その後の金田式300Bシングルパワーアンプ
だらだらモディファイ記


よりよい音を求めて、試行錯誤は続く…



フィラメント直流点火用ブリッジダイオードGBPC2502を、RBV602に変更

 たまたまサンケンのRBV602がずいぶん安かったので買ってみました。200V,6Aという容量は、耐電圧はさておき300Bにはほどほどにぴったり、といったところでしょう。今どきスタイルのモールドパッケージは見た目が薄っぺらで、GBPC2502のほうがずっと頼りがいがある感じですが、音は聞かなきゃ判らない。さっそくアンプに使ってみました。
 フィラメントへの配線の陰になって見えにくいが、ケミコンの手前でぺったりシャシーに張り付いているのがRBV602。AC入力側には0.022uFの日通工FPD(青いフィルムコン)を入れてノイズ低減をはかった(つもり。気休めか?(^^;)。
 GBPC2502とは全然形が違い、端子が生えている場所も異なるので、もとのケーブルでは届かず、点火系の配線ごとやり直すことになってしまいました。さて、けっこう手間がかかったけど、音のほうは如何に。
 GBPC2502のときよりもわずかにクリアーで明るくなりました。空間の見通しもよくなっているようです。音のニュアンスも、より瑞々しく描き出してくれるように感じられます。どうやらRBV602のほうが、段違いに優れているとまでは言いませんが、少しよいようです。好き嫌いのレベルの違いかもしれませんが、私はこっちがいいな。サンケンのダイオード、気に入りました(^^)。


と、思ったが…(^^;

 しばらく聴き続けてみたけれど、う〜ん、なんだか明るすぎるぞこれは。何を聴いても余計な華やぎが…陰影に欠けた画一的な表現になってしまってる(--;。


というわけで、さらなる小変更(^^;

2段目の真空管を“純正”のWE404Aに変更

 実はまだGBPC2502を使っていたとき、WE404Aを入手し試したことがありました。そのときの音は、圧倒的に解像度が高く、非常に厳格な音、といった印象でした。しかし、瑞々しさ、しなやかさ、躍動感といった言葉はあまり当てはまらない感じで、解像度が高いのはいいのだけれど、ちょっと聴き疲れする感じでした。それゆえ結局は6R-R8Cに戻したのですが、WE404Aの後で聴いてみると、こちらはちょっとソフトフォーカス、というか薄いベールがかかったよう。きれいなベールなんですが。以前は気に入って聞いていたのに、困ったものです。解像度に不満が出てきてしまいましたが、それでも私にはくつろげる音の方がよかったので、トータルで判断して6R-R8Cで行くことにしたのでした。

 さて、ダイオードブリッジをRBV602に換えたせいで現れてきた中高域の過剰な華やぎ…これがWE404Aだとどうなるのか。
 やってみました。以前感じた“厳格さ”は特に感じられないで、ただただシャープにピントの合った音がスムーズに湧き出てきます。微妙なニュアンスも描き分けながら、それでいて耳に心地よい。「あれ、なんで?」という感じです。もうこっちのほうが断然よい。

 さあて、これはどういうことなのか? RBV602と6R-R8Cではうまくなくて、GBPC2502とWE404Aでも難有り。そして、それぞれ逆の組み合わせならOK。これはもう“相性”としか言いようがありませんね。そしてこの2組のうちだと、RBV602とWE404Aのほうが圧倒的によいのでした。
 パーツの相性はさておいても、本質的にはWE404Aのほうが素性がよいように思えます。6R-R8Cのほうがプレートが大ぶりで、それもあってか電極が振動しやすいような造りになっているようです。見た目は非常に精巧な感じなのですが。
 ガラステーブルの上にそれぞれの球をコツンと置くと、6R-R8Cのほうは「シン!」とグリッドワイヤ類が響いていると思われる音がします。WE404Aのほうは音も小さく振動がそれほど尾を引きません。このあたり、きっと再生音にも現れているでしょう。

 点火回路のダイオードの性格が、思っていた以上に音に現れることを経験しました。しかも真空管との相性もある。こういうのは机上の設計では絶対に判りませんね。こうなるともっと他の点火回路も試してみたいところです。ハムさえ解決できるのなら、AC点火もやってみたい。


