金田式ターンテーブル制御アンプ(その2)



音質向上三段跳び、の巻

(ホップ)EMe出力段

 思うところあって、ターンテーブルのモータードライブアンプ終段に使っている2SB541を、2SA627に交換してみた。

 「思うところ」には、いくつかの要素が含まれている。
 かつて金田アンプが電池式GOAだった時代、それまでの出力段用Trの音質ランキングが公式に表明された。モトローラMJ2955/2N3055が出力段に採用される際のことだったと思う。
 圧倒的1位とされたのがNECの2SA649/2SD218(低耐圧版がA648/D217)のペア、続く2位は同B541/D388(ただし、旧型)だった。MJ2955/2N3055は音質傾向はNECグループとは異質ながら、この2位ペアに負けない音であるとされたのだったと思う。そして3位がA627/D188。これは音質傾向としては1位と同種ながら、ややスケールダウン版的な音と評された。

 たまたまそのA627の中古品が手に入ったのだが、今まで使っていた2位のB541をわざわざ3位のこれに換える気になった理由のひとつは、手に入ったのがただのA627というわけではなくて、裏面に「E」「B」の表示がある、おそらくは最初期のものだったこと。なにせ古いほど音がヨイ、ような信仰がありますからな(^^;。プリの出力段のC959なんかでも、古いロットにして聴いてみたらもう戻れなくなった、という方もあるやに聞く。時代が進み、製造工程が合理化されて整理されるほど、概して音のほうもつまらなくなっていく傾向にある、ような気がしてしまうじゃありませんか。最初期ロットだったら、もしかして順位の逆転も有り得るかも(?)、と期待するのも人情だろう。



 ときに、もうひとつは製法のこと。B541/D388(旧型)は1位A649/D218や3位A627/D188とは若干傾向の異なる音であるようなニュアンスで書かれていたと思うが、これはそれぞれ三重拡散メサ型とエピタキシャルメサ(EMe)型という製法の相違からくるものと考えるのが自然だろう。オーディオにおいては一般に、EMeの音の評価は高くて三重拡散のほうはあまりいいことを言われないのが常であるようだ(もっとも、全然ダメなEMeもあるようだし、真空管DCアンプに使われるA1967などは三重拡散なのだけれど)。
 今までモータードライブアンプ終段には、B541/D217という、一応“純正金田石”ではあるものの、非正規の組み合わせを使ってきていた。D217の相手は本来A648(A649)だから、B541をA627に換えても非正規状態には変わりないのではあるが、一応これなら「上下ともEMe」で揃うという気分のよさがある、というわけだ。もしかしたらこれまでのB541/D217という2番手/1番手の組み合わせより、3番手/1番手の組み合わせになってもEMeで統一したことのメリットが聞こえるかもしれない、という思いが湧いて来るのも納得いただけると思う。



 さて、そんなわけで交換してみたA627/D217の音は、といいますと、むむむ、音の傾向はあまり変わらないようだけれど、心なしか高いほうも低いほうも音が澄んで繊細感が増したような気が…
 例によって同時試聴は不可能だから、気のせいかもしれません、悪しからず。繊細感2割増し、くらいの印象、ということで。「EMeプラシーボ斬り!」で片づけられちゃうかな(^^;。
 しかし前述のNEC石3組のランキングは、あくまでコンプリメンタリーペアとして評価されたものだ。もし単独で評価したなら(完全対称アンプがある今なら実現の可能性はあるはず 後記:その後No.185で実現しましたね。)、案外B541は6個中最下位だったりするかも、という気がしなくもない…まあ他のパーツとの相性や製造時期のこともあるから、一概には言えないでしょうが。


 あ、実はTrの交換のほかにも一部定数の変更があるんでした、一応報告しておかねば。
 ゲイン付き終段の局部NFB抵抗33Ωと150Ω、出力電圧振幅を考えれば、この抵抗で喰われる電流というのは、そう小さいとも言えないような気がする。実際、終段ゲイン付きに改造してからバッテリーの持ちが若干悪くなった印象があるので、この際ついでにこの抵抗値を大きくしてみた。といっても万が一動作の安定度に影響があるといけないので、節電効果は多くを望めないが極端に大きく変えることは控えて、それぞれE6系列の数値で1段階上げた47Ωと220Ωに交換するにとどめている。動作に別段問題は出ていないようだし、音そのものに対する影響についても、Trの変更によるそれと較べれば微々たるもの、だろう(確認無しです(^^;)。



(ステップ)積分回路の謎

 速度制御部、位相制御部それぞれのサンプルホールドIC、LF398Hの入力には積分回路が入っている。もとはパルスの幅として生み出される制御信号を電圧に変換するために必要な部分だが、ここの時定数が大きいほど制御の反応が鈍くなり、小さいほど速くなる。反応が速いほどいいというものでもなく、クロック周波数やモーターのトルク、ターンテーブルの慣性モーメントのバランスで、制御がスムーズに行われるような値が決まってくる。つまりこの定数は制御ループの安定度に関わっているわけだ(と私は理解してます)。

 で、何ゆえこんな話が出てくるかというと、SP-10用制御アンプのここのところの定数、時空を超える旧単行本では、速度制御・位相制御とも100kΩに0.22uFだったのが、音楽を愛する新単行本掲載の回路ではCが両方とも0.1uFに変わっているのである。このことについて特に言及がないため、ない頭をあれこれひねっていたら筋を違えた、イテテテテ…

 SP-10MK2用回路のこの部分の定数については、旧単行本、新単行本で同じ(速度側56kΩ×0.1uF、位相側27kΩ×0.1uF)で、'92年MJ発表のNo.124だけ(その前にも確か2回ほど発表されていたと思うが、もうその頃のMJを持ってない)が異なっているのだが、これは、その都度周辺の回路構成が変わることで最適値が変わっているのだろうか?
 新単行本ではゲインコントロールアンプがLM13600Nからディスクリートのものに変わっているのだが、それでも積分回路の定数に変更がないということは、あのディスクリートのゲインコントロールアンプ、LM13600Nを使った場合と大差ないゲインとなるように設計されているものと思われる。
 一方、No.124と旧単行本のMK2用とでは、アンプ類の構成はほとんど同じでゲインには特段の変化がないようだ。このことからすれば、むしろこれらのほうこそ定数は同じでよいように思える。ちなみにNo.124の定数(速度/位相とも51kΩ×0.22uF)は旧単行本のMK3用と同じだ。
 となるとNo.124の定数については、どうも「いつもの」ミスプリの臭いがそこはかとなく…(^^;

