ゲテモノ? |
なぜ楠氏のDACに興味を持ったか、の理由はいろいろあるけれど、まずは何をおいてもその大胆な、もしくは乱暴な回路のシンプルさが魅力だった。え!デジタルフィルタを取っちゃっていいのか?おかげで部品が少なくてコンパクト。作りやすいうえ、理屈の上ではどうしようもない欠陥を持っているはずだがある面では有利だ、という理論的な裏付けもあったわけで、だったらそのいい面を味わってみたいものだ、という気にさせられた。とことんオーソドックスなもののよさもあるだろうが、個人的には、普通なら考えつかないようなものを生み出す奇抜で意外な発想や、常識を覆すような発見のほうにより強く魅かれてしまう。だってそのほうが痛快でしょう(要するにへそ曲がり?)。 |
楠DACを再構成 |
そんなことで、自作DAC第1号は楠式を試してみることにした。ただし、MJの記事どおりのACアダプタ方式ではあんまりパッとしない感じなので、電源部と本体を別々に同じサイズのケースに組むことにした。 そもそもが奇抜、というかかなり無茶な構成のDAC、期待と一緒に「ホントにちゃんと鳴るのか?」と半信半疑の製作である(ほんとは八信二疑くらい)。よって、基本的には「ダメモトで試してみるか」くらいの気持ちなので、ケースそのものはあまり贅沢せずタカチのYM-180でお茶を濁すことにする。ただ、ダメモト気分の“おためし”とはいえ、イルンゴや47ラボはデジフィルレスで製品を作って市販してしまったくらいだから、もしかしたらメインシステムになる可能性もないわけではない。よって、回路部品についてはそれなりのものを使いたい。もともとパーツの少なくてすむ回路だし、ジャンク箱に眠っていたものも動員できるから、トータルコストはせいぜい3万円程度だ。 デジタル機器の製作は初めてなので、ちょっとおっかなびっくりである。楠氏がMJに初登場したときのDACコンテストの記事では、TDA1543の4パラだとアースの処理がかなり音に影響するようなことを書いておられた。でも別のどなたかの記事で「デジタルは正しく繋ぎさえすれば音は出るのでラク」というような言葉もみかけたので、あまり怖がらないことにする。 入力は楠氏のオリジナルと違い、RCA同軸とTORX-176による光の2系統とした。それぞれASC0.01uFを介してCS8412のRXPとRXNにつながるアマチュアがよくやる回路である。本来はバランス入力のようだから、ちゃんとバランスで送ってやるほうが気分的にもすっきりするが、今回は光接続も試してみたかった。次の機会があればオリジナルどおり同軸1系統として75179でバランス伝送するだろう。 その他、基板上のパーツの配置も自分勝手に考えて、かなり楠氏のものとは違うことになってしまった。出力のフィルターには3300pFに470pFをプラス。安心のためにfcを低めに取ったのだが、私の耳が駄耳なのか、これでもハイ落ちの印象はなかった。47ラボのはフィルター無しで出しているらしいけれど、私は心配性なので、いっそ4700pFくらいでもいいんじゃないか、と思ってしまう。 電源トランスは高さ40mmのYM-180に収まるものということで、物量的にはささやかだが、トヨズミのHTW603をDACとデジタル部それぞれに1個ずつ両波整流で使用した。整流はトランスの電圧が6Vと低めなので、電圧ロスが少ないほうがよいだろうとの思いもあってショットキーダイオードでやっているが、DAC側はこれも別府氏御用達のSRC84-009だ。楠氏の1号機もこのダイオードを使っていたし、自分で聴き較べて確かめたわけではないが、なんとなくよさそうじゃん、という程度の選択。 |
出来上がった電源部。電解コンデンサーーは取り付け金具がケースに納まらず、両面テープで貼り付けて固定した。電源スイッチは背面に付けており、通常は入れっぱなしでCDP-X5000のACアウトレットにつないで、同時にON・OFFさせている。 |
“ちょっとDC”流に |
ところで私は以前から、DACの電源にモーター制御アンプに使われている±5Vの金田式PPレギュレーターを使ってみたらどうだろうか、というような思いを持っていた。この楠氏のDACでは、キーパーツのフィリップスTDA1543が+5Vの単一電源で動作することから、レギュレーターも1個ですむ。ここは試さないではいられません(^^)。 というインチキ金田式+5Vレギュレーターであるが、作ってみると予想通り問題なく動作する。音についてはメタルキャン使用のものと比較していないからなんとも言えないけれど。 なお、デジタル部はTO-92型の3端子レギュレーターが複数使われるが、これには秋月電子でわりと安く売っていたので買ってみたNJM2930Lというのを使った。100mAのもので、記事の松下AN8005よりは容量が大きい。だから音がいい、というものでもないだろうけれど。 |
DAC本体。ご本尊のTDA1543は丸い鉛重りの下に隠れていて見えない。もっと大質量を付加したいところだが、載せるとなるとICが小さくてこれが精いっぱい。右奥がデジタル入力部で、ピンジャックのすぐ下にある黒い輪っかが手巻のパルストランス。続く74VHCU04はこの基板裏に貼り付けてある。 |