新品のWE404Aを中古品に変更

 ということで、2段目の常用球はWE404Aになってしまいましたが、実はこの404Aは別のアンプに使うつもりで5個まとめて買ったものでした。うち4個がよく特性が揃っており、差動で使うという目的に適したものだったので、これは当初の目的のために取っておくことにして、この300Bアンプには専用に別のWE404Aを確保することにしました。

 目をつけたのは、某ショップの広告リストにあった“選別済み中古球”。新品の半値以下です。ダメモトで試してみっか、と買ってみたら、これが思いのほかキレイ。既に持っていたものは60年代後半のロットですが、こちらは50年代後半のものでした。造り自体には差異はないようです。ただ、旧いほうは内部の電極支持マイカに黒の手書きで何か文字が書いてある(^^;。“G”とか“EOR”とか。なんじゃいこれは?

 左からNEC6R-R8C'67年、同'64年。中の2本が新品のWE404Aでそれぞれ'69、'70年製。右の2本がやはりWE404Aで、こちらは'50年代後半の中古球。

 で、肝心の音は?
 なにぶん中古品ゆえ、若干くすんだ音がしても文句は言えないなー、と思いきや、これがなんともイイ音ではありませんか! もちろんWEの404Aであることには変わりはありませんから基本的には同じ音質傾向ですが、味の濃さにずいぶん違いが出た感じ。より熟成が進んだ、とでも言いましょうか。決してニュアンスがボケることなく、しなやかに情報量を保ったまま、ハッとするような潤いのある表現を聴かせてくれます。バッチリピントの合った正確な音、というのとはたぶんちょっと違います。脚色気味かもしれないのですが、これはとにかく聞いていて楽しい、気持ちイイ。
 この理由はなんなのか。中古球ゆえのほどよいエージング効果? はたまた製造年代による音の違い? 同じ年代の新品球を試してみないことにはどちらとも言えないけれど、ともあれこんな音が出てしまうと、またまたもとには戻りがたい。もうこれに決定です(あとEMエリクソンなんかも試してみたいとは思うのですが(^^))。



更に初段管をGEC Z729から松下6267に変更

 “タマ聴き較べ”づいてしまって、というわけでもないのですが、今度は初段管を変更。氏家氏絶賛の松下6267が入手できたので、試してみました。その前にちょっとヤバい状況があったのは「近況つれづれ」でご報告した通り(^^;。どうもこの松下製は他社のEF86族とはいささか特性が異なるみたいです。
 初段の負荷抵抗の定数を変更して、どうにか無事使用可能になりました。これまでは16kΩ+6.8kΩ+2kΩVRだったのが、6.8kΩを3.3kΩに付け替えてようやく適正バイアスが得られるという有り様。こりゃ別のタマと思ったほうがいいな(?)。

 左が新顔の松下6267、というのは懐かしのナショナル印を見て判りますね(^^;。こうしてGECと並べてみると、精巧感はあるけど高級感はない、です、ハイ。


 氏家氏のプリでは、氏に「精密な音の彫刻を思わせる…」云々の評を書かせることになったそのパフォーマンス、はたして金田300Bアンプでは吉と出るのか。正直なところGECのタマを気に入っているので、あまりよいとかえって悲しいかも…(^^;。
 と複雑な心境で聴いてみましたが、おお、これはこれは、GECのような美音ではないけれど、確かに鮮やかな分解能。またまたベールが取れちゃったよ。全域に渡り、音のニュアンスがより明確になって、細部まではっきり聞き取れるじゃああーりませんか。特に強靱に引き締まった感じになった低域など、ホントはこうだったのね、と感心してしまいました。
 ただ、非常にストレートなんだけれど、どことなく個性音も出ているような気もしないでもないんですな。うまく言えませんが。あるいは6267が犯人なのではなくて、初段が無色になったせいで他の部分の個性音が浮き出してきたということも考えられるかも。なにしろ直流点火のブリッジダイオードひとつで音が変わったりするわけですから。それとも日本球とWE球の不協和音が聞こえている?
 そんなわけで、ちょっと溜飲の下がりきらない気分もあるのですが、分解能では劣っても味のある音を聞かせてくれるGECに未練を残しつつも、ひとまずこれで当分聴いてみるといたしましょうか。