 といったようなことを勘案すると、100kΩに0.1uFという新単行本の定数をそのまま信じていいものかどうか疑念が湧くのを禁じえないが、もしかすると最新型こそ最適値、である可能性もかなりありそうなわけで、ここはやっぱり試してみないことにはなんとも言えないではないか。


 ということで、我が制御アンプの積分回路の0.22uFを、速度制御部・位相制御部とも新単行本の定数に従って0.1uFに換えてみた。

 ら、ありゃ、起動しない…

見た目に変化はないけど、一応…

 考えてみると当然なのだが、速度制御のほうの積分回路の定数を変えると速度制御信号レベルも変わってしまうから、これに応じて規定の回転速度を与えるためにタイマー555が出力すべきパルスの幅も変わってくる。0.22uFを0.1uFに換えたことで信号(三角波)の立ち上がりが早くなり、信号レベルは上昇したはずで、これは速度制御信号/位相制御信号加算用の反転アンプを経て、ゲインコントロールアンプのゲインを下げる方向に作用することになる。変化はけっこう大きくて、調整範囲を逸脱してしまったわけだ。ちなみに、555の出力パルス幅を決定する速度調整部の抵抗(速度VRとシリーズ)は旧単行本の回路図のとおりの値だが、新単行本に示されているものも値は同じである。ということは、新単行本のはミスプリの可能性が高まった(?)(^^;。

 速度VRとシリーズの抵抗をもっと小さい値に交換すれば調整可能な範囲に持っていけるはずだが、ここは一旦撤退、もとの0.22uFに戻して速度制御部は従来の定数のまま、位相制御のほうの積分回路のみ100kΩ×0.1uFでやってみることにする。位相制御のほうはもともと制御信号を半固定VRで調節する仕様なので、積分回路のCの値を換えても制御信号のレベルに関しては特に問題はないはずだ。反応速度が変わるだけ、と解釈してよいだろう。


 ところで、調整について。
 私がプレーヤーを置いているのは、その昔、総合家電メーカー松下電器が「な〜んで・も、な・しょーなーるー」と言って売り出した「ナショナル収納壁」シリーズの棚である。家電メーカーが作り付けの家具を作らんでも、と思うが、ちゃんとコンセントが付いているから一応守備範囲か。ま、テクニクスSP-10に相応しい置き場所だ(とはならないと思うが)。
 この棚の側壁にぴったり耳をつけてターンテーブルを回すと、プレーヤーの動作音を聴くことが出来るんである。以前使っていたトーレンスでは、いかにもモーターらしい「ぐぅーん」という音が明瞭に聴き取れた。
 この金田式ターンテーブルに替えたときに同じように聴いてみて、全然音がしない!♪、と思ったのだが、今注意して聴いてみるとやっぱりそれなりの音が聞こえる。以前は音の大きさと質の違い、それと制御アンプ完成の喜びから来たであろう注意不足のせいで、ちゃんと聴き取れていなかったようだ。

 で、どんな音がするのかというと、ゴソゴソゴソゴソ…系のあまり気持ち良くない音である。スイッチを切った瞬間(ターンテーブルは慣性だけで回っている)この音は消えるから、スピンドル/軸受けのノイズというわけではなく、やはりクロック周期でゲインを小刻みにコントロールしている「制御音」なのだろう。
 動作原理からして、この「音」を完全になくすことは出来ないと思われる(なんか私、タブーに触れてます?(^^;)。おそらくカートリッジはこの音の成分を拾っているだろう。だが、実際に音を聞いても、これが再生音を汚しているとは感じられない。これをなくす方向で頑張ると、おそらく音も生気を失ってしまうのではないだろうか。

 さて、調整の話に戻る。そんな具合に棚の側壁で制御音を聞きつつ位相制御のVRを回していくと、あるところで一瞬「びびびっ」と音がする。位相ロックがかかったのだ。ターンテーブル起動時には、定速に達する寸前に、壁伝いでなくてもモーターからそんなような音が聞こえる。クロックパルスとFGパルスの位相差が大きいと、位相制御信号が大きくなって駆動電圧波形が暴れ、こんな音が出るのだろう。同じ種類の音だが、既にほぼ定速回転している状態から位相ロック状態に移る瞬間過渡的に発せられるこちらの音のほうは、もちろん空気伝達では聞こえない。
 VRを回しすぎると、今度は恒常的に「びびびびび」と聞こえてくるが、これは言うまでもなく制御が強すぎる状態である。

 正直なところ、私の場合、再生音を聴きながら位相制御の最適量を判断できたためしがない。そこで、この壁伝いの音を聴いて、その一瞬の「びびびっ」が来るポイントからほんの気持ち多めに回した位置にVRをセットすることにした。これで概ね「安定で、かつ少なめの制御」になっているんじゃないかな、と。
 といった具合で、調整完了。再生音ではないけれど、ノイズを聴くことで位相制御の最適量を一応判断したつもり。


 さて、聴いてみる…と、わォ!(°°
 ナ、なんか、すごく情報量が増えているんですが…そう、2.2倍くらい?いや、取り換えたコンデンサーの容量比を言ってみただけ…

 付帯音が減り、より繊細に、クリアーに、コントラスト鮮やかに、そして静かに、音がいーっぱい聞こえてくる…楽器を演奏する指先に、息に、奏者が注いだ神経の細やかさがひしひしと伝わってくるよう…もともと視力2.0で見えていた景色が、5.0で見えるようになった感じ。う〜む、これは、最新の回路定数はより吟味が進んだ値である、の可能性のほうが俄然高まってしまった、あー、やってみてよかったじゃん。
 しかし、ここまで顕著に音に変化があるとは思わなかった、というのが正直なところ。先に換えた終段Trとの相乗効果もあったかもしれないが、理由として考えられるのは、やはり位相制御の反応速度がより適正化されたということか。モーター制御は奥が深い。

 速度制御のほうの定数は結局以前のままだけれど、こちらもCを0.1uFにして速度調節部の抵抗を選び直すほうがよい結果を得られるのかもしれませんな。が、このままで十分いい音だし、速度制御のほうは位相制御に較べると、音への影響は小さそうに思える。回転の安定感もまったく問題ないことだし、とりあえずこのままでよしとしよう。新旧折衷。我ながら「神経質」と「いい加減」が加減よく(?)同居した性格であることよ(^^;。さ、次イッテミヨ!



