RECORDING


DCマイク

 80年代の後半、金田式バッテリードライブパワーアンプにひとまず成功して、次に作ったのはDCマイクだった。とにかく自分の手で録音がしてみたかったのだ。人工加工だらけのレコードなどダビングしてまで聴く価値はない、みたいに言われちゃあ、ここはひとつ人工加工録音でない音を聞いてみたくなるじゃあありませんか。
 といっても、録って何度も鑑賞したくなるようなまともな演奏を録音できる機会など田舎住まいの私の周りにはほとんどなくて、どうしても記念撮影的な録音に終始するしかないのではあるが。でもまあ音楽ソースを作るというほどのことでなくても、録音すること自体けっこう楽しいものです。あるいは写真が趣味の人が実はカメラが好きだったりするように、録音することを楽しみつつ実は録音機が好きだったりする。

 GOAが進化しつつある中、自作は困難と思われた円筒形のロボット型DCマイクに替わって登場したのが、アルミ板とアングルで作る角形ロボットタイプ。これなら大した道具が無くても手加工で作れそう、というわけで作る気になった。

 ○クニ○ルサ○ヨーにマイクカプセルは手に入るかと問い合わせると、ショップスMK4はなーんと1粒はちまんえん…(°°; 、固まった。意気地なく、すぐCK-1にしようと決意を固めるが、こっちも2個でろくまんえん…プロが使うマイクって恐ろしく高いもんなんだなあとこのとき初めて知った次第。出直すことにした。

 しばらくして、MJの売りたし欄でCK-1をペア5万円で提供してくれる方が見つかった。どうやら個人で数ペア海外から買い付けたらしかった。飛びついた。
 で、今はなき(と思ったらWebでやってることに先日気がついた)三栄無線に頼んだのだったと思うが、金田氏指定のタカチのアルミアングルとパネルを取り寄せて、金鋸ギコギコ、ヤスリぐぁしぐぁし、ドリルぐりぐり、サンドペーパーしゃくしゃく…できた!(^^)。



 これがそのDCマイク。実はケースこそそのときのままだが、内部は基板を作り替えてもう3代目である。内部をご覧になれば金田アンプ党ならすぐピンと来ると思うが、実はこれ、“完全対称型DCマイク”なんである。

初代

 製作当初の回路は金田氏の「オーディオDCアンプシステム上巻」に収録されているものに準じたものだった。
 “角形ロボットタイプ”は、MJ誌に発表されたときは出力段のPPエミッターフォロワーのバイアス回路にTrが使われていた。私が作りにかかったときには、他のアンプでバイアス回路にダイオードを使ってシンプル化したものが登場していたので、そこのところだけ最新の構成を取り入れて、他はほぼオリジナルどおりの回路で作ったのだった。したがって2段目のカスコードのベース電位を固定するダイオードが1S1588×3である点が「オーディオDCアンプシステム上巻」のものと異なる。つまり、「オーディオDCアンプシステム上巻」が出版されるより前に、たぶん今の流れからすると改良版はこんな回路だろう、という予測のもとに作ったので、正確にはこれとMJに発表されたものとの折衷型になったわけである。

 今思えばまだあまり7本より線もうまく作れていなかったし、ハンダの仕上がりも汚かった。ケースも指定の材料をそろえて自作したが、金属加工にまだ慣れていなかった(今もってたいして慣れてない(^^;)ので、これもあんまりうまく出来なかった。おまけに、ケースはアルミアングルにネジを切ってビスどめして組み立てるのだが、田舎のことゆえ当時は3mmのタップがどこにも売ってなくて、短いステンレスのタッピングビスでごまかした。ケースの内側にはとがった木ねじの先が突き出している、カッコわる〜(T_T)。

 電池をケチって、というかコンパクトに収めたくて+-15Vで使うために、NFBを増やしてゲインを10dBほど下げて作った。もう少し感度を上げてもいいかと思えたが、念のため。金田氏は発表時、レギュレーター無しの単3電池20本、+-15Vでこのマイクが実用になると書いていたと思うが、以後この電圧で使えるという記述が見当たらない。実際にはそのままのゲイン設定だと大きな入力があったとき出力が飽和してしまう可能性があるのだろう。

 ウォークマン・プロ(残念ながらD6Cのほう)のLINE INに入力して録音してみると、実に高感度にみずみずしい音をとらえてくれることに感激!(^^)。ありとあらゆる音が拾われている感じがした。確かに人間の耳よりはるかに高感度と言ってよさそうだ。ただ、人間の場合は脳がソフト的に関係ない音をカットして聴くので、ちょっと意味が違うとも思うが。
 電源電圧が低かったのだけれど、ゲインを下げた効果もあって、私が使った範囲では入力オーバーでクリップすることもなかった。ウォークマン・プロ
とともにこれで録音したテープは、今聞いても、離れて録ったのに眼前に迫ってくる音です(長い間保存したテープなので音が滲んでそう聞こえるのかも(^^;?)。