 そんなことで、およそ2ヶ月経過。
 それなりに聴き込んでの松下6267の評価は、「なかなかいいな」半分、「これはちょっと…」半分、というところでしょうか。どうもソースによっては高域がうるさい。人の声がキンつく感じもあります。分解能に優れ、躍動感もあって、相性のいいソースもあるのですが…。これってなんだか電池EQアンプの定電流回路で試したC1478と似たような感じですね。球と石だから関係ないとは思うけど、ひょっとして松下の血なのか…(^^;。

 やっぱりGECに戻すかなあ、でもそれじゃあ世界が拡がらんなあ…などとしばらくモンモンと考えていたところ、折りよく手頃な価格で新球がゲットできましたよ〜♪


そして、これが終着?


 これはちょっと判りにくいかな…(^^;。

 ええいひかえいひかえぇぇぇいぃこのもんどころがめにはいらぬかぁぁぁっ…

…ちゅうほどの「ご威光」が実際のところ音の点ではたしてあるのかないのか、とにかく珍重されている管底◇印付きのテレフンケンEF86なのでありました。もう管球式DCプリでおなじみですね。これの音もいっぺん確かめてみたかった。金田氏も最初の頃は格別タマのブランドをどうこう言うことはなかったけれど、回を重ねるに連れて嗜好がはっきりしてまいりましたね(^^;。ウエスタンがなるほど確かによさそうだというのは実感できたけど、かのテレフンケンのほうは実際どうなのか。

 このさいどうせならより高級そうなEF804Sを、という手もなくはないのですが、あちらはピン接続が異なるので配線をやりなおさねばならないのがメンドウ。あとEF86よりさらに高価なのと、ちょっと背が高く、このアンプでは視覚的なバランスがよろしくないのとで、今のところ不採用ということにしております(^^;。

GECの細かいメッシュのシールドは美しいけれど、こちらもまたヨイ姿と思います。

 テレフンケンのEF86にもいろいろあるようで、同じく管底に◇マークを持つものでも、この写真のタイプではなく、シールドの筒の穴から保安官バッヂ型をした電極支持マイカの腕が上下各6本突き出している形のものがあります。この形式のものは東欧でも生産されていましたが、私が初めて作った管球アンプに使ったのがまさにそれでした。年代的にはそちらの形式のほうが古いようですが、私はこちらの形のほうが好きです。ここに紹介しているものは72-06というプリントがありますから、'72年製のようです。
 電極上部の四角い箱みたいなものはちょっと武骨ですが、おそらくシールドなのでしょう。通電すると、角の合わせ目の隙間からオレンジに灯ったカソードが少し見えます。あと光が見えるのは側面のシールドに1箇所だけ開いた3mmφほどの穴からと、電極下部のカソード末端部分だけで、そういう点では、メッシュ越しに光るカソードがまるまる確認できるGECや松下よりはつまらないとも言えるかも(?)。

 はてさて肝心の音のほうはと、ですね。まてまて、焦るな、まず動作点の確認。ん、意外にも松下の6267と大きく違わない。プレート抵抗を取り換えることもなく、半固定VRでバイアスを適正に調節可能です。どうやら、松下のが突出して変わった特性だったというわけでもなかったようです。あの程度はメーカー間でばらついているものなのでしょう。では、聴いて参りましょうか。

 はあ?なんとなくもっさりして冴えない音だが…
 …と思ったのは、ちょうど台風が来ていて環境S/Nが悪すぎたせいでした。後でよく聴いたら、質量感と言ったらいいのか、独特のしっかり感のある音で、微細な部分もちゃんと表現してくれている。これはなかなかバランスがヨイです。メッシュタイプの球のきらびやかさみたいなものはないけれど、ノイズは極少、出るべき音がちゃんと出て、なおかつしなやかさや力強さもある。けれどどうやら伊達者ではなくて、どちらかというとむしろ朴訥、正直者。これは、イケるナ(^^)。

 こうしていろいろ聴いてみると、それぞれに個性があって面白いですね。完全に無色というのは、ない。それぞれの個性を楽しめばよいのだと思います。私の場合どうやら初段はこのままテレフンケンに落ち着きそうですが、また忘れたころにGECに挿し換えてみると別の驚きがあるかもしれません。