(ジャンプ)検波といえば

 私の場合、本家の教えに背き、位置信号発振器は検出コイルとの共振を避ける方向でまとめている。これは以前記した通り、ローターの回転に応じて位置検出コイルのインダクタンスがけっこう変動するらしく、しっかり共振させると、振幅が大きくなる代わりに波形の揺らぎも大きくなるのが気になったからだ。しかし、新単行本のターンテーブル制御アンプの章には、このあたりの私の考え違いを戒めるかのような記述が見られたのであった。
 う〜ん、でもナ〜、やっぱりこっちのほうが音がすっきりするような気がするんだよナ〜…というわけで、実感としては特に不都合を感じているわけではないため、結局改心することもなく、むしろ反対に言い訳がましく、発振振幅ができるだけ大きいほうがいい理由の一つ、検波ダイオード1S1588の順方向電圧約0.6V近辺の信号電圧に対するダイオードの特性の直線性悪化の問題を、僅かながらでも回避することを思いついた。




 検波といえばこれでしょう、検波一筋ウン十年(?)、1N60、ゲルマニウムダイオードである。これならVfがシリコンダイオードの半分以下になる(ただし、小電流時)。だから音がヨイ、ということもないと思うが、いにしえのゲルマニウムの音というのにも興味を引かれる。実のところ、そっちの興味のほうが先にあって、Vf云々は言い訳に過ぎなかったり(^^;。
 もともと位置信号の波形自体、モーターの駆動に最適となるように配慮されたものなどではまったくないわけだから、検波の直線性が悪くて位置信号が少々変形(実際に歪むとすれば負側ピーク近辺だろう)したところで、それが音を悪くする原因になるとは思えないのだ。聞こえるとすれば、素子そのものの材質からくる音なのではないかという気がする。ちなみに、SP-10のオリジナルの制御基板に載っていたダイオードもゲルマニウムダイオードのようだった。

 1N60は数社から出ているが、たまたま行きつけの地元パーツ店に置いてあったこれは、表面に小さく緑のこすれば落ちるプリントでNECとある小粒のもの。同じ店で以前見かけたのは赤いストライプで形ももう少し大きかったから、会社によってサイズはまちまちのようだ。このNECのはたぶん最も小柄と思われる。ICピッチ基板に載せるのには好都合で、1S1588よりは大きいものの、そのまま無理なく置き換えられる。

 原始的な点接触型の構造を見て納得。構造を覗くことができる半導体なんてゲルマニウムダイオードくらいのものだろう。

 さて、1S1588と交換、聴いてみる。

 〜♪
 む、…わからん。微妙に変わったような気がしなくもないが、どう変わったかと表現できるわけでもなく、よくなったとも悪くなったともつかない。ま、相変わらずイイ音で音楽を楽しめているのは間違いない…

 というわけで結論、どっちでもいいや(^^;。いや、最近はテレフンケン製の古いゲルマニウムダイオードなんてものも入手可能のようなので、音に変化があるならそうしたものも試してみたいと思っていたのだけれど、ここはあまり影響ないのかなぁ…期待して読んだ方、すみませんでしたm(_ _;m(ジャンプ、着地失敗)



◇        ◇        ◇

制御力アップ?

 …ふーむ、今回はまったくドンピシャ、目論見どおりの結果だ。変化の絶対量としては大きなものではないが、前に終段ゲイン付与+対アース抵抗値増の改造を行ったときと同じ方向の音質変化が感じられる。特に低域の解像度が高まったようで、低音楽器の動きがよく聴き取れる。よくコントロールされた自然な音だ。抑えが効きすぎて音が死んでしまう、というようなことはなく、弾むような表現にもさらなる正確さが加わったような印象。デフォルメが少ないぶん、より「普通」の音になった、とも言えるかもしれない。

 ということで、音を聴いてみた感想から始めてみた今回の改造記であるが、改造の対象はまたしてもモータードライブアンプである。


 改造後の写真。何をしたかは明らかなのだけれど、ちょっと見には案外判り難い?


 モータードライブアンプは基本的にはバッテリードライブのGOAパワーアンプなのだが、スピーカー用のものとは異なる部分がある。

 バッテリードライブのパワーアンプの終段は、登場した当初のインバーテッドダーリントンからしばらくしてダーリントンに変わったが、モータードライブアンプのほうはインバーテッドのままだった。プリアンプで使えなくなった電池を「骨までしゃぶるように」使い尽くすべく、電源電圧利用率をできるだけ高くしておきたかったからだろう。最近では、バッテリードライブ末期にFETパワーアンプで採用されたゲイン付きの終段が採用され、いっそう電源電圧利用率は向上しているが、これはインバーテッドダーリントンの進化型と解釈できる。

 もっと気になる大きな違いは、GOAの対アース抵抗Rsの定数だ。パワーアンプでは5.6kΩが選ばれているが、モータードライブアンプではその10倍、56kΩだ。この違いはどこから来るのだろう?
 2段目差動アンプの電流出力がこのRsによって電圧に変換されて終段をドライブするわけだから、アンプのオープンループゲインはRsに比例する。Rsが大きくなると、終段はハイインピーダンスでドライブされるため、動作がフォロワから離れソース接地寄りになる。同時に、裸特性では大きな歪みを持つようになるが、NFB量が増すため、トータルでは低歪率に保たれる。一方Rsが小さいとオープンゲインは小さくNFBは浅くなるが、終段は低インピーダンスでドライブされるのでフォロワ寄りの動作となり、裸特性は低歪み。
 裸特性が悪くて高帰還率のアンプと、裸特性がよく低帰還率のアンプ、スピーカーを駆動するにはどちらがよいのか。金田氏の結論は5.6kΩ、つまり後者寄りだ。このあたりのいきさつについては時空を超えた旧単行本下巻のパワーアンプの章に詳しく述べられているが、それによれば5.6kΩは「冬眠していた演奏家たちが目覚めて活動し出す」値ということだ。10kΩ程度ではまだ冬眠から覚めてくれないという。
 ところがモータードライブアンプではもっと高い56kΩである。これもまた試聴の上で決定された値であることは間違いないものと思われるが、直接そのことについて述べた記事というのは記憶にない(どこかにありましたっけ?)

