ゴトウホーンシステム(ただし、ビンボー仕様…)


ゴトウユニットがやって来た(^^)
 SG-37FRPとホーンS-400を手に入れた。30年前の製品である。

 SG-37FRPはゴトウユニットの中ではエントリーモデルだった。マグネットも小さく、同社のドライバーの中では能率も少し低め(といっても110dB/W/mもあるけれど)。比較的安価ではあったが、ゴトウユニットの名を冠して世に出しておくには性能に不足があったのか、それともゴトウを使おうというような人はみんなお金持ちなので、こうした性格のユニットには人気が集まらなかった、ということなのか、生産されていた期間はそう長くなかったと思う。

 ホーンのS-400も中止品だ。開口径30cm、カットオフが400Hz。現在では、ゴトウユニットの標準的なシステム構成は事実上4ウェイのみになってしまったが、そうなるとこのサイズのホーンは中途半端だということになるのだろう(当時の製品ラインアップではまだ3ウェイも想定されており、MJに出されていた広告には3ウェイのシステム構成例が載っていた)。

 現在このクラスの製品がラインアップにないということは、後藤精弥さんご自身がこれらを否定しているようにも受け取れて、あんまり嬉しくない。しかも、前オーナーはこれを1ヶ月ほど鳴らしてみただけで、後は死蔵していたのだという。よほど期待はずれの音だったのか?
 といった不安もなきにしもあらず、なのだけれど、なにしろ現行製品はみな高価だし、まあ入門用にはこれでもよかろう、とおっかなびっくり手を出した、という訳。

 フェイズプラグを囲んで丸穴が並んでいるのが判る。いかにも手作業でドリル加工されたふう。


 SG-37FRPだけではもちろん中〜中高域しか出ないので、これにウーファーとトゥイーターを足して3ウェイとする。
 トゥイーターはやはりゴトウの、SG-37とほぼ同時期の製品であるSG-17SAがほどなく手に入った。

 いささかくたびれていて少しメッキが浮いていたが、まあしょうがない。それより、ちょっと解せないことがある。マグネットに貼られたラベルにはSAとあるのだが、Sの後にAが付くやつはカットオフが少し高くなる小ぶりのホーンが付いているはずだ。しかしこのホーン、大きい。このラベルは正しいのか?また、再着磁歴ありということだったが、相当昔のことらしいのであまり意味はなさそう。ラベルの脇に「再着磁 BGM」なんていうシールが斜めに貼られていたのだが、シールのセンスがなんだかゴトウの仕事っぽくない。もしかして、BGMは会社名かな?
 それやこれやで、あまりきちんとした素性のユニットではなさそうなのだった。おまけに後で片方の音圧が少し小さいことが判明する。片側の減磁かと思ったが、ゴトウに修理を依頼したら振動板が交換されて戻ってきた。修理費用は意外とリーズナブル。
 疑念は持ちつつも、これで音圧も揃い、音色も使い込まれた側と差異は感じられず、一応ゴトウで看てもらったという安心感も得て、まずはメデタシメデタシ。

 これら中・高音のユニットおよびホーン、修理費をまとめても、現行の標準的なゴトウユニットの1本の値段よりまだ安い。かくも安価にゴトウユニットを味わおうという野望は、はたして実を結ぶのか?


ウーファーは?
 さて、ウーファーをどうするか。昔冷やかしで取り寄せたゴトウのカタログが手元にあるが、その最後の頁に載っている組み合わせ例のいちばんローコストなやつを見ると、SG-17SAとSG-37FRP+S-400ホーン、それに「良質の」30cmウーファー、という組み合わせが紹介されている。クロスは500Hzと5kHzとある。
 私の部屋ではスペースが苦しいので、もとよりあまり大きな箱は置けない。30cmのユニットとなると、比較的小さめの箱で使えるものでなければ難しい。JBL4311Aのウーファーだけ使う、という手も思いついたが、それ以外だと置ける箱とのバランスから20〜25cmが現実的だろう。
 高能率のホーンの中・高域と組み合わせるには、やはりできるだけ高能率であることが望ましいので、ナンタラスピークなどを筆頭とする能率が80dB台の最近の製品は端から候補になり得ない。マグネットもできればアルニコがいい。ゴトウの現行製品にSG-20WRというのがあるが、これなどはまさしく希望にぴったりの製品だ、値段以外は。さて、う〜、むぅ〜…

