金田式8WバッテリードライブDCパワーアンプ


DCアンプに入門

 自作オーディオへの入門は真空管アンプからだった。電子工学の基礎知識はほとんどなく、言ってみれば見様見真似。ほとんどオームの法則だけでアンプを作っていたようなものだ。そんなころはまだトランジスタのことがよく分からず、高価そうなタムラのトロイダルトランスを使い、複雑な電源回路を備えた金田式DCアンプは、何やらものすごく難しくて大掛かりなアンプに見え、自分に作れるものだとは端から思えなかった。

 そのうち登場したのが電池式DCパワーアンプ。電源は電池のみ。基板も小さく、これなら比較的手軽に作れそうだ。しかも音は他の追随を許さない素晴らしさ、らしい。ただ、指定されているNECの出力トランジスタたちはもうパーツ店の広告には見つからなかった。他の部品を使ったのではDCアンプの価値がなくなる、らしいので、かなり興味津々だったが、私にとってはまだ遠い世界に思えた。
 ちょうどその頃、大学の電子工学系へ進学した弟から、「トランジスタというのはベースとエミッタの間の電圧がおよそ0.6Vでほとんど変化しない、ダイオードも同様」ということを教わった。これは私にとってすごく画期的な知識であった、というか、そんなことも知らないでMJを読んでたんですねえ(^^;;。この一言をきっかけに、私は石のアンプが分かってしまった(つもり、ですが)。フクザツでワケの分からんもんだったDCアンプの回路がすっかり理路整然と飲み込めてしまったのだ。分かってしまうと俄然面白くなる。当時MJにほとんど隔月で掲載された金田氏の記事を読むのがもう楽しくって。

 金田氏の電池アンプもどんどん進化していった。インバーテッドダーリントンからダーリントンに変わった出力段に、やがてモトローラの2N3055/MJ2955が入手しやすく音もよい出力トランジスタとして登場。一気にDCアンプが身近になった。こうなるともう作らずにはいられません、金田アンプ。
 というわけで、電池式パワーアンプが、私が作った金田アンプの第1号となった。電圧増幅段と出力段の電源を共通にした、いちばんベーシックな8Wタイプである。2N3055/MJ2955で作ろうと思っていたら、たまたま2SD217を地元のパーツ屋で発見してしまい、どっかに相方はいないか、とアンテナを伸ばしていたらしばらくしてMJの部品交換欄で2SB541が入手でき、これらで作ることになった。
 たぶんまだ「DC流」表面張力盛上げ式のハンダ付けもヘタクソだったと思うが、出てきた音には満足した。繊細でニュアンスに富んでいるし、低音もだらしなく膨らんだりせず、ズーンと下まで伸びている。全域に渡ってたいへんクリアで情報量が多いと思った。

 

石は怖い

 電池アンプは、出力段の温度補償が少し変更されるなど進化を続け、やがて2段目のカレントミラーが“フィードバック型”となった。こうなると、やはり最新型に追いつきたくなる。早速部品をそろえて改造。フィードバック型カレントミラーの効果は確かにあって、音が変わった。より弾むようになった感じがした。
 気を良くして聴いていたが、数ヶ月後、状況は暗転する。聴いているうちに急に音が小さくなって、じきに出なくなった。すぐスイッチを切って、アンプを開けてみた。なんと、パワーTrのハンダ付けが融けてしまっているではないか!

 ウワサに聞く「熱暴走」を見てしまった!と青くなった。石は温度補償なんてものを考えなくてはならないし、流れる電流も大きいぶんタマより扱いにくいという印象があったが、電池アンプが簡単に作れたものだからすっかり安心してしまっていた。しかし実際にこういうことに遭遇してしまうと、やはり怖いものだと思い知る。

 

再挑戦

 かなりショックで、気を取り直すまでにはだいぶかかったが、やはりあの音が欲しくて、再び2N3055/MJ2955で組み直すことにする。相変わらず8W型だが、今度は用心のため30Wタイプの構造で作ることにした。

 出力段の石はアルミアングルでケース底板に据え付けて放熱対策。基板は配線の容易さから裏返して設置している。手前へ延びるケーブルは、初段の定電流回路のON-OFFのためのもの。

 手前の出力トランジスタが、温度補償のダイオードをエポキシで接着したMJ2955。

 その頃には初段の電流を増し、定電流回路に2N5465を自己バイアス方式で用いたシンプル型が発表されていたのだが、その回路を基本にしながらも、Trを使った定電流回路で動作をON-OFFさせていた以前の構成を踏襲することにした。このほうが使い勝手がよい。それに、もともと使っていた初段のFD1840はIdssがあまり大きくなかったので、金田氏の設計とは定数を変えて電流を1mAほどに設定したのだが、Trの定電流回路だと電流値を試行錯誤なしに計算で設定でき都合がよかった。

 放熱対策と温度補償法の変更の効果は確かにあって、もう熱暴走の心配はないようだった。こうして再びあの音を手に入れることが出来た。ただ、音はモトローラの石よりはNECのほうが私の好みに合うような気がした。それより、ナショナルのNeo Hi-Topが水銀0使用の“NEO”になって、ちょっと音が変わってしまったようだった。汚い音が出ているという気もしないし、具体的にどうと言えるようなものはないのだが、何か心なしか以前より音がつまらなくなったような…。