 Rsが5.6kΩであるのと56kΩなのとでは、ここに発生する電圧が10倍違うことになる。つまり56kΩだとオープンゲインが20dB高くなるわけで、そのぶんがそのままNFBになるから、出力インピーダンスもより低くなり、単純に考えれば負荷の制御力が向上することになるだろう。負荷がスピーカーの場合はこれが音に抑圧的な傾向をもたらすが、はるかに質量も慣性も大きいターンテーブルが相手のモータードライブアンプでは、この単純な意味での「負荷の制御力」が効いてくると考えることもできそうだ。確かにそういう意味の記述なら、制御アンプの記事にはたびたび登場していたと思う。

 実は唯一No.124の、SP-10MK2用のメタルキャンTr構成のモータードライブアンプでは、Rsにはパワーアンプと同じ5.6kΩが選ばれていた。そして、No.124から11年ぶりに発表されたSL1200用ドライブアンプ(こちらはモールドTrだが)では、再び56kΩに戻っている。私のモータードライブアンプはNo.124を参考にしたものなので、Rsは当初5.6kΩだったのだが、終段ゲイン付与の改造を施したときに56kΩに換えている。このときの音の変化は既に報告したとおりで、やはりモータードライブアンプの場合、対アース抵抗Rsはある程度高い値でなければならない理由がある、と思わせる結果だった(終段ゲイン付与と同時に行ったので、正確には音質の変化が主にどちらによるものかは断定できないのだが、たぶんRsが効いたものと推測)

 ならば、である。経験上音の点ではモールドよりもメタルキャン、という考え方には疑いを持つことはなかったのだが、そもそもモールドTrと比べてhFEの小さいメタルキャンTrを電圧増幅段に使うことは、モータードライブアンプの場合はたして本当によいことだったのか?
  No.124の後に発表されたSL1200用、SL1100用ターンテーブル制御アンプは、前者はターンテーブルそのもののグレードのせいで、後者はドライブアンプがICであるということから、ともにやや妥協版のようなイメージがあるので、最高峰はやっぱりメタルキャンTrによるディスクリートだろうと深く考えずに思い込んでいたが、必ずしもそうとは言えないかもしれない。メタルキャンTrによる音の伸びやかさは魅力的に思えるし、現状でも良い音が得られていると思っているわけだが、モーターを制御するためにはなるべくオープンゲインが高いことが有利に働くなら、もしかしたらもっとhFEの大きなモールドTrを使えば、少々メタルキャンの音色を失ったとしても、トータルでより好結果が得られる可能性があるのではないだろうか。


 というわけで、長々と御託を並べてみたが、今回そんなような発想から、モータードライブアンプのゲインのほとんどを受け持っている2段目差動アンプのTrを、2SA606からモールド石の2SA725に換えてみることにした。
 A725はご存知のとおり銘石A726の低耐圧版で、音はたぶんA726と同じと思われるが、耐圧が低いため使える場所が制限される。手に入れてはあったものの、さて何に使ったものかと思っていた石だが、カスコードでC-E間電圧が低く固定されるこの箇所ならまさに適役だ。hFEがA606に較べて5〜6倍大きいので、これでよりオープンゲインを稼ぐことができる。

 カスコードと下側のカレントミラーはメタルキャンTrのままにしておこう。金田氏によると「モールドTrを使ったフィードバック(ウィルソン)型カレントミラーは音質的なメリットが認められないことも多く、特にモータードライブアンプではかえって音が悪くなる」ということで、SL1200用の最新回路でも旧来型のカレントミラーが使われている。電圧増幅段を全部モールドTrにしてしまうこともないだろう。私としては、やはりメタルキャンの音も生かしたい。高hFEであることが意味を持ちそうな差動アンプにのみモールドTrを使い、カスコードとカレントミラーには音の伸びやかさが期待できるメタルキャン。たぶんこれで適材適所、いいとこ取りになっているだろう、というわけ。


 準備作業の軌跡。4mm方眼のファックス原稿紙で基板パターンを検討。手前はペア選別のため両面テープでhFE順に紙に貼付けた2SA725。テープは「きれいにはがせる仮止めタイプ」が具合がよろしいです。


 いつもながら基板上のパーツの交換は意外に手間取る。最近の球プリのように基板をフレーム固定として、簡単に基板裏を覗ける構造になっているわけではないから、解体して再度組み立てなければならない。基板そのものも、半球盛り上げ状のハンダ付けはハンダの量が多くなるため、吸い取り線で数回に分けて取り除く必要がある。更に、基板のランド間に吸い取り線から溶け出したフラックスが広がるので、綿棒にエタノールを含ませて拭き取らねばならない。やっとのことで無事石を交換し終えて調整に入ると、なんと出力に電源電圧に近い電圧が出て、オフセット調整ができない。すわ、発振か?と一瞬思ったが、なんのことはない、入力のゲートをアースに落とすのを忘れていた、お粗末(モータードライブアンプ単体にはゲート抵抗は配置されていない)。アースに落としてまったく安定に動作、ホッ。そんなこんなで、半日ほども要する手術となった、あーやれやれ。

 さて、試聴♪〜 …ということで、ようやくこの項目冒頭の感想と相成ったわけであるが、実のところメタルキャンからモールドに変わったことで、音の面で後退する部分もあるのではないかという懸念も爪の先ほどはあった。確かに、これがモールドの音かな、と思わせるところが僅かにあり、聴く人によっては「面白みが減じた」という評もあり得る気がする。「普通の音」と言ったのにはそういう意味もある。が、「正しい音」と言い換えてもよさそう。トータルでは3歩進んで1歩戻ったかくらいの感じで、私にはメリットのほうが優勢に思える。
 というのは聴いた直後の感想であって、もとより音の違いは大きくはない。以前の音の記憶が鮮明なうちだからそんなふうに変化を意識することができたわけだが、次の日にはもうこの音が私にとって当たり前の音になっているのだった。


 ターンテーブルに載っているのは、クナッパーツブッシュのワーグナー「パルジファル」'62バイロイトライブ。フィリップスの日本盤だが、演奏会場の雰囲気満点の好録音(私にとっては)。


 それにしても、ご本家が自室用に使っておられるターンテーブル制御アンプは今どうなっているのだろう。 MJ誌発表のNo.124は読者にとって比較的入手容易なSP-10MK2用だったけれど、あの時点で常用のSP-10用もメタルキャンにしてしまっているであろうと想像していたが、もしそうなら、対アース抵抗Rsの値はどうなっているのか? それとも意外とモールド石版なのか?
 ま、いずれにしても私のこれのようなことにはなってないんでしょうが(^^;。



それはないだろう

 話変わって、“MJテクニカルディスク第3集「月の光」”という2枚組の重量盤LPを皆さんご存じでしょう。アナログ好きのMJ読者は大抵みなさん買ったのでは? ええ、もちろん私も買いましたとも。
 ところがこのレコード、さぞかし高音質であろうとの期待を裏切って、私にはなにやらもうひとつ自然さの感じられない音だった。確かに鮮やか“っぽい”音ではあるんだけれど、生演奏の「あの」感じは、ない。竹松舞嬢の見目麗しきお姿はまことけっこうですがレコードからは見えないし、収録されている曲自体もあまり深さは感じられず私にとっては有難みのないものだったので、結局のところ長らくレコード棚の肥やしと相成っていた次第。

 今回ドライブアンプの改造を機に、ふと思い出して引っ張り出してみた。久々に手にしたが、さすがに分厚い盤だ。ターンテーブルに載せると、AT666を使っているから、センターシャフトの頭がホールから覗くぎりぎりのところ。
 1枚目のSideBをかけながら、やっぱり印象は変わらんなぁ…と思いつつ、ジャケットの内側見開きに印刷されていた録音環境に関する記述(今までまじめに読んだことがなかった(汗 )をつらつら眺めていた、ら… ぬぁ!?


