があった。

 通常の自作オーディオの感覚ではかなり小さい基板だが、もとのAMS1117からすれば圧倒的に大きいので、550に搭載するスペースが苦しい。550基板中央のプロセッサーICの上に両面テープで留めるしかなさそうだ。とすると、そのままだと働くICの余計な輻射を受けそうだから、基板裏面はシールドを施す。

 厚手の両面テーブで覆い、さらに同箔テープとサンドペーパーを重ねてみた。


 そして、ひとまず搭載完了。

 さて、このレギュレーター、案の定バツグンの威力を発揮した。硬さはどっかへ行ってしまい、しなやかであでやかな音が溢れてくるではないか。超低ノイズ(かも)の御利益は聴感上確かにある。激変だ。

 ときに、オーディオマニアはことあるごとに「激変」を使いたがる。一般人からすれば「大げさな。そんなに変わってたまるかい」といったところだろう。だが、こうも考えられる。例えば100点満点で95点くらいだ、と思っていた自分のオーディオの音が、改良によって97点くらいになったと思えたとする。2/100点のアップに過ぎないのだが、見方を変えれば、不満足であった5点のうちの2点ぶんが解消されたということなのだ。本人とすれば40%の改善があったように感じても不思議はない。これは「激変」と言ってよいレベルだろう。


 閑話休題。いつのまにやらまた無駄に文章量が多くなりつつある(^^;。

 ところで、これがPureRhythm2のクロック波形。下の波形はレギュレーター出力をあたったものだが、ちゃんと(?)クロック出力に揺さぶられている。スケールはどちらの波形も同じだったと思う。ということは、負荷変動にびくともしないレギュレーション、では全然ない。が、なにしろ周波数が高いので、我がアンティークオシロがはたして実態を正確に捉えているかは不明、というか、たぶんムリ。

 ということで、計測で高性能を確認することはできなかったけれど、聴感はバッチリなのでよしとしよう。


 







 さて…

 前回の「つづく」から1年半以上も間を空けてしまった。(汗

 あらためて上のオシロの写真を見てみると、このクロックが11MHzほどということは、リンギングの部分や電源波形に乗っている小さい波のほうは大方100MHzくらいになるわけだな…ここまで行くともうレギュレーターがアクティブに対応できる周波数ではないわなあ。ということならやっぱり、たぶんいいんだろう、これで。
 というわけで、次いこう。


使い勝手微増

 このキカイにはパイロットランプがない。聴いている最中には不要だが、やっぱり動作中であることが見て判るようであるほうが気分はよろしい。そこでスタンバイ表示の赤LEDのランプを2色LEDに置き換えて、動作中にも点灯するようにしよう。

 私の好みとしては、動作中は黄緑色がいい。A月電子で使えそうなものを探したが、もとの赤LEDと同形状で赤/黄緑のものがなく(この当時)、面実装品を使うことになった。

 パネルの穴から顔を出すようにはできなかったが問題無し。LEDはパネルに接着したりはせず、リード線で支えているだけだが、強度は足りている。
 動作中表示用の緑のほうにはスタンバイスイッチの機能をしているMOSリレーICの後の5Vラインから直列に抵抗をかませて給電。今どきのLEDはやたら明るくて、抵抗値は39kΩ。赤の側も、基板上のもとからの抵抗だけでは明るすぎて同じ値の抵抗を入れた。

 ところで、QA550の液晶ディスプレイは取り除いたほうが音が良い、というふうにも聞くが、文字数が少なく僅かな情報を不完全に表示することしかできないこんなディスプレイでも、私はあったほうが使い易く感じるので外していない。
 表示されるのは、標準状態では曲名(ファイル名)とSDカード上のインデックス番号なのだが、音楽ファイルはアルバム毎にフォルダにまとめているので、どうせならフォルダ名と曲名の表示が望ましい。実は、QA-550.iniというファイルでフォルダ名と曲名を表示させるように設定することができる。

 適当なテキストエディタで必要項目の引数を書き換えることで設定し、このファイルをSDカードのルートに置けばよい。私は液晶表示以外の項目はいじっていないが、他にリピートやランダム再生の設定などもできる。
 しかし、こんなファイルは英語で用意してくれりゃどうかと思うが…



電源系電解コン交換

 電解コンデンサをもっといいものに換えると音が良くなるという。毎度のことながら、それでもデジタルか、と突っ込みたくなるが、もっとよくなる可能性があるならやってみんべ。