 と唸っていたところ、こんなの見っけ。

 今はなきDIATONEの20cmウーファー、PW-201である。なんと、デッドストックだ。アルニコマグネットで、インピーダンスは購入済みのゴトウユニット群と同じ16Ω。能率94dB/W/mは、この口径でこれ以上欲張るとウーファーじゃなくなる、といったところだろう。
 昔のスピーカー工作のムック本などにはよく載っていたユニットだが、写真から受ける印象はあまりパッとしなかった。上級機のPW-125と比べると、幅の狭いエッジとのっぺりしたコーン紙がなんだかあんまりやる気のない印象だったし、他社の現代的デザインのユニット群からすれば、このいかにも国営放送局用といった風情の姿形も垢抜けなく見えた。かつてのオーディオ少年たちが憧れた、というユニットではなかっただろう。
 しかし今こうして実物を手にしてみると、これは“いいもの感”が横溢している。当時現代的なデザインと見えた他社のユニットのほうが、今ではよほど古くさくて安っぽく見える。私の購入価格は2本で¥32,000だったが、後で本棚の隅の芸文ムック「D.I.Y.オーディオ」('82年発行)を見たら1本¥21,000となっていた。すごく得した気分♪(^^)。

 写真では判らなかったが、今回入手して初めてコーンがボウル状に湾曲していることを知った。パラボラカーブなのかどうかは不明だが、こうした形のコーンは特定の制限された帯域を再生する用途に使われることがある、とは古いスピーカー工作の本に書いてあったこと。


 カバーを外してみたところ。さすがは「局仕様」、マグネット周りはP-610よりずっと贅沢に作られている。

 moはなんとたったの12gだ。フォステクスの20cmフルレンジのmoを見てみたら、そっちのほうがまだ重いのだった。今ではなかなかこんなスペックのユニットはないだろう。う〜ん、キレのよい音が期待できそうではないか♪…というか、出るのか、低音?
 そんなわけで、当然ながらローエンドはあまり欲張れない。スペック上は50Hzからとなっているが、特性曲線を見ると50Hzのあたりは200Hzのレベルから10dB近く落ちている。
 ちょいと裸でアンプに繋いでみた。ら、はて、全然低音なんか出ないぞ…なんだか8cmくらいのラジオのスピーカーのような鳴り方でないかい。いくら箱に入れていないといっても、これでウーファーになるのだろうか?
 と思ったが、コーンに耳を近づけてみると、これまで聞いたことがないような歯切れよい低音が聞こえるではないか。深々と包み込まれるような低域は想像で補うことにして、ここは量より質を期待しよう。

 エンクロージャーは、県内在住の木工趣味人の方にW450mm,H600mm,D300mmのオンケン型バスレフ箱を発注。合板製の安価なものだが、音に大きく影響しそうなバッフル板のみパインの集成材にしてもらった。
 PW-201の指定箱はけっこう大柄で、およそ90Lほどもある。私のこれは50Lくらいだが、このユニットを生き生き鳴らすための容量としては最小限度といったところだろう。が、私の今のオーディオ用スペースに置ける大きさとしてはこのあたりが限界に近い。いろいろと妥協せねばならないことはある。何が何でも低音ホーンを我がリスニングルームに、といった願望は今のところ持っていない。

 表面はワトコオイルで簡単に仕上げた。さっぱり醤油味、のつもり。木質に染み込んで硬化するので、表面をコーティングする重たい塗料を使うより、木の響きを生かせるのではないかと思う。あまり匂わなくなるまでけっこうかかったが、有機溶剤を使った塗料とは異なり、そんなに嫌な匂いではない。これを置いた部屋に戻ってくると、木工製品の香りがするのがちょっと心地よいくらい。


インスタントな置き台(^^;
 ウーファーの箱の上にゴトウユニットをただ置いたのでは転がって落ちてしまうので、それなりの台が必要だ。金田氏推奨はインライン配置。横から見て、各ユニットの振動板位置がそろっているのが望ましいが、低音ユニットと中音ユニットの位置を揃えるのはホーンが長くて無理だ。中高音ユニットをクロス周波数の1波長ぶん奥にずらして配置するのが次善の策だが、エンクロージャーの一番後ろに合わせても1波長分にならない。そういうときは「あまり気にせず」とも金田氏は書いているので助かる。