 下から3〜4行目にかけての記述に注目(--)。


「デ」「ジ」「タ」「ル」「リ」「ヴ」「ァ」「ー」「ブ」(!)だとぉ… 思わず一字一字確認してしまったぞ。 これだろ、原因は。おーい、MJのみなさん(スタッフは変わっているだろうから「当時の」か)、何やってんのよーっ! 半速カッティング・重量盤というから、アナログの理想を追求したものだとばかり思っていたのに、よもやデジタルリバーブとは。今更ながら失望しましたよ、トホホ…
 まあ、録音のプロの仕事に口を挟む余地はなかったのかもしれないけれど、結局今どきの商業録音の常識を超えることができなかったわけだよなぁ〜。おそらくは録音エンジニアの人も自分なりにいい仕事をしたつもりなんだろうし。

 しかし、MJがアナログディスクをやるのなら、徹底的にアナログを追求してくれないと意味がないと思うんだが、どうでしょうか。一般的な装置でも聞き映えがするように配慮する必要など、ないどころか迷惑千万。「“商品”にならない本当の高音質」こそ、本来MJに期待されるものなのではないだろうか、と。

 いっそ録音エンジニアとして金田氏にお出まし願い、マイクはDCマイクを使用し、A面/B面で真空管式と半導体式を使い分けるのもいい、レコーダーも金田式のオープンで、録音イコライザーはNABでなくDC方式で。録音対象は、個人的にはクラシック、だな。あまり大きくないホールで、観客も入れて、適度な緊張感と熱気の感じられるライブがいい。曲目は、あんまり能天気なのや人畜無害なものよりは、少々毒気を含んでいるくらいのもののほうが面白い。そして、できることならカッターレースにはノイマンにテクニクスのDDモーターを組み込んだものをDCアンプ制御、カッティングアンプは完全対称大出力タイプ(カッターヘッドは周波数特性が劣悪なのを強力なMFBでコントロールしてドライブしているそうなので、研究する時間が必要か)、個人的には半導体ならなんとなくバイポーラーにより魅力を感じるけれど、あるいは6C33Cを必要なだけ並べ、とか…妄想は楽しいなー、虚しいなー…

 閑話休題、そのMJテクニカルディスクだが、Disc1はそんな有様なので、その価値はむしろDisc2のほうに見出すべきかもしれない。こちらは音楽ではなく両面ともシステムチェック用の信号が収録されている。当然ながら聴いて楽しいものでもない、というか鑑賞するものではないから、私の場合これまで真面目に再生してみることはなかったが、測定・調整に心血を注ぐタイプのアナログマニアには重用されるのかも。


 Disc2の盤面には、普通の音楽レコードにはあり得ないブキミに規則的な模様が浮かぶ。なんだかレコード針が削れそう(^^;。


 ことのついでにこれも改造成ったターンテーブルでちょっとかけてみた。もとよりまったく心地よく聞けるものではないが、低音スィープ信号など、大した音量でもないのに部屋の戸棚がガタガタいい出して、別な意味で感心した。

 ところで、もちろん単一周波数の正弦波信号もいろいろ収められているのだが、それらとは別に、特にワウ・フラッターチェック用ということで3.15kHzの信号が入っている。1kHzと10kHzの相乗平均のようだが、DINで規定されている周波数だそうで、専用の測定器に対応しているのだろうか。このあたりの帯域の音に対しては、人間の聴覚も感度が高くなっているようだ。
 で、試しにこれを再生してみると、ごくごく微妙に音が揺らぐ感じがする。明らかに音が震えている、揺れている、というような音楽鑑賞を妨げるものではなく、単一周波数の純音だからこそかろうじて感知できる僅かな揺らぎだが、どうも揺らぎは均一ではく、ターンテーブルの回転角に対応したパターンがあるように感じられる。
 ははぁ、これはひょっとして、位置信号の不整のせいではなかろうか。金田氏が書いているように、制御が強いと、ストロボパターンの精度のせいで揺らぐ位置信号を無理にクロックに合わせようとするため、かえって回転ムラが生じる。回転制御の速度検出部は極めて高い精度が要求されるのは想像に難くないが、本来の用途が回転数調整の単なる「目安」でしかないストロボパターンをこれに充てている以上、完璧な精度を要求するのは無理がある。しかし、速度検出用にFGを備えたMK2のモーターでもFG信号の揺れはあるというから、現実はこんなところで納得せねばならないのかもしれない。

 ドライブアンプを改造したが、クローズドゲインが変わるわけではないので、位相制御量を調整し直すまでもないと思っていた。が、これを聞いて再調整する気になった。考えてみたら、本当に制御力が増したのなら、制御量が過剰になっている可能性もあるわけだ。

 さて、再調整後あらためて3.15kHzを再生してみると、回転角に応じて現れるように聞こえる揺れはどうやら影をひそめた。他の周波数でも同様だ。もちろん位相制御量調整のボリウムの角度は以前より少なめになった。
 ただし、揺れというのとは違うけれど、発振器や信号音CDの機械的な一本調子トーンとは違った、何かしら息づいているような「感じ」がある。のだが、やっぱりこれは回転ムラ以外の何者でもないんでしょうなあ。アナログの宿命だろうが、むしろ人間にとって心地よい1/fゆらぎかもしれず…なんて言ったりするとデジタルな人には笑われるか(^^;。いや、でも実際にこれでレコードを聴いてみれば、当たらずと言えども遠からず、という気がしてきますよ♪