一歩進んで二歩戻る(^^;

 かの30DF2製作者、出川さんからじきじきにショットキーブリッジB6A06のサンプルをいただきました。どうもありがとうございました。「も1個ちょうだい」とはさすがに言えないので、自分であとひとつ購入して300Bの直流点火に使ってみることにしたのでした。

 ショットキーだと順方向電圧が低くなるので、フィルタのケミコンの前に0.22Ωを入れて概ね規定の5Vを得ることができました。

 以前ちょっとだけ31DQ06を試したことがあったのですが、そのときは澄んではいるがどこかふやけたような印象でした。このブリッジダイオードも同系の製品と思いますが、今回は以前とは打って変わって、実にパワフルでハイファイな音になってしまった。以前とはフィルタのケミコンが違うし、初段の真空管も替わったから、そうした周辺のパーツとの相性も関係しているのでしょう。

 ショットキーのオーディオ的な性能に関して疑問を挟むものではないのです。が、どうもここまで来て、何といえばよいか、あんまり音楽を聴くのが楽しみでないような気分になってきていることに気がついてしまった。これは私の音ではないんじゃないか、という疑念が頭をもたげるのです。
 如何によいパーツであっても、パーツどうしの、あるいは回路との、そして聞き手との相性というのはやはりあると思いますが、どうやらそうした部分でしっくりこないんですね。どこかでちょっと違うほうに逸れていった感じ、それはたぶん初段に松下の6267を持ってきたあたりからのような気がします。

 そうと分かったら、引き返そう。
 というわけで、ちょいと戻って以前のGEC Z729初段で300Bの直流点火はサンケンのブリッジという状態に帰ってみました。
 〜♪ そうそう、この音。少々甘い、艶やかで潤いのある弾む音。音の細部は若干滲んでオーディオ的には後退だが、私にはこのほうが音楽が楽しいぞぅ〜(^^;。もいっぺんここから出直しだぁ〜。

 せっかくの出川さんの好意が不発になってしまい、申し訳ありませんm(. .)m。このブリッジダイオードはいずれ他の場所でぜひ活かしたいと思います。



電圧増幅段用ケミコンの危機(--;

 金田式300Bシングルアンプの電圧増幅段の電源には、エルナーの330uF/500Vの電解コンデンサが指定されております。品種についての記述はありませんが、他にそれらしいものが見当たらないことから、たぶんセラファインだろう、ということでこれまで使ってきました。
 しかしこの部分、金田式にありがちな「耐圧いっぱいいっぱい」なんですよね。無負荷状態だとたぶん耐圧を超えます。
 真空管DCプリの製作を計画中に日本ケミコンの製品カタログを覗いておりましたところ、RWEという耐圧550Vのシリーズがあることを知りました。信頼性の高いネジ端子品で、カタログモデルの中では最小サイズがちょうど直径35mmの330uFなのです。セラファインはもう製造終了なので、これは代替品として有望だよん♪、ということで、プリ用のケミコン調達のついでに取り寄せました。

 外したセラファインと業務引き継ぎ。RWEのほうが若干背が高い。側面のプリントはいかにも業務用風だが、こんなほうがむしろカッコイイかも。

 わが300Bアンプ、もう稼働して9年目になります。この330uFのセラファインも当初から使っているものですから、そろそろ引退させてもいい時期でしょう。とりあえず不具合も出ていないけれど、新しいRWEの音も気になることですし、このさい換えてみましょうか。

 というわけで、古いセラファインを外してみてびっくり、ゲ!…

 セラファインの底面にはひびの入った隆起が…

 ちょうどネジ端子品なら安全弁がのぞく位置に、ひびの入った隆起があるではないか! この下に安全弁が隠れているのか? 耐圧いっぱい9年間の積年の苦労の皺、というより不摂生な生活による吹き出物と言うべきか…(--;;。
 見てしまうともうとてもこれを使い続けることなどできません。まったくよいタイミングで交換を思い立ったものです。しかし安全弁が顔を出しているものだったら、こういうのは判らないわけで、それで大丈夫なのかしらん?