2代目

 さて、金田氏のGOA路線も回を重ね、そのうち製作記事に基板裏の配線の様子を撮った写真が載るようになった。見て、あ… (・・; と思った。
 7本より線もハンダの様子も、自分のとはえらい違いなのだ。これはちゃんと作りなおさにゃ、というわけで電池式パワーアンプのほうは早速作り直したのだけれど、マイクはしばらくほっぽっていた。そうこうしているうち、今度はオールFETDCマイクが発表された。どうせ作り直すならば、ということでこれに挑戦する。

 今度は7本より線もハンダも要領が解ってうまくやれた。完成した日の晩に、早速外に出て虫の音を録音してみた。なかなか自然な音で録音できた。Trタイプよりも滑らかな印象である。それよりも、録音していたとき5、60mほど先にある近所の家の玄関に、たまたまお客さんがあったのか何やら話し声がしていたのだが、その会話の中身がノイズに埋もれたりもせずはっきり入っているのに驚いた。勝手に聞いちゃってゴメンナサイ(^^;。DCマイクの高感度はかねて知っているはずなのだが、こんな場面に出くわすとあらためてすごいものだと感心する。

 ところが、総合的にはこのFETマイクは失敗だった。実際に合唱を録音してみたら、フォルテで歪みました(ToT)。FETだとより高めの電源電圧が必要とは解っていたが、なんとかなるかな、とついついアンプのゲインを少し上げたうえに以前と同じ電池電圧で動作させたのがいけなかったのだろう。小音量時の音は滑らかだったのですがね。

3代目

 せっかく作ったFETDCマイク、ゲインを下げる、あるいは電池を増やして対応するという手もないわけではなかったが、結局次に訪れた録音のチャンスを前に三度作り直すことにした。この頃には既にAC電源で動作する完全対称型Trプリが発表され、ハイブリッドプリでもフラットアンプが同様な完全対称型の出力段で構成されるようになっていた。これらを見ていたら、DCマイクもこの回路で作れそう…なんて思い始めたのだ。そんなわけで、金田氏が作ったかどうかは知らないけれど、私の勝手でTr式完全対称型を試してみようじゃないの、という気になってしまったのである。(ご存知の通り、その後、単行本「オーディオDCアンプ製作のすべて・下巻」で金田氏自身による完全対称型DCマイクが発表された)

 2SC959のような大粒の石を使っても、回路がシンプルでパーツが少ないのでケースにはうまく納まった。C959のペア特性がしっかり揃っていなかったのか初期ドリフトが大きく、電源を入れたばかりでは出力に-100mVほどもオフセットが出るのが気になった。しかし1分ほどで安定し、ちゃんと使えます(^^)。
 肝心の音はというと、相変わらずの高感度、しっかりいつものDCマイクの音になっている。しかし、心なしか以前のものよりもやや冷静な音に聞こえる気もする。もしかしたら、最初に作ったオリジナルのTrタイプのほうが、撚り線もハンダも汚かったにもかかわらず音は
よかったかも?…なんて思いもないではないが、あの頃のほうが感激する気持ちがあったというだけかもしれない。あと考えられるとすればHi-TopでなくなったNEO電池が原因か。いや、それより録音機のせいというのも大きいな、この頃はDATを使うことが多かったから(爆)。

 青いフィルムコンデンサは成極電源のパスコン。小さくて基板表面に載るという理由でEROの1830を使っているが、本当はSEが高かったから。ちゃんとSEを使うほうが精神衛生上もよろしいなあ…。NFBのスケルトン抵抗は場所が狭いので1/2Wタイプを使って、おまけにグラスチューブが被っているが、これもあんまりよくなさそう…。

4代目?

 実のところこの後さらに真空管版で作り直そうかと5702をキープしてあるのだが、真空管式は電源も大変だし、かつての音を確かめてみたいという思いもあるので、もう一度オリジナルのモールドTr式GOAで、とも思い惑う今日この頃。もう一組マイクカプセルがあるといいのだけれど、そこまで投資するほどの必要性もない…だいたいこのところ録音の機会がさっぱりないではないか(T_T)、というわけで、そのまんまです。

 マイクの保管用に買った乾燥剤に付いていた通気性のある袋を風防として使ってみたら、風の通るところで録音するときは効果絶大だった。ちょっとマヌケだけど…(^^;。