制御部小変更あれこれ


 ちびちびと変更を重ねてきた我がターンテーブル制御アンプの、これは2007年10月現在の制御基板の姿である。このあたりで覚え書きとして、変更箇所についてまとめておきたい。


i). ホールドコンデンサーをポリプロピレンフィルムに

 一見して目に入る青いフィルムコンはLF398のホールドコンデンサーだ。日通工のFPD0.1μFで、ここはもともとV2Aが付けてあったところ。なぜ換えたのかというと、こういうことだ。
 LF398のデータシートを読むと、ホールドコンデンサーにはポリエステルはよくなく、マイカやポリカーボネートもあまりよくない、とある。理由は「誘電体吸収」。これらを誘電体に使ったコンデンサーでは、電荷が純粋にコンデンサーの容量に蓄えられる以外に、誘電体そのものに電荷が吸収される現象が起こりやすいということらしい。木の桶に水を溜めると、桶に水が染み込んでしまうみたいなものか。サンプリング時間が短い場合、この現象のせいで正確な電圧がホールドされないという。誘電体が電荷を奪ったり逆に吐き出したりすることで、ホールドする電圧がサンプリングすべきはずの本来の電圧からずれてしまうのだ。
 もっとも、これが本当に問題になるのは、よほどサンプリング時間が短い場合(ナノセコンドオーダー?)であるようで、金田式制御システムにおけるサンプリング時間=サンプルパルス幅=約4μSでは、たぶんまったく気にする必要はないものと思われる。のだが、まあ気分ですな。

 ホールドコンデンサーとして推奨される誘電体吸収の少ない品種は、まずポリスチレン、次にポリプロピレン、ということだ。ちょうど適任と思われるポリプロピレンのFPDが手持ちで遊んでいるので、これをポリカーボネートのV2Aの代わりに起用してみることにした。V2Aの使いどころなら他にもいろいろあるだろうし。

 ということで換えてみたのだったが、はたして動作にも音質にも取り立てて変化は感じられませんでした(^^ゞ。なので、実は後で純正金田パーツの、同じくポリプロピレンであるAUDYN CAPに換えるつもりでいたのだけれど、もうこのままでいいや、と。


ii). 位相制御信号の積分回路時定数

 サンプルホールド前段の積分回路の定数は、2005年の春に位相制御側を100kΩ×0.1uFとしてみたところ、かなりの音質の改善をみたが、その後位相制御のサンプリングに2006年早春kontonさん発案の「phaseパルス方式」を取り入れるとともに56kΩ×0.1uFになっていた。
 kontonさんご自身はその後、速度側・位相側ともオリジナルどおりの100kΩ×0.22uFに帰着されたようだが、これはYP-1000IIプラッターのストロボパターン精度から来る速度信号のジッターをいなすためには、やはりこの時定数が適当だとの判断からのことらしい。SP-10のストロボパターンはもう少し精度が良いのか、私のところでは、56kΩ×0.1uFでも特に問題はなさそうだったし、音が100kΩ×0.22uFのときより明らかによかったのでそのまま使ってきた。

 今回あらためて、位相側・速度側それぞれ新単行本の定数100kΩ×0.1uFとして音を確認してみた。まず位相側については56kΩ×0.1uFよりも100kΩ×0.1uFのほうが僅かばかり情報量・表現力が勝るように思えたので、またそちらに戻すことにした。この辺は「気のせい」も含まれそうだが、どちらにしても私のところでは100kΩ×0.22uFより優れているのは明らかだ。
 更にその状態で速度側も従来の100kΩ×0.22uFから変更(もちろん555のTh調整の抵抗値を適切な値に変更して確認)してみたわけだが、こちらのほうは特に音質的メリットがあるようには感じられなかった。100kΩ×0.1uFの他にも150kΩ×0.1uFを試してみたが、最終的にはこの流れで抵抗だけ交換して、もとの時定数とほど近い200kΩ×0.1uFで落ちついている。ただし、これが明確にベストの値であるとの判断を下したというわけではなくて、正直なところ聴感ではいまひとつよく判らないのだった(^^;。

 位相比較やサンプルホールドの回路構成は、位相制御のサンプリングにTC5081APの4番ピン“phase out”のパルスを4528で整形して使っている他は、No.124と同じだ。


iii). 速度検出部の定数最適化と微分回路の除去

 ストロボパターンを読みとる速度検出部だが、これまでは初期のLED-フォトTr方式そのままの“バッファ兼反射のばらつき平均化回路”を入れたものにしており、信号を受け取る側(コンパレーターLM318の入力部)にもディップマイカ1000pFと390kΩの抵抗の組み合わせの微分回路を設けていた。この部分の波形を観測すると、正側の波形が負側に較べて鈍り気味で振幅もやや小さく、波形がコンパレータのヒステリシスレベルを横切る瞬間のところでは接線の傾きがずいぶん緩やかな感じだ。動作はしているものの、改善の余地がありそう。
 というわけで、No.179のSL-1100用制御アンプのような、フォトインタラプタの出力を直接コンパレーターに入れる形式に改めようと考えた。が、久々にプレーヤーの速度信号検出部を確認したところ、ボードに埋め込んだGP2S22からの引き出し線をアノードとコレクターで共通にしてあったので、そのままではNo.179方式は無理と判った。フォトインタラプタを取り外して配線し直すのは厄介なので、回路はそのままで、定数のみ見なおしてコンパレーターの入力部に入れていた微分回路を取り除くことにした。

 新たな定数は左の図のとおりだ。これで得られるパルスの振幅は±1V強で、No.179の±5Vよりはだいぶ振幅が小さいわけだが、電圧としてはこれでも十分だ。電圧振幅が大き過ぎないほうがノイズの点では有利だろうし、立ち上がり、立ち下がり部の傾斜はゼロクロス付近でそこそこ急峻になっており、コンパレーターに入れるのに適した状態と思われる。この状態で、実際ターンテーブルはきわめて安定に回っている。
 0.1uFのパスコンはオリジナル記事にはなかったが、なんとなく安心できそうなので入れたものだ。ここはV2AでもAUDYN CAPでもなく、50V耐圧の小さな松下製ポリプロピレンフィルムコンを使っている。


iv). ボルテージコンパレーター周りの定数変更

 速度信号を受け取るボルテージコンパレーターのほうでは、ヒステリシスレベルを設定し直すとともに、少しばかり節電を試みた。
 ここはオープンコレクタに3.3kΩの負荷だから、±5Vのパルスを出力したら3mAのON-OFFが行われることになるわけで、ちょっと電流がでかいのではないか、ノイズ(聞こえてはいないけれど)源にもなりそうだし。
 と思ってこの電流を1/3に減らすべく、負荷を10kΩにしてみた。オシロで見ても動作はまったく問題なさそうだし、聴いてもこれで音が変わったようには感じられない。が、というか、だから、というべきか、ひとまずは成功としてよさそう。
 入力の680kΩはなくても機能するが、プレーヤー部を繋がずに電源を入れることもあろうかと、一応グランドに落とした。


v). 位置信号検出用発振器を元記事どおり共振させることに

 これまで位置検出用の発振器は、位置信号誘導ローターの回転に応じて発振振幅がぶれるのを気にして、共振させない方向で落ち着いていたのだが、ちょっと気まぐれを起こして発振器の出力コンデンサを5100pFのディップマイカに換えてみた。