 RWEのほうは耐圧550Vと余裕があるので、この点ではセラファインよりは安心してよいはずです。ただ、日ケミのサイトでネジ端子ケミコンの使用上の注意を読むと、「立てて使う場合は安全弁を上に、横にして使うなら+電極を上にするべし」とあるんですね。いくつかの金田アンプ同様、この300Bアンプでは安全弁を下にして取り付けることになってしまうところに一抹の不安があるんだが…まあ今さら心配していても始まらない、ともかく付けちまえ〜(^^;。


 RWE 330uF/550V 取り付け完了。

 聴いてみました。RWEは姿形から想像されるとおり、そもそもオーディオ用の品種ではありません。想定される用途はインバータとかエアコンなど。純オーディオ用だったセラファインと音はどう違うか、というのが気になるところですが、大丈夫、イケます。エージングなしでも、特定の帯域にクセが出るといったこともなく、スムーズで開放的に音が出てきます。しっとりした弦楽器から力強い打楽器の音まで、気持ちよく鳴らしてくれます。まったく自然な鳴り方ですが、今まで馴染んできたセラファインと較べて大きく違うというほどでもありません。違和感なくグレードが上がった感じ。
 耐圧も十分で音もよい、となると、これならもはやセラファインの流通在庫を探す必要はありませんね。330uFのケミコンが見つからなくて、金田式300Bシングルアンプに食指が動きながらも諦めていた方(いないか(^^;)、これで作れますよ〜。



“純正”の威力!

 電圧増幅段のケミコンRWE 330uF/550Vですが、その後エージングが進んで少し音が変わってきたようです。記憶にあるセラファイン時代の音とははっきり違う、と思います。一言で言って、よりヴィヴィッドな音。アンプのゲインが上がったのではないかと思わせるような鳴りっぷりのよさを感じさせます。どうやらエージングには1ヶ月以上をみておくべきのようですね。

 さて、この300Bシングルアンプにも、もういよいよ手を加えるところがなくなってきた観がありますが、ここへ来て、オリジナル機で出力管の直流点火に使われていたファストリカバリーのブリッジダイオードPB102Fが手に入ったのでした。

PB102F。最近のGBPC2502などと較べると厚ぼったいパッケージ。

 金田氏がPB102Fを使ったのには「何がなんでもこれでなければ」というほどの強力な動機があったのかどうか、ご本人に聞いてみないと本当のところは判りませんが、私はたぶん「たまたま手持ちがあったから使った」というくらいのことだったのではなかったかと思っています。というのは、金田氏がこの出力トランス付きシングルアンプにそう長期にわたって熱中していたとは考えにくいこと、また、以前「半導体パワーアンプの出力段用整流ダイオードには必ずしもファストリカバリーがよいとはいえない」という内容のことをどこかに書いていたので、日の目を見なかったPB102Fが氏の手元に死蔵されていたと考えられること、が理由です。多種多様なブリッジダイオードをテストした結果PB102Fを選択した、というのよりは、電圧増幅段用に重用した30DF2のブリッジタイプであるPB102Fを、手持ちにあることだし、定格も手頃だし、ということで最初から信頼して起用したと考えるほうが自然に思えるのです。

 既にこの300Bアンプの音に私自身がけっこう満足しているところへ持ってきて、そんなふうな思いもあったので、PB102Fを試すことについては実のところそれほど関心も期待も盛り上がってこないまま、入手してから1ヶ月以上も過ぎていました。でも一応は本家純正のパーツですから、やっぱり手に入れたからには一度は試してみなくては。

 というわけで、やっと重い腰を上げて工作に取りかかりました。


 私がこのようなリード線タイプのブリッジダイオードを空中配線で使う場合には、ハンダ付けしやすくするため、右の写真のように、小さな基板を取り付けることにしています。完全対称型半導体DCパワーアンプのTO-3P型FETの実装方法と同じですね。
 この基板は他のアンプを作ったときに出たAT-1の端切れをカットして作りました。AT-1はカッターで裏表とも10回ほど切れ目を入れてから折り取るようにして切断しますが、折り取る部分の幅が狭いと作業が困難です。しかし下のような要領でやれば、ランド1列ぶんでもきれいに折り取ることができます。この方法でAT-1を極限まで有効利用しようではありませんか…って、また貧乏性が発揮されてる(爆)。