 ということで、まずはDCジャック直後の電解コンデンサに手を着けた。手持ちにあったニチコンの旧製品のMUSE FX。容量はもともと付いてたものと同じ470μF。

 ここは改造をし始めた頃に同容量の低インピーダンス品、ルビコンMCZにしていたのだが、意外にもオーディオ用すなわち音声回路用のこれが魅力的な音を聞かせた。ちょっとナローになった感じはあるが、なんともアナログっぽい鳴り方。正しい方向とは違うか?とは感じつつも、こっちのほうがずっと楽しい。

 さらに、主要IC周辺に多用されている鉄リードのOSコンがよくない、という説もあるようなので、それなら、とFineGoldだらけにしてみた。

 ら、刺々しさはすっかりなくなったのはいいけれど、なんとなく眠たい音になってしまった。

 やはりデジタル回路に適性のあるパーツのほうがよさそうだ。
 というわけで試してみたのが、これもA月にあったAVXのタンタルコン。よく見る黄色い四角いやつ。スルーホールのランドの縁にどうにか面実装(^^;。

 こちらはなかなかよい感じ。眠くはなくなったし、見通しのよさも感じられるし。電極はもとのOSコンのリードと同じで磁性体なのだけれど、OSコンよりいいみたい。

 ジャンク箱をひっくり返したらブラックゲートNの470μF/6.3Vを発見。だいぶ大きいが、うまく寝かせれば収まることが判ったのでつけてみた。写真の赤いやつ。小さいのは100μF。

 この時点で、DC入力直後のMUSE FXは少し大柄の1000μF/25Vに替わっている。しかし、やや凡庸な印象だったので、再度470μF/16Vに戻してしまった。パルストランスもムラタのものに換わっているが、これも音に影響する。

 さて、ブラックゲートを入れた音は、がっちりダイナミックになるかと思いきや、しっとりした感じになってちょっと意外だった。私には望ましい方向なので、これで行くことに。



 ところで、550の電源として使っているFIDELIXのACアダプターのほうにも手を入れる余地がある。milonさんに倣って、出力部の電解コンの増量を試みた。

 手持ちにあったニチコンFG470μFとMUSE FX 1000μF。どちらも若干の音質向上が認められたが、正直もうひとつ決め手に欠ける感じ。

 むぅー…なんかないかな、とジャンク箱…ハハ、まさかね…

 

 くすんで見えるが、外皮はツヤのない深緑。安全弁のプレスの模様に特徴。判る人、どのくらいいますかね? 太古の、今や伝説(でもないか)のニチコンADAM 47μF。
 製造されてから30年くらい経っていると思う。テスターであたって一応容量抜けがないことは確認できたけれど…

 ま、ダメ元で入れてみますか。

 やっぱりボケてるし、つまった音だね。

 まあ判断はリハビリ後にせねばなるまい、というわけで音は聴かずに動作はさせて一晩放置。翌日改めて聴いてみると…

 えー!

 いいじゃないですか(汗

 ニチコンさん、ADAM再販してくれんかな。





そしてI2S伝送

 ここまでDACとの接続はS/PDIFでやってきたのだが、だいぶ煮詰まってきたところで、いよいよ満を持してのI2S伝送を試みる。

 筐体加工をサボって、出力端子側のパネルを外した状態でI2S出力を引き出すべく、こんな具合に基板を設置した。

 写真に見える白、黄、緑の配線がI2Sの信号。赤と橙は電源ラインである(黒のGNDはこの後ちょっと変更)。

 電源ラインにはちょっとした工夫を盛り込んだ。

 母基板の光出力ユニットを撤去した跡に居座るのはお馴染みのLT1763-3.3。送信基板用の電源にもまたこれを使った。青いコンデンサはEROのスチコン、ノイズバイパス用1000pFである。
 このレギュレーターからI2S送信基板までは少し距離がある。そこで、ここにリモートセンシングを採用することにした。橙色の配線は1763のSENSE端子に繋がっている。

 実のところ、1763を送信基板の側に持ってくることも難しくはなさそうなのだが、せっかくあるSENSE端子を使ってリモートセンシングをやってみたかったのであった(爆)。



 出力端子はこんな感じ。狭いスペースにギリギリでうまく収まっている。後でちゃんと見栄えよくパネルを自作するつもり。



 こちらはHDMIケーブル装着済みのI2S受け側の様子。



 というわけで、ついにI2S伝送で音が出た。

 音は…まあ当然ではあろうが、S/PDIFとは比較にならない。




 最も新しい内部写真。一応これが落ち着いた姿である。その後いろいろ小変更を重ねている。またOSコンが1個見えるが、これは銅リード品。出力端子側のパネルは…まだ作ってません(--;。