 私の制御アンプの発振器は、当初発振周波数を設定するCRの定数を指定のとおりに組んでうまく発振せず、定数を変えてなんとか成功したものだ。LM318Hの正相入力・アース間に300pFと5.1kΩ、PFB部が120pFに13kΩという“変則ウィーンブリッジ”になっている。これだとオリジナルの330pF×5.1kΩより時定数が1割ほど小さい訳だから、そのぶん発振周波数は高くなっているはずだ。
 発振器の出力コンデンサは、モーターの位置信号コイルと共振させるため、金田氏の記事では6800pFを使うことになっている。これはもちろん発振周波数に応じた値であって、私の発振器で共振させる場合だと、たぶん1割ばかり容量を減らした6200pFあたりでよいだろうと思っていた。ところが、今回試した5100pFこそが本当にツボにはまった値だったみたいで、出力振幅が±20Vと、かつて5600pFを使ったときより大きな振幅が得られてしまった。しかも、モーターが回っても以前気になった振幅のぶれがほとんどない。共振を避けたときと変わらないくらいに安定している。これならもう共振させないメリットはなくなってしまうわけで、こうなるとこれで行かない手はない。

 どうやら、以前5600pFや6800pFで試したときは中途半端に共振した状態になっていたのがまずかったらしい。共振の山から外れたスロープの途中だと、ローターの回転に伴う位置信号コイルのインダクタンス変動から来る振幅のぶれが顕著になるのだろう。ということに、最近いじっているコンデンサーカートリッジCP-X用発振検波器POD-XEの動作(スロープ検波)を考えていてようやく思い至った次第。共振させるならしっかりさせる、させないならさせない、中途半端がいちばんよくない、ということですな、反省(--;。


vi). 位置信号レベルシフト部の変更

 というわけで位置信号のレベルが大きくなってしまったので、レベルシフトの調整部に設けている半固定VRは1kΩから2kΩに換えることになった。ここには470Ωの固定抵抗も入れていたのだが、どうせなら電圧が一定のほうがよいだろうと、今回1S1588に換えてしまった。現状の回路は右のとおりだ。
 半固定VRの回転子は大体中央あたりまで回している。VRの1番端子は安全のために2番と繋いでしまうことも考えたが、VRが接触不良になっても回転が不調になるだけで他に悪影響を及ぼすこともなさそうだし、むしろ異状の発生を察知しやすそうなので、どこへも繋がないことにした。

 C1399のB-E間電圧を含めて、ここでは大体2V強レベルシフトしていることになるが、この形でやるなら、レベルシフトの量からすると赤色LEDと500ΩVRの組み合わせがいいかもしれない。あるいは、いっそコンプリSEPPのバイアスに使うTrの定電圧回路を使うという手もある。
 と、いろいろ変に凝るよりも、実はオリジナルどおり単純に抵抗のみでやるのが一番いいのかも?


vii). その他

 その他、写真では見えないが、基板裏では、クォーツ発振回路の820kΩをニッコームの1MΩにした他、若干安く入手できたSEコンデンサで、制御信号加算アンプの位相補正の10pFとLM319からの信号を微分するCを(入手の都合で47pF)置き換え、更に555にはデータシートの使用例に倣って電源のパスコンとしてBG-NX 0.1uFを入れてみている。そういえば、ついこの間BGがディスコンになってしまった。

 これらの結果、聴いて判るような違いはとりあえずない、のだろうとは思うが、実は静けさが増して純度が高まったような気がしている(オメデタイ(~~; )。








進化?


 早いもので、このページ、前回2007年の更新からはもう7年が経過した。我がモーター制御アンプは、完全対称アンプ化、ディスクリート化、SiC採用、などの最近の本家の流れには全然ついていっていないが(汗)、変化は(進化と言いたいところだが、怪しいので自粛)し続けているのであった。


 ということで、2014年10月現在の姿。いくつかのパーツが変わっている。ネジも変わってたり。


 ここまでの変更点を並べてみる。


i). 配線引き回し変更

 上の写真で、左側パネルに4つのDINコネクタが並んでいるが、奥のほうの2つの配置がこれまでと入れ替わっている。いちばん奥がモータードライブ出力(3p)で、その次が電源(5p)なのだが、以前はこれが逆だった。この変更によって僅かながら電源ラインを短縮することができた。

 実はこの変更以前にアースラインの変更を試みた。某所で推奨されていた配線方法(電源から出力側→入力側というふうに幹となる一本線のアースラインを通す)を試したのだ。
 理屈としては「美しい」気がしたのだが、実際はやや冗長な引き回しになって、起動時にもたつく感じになるなど害のほうが大きい印象だったのですぐやめた。そこで、ただもとに戻すのでは情けないので、上記のような変更を施して、いくばくかの改善を得た、という訳。


ii). モータードライブアンプNFB定数変更

 モータードライブアンプは、ゲイン(21倍)はそのままで、NFBの抵抗値を1/10にした。つまり20kΩと1kΩだったところをそれぞれ2kΩと100Ωに換えた。
 特にドライブアンプの性能向上を意図したわけではなく、以前たまたま安く十数本ばかり入手してあった「あの」ヴィシェイの箔抵抗2kΩの使い途を考えていて思いついただけである。


 一応シミュレーションでは、この定数のほうが超高域の特性が若干整う方向ではあるので、性能の向上が皆無という訳でもないかもしれない。なにしろヴィシェイなので、音質的には一応御利益が少しあった、ような気がする。信心が大事である(爆)。

 そうそう、終段がNEC石の場合にドライブ段のC-B間に入れるよう指定されていた220pFは取り払ってしまった。特に発振などはないようである。



iii). 制御基板バイパスコンデンサー

 ここからは、制御基板の変更について。

 制御基板は基本的に矩形波を扱う基板であるからして、低インピーダンスのパスコンが必須だ。電解コンを嫌うK式としては、これに永らく0.47μFのV2Aを充てていた訳だが、決して小さいとも言えなさそうな電流のON,OFFが繰り返される場所なのに、はたしてこんな容量で足りるのか?という疑問がずっとあった。