カッターで筋を入れ、机の引き出しの間に挟んでバシッ!…ハイ、ご覧の通り(^^;

 ということで、なんのことはない、小型の万力があればそちらを使ったほうがスマートですね(^^;。


 さて、あとはブリッジダイオードを交換するだけのことなので、作業はあっけなく終了しました。電源を入れてフィラメントの電圧を確認。5.02Vと出ています。サンケンのブリッジを使ったときよりほんの僅かだけ高い。より規定の電圧に近くなったのは気分が良いですが、まあいずれにしてもエミッションに影響するほどの差ではありません。
 そんなことより、問題の音は? 早速聴いてみます。



 大した期待も持たず(最近では新顔のパーツにあまり期待しないような習性が身についてしまったらしい(^^;)、一応の確認、というほどの気分で試聴したのですが、んんっ、これは…また戻れなくなってしまった。
 潤いのある艶やかな音色により磨きがかかったうえに、低域の力感、音のコントラスト、楽器の音や声のニュアンスの描写力がそれぞれ3dBぶん(?)ほどアップしたような、まことに嬉しい鳴りっぷり♪。
 力感やコントラストだけならショットキーを試したときにも十分以上に得られたけれど、あのときはこの艶やかさが出なかったんだよね。ショットキーのほうが正確な音であるような気はしますが、私にはこちらの音のほうが断然魅力的に感じられます。いやはや、恐るべし、純正パーツ。後に発表された300BのSEPPアンプのほうは直流点火にGBPC2502が使われていましたが、今となってはもし私が作るなら(たぶん作らない(^^;)絶対PB102Fを探すだろうなあ。



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パイロットランプに小変更

 WE412Aの寿命で寿命が縮みそうな思いをしたことは、'05年末の近況に書いたとおりです。
 外見はまだ新品と区別がつかないし、ヒーターだってちゃんと灯るのに、エミッションがまったくなくなるとは。まー、10年以上も使ってきたのだから、あり得なくはないことなのでしょうね。やっぱりタマは消耗品なのだということを再認識させられました。

 普通の真空管アンプなら、整流管がダウンしたところで、アンプが動作しなくなるだけでさして問題は起きません。が、このアンプの場合はそうはいかない。終段の300Bのバイアスが電圧増幅段2段目404Aのプレート抵抗の電圧そのものなので、電圧増幅段が動作しなかったら300Bはゼロバイアスになってしまいます。出力段の整流管CV717は元気ですから、時間がきてタイマーリレーがONすると、バイアスの有無にはお構いなしに300Bには当たり前のB電源電圧が加わります。当然ながら多大なプレート電流が流れ、CV717のプレートが真っ赤になってアワワワワ!!!
 慌ててスイッチを切って事なきを得たものの、こんなのは心臓に悪いことこの上ありません。フューズの容量を見直したほうがよさそうですが、実は前に3Aにしていたら正常動作時に飛んでしまったので、今は4Aのものが入っています。今度は大きすぎなのか、こんなになっても飛ばない…(--;。やはりなんらかの対策が望まれます。
 電圧増幅段が正常動作しなければ出力段の電源は休止したままとなるような装置を設けるのが根本的な解決策でしょうが、とりあえず電圧増幅段がちゃんと機能しているということが見てわかるようにするだけでも安心感があります。それだったらすぐにでも手を付けられそうです。

 そんなわけで、これまで2つあるうちの下側のパイロットランプが出力段300Bのフィラメント電源をモニターしていたのを、電圧増幅段の電源が立ち上がったら灯るように改造することにしました。スイッチを入れてから412Aが目覚めるべき時間がたってもこのランプが点らなかったなら、出力段の電源が入る前にスイッチを切ればよい、というわけ。ということはそれまでずっと見てなくちゃいけないんだが…いや、もともとそういうアンプなんだから、いいんですわ(爆)。