 凝った台の工作を考えてスケッチをあれこれ描いてみていたのだったが、エンクロージャーが仕上がっていよいよ音を出せるようになってくると、「早い!安い!旨い(?)」のアイディアが閃いた。さっそくホームセンターへ。

 買ってきました。テーマは「ノコギリは極力使うことなく、ドリルとねじ回しだけで作れる構造」ということで、MDFのボード、ウッドポール、三角柱。

 で、こうなった。

 なんだか○印良品か○販生活みたいな風情ではありますが、まあ私らしくはある、か…(^^;。


 MDFというのは初めて使ったが、なんだか紙みたいなもんですね。とりあえず硬いけれど、濡らすとほぐれてきそうだ。叩いてみても響きは良くないし、あまりお勧めできない感じ。



DC流クロスオーバーネットワーク
 マルチアンプシステムにするだけの用意はないので、まずはネットワーク式で。もちろんDC流に6dB/octだ。SG-37+S-400は、使おうと思えば500Hzからでも使えるようなのだが、どうやらそのあたりはPW-201のおいしい帯域らしい。それに、ウーファーのハイカットを低く取るとコイルが大きくなる。16Ωだとなおさらだ。ということで、クロスオーバー周波数は800〜900Hzと5kHzでいいだろう。

 設計した定数は下図のとおり。手持ちの双信V2Aの2.2uF、10uFと0.5mHのコイルを有効活用することを優先したため、中・高域はアッテネーターから先が14Ωほどになっている。

 ウーファーのローパスフィルターの3.3mHは、計算値だと2.7mHのほうが近い。しかし、今回のクロス周波数のあたりでは、PW-201のインピーダンスはもう20Ωを超えてしまっている。しかもカーブが右肩上がりになっており、若干大きめのLを入れておくのが吉と観た。
 このくらいのインダクタンスになると、空芯だと物量が必要になるのでけっこう高価だ。市販のコイルを探したが、見た中で最も安かったのが意外にも銅フォイル巻きのものだった。ちなみに、金田氏は帯状の導体に音楽信号を流すことに否定的だが、ここは金に糸目を付けることにして、ま〜いいや、と(^^;。

 いざ聞いてみたら、中高域は張り出し過ぎ、高域は思ったほど出ていない。しばらくの試行錯誤の結果がこれ。

 結果的にSG-37をずいぶんと抑えて使うことになってしまった。PW-201の高い方の帯域がやはり十分に減衰されないようで、SG-37の受け持ち帯域とかぶってしまうようだ。よりフラットさを求めるなら、むしろPW-201のインピーダンス補正を考えるべきかもしれないが、音にはよくなさそう。
 SG-17のほうは逆にもっと出すことに。かなり使い込まれていると思われるSG-17だが、やはり減磁もあるのかもしれない。

 それにしても、このSG-37の使い方はどうだろう。この帯域のパワーの99%以上をアッテネーターが喰っているという有様だ。う〜ん、勿体ないにもほどがある。
 とはいうものの、このおかげでS/N比が十分取れている訳でもある。我が300Bアンプ、そのままゴトウユニットに繋ぐと、たぶん回路の動作を支えているツェナーダイオード由来のものであろう「サー」というノイズが盛大に出てしまう。このネットワークを通した場合に比べ、音量が同じならS/Nは100倍も違うことになるわけだよな。なんてことだ…


ホーンの音
 実のところ、過大な期待はしていなかった。何しろ「あの」ゴトウユニットではあるものの、30年も前の旧製品だ。物量においてはCDM-1などよりはるかに贅沢だが、むしろ歪率など物理特性では現代のスピーカーに及ばないのではないかという不安があった。
 はたして、鳴らし始めの音は実に癖っぽかった。なにやら中高域が蓄音機のよう。音に鮮度が感じられない。独特の響きがつきまとい、細かなニュアンスが聞こえてこない。前オーナーがSG-37を1ヶ月でお蔵入りにした理由がこれだったか、と暗〜い気分に。
 しかし、幸い数日経つと癖が薄れてきた。30年もの間眠っていたユニットが本調子を取り戻すには、だいぶリハビリが必要だったようだ。