聴いてみる |
さて、出来上がって、恐る恐る聴いてみたDACの音はどうだったか。 その後、出力のカップリングのケミコンを他のものに交換してみた。出てはいるけれどすっきりし過ぎの低域の充実を期待してのことである。 光と同軸では、私の耳が鈍なのか、特に明確な音の違いは感じられなかった。それでこそデジタルだ、と言いたいところだけれど、その後ピックアップのレンズをクリーニングしたらえらく音が変わってしまった。まったく、デジタルだというのに…。
そしてこのDACで聴くようになって1年、あらためてCDP-X5000単独での音を聴いてみた。出力レベルが高いせいもあってちょい聴きではより力強い感じもするが、よく聴くと微妙にピントがずれているように音が滲んでいるのが分かってしまう。楠説「デジタルフィルタの演算による“音束の拡散”」のせいか時間軸のゆらぎのせいか。いずれにせよ、やはりもう戻れないということですね。
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予告? レギュレーターのTrをTO-66タイプにした場合の音はどうか、あるいは3端子レギュレーターだと本当によくないのか、というような研究課題はあるはずなのだけれど、とりあえずの成功に満足してしまってサボっています。TDA1543でこんなによいのなら、別府氏が「これしかない」とするTDA1541Aだったらどんなにいいだろうか、という方向に思いが行ってしまっているから、でもありますが、もともと実験するより音楽聴いてのんびりしたいほうなので。 |
その後(小変更) |
ある方から楠DACに関して問い合わせをいただいた。その方もこのDACを自作されたのだが、なぜか電源を入れてから音が出るまでに10分程度かかるという。はて、不思議。 |
「試してみたいこと」というのは、まずひとつはレギュレーターのフィルムコンデンサーの交換。AUDYN-CAPの代わりに、EROのMKT1813というフィルムコンデンサーが、容量とサイズの点で使えそうだと以前から思っていた。これはポリエステルで、耐圧は数種あるが、サイズが適当なのは250Vのものである。細身の形と安っぽい黄色い色のせいで見た目には冴えないが、音は聴かなきゃ分からない。というわけでAUDYN-CAPと交換してみた。 |
さて、レギュレーターにEROのMKT1813を使ってみての印象だが、このDACの電源に使ってみたかぎりはAUDYN-CAPに較べて決して悪くはなっていないと思う。数日の間聴いてみたが、高域がより美しくなっているように感じる。どちらかというと、しなやか、やわらか系の音のようだ。強いて言えば、よくあるハイファイ調オーディオケーブルとダイエイ電線の違いのような感じといったところか。もちろん1813のほうがダイエイ相当。 |
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AUDYN-CAP自体、どうもV2Aと較べるとクセが強いという意見が多いようだから、1813はV2Aの代替品として悪くないのではないだろうかという気がする。もっとも、普通のアナログアンプに使ってみていないので、これだけではまだ判断できない。ただ、少なくともこのDACに関しては、もとのAUDYN-CAPに戻したいという気には全然ならない。 |
さて、試してみたいことのもうひとつ。出力のカップリング用ケミコンに、エルナーのSILMICを2個一組にして無極性接続にして使っているが、この陰極どうしを繋いだ中点に負電圧のバイアスをかけたらどうか、というものである。実はこのDACの製作当初からこの計画はあって、もともとシャシー内に006P電池を置いておくスペースを確保してあった。ただ、効果には端からたいした期待を持っていなかったので、実行しないまま時間が過ぎていたのだ。 006P電池から高抵抗を介して、ケミコンの中点に-9Vをかけてみた。はたして、正直言ってこれによる音の変化は聞き取れなかった。電池を入れても外しても、特に音が変わったような感じはしないのだ。有極のケミコンは電圧をかけて使うべき、という話を聞くが、あるのはせいぜい「いちおーそーしたからね」という気休めの効果だけか。あるいはこれもさらにもうしばらく時間を置けば違いが現れてくるのかもしれない。ケミコンというのはたいがい寝覚めが悪いからね。 ところで、針音のようなノイズはどうなったかというと…あー、やっぱり出ますわ(--;。ということはTDA1543のせいではないですね。それならば、とオシロでところどころ波形を見てみた。見ても原因らしいことは何も分からなかったけど(^^;。 オシロを引っ張り出したついでに、MJのテクニカルディスクに入っている基準音(正弦波)を再生して出力波形を見てみた。ワハハ、さすがにノンオーバーサンプリング、出力にカットオフ42kHzほどのアナログフィルターを入れてあるけれど、やっぱり“ガタガタ”だよ(^^;。 しかし、こんなことしてないで早くTDA1541Aで新しいDACを作るべきかも…。 ◇ ◇ ◇ 後記: |