 出力段の電源をモニターしている上側のパイロットランプは、オリジナル機どおり約420Vくらいのところにそのまま220kΩをシリーズに入れてLEDを点しているのですが、この方法はLEDにはあまり優しくないようで、一度飛んでしまったことがあります。もとが高圧というのがたぶんよくないのでしょう。
 そこで電圧増幅段電源のモニターには、500V近い電源からそのまま抵抗でLEDに電気を流す方法は避けて、アンプの動作を支えるツェナーダイオードタワーの一番下のRD27Fとパラレルに抵抗+LEDを入れることにしました。ここにはもともと十数mA流れているはずですが、その約1割を盗んでパイロットランプに回そうというわけです。こんな場所ならたぶん音に影響することはないでしょうし。

 というわけで、早速改造しました。電源スイッチを入れてもすぐにはパイロットランプが点らないのですが、真空管のヒーターが灯るのでよしとしましょう。正面からは見えませんが、タイマーリレー上面のランプも点るし。
 併せて、上側パイロットランプのLEDにシリーズに入っている抵抗も、オリジナルの定数では損失オーバーなので、1Wの酸金を2本シリーズにして配線し直しました。これでいよいよ安心です。思った通り、音にも特に変化は感じられません。とりあえずうまく行ったようです。
電源ON

 ヒーターが点灯。300Bのフィラメントは暗くてよく見えない。一番明るいのが404Aのヒーター。まだパイロットランプは点いていない。

前段起動

 412Aが目覚め、電圧増幅段のB電源が立ち上がると下側のパイロットランプが点灯。

出力段ON

 パイロットランプが2つとも点灯。これでようやく動作可能。
 OFFにしても2つともしばらくは点いている。



怪現象

 ある夜のこと、階下の居間から「ぶーん」という大音響が聞こえ出しました。出所はなんと、テレビのスピーカーでした。チャンネルを変えると出なくて、10チャンネルだけです。ものすごいバズ。

 すぐ原因として思い浮かんだのは、今ほど電源スイッチを入れたばかりの我が300Bアンプ。「ぶーん」の音程が、300Bのアイドリング電流がごく少ないときになる発振状態の音とそっくりだったのです(冬の寒いときなど、階下でコタツと遠赤外線ヒーターと電子レンジを同時に使ったりすると、レギュレーションの悪い真空管整流の電源を持つこのアンプはB電圧が変動し、出力管の電流が減って、スピーカーから「ぶーん」と聞こえてくることがよくあります)。
 まだタイマーリレーが作動する前で、終段の300BにはB電圧がかかっていない段階ですから、ステレオのほうのスピーカーからは何も音は出ていませんでしたが、リレーが作動して300Bに電流が流れたとたん、テレビのバズは止みました。やっぱり間違いない、テレビの音声帯域の電波を出してますよ、我が300Bアンプ(--;;。

 そういえば最近、2段めの404Aにいつになく青い蛍光が見られることがあって、おや、変だな?と思っていたのですが、まさかこういうことだったとは。
 300Bそれ自体の発振ということではなくて、フィラメントだけ暖まってまだプレート電流が流れていない300Bとこれをドライブしている404Aの相互作用から発生している現象なのでしょう。タマの経年変化でこんな現象が現れるようになったのでしょうか、今まで問題はなかったのに…

 ともあれ、放っておくわけにはいきません。何かしら対策をせねば。
 すぐ頭に浮かんだのは(というより、知識がないものだから他に思いつくことはなかった(^^;)、300Bのグリッドに抵抗を入れること。
 K式の流儀に従うなら、この用途にはやはりスケルトン抵抗ということになります。抵抗値は、通常の真空管アンプだと大概1kΩ以上を使っている例がほとんどのようで、伊藤翁の300Bアンプの回路図を見ると5kΩなんてのが入っていました。ここまで大きいのはそれこそ抵抗があります。もっと小さい値でないとDC流らしくないでしょう。
 というわけで、とりあえずジャンク箱にあった680Ωを入れてみることにしました。


 ソケット取り付けのナットの代わりにスタンドオフ端子を取り付けてスケルトン抵抗を実装。

 腰に注意を払いつつ、よっこらしょっ、と作業完了。電源を入れてみると、まったく安定しています。半固定VRを回してアイドリング電流を極端にしぼっても、もうあの「ぶーん」は一切出ません、あな嬉しや♪。そして、問題のバズ、階下でもテレビには何ら異常はないとのこと。ふー、とりあえずひと安心。
 さて、問題は音なんだが…余計な(という訳ではなくて、必要な、なのだけれど、音のためにはよくなさそうな)抵抗が加わって、はたして音質劣化はないのかどうか。動作準備段階での安定と引き替えに失う音があっても仕方がない、と言われれば頷くしかないのではありますが。