 さて、まともに鳴るようになってみれば、音の出方が全然違う!いや、これまで使っていたB&WのCDM-1と比べての話だけれど。
 私の聞き方というのは比較的小音量のほうだと思うが、高城重躬氏は雷鳴を再生して悦に入っていたようだし、金田氏にしてもかなりの大音量派らしい。それでなくてもホーンというとPAのイメージが強いから、ある程度大きな音を出さないと良さを発揮できないのではないか、という不安もないではなかった。が、そんなことは全くの杞憂だった。あまり音量を上げなくても、実にコントラスト鮮やかな、質量感のある音が出る。楽器の、振動している材質がよく感じられる音。小音量でも振動系が正確に動いている感じで、微細な音のニュアンスが損なわれない。意外にもコンデンサー型ヘッドフォンの音の出方に通じるものを感じる。そしてこの鳴り方の品のよさ。やはりPAのホーンとは訳が違うのだ。ゴトウユニットの最大入力はたったの5Wだし。それにしても、とうの昔にライン落ちしたローコストユニットでもこんななら、もっと上級のゴトウユニットはどれほどよいか…
 というわけで、むしろCDM-1の鈍さを思い知った次第。あれだって、近年の低能率なスピーカーの中ではけっこう鳴りのよいほうだと思っていたのだが、なるほど、こういう音を知ってしまえば今どきの低能率のスピーカーは、いくら歪みが少なく特性がコントロールされていたとしても、鈍くて聞いていられない、という主張があるのもうなずける。

 それぞれのユニットの位置がけっこう離れているにもかかわらず、音のまとまりが良好なのも意外だった。スピーカーの前1mの位置でも聴ける。クロスオーバーのカーブが緩やかなので、中域などは全部のユニットの音が重なっていることもあるだろう。が、HIGH・MIDを横に並べて試しで鳴らしたときにはかなり音源位置が離れていることによる不自然さを感じたことからすれば、やはりインライン配置の賜物だろうか。LOW-MID間は振動板位置を合わせられていないし、クロス周波数1波長ぶんのシフトというわけでもないが、特に違和感はない。きちんと合わせられればもっといいのかもしれないが。

 ウーファーはやはり安普請だけあってバランスが今一歩か。低域にピークが感じられたので、片側6個あるバスレフポートのうち3個をフィルター用のウレタンで塞いだら、まあまあ自然な感じになった。が、曲によってはまだまだ箱の音がする。このあたり、もう少し対策をしてみたい。しかし、このままでも曲がハマると実にイイ感じで鳴ってくれる。クラシックギターの胴鳴りなど、まことにリアルだ。ギターの胴は木の箱だから、構造・材質が似ているせいだろう。エレキベースは全然ダメ。
 ところでPW-201の反応の良さは、Lを通したのではだいぶスポイルされるような印象がある。思い切ってクロスを2kHzにして、2S-208よろしくPW-201はスルーで鳴らしてしまう、というのも面白いかも。けれどそれだとSG-37の受け持ち帯域は1オクターブ半くらいになってしまうのがなんだかなあ…。このあたり、マルチアンプにすれば解決してしまうんだが、と更なる欲が…

(そしてどんどんシステムが大掛かりになって、いつしか電源を入れるのも億劫になってしまっていることに気がつく、そして結局フルレンジ1発に戻る、とかいうオチだったり…いや、私の性格からすると十分あり得ることです(^^;。)






位置合わせ

 金田式推奨セッティングということで、振動板位置を揃えて設置した中音ユニットと高音ユニットだが、微調整して最適位置を見つけられたのかどうか判然としないまま時が経っていた。先人たちの言によれば、数ミリ移動しただけでも聴感には大きな変化がある、らしいのだが、私のところではユニットを前後に動かしてみても、そんなに変わって聞こえる感じはなかった。もちろん微妙に変わりはするのだが、「絶対にここでなければ」と断言できるほどの音楽表現力極大ポイント的な位置があるようには感じられなかったのだ。原因として考えられることといえば、

(1)もともと話が針小棒大である
(2)部屋の音響条件が悪くて違いが判り難い
(3)駄耳である

あたりが有力かと思われる。が、どれに該当するのか悩むよりも音楽を楽しんだほうがずっと有益な気がするので、とりあえず深く考えないことにしてせっせとレコードを聴く日々であった。
 ところが、あるとき気がついた。音を出しながら2組のスピーカーの間のちょっと手前で、かがんでスピーカーを少し見下ろすくらいの位置に私の頭が来たときに、何やら音が豊かになったように聞こえる。「あ?、ひょっとして…」
 これはつまり振動板位置から考えたら、トゥイーターは耳に近く、スコーカーは少し遠く、というふうになっている状態である。それなら、と、さっそく通常の聴取位置から見てそうなるように、トゥイーターを少し前に出し、スコーカーは奥に引っ込めてみた。突如高まる音の密度と立体感。「おおっ♪、コレだ!」