 アンチデジタルの呪縛から解き放たれた近年のK式では、ここはOSコンが標準となったので、うちの制御基板のパスコンもV2AからOSコンに換えてみた。銅リード品の56μFだ。

 結果、効果は歴然(!)。ターンテーブルの起動がはっきりと機敏になった。制御がより確実になった感じ。以前は制御回路の動作によって少なからず電源が揺さぶられていたということなのだろう。やはり0.47μFでは小さすぎるようだ。(この改造、古い制御アンプを使っている人にはお勧めしたいと思います。)

 ターンテーブル側のストロボ読み取り部のほうにもパスコンとして10μ〜47μFくらいのOSコンやタンタルコンを載せるといいかもしれない。



iv). 制御回路定数変更

 制御信号を生成するサンプルホールド部直前の積分回路の定数を再検討し、速度制御側は0.1μF+150kΩ、位相制御側は0.22μF+51kΩとした。金田氏が選んだSP10用の最新の値はどちらの側も0.1μF+110kΩだから、時定数としては、位相制御側はほぼ同じ、速度制御側は初期の制御アンプの値と最新の値の概ね中間くらいということになる。私のところでは、これで回転に安定感があり音も良い状態になっている気がしている。


 速度調整用の半固定VRが1W型ネオポットに変わっているが、これは調整のし易さを求めて2kΩだったのを5kΩに換えたもの。

 あと、ホールドコンデンサー0.1μFはポリプロピレンを使いたいということで採用した日通工FPDから、同じくPPのニッセイAPFに換えた。少しリード間が短く、基板上のレイアウトがより整うという理由だ。APSの前身にあたる品種ということだが、こちらはリードが非磁性であるのが嬉しいところ。


 そして、手前に見慣れないASCのX363。加速回路のV2Aを置き換えたものだが、実はこの辺りの定数もちょっといじっている。

 最新のNo.234ターンテーブル制御アンプの記事に、加速回路(と、実際にその働きを持つところの加算回路)について、従前よりも詳しめの記述がある。曰く、「加速回路は位相変化分の周波数に比例して制御信号を強める働きをする」。
 確かにそういう動作をしていると言えるだろうけれど、私が思うに、ここはむしろ「制御信号漸減回路」とでもするほうが、その本質を言い当てているんじゃあないでしょうか?(まあ素人の戯言です、不適切発言だったらご免なさいね)

 加算アンプは反転アンプで、ゲインは基本的に帰還抵抗820kΩと入力抵抗390kΩの比、すなわち約2.1倍である。で、位相制御信号側の入力抵抗390kΩと並列に入る0.22μF+39kΩが狭義の加速回路。しかし加算アンプと一体で働くので、このあたり一帯が加速回路と言ったほうがよさそうに思える。

 サンプルホールドLF398が吐き出す位相制御信号は、ステップ状に変化する階段波形であり、2kΩのレベル調整VRを経て加速回路付き加算アンプに入力される。
 波形がステップ状に変化した瞬間においては、0.22μFは導通状態と見なせ、加算アンプの入力抵抗は39kΩと390kΩの並列値(約35.5kΩ)となって、出力に現れるのは約23.1倍に反転増幅された信号となる(No.234の記事には21.0とあるが、390kΩを無視したようだ)。その後時間が進むに従って、0.22μFは充電され導通無しの状態へと推移する。すなわち出力は、当初の23.1倍に増幅された値から、次のステップが入力されるまでの間、ゲイン2.1倍の値に向かってエクスポネンシャルカーブで減衰していくことになる。

 初めて教習所で自動車の運転をするとき、ハンドルを戻すのが遅れる人がけっこう多い。これは、クルマが目指す方向に向くまでずっとハンドルを切ったままでいるのが原因だ。
 目指す方向に向いたときには、ハンドルはもう直進状態に戻っている、というのが正しい操作である。

 加速回路の動作はこれと似ていると言えると思う。与えられた制御信号に対し、大きな慣性を持ったプラッターが反応するには時間がかかるので、ある程度反応したときにはもう制御信号のほうは収まっていなくてはならない。すなわち制御信号は初めにコツンと強く、あとは適当に抜いていく、という与え方をしなければならない、ということだ。

 というわけで、私としてはこの「加速回路」、むしろ「加速しすぎ抑止回路」という認識で観ておりまして、その意義は「信号を適切に漸減する」ことにあるのだろうと考えておる訳なのであります。

 それで、どうなんでしょう、23.5倍から2.1倍に向かってゲインを落としていくというのは。ここまで大きな減衰比は必要はないんじゃないか?根拠はないけど、なんとなく。

 と思って、定数変更。0.22μF+39kΩを0.1μF+75kΩに換えてみた。時定数は少し小さくなったことになる。これだと約11.9倍から2.1倍に向かうことになるのだが、このくらいの比で十分なんじゃ?


 ということで、ちょっとシミュレーションしてみる。Micro-Capは、無償で使えるデモ版だと、複数要素でのパラメトリック解析はできないので、回路を2つ並べて比較。


 入力信号は33+1/3回転時のクロック88.88…Hzの周期と同じ11.25msの幅のパルス(負)をひとつ。結果が下図。

 青がオリジナルの回路、赤が定数を変えたほうだ。実際の制御信号はこんなではないが、ここでの目的は「減衰の様子」を観ることなので、これで傾向は判る。

 当然ながら定数を変えた赤のほうが信号レベルが小さいが、位相制御信号のレベルはどのみち半固定VRで調整することになるので、この定数を使用したとしてもゲインの小さいことが問題になることはない。むしろ、従来はVRをほんのちょっと回したところで適量の制御となるのであったが、こちらのほうがVRの感度が緩やかになるぶん調整がし易くなるように思える。
 そして肝心の「信号レベル漸減作用」だが、減衰比は半分ほどになったことになるも、時定数が小さくなっているぶん早めに減衰するので、トータルでは原回路と似たようなものである。

 で、実際にこの初期ゲイン控えめの定数を実機で試してみたところ、はたしてまったく問題なく動作する。音のほうはというと、0.1μFにASCを使ったためだろうか、むしろ少しばかり音が澄んだような印象♪。悪いところは見当たらないのでこれで行くことにする。
 ま、特に回路的な進化には当たらず、パーツのよさが出たかな、くらいのことなのでしょうが(^^;。