 恐る恐る聴いてみると、「!」、な〜んと、驚くほど音の出方が違ってるではありませんか! 基本的な音色などはそう変わりはないのですが、低域の力感がぐっと増して、しかも動きが俄然鮮明です。このアンプからこんなにクリアーでしっかりした低音はこれまで聞いたことがありません。
 高域のほうはいくらか控えめになったふうで、微細な“産毛”が見え難くなったかな、と思わせるようなところもあります。というと情報量が減ったのかと誤解されそうですが、産毛に隠れていた地肌がむしろよりよく見えるようになった、とでも言えそうな面もある。柔らかくしなやかで繊細な表現を得意としていた以前の音には幽玄美とでもいうべき魅力を感じていたわけですが、こと“実体感”ということならこちらのほうが断然上なのです。真空管のシングルであること、出力トランス付きであることが信じ難いような音の出方です(当社比)。
 進むべき方向としては、これは正しいにちがいない。どうやらテレビに感謝せにゃならんようです。

 してみると、十分なアイドリング電流さえ流れていればまったく動作に問題はないように見えていたこのアンプですが、それでも300Bのグリッドに入れた抵抗でこれだけ音が変わったということは、この抵抗なしでは幾ばくかの動的な不安定さがあって、それが音に影響を与えていた、ということなのかもしれません。一見すると音のためには余計なものに思える抵抗ですが、実はなくてはならないものだった? 
 そんなわけですから、金田式300Bシングルアンプ愛用者の皆様(この世に何人いるやら?(^^;)には、是非グリッドに抵抗を入れることをお試しいただきたいと思います。

 さて、このグリッドのスケルトン抵抗ですが、この後、少し高域が引っ込み気味になるのが改善されることを期待して、680Ωをいったん330Ωに替えた後、結局470Ωに落ち着きました。
 どの値でもアンプを安定させる効果には特段の差はないようでしたが、音は変わります。電流はほとんど流れないのに、わざわざスケルトン抵抗を使う意味もやはりそれなりにありそうです。
 330Ωではだいぶ明るくなる傾向で、680Ωよりは望みの音に近かったのですが、必ずしも小さいほうがいいというものでもないようです。もう少し陰影が欲しくなり、最後に選んだのが中を取った470Ωというわけで、これで以前の繊細感も概ねいい感じに取り戻せました♪

 ということで、結果として「失う」どころか、ほとんど得たものばかりなのでした(^^)。


 ところで、このアンプの動作を支えているツェナーダイオードの基板です。こちらの面を見るのは何年ぶりだったか。
 たまたま外してみて、ツェナー群の構成について思い違いをしていたことが判明しました。別ページ「長期レポート」のほうの冒頭に載せてある回路図とは少し異なっているのです。
 アンプを作ったのは、このサイトを始めた頃からだいぶさかのぼるので、細かい部分は記憶から欠落していたというわけ。お粗末でしたm(__)m。

 で、そのツェナーダイオード群の実際の構成ですが、GNDから積み上げている順に、記事の作例ではRD39F×4のところをRD27F×6で置き換え(これは「長期レポート」に書いた通り)、次に来るRD33F×2は記事そのままだと思っていたのが、実際はRD22F×3にしていました。写真の基板上で3個だけ向きの違うやつがそれ。こうして1個あたりの損失を減らしているのですが、それでもけっこうな発熱です。基板のダイオードの足が生えている部分が焦げたように色が濃くなっているのがそれを物語っています。
 この上に更に、オリジナルだともうひとつRD33Fが1個来るのですが、これもRD18F+RD15Fという構成にして、基板を分けてアイドリング調整用半固定VRと同居させる形で配置しています。

 ということですので、上に書いたパイロットランプやグリッドの抵抗についての変更についても反映がてら、改めて思い違いを修正した回路図を示しておきます。また、アナログ系の音質改善の結果このところ聴取音量が少々上がり気味になっているので、入力部のATTも少し減衰量を減らしています。




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