 なーんだ、なんのことはない、実はこれまで中高ユニットの位置について勝手な思い込みをしていたのだ。ダイアフラムが小さく軽量な高音ユニットは当然中音より音の立ち上がりが早いはず、よって高音ユニットの振動板位置が中音のそれよりは奥になった状態で音の位相が揃うに違いない、と。ちなみに、SG-17SAとSG-37FRPのマグネットのサイズは同一である。となれば、より振動系が軽いSG-17SAのほうが当然発音タイミングが早いだろう。そんな先入観があるものだから、位置の微調整と言っても、これまで高音ユニットを奥へやることしか試していなかったのだ。これじゃ見つかる訳がない(爆。



 写真の状態で最も音が朗々と聞こえるようになったわけだが、マグネットの位置で言えば、SG-37のほうが2cmほど奥になっている。マグネットのサイズは同一だから、それぞれのユニットの振動板があると考えられる位置を思えば、ずいぶんとスコーカーが引っ込んでいるような印象を受ける。
 これを納得するために、「振動板のすぐ近くでは空気がある程度“塊”になって動いていて、実際の“発音点”は振動板そのものよりは前のほう、だいたいフェイズプラグの先か、スロート入り口のあたりに出現する」という理屈を考えてみた。実際位置が揃っていると言えそうなのはそのあたりのように見える訳だが…ま、伝次郎先生の空気砲をイメージしながらそんなことを思ったが、たぶんウソでしょうね(^^;。コンプレッションドライバーの理論に詳しい方の教えを請いたいところです。

 さて、最適位置が見つかってみると、確かにそこから5mm(あえて3mmというのは控えて(^^;)ばかり前後しても音が貧相になるのが聞こえてしまう。カメラのピントを手動で合わせているような感覚。ピントの“山”は誰が聴いても判るくらい明瞭だ。ぴたり合ったときの気分の良さ。これも位相の整合性を保つ6dB/octクロスの賜物なのでしょうね、きっと。

 というわけで、上述の原因(1)〜(3)はすべて否定され(?)るとともに、音楽を聴くのが一層楽しくなったのでありました、メデタシ、メデタシ(^^)。



低音を整える

 既述のとおり、わが3ウェイシステムの低音には気になるピーク感がある。アコースティックギターでいうところのウルフトーンか。Q0の高いユニットを指定よりは小さいエンクロージャーに入れたことが一因であろう、との指摘を知人より頂いているが、うちのスペースではこれ以上大きい箱を置くのは無理。なんとかこのサイズで低音を手なづけたい。ユニットの方を交換するという手もあるが、PW-201はけっこう気に入っているので、できれば基本はこのままで。さて、そんなうまい方法があるものだろうか。

 当初考えていたのは、エンクロージャー内に平行面をなくすべく、適当に仕切り板のようなものを入れることである。となると、材料としてはある程度質量もあって、内部損失の大きいものがよさそうだ。コルクの板なんかいいのではないだろうか。
 というわけで、あれやこれやと凝った形状の仕切り板を考えること半年あまり。ところが、そろそろ実行に移そうか、という段になって突然大幅な方針変更をしてしまう、というのはドライバーの置き台のときのパターンだが、今回も期せずしてまたそうなってしまった(^^;。 安上がりで手っ取り早い、というまったく安直な理由から、実際に使うことになったのはこれである。




 「なつかしのおもちゃ」という表示のあるこれは、昔よく富山の薬売りが家々を回って置いていったあれ(という話に「うんうん」とうなずく人の年齢といえば…(^^;)、そう、紙風船。こんなものがまだ作られてるんだ、と思ったらやっぱり中国製だった。大・中・小の3個入りが10セットで800円(通販だからプラス送料のぶんもある)。これをエンクロージャー内に放り込んで、耳につく定在波の発生を抑えよう、という魂胆である。
 この方法は確か江川三郎氏(ご本人だったか周辺の誰かだったか忘れたが)あたりから広まった(というほどポピュラーでもない?)ものだったと思う。なにしろローコストで簡単。行動するより考えている時間のほうが大概遙かに長い私のような人間には、最も向いていると言えよう(爆。

 紙風船の材料の紙はパリパリ、カシャカシャと音がするので、材質的にはあまり好感触ではない。この音が楽音に絡んできたら嫌だが…もっとざっくりしっとりした質の紙を見つけて自分で紙風船を作れば理想的に思えるのではあるが、それは相当に気の長い話になるので、ここはまあうるさいことは言わないでともかく実験してみよう。

 エンクロージャー片側に、この紙風船を3セット、ということは都合9個を入れて底面からユニットの背あたりまで空間が埋まった(ちょっと写真が暗いですね…14本のネジによるバッフルの付け外しはたいへんメンドウなので、撮り直しは断念(^^;)。だいたいこんなもんでよかろう。

 しかし、なんといいますか、すごく違和感ある眺めではあるなあ…

 

 さあ、試聴。オー、いい感じではないですか!確かに効果あり。目論見どおり、エンクロージャー内の定在波はみごとに影を潜め、低音の動きがすっきり明快になったばかりか、中高音の透明度まで増した気がする。それでいて、低音そのものの量が減った感じはない。節度を保って弾む音、PW-201の美味しさがちゃんと出ている感じだ。心配していた紙風船の材質の音が聞こえてくるようなことは特にないようだ。

 というわけで、まずは成功。それも、対コスト比からすれば「大」を付けてもよいレベルだが、またも安直に済ませてしまったという引け目があるせいか、今ひとつ達成感があるようなないような…(^^;




ネットワーク小変更

 やっぱりいずれはマルチアンプ、と決め込んで、ネットワークにはあまり予算を配分しないという方針でやってきたが、いつまで経ってもマルチ化が実行される様子がないのはいかにも私らしいところではある(^^;。
 マルチ化はまだ当分先のことになりそうなので、ここいらで少しネットワークの能力向上を図ってみるかと、ウーファーのLPF3.3mHを銅フォイルの空芯コイルからコア入りのものに変更した。


 コア入りのコイルは音にコアのキャラクターが付く恐れがある、ということで空芯のものを選んでいたわけだが、このくらいのインダクタンスになると、空芯では巻かれている導体の長さもかなりのもので、DCRがけっこう大きくなる。当然音にも影響しないはずはない。これはコアがもたらすであろうキャラクターとはトレードオフであろうから、ひょっとしたら良質のコアを用いたコア入りコイルのほうが好結果を得ることができるかも、という可能性も否定できない。が、品質の良さそうなコアを使ったコイルというのは概して高価で、試してみるにも二の足を踏んでしまう。

 そこへ、こんなのが現れた。

 Jantzen Audio(「ヤンツェン」か「イェンツェン」と読むのだろうが、よく判りません)のトロイダルコア・コイルだ。デンマークの会社のようだが、このコイルについては販売店のサイトではポーランド製と表示されていた。
 どこにも角のないトロイダル。コアの断面もきれいな円形だ。何より魅力なのは、しみったれの私をして、音に確信を持てていない段階で手を出してみようかと思わせる程度に値段が手頃であることだ。見つけてから3日ほど熟考した末、「ポチっ」。

 これまで使っていた同じく3.3mHの銅フォイル空芯コイルと並べてみるとこのとおり。サイズはこのトロイダルコイルのほうがひとまわり小さく、持ってみても少し軽い。働きが同じなら、より重いもののほうが音がよさそうな気もするが、巻かれている導線の長さは銅フォイル空芯より明らかに短そうだ。公称のDCRは、フォイル空芯の0.66Ωに対し、トロイダルのほうは0.07Ωと、ほとんど1/10に過ぎない。若干軽くとも、このぶんのアドヴァンテージはないはずがないだろう。

 とはいえ何しろそもそも磁性体の周りに導線が延々這い回っているという代物ゆえ、期待は半分だけに控えておくことにして、さっそく入れ替えて聴いてみた。ら、いやいや、悪くないじゃないですか♪。低音の出方がよりスムーズになった、というより、むしろ中高域の明瞭さが増して音離れがよくなった感じだ。気になるコアの癖といったようなものは、私の駄耳には聞こえない。換えた直後こそ「これがコアの音か」と思えるような特徴が感じられるような気がしたから、空芯との音の違いというのは確かにあるのだが、それは違和感というのではなくて、しばらく聴いていたらもうこれが私にとって当たり前の音になってしまった。

 しかし、ネットワーク全体をちゃんとしっかりしたボード上に組んだほうがもっといいだろうな…と、ときどきは思っているんだけど、これもマルチ化同様思っているだけ(^^;。